「ちっ。バーホ、今お前はお呼びじゃないんだよ、引っ込んでいろ」
「ここは俺の城だっ、引っ込むのはお前だっ」
ちっ図々しい奴はこれだから。折角いい感じで話がまとまりそうなんだから、遠慮するのが礼儀だろ。
身長180の長身に適度に鍛えられた均整の取れた体、金髪碧眼の端正なマスク、アーリアと同じ血を引くだけのことはある。なるほど見た目はいい、冴えないおっさんのクラウンと並べれば民衆は此奴を選ぶだろう。
だが、近寄れば分かる。此奴は臭い、耐えられない匂いが滲み出る。弱者の涙と血の臭い。どれだけの人を踏みにじればこんな臭いが染みつく。近寄りたくない、こんな臭いを己に染みつかせたくない。
「どうよプスィッタ。そいつと俺を直に比べればよく分かるだろ。
知性体力顔行動力胆力気品、どれをとっても俺の方が上だぞ」
「ぬかしてくれるな」
バーホは脳の血管が切れて倒れそうなほどに怒りを露わにしている。
「ほう、一丁前に怒るプライドだけはあるのか。だったら、どうだここでアーグラの覇権を賭けて決闘と行かないか」
「冗談じゃ無い。ああそうだ、そうだよ。俺がお前に個人の能力としては及ばないことは認めてやろう」
流した、あれだけ怒りを露わにしながらバーホは涼しい顔で挑発をあっさりと流しやがった。
ちっ自尊心が高いくせに己の分は弁えているのか。マギレウとかは馬鹿にしていたが、こういう奴は油断すると足下を掬われる。
「いい心がけだ。おとなしく身を引くなら命だけは助けてやるぞ」
マギレウとかの前評判と異なり、少しバーホという人物を見定める必要があると俺は感じた。
「はっ尻尾を巻いて逃げるのはお前のほうだ。言っただろう、負けているのは知力武力などの個人としての力。そんなもの王である俺には必要の無い力だ」
「ほう、ならお前には何がある」
「王たる権力」
「王たる権力?」
「そう、由緒正しい血統及びコネより生まれる真の権力だ。古来より、王たるものに必要なのはそれだけだ。お前が幾ら優れていようとも、所詮個人の力、使われる側の力に過ぎない」
「本気で言っているのか?」
己の存在価値を血統のみと言い切って誇れる精神構造が俺には分からない。親の七光りと誇っていいことじゃないよな、恥じ入るところだよな。
「小人には理解できまい。王に求められるものは違うのだよ」
「お前に王たるカリスマがあるとは思えないんだがな」
俺は此奴のために指一本動かす気に成れない。
「何を言う。現に俺はこの力でデューククラスの魔人であるプスィッタを従えている。これは帝国軍の一軍にも匹敵する力。その力、王たる権力を持つ者でなければ従えさせることなどできまい」
すげーー、人生楽しそうだな。この精神構造俺も見習いたいぜ。
と馬鹿にすることも出来るが、見方を変えればバーホは己の分を弁え己の強みを特化させているとも考えられる。武の才能ある奴が武の才能を、智に長けた奴が智を磨く。もし武に長けた物が智を磨いてもそこそこは伸びるが秀才止まりだろう。だが奴は武も智も見限り、余人から見れば恥じ入りる生まれのコネを忌避することなく最大限利用した。
そして結果を残した。
きっと半端にプライドがあったら結果を残せなかっただろう。こういう振り切った奴は手強い、見くびっていい相手じゃない。
「プスィッタ、お前はバーホのどこに魅力を感じたんだ?」
人間なら兎も角魔人が人間のコネに魅力を感じるとは思わないので答えてくれたらラッキーぐらいの気持ちで尋ねた。
「まあ面白い方ではあります。それは十分に私の退屈を紛らわせてくれる。私にとってはそれで十分なのですよ」
確かに何かを成し遂げる仲間として見るので無く、傍観するには最高のエンターテイナーかもしれない。
「くっく、いい機会だ。プスィッタ、お前にも俺が持つ王たる権力の力見せてやろう。お前達は権力の底知れぬ力を知らない」
入ってこい」
芝居掛かった動作でバーホが手を払うと、開け放たれたドアからマギレウ、見知らぬ白スーツを着こなした男、そして連行されてくるヴァドネーレ、ベレッタ、シーレがいるのであった。