生きるのに必死だった。
必死に生きる為盗んで盗んで盗んで、いつしか怪盗フォックスと呼ばれるまでになった。
だがそれでどうなった。相変わらず俺は日々を必死に生きている。
このまま、いつか俺は路傍に倒れるだけの者なのか。
日々盗んで、何とか飢えずに済んで、ソネーレ達の生活を少し支えてやる。
それで満足なのか?
そうだと答える自分がいる。ささやかな幸せ、それ以上を求めてどうする。少しずつでもいいから盗んだ金で貯金して、いつかソネーレの元に帰って静かに余生を終える。ソネーレ達も優しく迎えてくれるだろう。
望めば起こりうる未来。
それでこの胸に渦巻く怒りの炎もいつか消えるか?
否。
この胸に渦巻く怒り、そんなもので収まるわけがねえ。
消えたように見えても炭火の用意に燻り続ける。
己を騙して宥めて、死に際にすらいい人生だったと己に嘘を吐く。
冗談じゃねえ。。
もっとでっけえことして、もっと情熱を高まらせ、狂気に踊り、この身が灰になるまで燃え上がりやっと消える。
ならばやるしかない。
この胸に燃え上がる狂気のままにこの街を盗み取る。
カッカ、アルヴァヴィーレたる俺がヴィザナミ人を支配するっても胸がすくほどに痛快だぜ。
「俺は魔王軍を知っているぞ」
街のチンピラのような台詞、普段の俺が一番毛嫌いしている台詞だが。もはや覚悟を決めた俺に恥は無い、何だって使う。
そう俺は魔王軍を知っている、それが俺のたった一つの詐欺のネタ。
「戯言を」
「ギルバー」
鼻でせせら笑うプスィッタにギルバーの名を叩きつける。
初対面の時魔王の部下の部下と誇らしげに自慢していたんだ、それなりに名の知れた奴であってくれ。
「!」
プスィッタの動きが止まった。
「この名前知っているな、お前」
ギルバー、ジョゼ、ギガロン、俺は知っているのはこの三人だけ。まさか一人目で当たりを引くとは、詐欺ネタを二枚残せた。
ポーカーなら初手でスリーカードを揃えたに等しい、俺は今波に乗っている。
「ギルバー、私に魔王軍として接触してきた者の名だ」
「筋骨隆々の脳筋野郎だろ」
彼奴色々と働かせられているんだな下っ端は人類軍でも魔王軍でも辛い。それは別として、俺は駄目押しとしてギルバーの特徴を述べておく。これで俺がギルバーを知っていることに確証が得られるだろ。
「・・・」
くっく、疑心暗鬼に囚われているな。俺が嘘をついていないか必死に見抜こうとこちらを見てきている。男にしかも魔族に見つめられるのはぞっとしないが、今は幾らでも見るがいい。幾ら見たところで今のところ俺は嘘を言っていない、嘘を言っていない以上と嘘とは見破れまい。
俺は魔王軍を確かに知っている。ギルバーとは戦い、ジョゼともギガロンとも会話をし勧誘も受けている。
俺は魔王軍を知っている、だが入っているとは言ってない。
この違い、古典的詐欺の手法をプスィッタ如きに見破れるわけが無い。こういった駆け引きは絶対的強者である魔族には不要な能力、あくまで弱い人間だからこそ磨けるスキル。強者故の急所って奴だ。
だが魔族は馬鹿じゃ無い、ボロが出る前に一気に畳み掛けて交渉を終わらせる。
「お前は確かに人間の軍を恐れていない。
しかし魔王軍に狙われるのはどうだ?」
「ギルバー如き敵ではありませんよ」
あっさりとプスィッタは言う。
魔王軍四天王も形無しだな。
「でも魔王には適わないだろ」
魔王は力こそ正義の魔族社会の文字通りの頂点だ。プスィッタが正確には何級か分からないがプスィッタよりは強いだろ。
「魔王様はそこまで暇じゃありませんよ」
「魔王は出てこないかも知れないが、魔将軍ギガロンならお前の始末に動くかも知れないぞ」
これも嘘じゃ無い。なんたって俺に会いにわざわざ自ら足を運ぶくらいフットワークが軽い奴だからな。
「魔将軍?」
その存在を知らなかったようだな。そのプスィッタが知らない上の存在を俺は知っている。プスィッタ以上に俺が魔王軍に近いことを仄めかすことが出来、プスィッタに楔を打ち込めた。
「ふん」
プスィッタは面白くなさそうに言う。
流石のプスィッタも魔将軍の存在を扱いかねているようだな。
「いいか、俺を下手に殺すと魔王軍の恨みを買うぞ」
俺は怪盗フォックス、古の格言に曰く虎の威を知恵で活用する狡猾なる動物。
やってやる、やってやるぜ。詐欺切ってやる。
「なるほど、あなた自身は大したことないが、バックはやっかいそうですね。
それで結局お前は私にどうしろというのです?」
単刀直入に来たか。
十分ブラフは効かせた、これ以上は破れかぶれの暴発を招くかも知れない。
ならば、ここで勝負を決めよう。
「俺の配下になれ」
人生七転八倒、窮地にて九起に賭けた。