「さてと、今回の呪霊はどこかな〜?」
少女は廃駅にて1人。今回の獲物である呪霊を探してホームの線路側を歩いていた。補助監督は帳を張った後、急遽遅れることになった1級呪術師をこちらへいち早く到着させる為に車を爆走中である。
「確か…被害者の女性3人は肝試しでこの廃駅へ来たところ、いつの間にか周りの風景が変わり、ナニカの泣き声がした後に腹部、特に下腹部を中心とした捻れによって死亡。もう1人は逃げて、家の中に着いた所で前述の3人と同じように死亡、と。他にも同じであると考えられる被害者が少なくとも20人以上か…何か、きな臭い。これは気合い入れて祓わなきゃな…っとぉ!本当にいきなり風景変わった!ここは…コインロッカー?」
「「ま…ま」」「「「お゛がぁ…ざ、ど、て?して?」」」「「「「だ…だぁ゛……い゛、い゛」」」」「う゛ぅ゛…!」
こ、れは、何だこれは…!?一体何十…?そんな可愛い数じゃないな。何千体といったところか?周りの状況は言わずもがな。辺り無数に囲まれている。見たところ…赤ん坊の呪霊?となるとこの子達があの…!?「「「「ま゛………マ゛あ゛ア゛ア゛ぁ゛ァ゛ァ゛!!!!!」」」」まずい、思考に意識を割きすぎた!間に合うか!?急いで呪力で子宮を覆ったが、元々体の内部に呪力を張る事は中々無い上に、場所が場所。こんな意識のしにくい部位に無理くりやっている形だから呪力の膜にムラができる!
ぐちゅり。ぷちゅ、ぐじゅぐじゅっ!
──あ。
「ん゛う゛ぅ゛ぅ゛!!舐めるなぁっ!!」
急いで子宮の内から呪力を爆発する形でナカに受精してきたヤツらを外へ追い出した。既に何体、いや、何十体もの呪霊が私の胎の中へ入り込んで着床の段階まで到達していた。………これは、もう無理だろう。よしんば、今ここで全ての呪霊から逃げ切れたとしても、私の胎にいる呪霊共が私の呪力を喰らい尽くして、やがては肉体すらを喰い破り、この世に生まれ堕ちるだろう。そうなったら、今でも手が付けられないのに今度はどんなバケモノになるか分かったもんじゃない。
「ふ、う゛ぶっ、お゛え゛っ!はぁっ…はぁっ…はぁーっ。詰み、だよなぁ。どう考えてもここから逆転の一手なんてある訳ないし、最悪私が呪霊共の母胎になるパターン?ハッ!死んでも嫌だね」
「……あ〜あ。短かったなぁ…私の人生。まだ18だよ?これからって時に…はぁ。せめて、私の後に来るであろう呪術師の人の助けになるように。今ここで、私がこの特級呪霊共の力を、なるべく削ぐ!」
──領域展開──
「瞑墜縛緘」
ズ、ズズズ。
少女の足元から空間が展開される。暗い、昏い、晦い。視覚が全く意味を持たぬ空間を創り出した少女は、自身よりも圧倒的に格上の特級呪霊に博打を仕掛けた。決して、自分ではこの呪霊共を祓えないだろう。絶対に、生きて帰ることは不可能だ。まぁ、そうだろう。そもそも私は2級術師。はなから特級呪霊に勝とうなんざ微塵も思っていない。ただ、少しでも呪霊に報いてやる。と、強い意志で半分にも満たない呪力をフル回転で廻らせていた。
「はは、持っていけ。私の全部、あげるから」
目、耳、鼻、口、体の穴という穴から血を出しながら文字通り死にものぐるいで領域を展開し続ける。本来、領域を縮小、強固、密室性を高めながら展開し続けるのは有り得ないことだが、今の少女は命を対価にして自身の能力を底上げしている事で、神懸り的な域まで到達していた。このまま呪術師として生きていたら、きっと特級にまで手が届いただろうに。
「あー…がふっ!げほっ!げほっ!やばいな…目が見えなくなった。ていうかこれ耳も機能無くしてない?対価を自分自身の命にしちゃったもんな…しょうがないか」
少女は、自身の身体が悲鳴をあげるまで領域を展開し続け、特級呪霊をひたすら抑え込み、呪力を周りへ少しづつ散らし、何とか封印する事に成功した。だが、その分の対価は必ず払わなければならない。
「もっと、もっといっぱい友達と遊びたかった。美味しい物を食べたかった。おばあちゃんになるまで生きたかった。…冥冥、さんと…一緒に…生きたかった」
ようやく、気付いた。気付いてしまった。自分は、冥冥さんに恋をしていた。
「…ふふ、ほんと、おかしい」
ちゃんちゃらおかしい恋だ。心より先に身体の方が重なるのが早かったなんてね。ごめんなさい、冥冥さん。後悔はしたくないと言ったものの、少しだけこの気持ちを自覚するのが遅かったみたいです。
「さようなら、冥冥さん。出来ることならあなたと幸せになりたかった」