爆音の共振も収まり立ちこめる煙も段々と薄れ空気が透けるに連れ、白壁は黒焦げ砕け、床には黒焦げになったネズミの死骸が無数に転がっているのが見えてくる。
「大丈夫ですか、バーホ様」
立ち上がったプスィッタは埃が多少付いた程度で服すら破れて無く五体満足である。
「ああ、大丈夫だ」
床に転がっていたバーホは頭を押さえながらも立ち上がるが、服は黒焦げ多少の火傷は負っていそうだが軽傷程度である。スティンガーが投げ込んだ爆弾が炸裂する寸前無数のネズミが二人の前に寄り集まり防御壁を形成したのである。
「ふむ、一先ず安心として」
バーホの無事を確認したプスィッタは床に転がる人間を確認する。
「ひいふうみいと女が三人」
プスィッタを押さえていたヴァドネーレ、シーレ、ベレッタはプスィッタの傍で倒れている。近くにいたことで結果的にプスィッタと一緒にネズミの防御壁に守られた格好となったようで気絶はしているが四肢破損などの取り返しが付かない怪我は負ってない、ほぼ無傷に近い。バーホの方がよっぽど怪我をしている。
「そしてアーリア姫」
アーリア姫は蓑虫のように布団にくるまれベットの脇下に転がっている。アーリア姫は咄嗟に布団を咥えてベットの影に転がり込んで身を守ったようだ。彼女も気絶はしているが無事である。
「素晴らしい判断力ですね。
さて残りは?」
プスィッタが部屋の中を見渡すが男達は転がっていない。だが少し歩いてドアから廊下を見ればマギレウが倒れていた。マギレウは咄嗟に部屋の外に逃げたが爆風で吹っ飛ばされたようだ。ぴくぴく痙攣をしているから生きてはいるようだ。
「あと二人」
プスィッタが部屋の中を念入りに探すが倒れたタンスや瓦礫の下にシチハ、スティンガーはいなかった。
「二人とも逃げましたか。逃げ足だけは見事ですな。
さてと」
プスィッタは取り合えず一番近くに倒れていたヴァドネーレの髪を掴んで引っ張り上げた。狩られた兎の如く持ち上げられ、手足はだらっと力なく垂れ下がる。
「うっっっぐう」
髪の毛を引っ張られる激痛にヴァドネーレの呻き声が漏れだした。
「バーホ様どうしますか?」
目線の高さまで持ち上げられたヴァドネーレの顔をまじまじと眺める。それと同時に痛みで気がついたのかヴァドネーレの目がうっすらと開けられていく。
「なかなかの美形ですな。壊れたバーホ様のおもちゃの補充にいいかもしれませんね」
「くっ殺せ」
全身の鳥肌が立つおぞましい台詞に完全に気がついたヴァドネーレが唾を吐き付けながら吼えた。
「死にたいのですか」
プスィッタはヴァドネーレの首を掴むと、ぐぐっと力を込め出した。
「うごっ」
大して力を込めたように見えないのに一気にヴァドネーレの顔は青白くなり、舌が口からだらっと伸びていく。
「まあ待て、俺にいい考えがある」
今にも死にそうになるヴァドネーレに慌ててバーホは止めに入った。別にヴァドネーレが可哀想に思ったわけじゃ無い、ただ単に殺すなら自分で嬲りたかっただけだ。
「これは私としたことが」
プスィッタは手から力を抜いて、絞首刑の死人一歩手前だったヴァドネーレは息を吹き返した。
「それでどうします? この女を自ら嬲りたくなりましたか。ただこの女は少々活きが良く危険な様子。バーホ様が楽しむのなら手足をもいでおきますが」
「そうじゃない。逃げた連中を誘き出すと同時に街の連中に誰が支配者か刻み込み、俺とお前も楽しめる、一石三鳥のショーを思い付いた」
「ほう、それは素晴らしい。そういった点ではバーホ様は私など足下にも及ばないことを思い付きます」
これは心からの本心であった。魔族と呼ばれる己よりボーホの方がよっぽど悪魔的な発送をする。だからこそ形だけとはいえ従っている。
「くっ何をするつもりだ」
「あなた少し五月蠅いですな。少し寝ていて下さい」
プスィッタがくいっと首を絞めるとヴァドネーレは白目を剥いて黒焦げた床を湿らすのだった。