「…、ここは?」
目が覚めた私はまず自分の置かれた状況に困惑した。
私がいるのは衛兵の詰所でも牢屋でもなく、どこかのホテルと思われる高級感あふれる一室。
キングサイズのベットに輝くシャンデリア、目の前のテーブルの上にはシャンパンに干した肉やチーズなどが置かれている。
そんな中私は全身にロープを巻きつけられた状態で椅子に縛りつけられていた。
しかし何故か縛られているのにも関わらず痛みや不快感は少ない、ただ本当に動けなくさせられているだけみたい。
この拘束を施した人間は、かなり拷問慣れをしているのね。
状況把握を済ませたと同時に、部屋の奥にある扉が開いた。
「あ、起きてるね、痛いところとかない?」
扉から入ってきたのは私を気絶させた張本人。
その顔を、前に雇い主から送られてきた資料で見たことがあった。
カルディナ最大にして最強のクラン、【セフィロト】のメンバーにして超級の1人、蒼穹歌姫の二つ名を持つマスター、【撃墜王】のAR・I・CAだ。
私の顔を見て、彼女はにこりと笑みを浮かべる。
なにかしら、すごく背筋に嫌な感じがするのだけれど。
「そんなに警戒しないでよ、あ、服の中にあったナイフとか歯に入ってた毒薬とかは全部タンスの中だから」
言われて気づく。
給仕服はそのままだが気絶する前まで私の身を包んでいたローブは脱がされ、仕込んでいた暗器の類は全て取り外されている。
「何が目的なの?」
私は彼女を睨みながら会話を試みる。
私に対面するように椅子に座ると、彼女はグラスにワインを注ぐ。
「さっきも言ったじゃない、あなたとお茶したいの。これオーナーのところから持ってきたやつだから結構いいやつなんだよ、一口どう?」
そう言って彼女は私の前にワイングラス置く。
「どうぞと言われても、両手くらい外してもらわないと飲めないわ」
「あ、そうだよね!私としたことがつい」
「え?」
皮肉混じりの私の言葉にそう返すと、彼女はあっさりと私の両手の拘束を解いた。
下半身は未だに拘束されているとはいえなんと不用心なのだろう。
いいえ、目の前の彼女は超級のマスター。
私程度逃す心配も、ましてや殺される心配もないってわけね。
私は拘束を解かれた両手をゆっくり動かしグラスを手に取る。
「どうぞ♪」
ニコニコと笑う彼女を少し睨みながら一気に中身を飲み干す。
美味しい…。
今まで何度かワインを嗜んだことはあるが、ここまで飲みやすくなおかつ舌に優しい味が残るワインは飲んだことがない。
「びっくりしてる顔も素敵だねっ」
「…っ」
彼女の戯言は聞き流し、私はグラスをテーブルに戻した。
「あなたの本当の目的は何?」
今回の暗殺がバレているにしろ、私の過去の被害者たちの仇討ちにしろ超級を的に回したのであれば生きては帰れないだろう。
ならせめて一矢報いてやるわ。
私は覚悟を決めて彼女の言葉を待った。
そして彼女は私の顔を見たあと、真剣そうな顔で口を開いた。
「君とエッチなことがしたいの」
「……………」
何言ってるのこの人?
