雫ちゃんは靡かない 作:リデウス
その日は憂鬱な気持ちになりながら帰宅した。
世の中の全てが信じられなくなるような、そんな暗雲とした気持ちだ。
もしかしたら帰りに寄ったドラッグストアで売ってたケア用品が1000円を超えたのが痛かったかもしれない。
ああ、新刊が遠のく。ついでにナプキンも買い足して来週の生理に備えなくちゃいけない。
はーあ、こんな世界滅びれば良いのに。
「お姉ちゃん、おかえり。今日のおやつはプリンだよ!」
帰宅直後に見る妹は無邪気そのものだった。
夜な夜な薄い壁越しに聞こえてくる甘い声に目を瞑れば普段は良い子なのだ。
「なんか今日は気分悪いから柚子にあげる」
「え、良いの? やった」
ドタドタと騒がしくキッチンにかけていく妹は、早速僕の分のプリンを戴きにいったのだろう。相変わらず行動が早い。
僕は一緒について行き、喉を潤すジュースを冷蔵庫から取り出す。
普段はカルペスをチョイスするのだが、今朝のアレを思い出してしまうので無難にオレンジジュースにした。
そのことに目敏く妹が口を出してくる。
「あれ、お姉ちゃん今日はカルペスじゃないんだ? 意外」
「そんなに僕がカルペス以外を飲むのが意外か?」
「うん、子供の頃からずっとそれだったし。好きなのかなって」
「そんなに飲んでたっけかな?」
カルペスとは、お店で売ってる奴より数倍濃くて独特の匂いを放つよく分からない飲み物だ。母がよく分からないメーカーの物を買ってきて以来、僕はずっとこれを飲み続けているらしい。
「あたしの記憶では常に一緒だったよ。お姉ちゃんといえばカルペスってぐらい。だからうちの冷蔵庫にはお母さんがどこからか買ってくるストックが大量にあるし」
「初めて知ったよ、そんなの」
自分の嗜好にすら疎くなっている。
そう言えばどこのメーカーかも詳しく調べてない気さえした。
自分にとってそんなに身近なお気に入りがあるのに、なんで僕は調べもしなかったんだ?
疑心暗鬼になりつつも、ごくごくとオレンジジュースを飲みきった。
そう言えばこのジュースのメーカーもよく知らない気がする。
あまり気にしたこともないことが今は異様に気になった。
「じゃ先にシャワー浴びてきちゃうね」
「分かった。お湯つけておくね」
「ありがと」
うちは貧乏なので使う時以外給湯器は消す方針だった。
制服は今やバニラシトラスの香りに支配されているが、それでも乾いてべっとりしている何かの形跡が強く残っている。
ついでに洗濯機も回しちゃおうか。
肌着を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になってお風呂に入る。
シャワーを出したら水だった……なんてことはよくあるので、手元にシャワーを出して水からお湯に変わるのを確認してから頭にかける。
熱された湯が頭皮に染みていくのを感じて、そこを指の腹でわしわしと揉み込んでやるとこりが解けてすっきりとした気持ちになった。
シャンプーで洗い出した後に丁寧にリンスを行き届かせる。
リンスはふわふわになるのは良いけど、爆発事故が起きやすいのでしっかり乾かしてから濡れタオルを頭に巻いて補強するのを忘れない。
その後に体を洗う。
胸はいつも以上に敏感になっている。
シャワーの湯が当たっただけでも情けない声が出てしまった。
いつも以上に細心の注意を払ってその場所を洗う。最後にお股……普段なら拭うようにして内側はそこまで開かないのだけど、一応ケアしておく必要があるので、説明書を開いて文章どうりに試してみた。
すると……
「ひあっんぅ!」
割と大きな声が出てしまう。
びっくりした。
いや、考えなくたって分かる。お湯に近い成分を内側に注ぐのだ。
注がれたタネによく馴染ませてから足を開いて一気に流す。
一回だけじゃ安心できないので二回、三回と中身に液体を使って取り出したのが良いけど、浴びせかけられる感覚はいまだに慣れないものだった。
「これで感じるなって方が無理だよ。あー気持ちよかった。結局全部使っちゃったけど……勿体無かったかな?」
思えば一度気持ち良くなった後の僕はその行為に夢中になっていた。
