「思い上がりが過ぎるぞ」
プスィッタから溢れ出す殺気で目がちりちりと痛み膝が笑いそうになる。
ここが正念場。地を踏みしめろ瞼を閉じるな、出来なかった瞬間人生も閉じることになる。
睨み付けろ、そして口を開け。
「思い上がってはいないぜ。それで俺の仕事を邪魔したことを不問にしてやろうと言っているんだ、むしろ謙虚だろ」
「その減らず口何処まで持つか試したくなりますね。右手と左手、どっちを潰されたいですか?」
気負い無くさらっと言いやがるが、魔人の力なら俺の腕など焼きたてのフランスパンのように簡単に握り潰せるだろう。容易に想像できるだけに恐ろしい。恐ろしいが恐怖に呑まれるな、かといって無理に耐えれば水圧が掛かったダムの如く心が壊れる。
恐怖の波は耐えるものじゃ無い、乗るものだ。怖じ気ついたら真っ逆さま恐怖の海の藻屑となるが、乗れれば今まで見えなかった高見が見えてくる。
「何を怒っている?」
「なんだと」
「今だってお前人間に仕えているじゃ無いか」
プスィッタから殺気が少し萎んだ。
「お前は魔王軍の命令で何かの使命を果たす為にバーホに仕えているじゃ無い。自分の何かを満たす為にバーホに仕えている。人間と何が違う。おっと人間には忠誠心だ愛があるとかいうなよ。そんな綺麗事反吐が出る」
そして此奴が何を求めているか、俺には分かる。
「お前にとって人間に仕えるのは、面白いか面白くないかなんだろ。
だったらバーホより俺のほうが刺激的だぜ」
他人が見たら悪い奴としか思えない笑顔で右手を差し出した。
「ふむ。地下は見ましたよね?」
「ああ」
「その上で言っているのですか?」
プスィッタは不思議そうに尋ねてきた。
まあ普通の人間なら地下の非道な行いを見れば恐怖・嫌悪、正義感が強い奴なら怒りでこんな事言えない。だがな俺はアルヴァディーレの民、あんなもの可愛いものと言えるほどの地獄の光景を見てきた、それも人間が作り出したな。
「人間だって似たようなものだ。それに今回はくだらない貴族同士の権力争い、お前がしなくても誰かがするさ。
それに俺はアルヴァディーレの民、ヴィザナミ人を地獄に落とすなら大歓迎だ」
自分でも分かる俺は今いい笑顔をしている。これもまた俺の本性。
「ふむ、ちらっとですがあなたからは狂気を感じました。確かに面白いかも知れませんね」
「ならこいよ。こんなくだらない世界覆そうぜ」
話の流れででた思いがけない台詞、そうか俺はこんな事を願っていたのか。プスィッタの人間ならざる殺気に当たり、俺の心の蓋が一つ飛んでしまったようだな。
「そこまでだっ」
ドアが乱暴に開かれバーホがちょっと待ったコールをしてくるのであった。
第41話 王たる権力
「ちっ。バーホ、今お前はお呼びじゃないんだよ、引っ込んでいろ」
「ここは俺の城だっ、引っ込むのはお前だっ」
ちっ図々しい奴はこれだから。折角いい感じで話がまとまりそうなんだから、遠慮するのが礼儀だろ。
身長180の長身に適度に鍛えられた均整の取れた体、金髪碧眼の端正なマスク、アーリアと同じ血を引くだけのことはある。なるほど見た目はいい、冴えないおっさんのクラウンと並べれば民衆は此奴を選ぶだろう。
だが、近寄れば分かる。此奴は臭い、耐えられない匂いが滲み出る。弱者の涙と血の臭い。どれだけの人を踏みにじればこんな臭いが染みつく。近寄りたくない、こんな臭いを己に染みつかせたくない。
「どうよプスィッタ。そいつと俺を直に比べればよく分かるだろ。
知性体力顔行動力胆力気品、どれをとっても俺の方が上だぞ」
「ぬかしてくれるな」
バーホは脳の血管が切れて倒れそうなほどに怒りを露わにしている。
「ほう、一丁前に怒るプライドだけはあるのか。だったら、どうだここでアーグラの覇権を賭けて決闘と行かないか」
「冗談じゃ無い。ああそうだ、そうだよ。俺がお前に個人の能力としては及ばないことは認めてやろう」
流した、あれだけ怒りを露わにしながらバーホは涼しい顔で挑発をあっさりと流しやがった。
ちっ自尊心が高いくせに己の分は弁えているのか。マギレウとかは馬鹿にしていたが、こういう奴は油断すると足下を掬われる。
「いい心がけだ。おとなしく身を引くなら命だけは助けてやるぞ」
マギレウとかの前評判と異なり、少しバーホという人物を見定める必要があると俺は感じた。
「はっ尻尾を巻いて逃げるのはお前のほうだ。言っただろう、負けているのは知力武力などの個人としての力。そんなもの王である俺には必要の無い力だ」
「ほう、ならお前には何がある」
「王たる権力」
「王たる権力?」
「そう、由緒正しい血統及びコネより生まれる真の権力だ。古来より、王たるものに必要なのはそれだけだ。お前が幾ら優れていようとも、所詮個人の力、使われる側の力に過ぎない」
「本気で言っているのか?」
己の存在価値を血統のみと言い切って誇れる精神構造が俺には分からない。親の七光りと誇っていいことじゃないよな、恥じ入るところだよな。
「小人には理解できまい。王に求められるものは違うのだよ」
「お前に王たるカリスマがあるとは思えないんだがな」
俺は此奴のために指一本動かす気に成れない。
「何を言う。現に俺はこの力でデューククラスの魔人であるプスィッタを従えている。これは帝国軍の一軍にも匹敵する力。その力、王たる権力を持つ者でなければ従えさせることなどできまい」
すげーー、人生楽しそうだな。この精神構造俺も見習いたいぜ。
と馬鹿にすることも出来るが、見方を変えればバーホは己の分を弁え己の強みを特化させているとも考えられる。武の才能ある奴が武の才能を、智に長けた奴が智を磨く。もし武に長けた物が智を磨いてもそこそこは伸びるが秀才止まりだろう。だが奴は武も智も見限り、余人から見れば恥じ入りる生まれのコネを忌避することなく最大限利用した。
そして結果を残した。
きっと半端にプライドがあったら結果を残せなかっただろう。こういう振り切った奴は手強い、見くびっていい相手じゃない。
「プスィッタ、お前はバーホのどこに魅力を感じたんだ?」
人間なら兎も角魔人が人間のコネに魅力を感じるとは思わないので答えてくれたらラッキーぐらいの気持ちで尋ねた。
「まあ面白い方ではあります。それは十分に私の退屈を紛らわせてくれる。私にとってはそれで十分なのですよ」
確かに何かを成し遂げる仲間として見るので無く、傍観するには最高のエンターテイナーかもしれない。
「くっく、いい機会だ。プスィッタ、お前にも俺が持つ王たる権力の力見せてやろう。お前達は権力の底知れぬ力を知らない」
入ってこい」
芝居掛かった動作でバーホが手を払うと、開け放たれたドアからマギレウ、見知らぬ白スーツを着こなした男、そして連行されてくるヴァドネーレ、ベレッタ、シーレがいるのであった。