私の困惑をよそに目の前の超級は言葉を続ける。
「君を街で一眼見かけた時から素敵だなあって思ったの、綺麗な白髪にあの身のこなし、ぜひとも今夜だけでも私と2人で情熱的な夜を過ごさない?」
そう言うと彼女は私に近づくと腰をかがめて見つめてくる。
自分が性的な目で見られているというのは同性であっても少し抵抗がある。
「お断りします」
そう言い放った私に対して、彼女は一瞬子供っぽくわざとらしいくらい泣きそうな顔をした後、再び私を見る。
「良いのかなあ〜?私は君をこのまま衛兵に突き出すこともできるし、なんなら君の雇い主を組織ごと潰すのだって簡単なんだけど」
彼女は囁きながら拘束された私の足や縄が少し食い込んだ太腿や腹部、胸元を視姦してくる。
なに?この人、いつもなら何も感じないはずなのに。
服をきているにも関わらず何故か彼女に見られている部分が人に見られてはいけないもののように感じてくる。
これは武器を持っていないから不安になっているだけ、今は逃げる方法を考えないと。
「あなたかなりいい性格してるのね、こんな脅しみたいな…」
「使えるものはなんでも利用してアプローチするのが私のやり方だからね♪」
何故か得意げにウィンクしてくる。
自分の身に起こったことは一旦棚上げして思考を巡らせる。
そして少し考えたあと私は口を開いた。
「今夜だけなら、それであなたが私を逃すと約束するなら構わないわよ」
どうせ超級である彼女から逃げ出すことなど不可能なのだ、ならば彼女の言う通りに従って見せた方がまだ逃亡の可能性はある。
私の返答を聞くと、彼女は嬉しそうに笑った。
「やった♪じゃあ早速お風呂行こっか♪」
「え?あの私は早く済ませて欲しいのだけど」
なんなんだこの女は、お風呂?私は彼女に従うと言ったのになんだその恋人のような段階の踏み方は。
「べつにいいでしょ、あなたも今日お仕事で疲れてない?汗もかいてるだろうし、ね」
そう言うと彼女はあっさり私の全身の拘束を解くと、そのまま私の体を抱え上げる。
私に比べれば彼女の身長は少しだけ大きいがそれでもよくその細腕で持ち上げれるものだ、さすがは超級。
とか感心してる場合じゃなかった。
「下ろしなさい!、湯浴みくらい一人でできるわよ!」
「ふっふっふ、焦ってる顔も可愛いね♪でもだめ、君はもう今夜私のものなんだから」
ばたつく私など全く気に留めず彼女はそのまま風呂場へと私を運ぶと、ようやく私を床へと下ろした。
「そうだ、君名前は?私はAR・I・CA!よろしくね♪」
私は若干彼女から距離を取ると少し考えたあと口を開く。
「エリーよ」
「エリーちゃんか!とっても素敵だけど、君には少し似合わないかな」
私の偽名はあっさり見抜かれる、しかし
「でもいいや、今夜だけって約束だし、エリーちゃんの仕事に支障が出るのは約束破りになっちゃうしね」
彼女はそう言うと優しい微笑みを私に向けた。
そんな顔で見られると、少し調子が狂う。
「ささ!早く脱いで!お風呂にレッツゴーだよ!」
彼女はそう言うと自分の着ていたジャケットをハンガーにかけ、脱衣所に備え付けられたラックへとかける。
スキルやコマンド操作で装備を解除すれば良いものを、何故無駄な手間をかけるのか。
演出のつもり?
そんなことを考えている間にAR・I・CAはインナーに両手をかけると頭から腕へとするりと脱ぐ、そして脱いだ服は綺麗に畳んでカゴの中へと入れていく。
インナーを脱いだことで彼女の髪色と同じ白地に赤い刺繍が施されたブラが露わになり、現れた豊満なバストに視線が向いてしまう。
同じ女性でも成長期に満足に食事を取らなかったせいかほとんど成長していない私の身体とは天と地の差だ。
「なに?そんなに見られると照れちゃうなあ」
履いていたホットパンツも抜いだ彼女は言葉とは裏腹にニコニコとした笑顔で私の方を見る。
「いいえ別に、慣れていると思っただけよ」
彼女の言動には余裕があった、おそらく何人もの人間と一夜だけの関係を共にしてきたのだろう。
「まあね♪でも今日はエリーちゃんが恋人だからね、心配しなくても大丈夫だよ、優しくするから」
「別に何も心配してないわよ」
彼女の軽口を流し、私は彼女に背を向ける。
「私を抱くなんて、今からでもやめていいのよ」
そう言い放ち、私は給仕服の腰に巻いたリボンを取り、開いた背中側から重力に任せて服を脱衣所の床に脱ぎ落とした。
「エリーちゃん…」
全身にAR・I・CAの視線を感じる。
