妹に冗談で催眠術かけたらバッチリかかっちゃって、しかも解き方が分からない俺はどうしたらいいのか 作:布施鉱平
俺の名前は
学校では『きっかわじゃないよ、よしかわだよ』でお馴染みの、1○歳童貞彼女募集中のフツメンだ。
趣味や特技はとくにない。
というよりも、色んなことに興味を持ってはすぐ飽きる
ただ、前述したとおり色んなことに興味は持つので、その時々でハマっていることには短期的に熱中することもある。
そんな俺がいま興味を持っているのが────『催眠術』だ。
きっかけは、ネット小説で読んだ『MC
この小説の中で主人公の男は、ライターの炎をつけてから消すまでの間にかけた暗示を、『それが自分の意思だ』と相手に思わせることができる能力を持っていた。
どういうことかというと、例えば巨乳の幼馴染にライターの炎を見せながら『お前は昔から俺のことが大好きで、ずっと抱かれたいと思っていた。そしてそんなにも巨乳になったのは、俺に奉仕したいという想いが強かったからだ』という暗示をかけたとする。
すると、かけられた巨乳の幼馴染は『私は昔からあなたのことが大好き。今すぐ抱かれたい。あぁ……あなたの逞しいおチンチンに、あなたへの想いで大きく膨らんだこの胸でパイズリしてあげたい……』と思うようになり、それが自分の本心であると信じて疑わなくなってしまうのだ。
正直言って主人公はクズだが、同じ童貞として気持ちは分からないでもない。
それにどうしようもなく下品なタイトルのワリに話の内容自体は普通に面白くて、全てを読み終えた頃には「俺も催眠術を使えたら楽しそうだなぁ……」と思うくらいには影響されてしまっていたのだ。
もちろん、もし使えたとしても、主人公みたいにあくどい真似をするつもりはない。
せいぜい『俺と仲良くしてね。あと、できれば時々おっぱい触らせたり、パンツ見せたりしてね』とお願いするくらいだ。
……まあ、俺がやろうとしていることも十分にクズなんだが、残念なことにそもそも俺には巨乳の幼馴染も、尻穴の柔軟な
幼馴染は野郎ばかりだし、どういうわけか
というわけで────
「ぜひ、実験台になってくれ」
「馬鹿なの? その無駄に長くてキモい説明を聞いたあとで、私が引き受けるとでも思ってんの?」
俺は、唯一身近にいる女である『妹』に、催眠術の実験台を頼み込んでいた。
妹の名前は吉川
なんで俺の名前は普通なのに妹はキラキラネームなのかはさて置いて、『名は体を表す』の格言どおり、俺の見た目が普通なのに対して妹の見た目は美少女といって差し支えないレベルに整っている。
妹の容姿が名前により底上げされて今のクオリティなっているというのなら、明らかにネタっぽい俺の名前には文句の一つも言いたいところだ。
しかし、そんなキラキラ偏差値に格差がある俺と妹ではあるが、こんなふうなバカ話できるくらいには仲が良かったりもする。
「まあまあ、エロい暗示はかけないって約束するから」
「そういう問題じゃない。催眠術なんてかかるわけないけど、そもそも私にメリットゼロじゃん」
やれやれ、とでも言いたげなアメリカンジェスチャーをしてくる妹。
俺には分かっている。
こいつは今、遠まわしに賄賂を要求しているのだ。
「仕方ないな……じゃあ、アイスおごってやるから」
「ダッツね」
「そんなブルジョアな……」
「スーパーに売ってない、期間限定の豪華なパッケージデザインのやつね」
「お前それ、五百円近くする奴じゃん……」
「五百円でJ○に催眠術かけられるんだよ? 安いもんじゃない。リフレに行ったら30分コースでも最低四千円はかかるんだから」
なぜ妹がJ○リフレの料金設定に詳しいのかは謎だが、言われてみれば確かにその通りだ。
俺は報酬としてダッツの期間限定味を妹に渡すことを確約し、なんとか催眠術の実験台になることを了承させたのだった。
◇
「…………では、このライターの炎をジッと見つめてください」
「はいはい、見ればいいんでしょ、見れば」
俺は『MC
小説ではジッポを使っていたが、誰もタバコを吸わない我が家にはそんなものなかったので、近所のコンビニで100円ライターを買ってきて代用している。
「…………炎が揺れています。ゆらゆらと、炎が揺れています。その揺れる炎を見ているうちに、あなたの心も次第にゆらゆらと揺れてきます」
「心が揺れるってなに?」
「茶化さないで集中しろよ」
「だって、つまんないんだもん」
「……アイス、ランクダウンしてゴリゴリ君にすんぞ?」
「は~い、ちゃんとやりま~す」
「よろしい。……こほん、ではもう一度…………炎が揺れています。ゆらゆらと、炎が────」
三分後────
「────あなたはもう、炎から目が離せません。そして、俺の声に逆らうこともできません」
「…………」
何度も同じ言葉を繰り返し、根気づよく妹に暗示をかけ続けていると、次第に妹の口数は減っていった。
そして今では、すっかり黙り込んでしまっている。
目もなんだか
これはもしかして…………かかったんじゃないか? 催眠術。
「おぉ、まじか……」
正直言って冗談半分でやっているだけだったので、本当にかかるなんて全く思っていなかった。
しかし、本当に催眠術にかけられたのだとすれば、これはすごい。
感動的ですらある。
「っと、そうだ。この催眠術は、暗示をかけたあと炎を消さなきゃ効果ないんだっけ」
俺は早く催眠術が成功したかどうか知りたいので、さっさと妹に暗示をかけることにした。
……のだが、
「ほんとにかかるとは思ってなかったから、何も考えてないんだよなぁ……」
催眠術をかけること自体が目的だったので、どんな暗示をかけるか決めていなかったのだ。
「妹に性的な暗示かけるわけにもいかないし…………あ~、やばい、指がつりそうになってきた」
100円ライターの炎を三分間出し続けるのは、案外しんどい。
どうりで小説の主人公はジッポを使っていたわけだ。
「もういいや、適当で。え~、それじゃあ…………『俺のことが大大大好きな、お兄ちゃん子にな~れっ!』」
「…………」
俺はあまり深く考えずにそう暗示をかけて、炎を消した。
「よし、これで催眠術にかかったはずなんだけど……おい光」
「…………」
「……光? 大丈夫か?」
だが、まさかその結果が────
「…………うん…………大丈夫だよ……………………お兄ちゃん♡」
────俺と妹の関係を狂わせることになるなんて、その時は想像もしていなかったのだ。