絶頂というのを数度味わった後も、指が余すことなく内側に潜り込んだ湯を掻き出すように動き、体力が尽きるまでその行動を繰り返した。
「欲しい、欲しいの、欲しいのぉ」
指を動かせば動かすほどに思いが強くなる。
気がつけば自分の内側でその行為を行う忌避感そのものが消えていた。
これじゃあ柚子のことを笑えない。
湯上がりの僕に、妹は意味深な笑みを漏らした。
「お姉ちゃん、お風呂ですると結構ご近所さんに声聞こえちゃうよ?」
「……気をつけるよ」
「んふふ。でもお姉ちゃんがこうやって油断させた声出すのって初めてじゃない? 誰か好きな人でもできた?」
一瞬思い浮かんだのは今朝のレイパーだった。
すぐに掻き消して、そんな人居ないよと上擦った声で言ったら、案の定妹に分かってるからと微笑まれた。絶対勘違いしてるよ、この子。
「ふーん、今はそういうことにしてあげるね」
「そう言うことも何も……」
「むしろお姉ちゃんは遅いくらいだよ。今時の子は中学上がった頃からセルフケアみんなしてるよ? 生理と同時に目覚めちゃう子は多いからね」
「そうなの?」
「そうそう。あたしで協力できることがあったら言ってね? お姉ちゃんには日頃からお世話になってるし」
「うん、その時が来たら言うね」
「なんか今日のお姉ちゃん色気があるね。今日何かあったの?」
「何もないよ」
「あやしい……」
妹は僕の周りをウロウロしながら身体中から匂いを嗅ぐ行為をしだす。
「お姉ちゃん、発情期入った?」
「生理なら来週だけど。その言い方やめてよ。僕がえっちな子みたいじゃん」
「じゃなくて、あたしは13からずっと発情期なのよ。お姉ちゃんは16まで一度も来てないでしょう?」
「えっ?」
「あ、知らないって顔してる。お母さんから聞いたことない? うちの家系は特別な血筋だって」
「全く聞いたことないんだけど」
「お姉ちゃん創作の世界に夢中だったからね。てっきりこっそりエッチなやつ見て処理してたんだと思ってたんだけど、本当に初めてだったんだ?」
妹が、息の吹きかかる距離まで近づいて、僕の顔をじろじろ見てくる。
何? 何? ちょっと怖い。
僕の知ってる妹とは違う顔が、僕を舐め回すように見ていた。
ふっ、と耳に息を吹きかけられた。
「ひゃん」
変な声が出て、僕はその場でへたり込んだ。
「やっぱり、発情期だね。これっぽっちの攻めで腰砕けになる程欲しがってる。そろそろおちんちん入れてもらったら? ずいぶん楽になると思うよ?」
「な……な……何言ってるの!?」
「お姉ちゃん、受け入れ難いのはわかるけどね、あたし達はそう言う生まれなの。女である以上、男に頼らなきゃ生きていけない存在なの」
「柚子が何言ってるかわかんない」
「お姉ちゃんはさー、サキュバスって知ってる?」
「それは架空の存在でしょ? よくファンタジーとかに出てくる男に都合の良い存在。僕の一番嫌いな存在だ」
「あたし達の祖先はそのサキュバスよ」
「冗談はやめてよ。僕そう言う冗談が一番嫌いなんだけど」
「冗談も何も事実だから。むしろあたしの通う中学のクラスメイトもサキュバスの血筋の子多いし、お姉ちゃんの通う女子校にだって居るはずだよ?」
「嘘……」
「嘘ついてどうすんのよ。この世界のおおよそ10人に一人がサキュバスの血を持つ存在よ? 中にはインキュバスの血を引く男子だっているもの。お姉ちゃんはうまく情報操作された世界に騙されているの。すごくえっちで精力旺盛な男の子とか居なかった?」
「居た。やたらと僕の体じゃ勃たないとか悪口言ってくる男子」
「じゃあその子はインキュバスね。サキュバスとインキュバスは惹かれ合うの。実際あたしの今彼もインキュバスよ。学校で何度も生中出ししてもらってるもの。教師も行為を見て見ぬふりしてくれるわ。この世界は随分と性に寛容で助かるわよね」
「やめてよ、僕にそんな作り話聞かせないで!」
「お姉ちゃんはこの世界が普通の世界だと思い込もうとしてるけど、本当にそんな綺麗事でやっていけてる世界だと思ってるの?」
僕は妹から聞こえてくる情報をシャットダウンするように耳を塞ぎ、部屋に逃げるように籠った。妹は脅すだけ脅して僕を追って来なかった。