こんな醜い身体を見たら、性欲なんて引っ込むわよね。
私の身体には至る所に火傷や刺し傷、裂傷の跡が残っている。
5歳の頃に奴隷として今の雇い主に買われ、それから今まで12年もの間裏社会で生きてきたのだ。
私の身体はもう洗っても落ちないほど血に塗れているのだ。
ああ、汚い。
私は私の体が嫌いだ、醜い汚れにまみれ、腕も足も胴も痩せ細っている。
こんな女に声をかけたあなたの見る目がなかったのよ。
背中を向けたまま、AR・I・CAの反応を待つ。
どうかこのまま私への興味を失ってくれないだろうか。
そんな一抹の希望は彼女の行動でかき消された。
「エリーちゃんは素敵だよ、傷も汚れも全部あなたの一部なんだから。エリーちゃんが自分の体が嫌いならそれでもいい、でも私は貴方の全てが愛おしいと思ってる、それだけはわかって」
そう言うと彼女は私を後ろから抱きしめた。
下着越しでも彼女の肌の暖かさが伝わってくる。
「無理しなくていいのよ、こんな傷だらけの女を抱いても楽しくないでしょ」
「えー、好きって言ったでしょ、もう決めちゃったから諦めて♪」
そう言うと彼女は私の体を隅々まで見る。
「うん!痩せてるけど体のラインは抜群だね、髪もサラサラだし、白い下着も可愛い♪エリーちゃんにぴったりだよ!」
嬉しそうに笑う彼女を見ていると、なんだか毒気を抜かれた気分だ。
「はあ、勝手に言ってるといいわ」
彼女はどうしても私を逃してはくれないようだ。
私は勘弁して床に落ちたままになった給仕服を拾ってハンガーに通す。
「その衣装素敵だよね、古き良きメイドさんって感じだし。お風呂上がったらもう一回着てくれる?」
メイドではなく給仕服なのだが、まあいい私に拒否権はないので、はいはいと頷いてAR・I・CAのジャケットがかかっているラックに給仕服をかける。
そして私は下着姿のまま、私よりもセクシーな下着を身につけたAR・I・CAを見つめる。
「ん、なになに?エリーちゃんってば先に裸になるのが恥ずかしいの?」
私の視線に対してニコニコともニヤニヤともいえる笑みを浮かべたAR・I・CA。
いつもなら恥ずかしいなんて感情すら出てこないのに。
この人といると調子が狂う。
戸惑う私にAR・I・CAはさらに言葉を続ける。
「お姉さんが先に脱いであげよっか?それとも脱がせてあげよっか?」
「必要ないわ」
彼女の戯言に私はそう言い返すとブラのホックを外す。
「わあ」
AR・I・CAがわざとらしく反応する。
なに、いちいち反応しなくてもいいじゃない。
私は彼女の反応に若干の羞恥を覚えながらも外したブラをカゴへと入れ、そのままショーツを膝まで下ろし、足を引き抜く。
「何見てるの」
私の脱衣がそんなに楽しいのか笑顔の彼女はそのまま私の裸体を隅々まで観察する、そして。
「へ〜とってもキュート♪」
「…な!?」
私の裸体をじっと見ながらAR・I・CAはそんなことを言い出した。
何がキュートだ。
たしかに普通なら生えているものがあまり生えてなかったり胸も平均にやや劣るが、こんなところ他人に見られる予定などなかったし、なにより…
「余計なお世話よ、あとデリカシーがない」
少し不機嫌な私の声に彼女は満足げに笑う。
「いやごめんね、エリーちゃんずっと仏頂面してるから悪戯したくなっちゃっただけだよ、間に受けないで」
そう言うと彼女も自分の下着を脱ぎ始める。
下から脱ぐのね。
彼女は先に自分のショーツを下ろし足を引き抜く。
彼女の女性の部分が露わになり、さっきの冗談のせいで否応にも視線は彼女の綺麗な体へ向かってしまう。
自分は綺麗に整えて、いつ誰に見られてもいいようにしてるってわけね。
なんだか少し不服に思ってしまった。
何?この感情。
そうこうしてる間に彼女はブラのホックを外し、肩紐も外すとショーツ同様綺麗に畳みカゴへと入れた。
下着で寄せられていた大きなバストが少し広がり、綺麗な乳頭が露わになる。
「なに?そんなに見ちゃってエリーちゃんもエッチなんだ」
自然と彼女の胸に向けてしまっていた視線を外し、照れ隠しのよにタオルを持つとそのまま胸と股間を隠すように広げ、風呂場へと向かう。
「さっさと入るわよ、あなたの裸体に関して特に感想もありません」
「えーちょっとは褒めてよ〜」
先に風呂場に入った私を見て、彼女もタオルを持つと、私に続いて風呂場へと向かった。
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