だから僕は妹の言葉を忘れようとお気に入りのネット小説を読み込んで忘れようとした。
なのに……何でだろう。
頭の中で今朝の行為がチラついて全然集中出来なかった。
欲しい、欲しくて欲しくて堪らない。
硬くて太くて逞しいのが、僕の内側を出たり入ったりしながら内側にびゅうびゅう吐き出すのを妄想してオナニーを再開していた。
やだ、変な声出てる。
なのに気持ちの良さに抗えない僕が居た。
イケばイク程より強い興奮に囚われる。
僕は自分で思ってるほど正しい生き物じゃないのかもしれない。
お風呂上がりとは思えぬほどに下着を分泌物で濡らし、恍惚とした表情で何もない空間を見つめていた。
そんな時に自室の扉がノックされた。
「お姉ちゃん、さっきはごめんね」
「いいよ。信じたくなかったけど、こんな風になった後だと僕が強情だったって分からされた気分だもん」
「お母さんにお姉ちゃんのこと話したらね」
「うん」
「今度から外食しましょうって」
「外食って?」
「男の人からお恵みをもらいに行くの。薄々気づいてるでしょ、カルペスの中身」
やっぱりアレ、そう言うことなんだ。
「僕に拒否権は?」
「別に拒否してもいいけど、そんな状態のおまんこで一日中耐えられる?」
「無理」
「だったらお母さんの誘いを無駄にしちゃダメだよ。あたしもね、本当に辛い時にお母さんに頼ったの。そうしたら初めての相手から定期的に会って注いでくれる人まで見繕ってくれたの。お母さんもね、おばあちゃんのお世話になった人たちのお世話によくなったんだって」
「そうだったんだ。柚子は、初めての相手が好きになった子じゃなくてよかったの?」
「最初はショックの方が大きかったよ」
「だよね」
「でも、行為を終えた後はその人に恋しちゃってた」
「……肉体相性が良かったの?」
「ううん、痛かったし結構乱暴された記憶は強いよ」
「じゃあ何で?」
「泣いて喚くあたしの事をずっと気遣ってくれたの。行為そのものが初めてのあたしに何度も何度も生中出ししてくれたの。15回もよ? 本当に信じられない。絶対妊娠したって思ったし世の中の全てが憎くて仕方なかった。でも……あたしが気絶して目覚めるまでずっと繋がっててくれて、ギュッと抱きしめてくれたの」
「性欲が強くてとかじゃなくて?」
「違うよー、全然違う。同級生の子は股開いてくれる都合のいい子としかしないけど、そこまでの気遣いはないもん。した後ヤリ捨てられる事とかしょっちゅうだよ?」
「サイテー」
その話を聞いて自分でも心が覚めていくのが分かった。
「うん。だから初めての相手はそういうアフターケアしてくれる人がいいよ。お姉ちゃんはきっとガチ恋系だと思うし」
「僕が!?」
「きっとドピュドピュされながら頭なでなでされただけでコロッと恋しちゃうと思う」
「僕そんな単純に見える?」
「だってあたしがそうだったもん。中出しされながらキスされたら、もうこの人のお嫁さんになる! って心の中で誓っちゃうくらいぞっこんになるの。不思議と行為が終わった後は夢見てたんじゃないかって気持ちになるけど、次発情期が来たらその人以外考えられなくなるよ。それがきっとあたし達の種族の恋なんだと思う。普通の人間とは分けて考えた方がいいかもね」
「その方が良さそうかもね」
「じゃあ?」
「いくよ。今更自分の気持ちに嘘はつけないもん」
「ふふ、じゃあたくさんおめかししてかないとね?」
「え、普段着で良くない?」
「だーめよー。デビュー戦は華々しく飾る物だってお母さん言ってたし、あたしも4人の男の人に全身汚すくらいにめちゃくちゃにされたし」
「えっ」
さっきと言ってることが違う。
ガチ恋がどうこうとか言ってたから相手は一人だと思ってたのに、複数人なの!?
「ちなみにその数人はお母さん一人で賄うわ。ぐちゃぐちゃにされに行ったのはあたしの願望。それを叶えてもらっただけだから」
「なんだか妹の意外な一面を聞かされた気分だよ」
「お姉ちゃんは純粋だにゃー。今からどんな風におちんちんおねだりするか楽しみだね」
「僕はそう簡単に靡かないからね!」
「はいはい」