妹に冗談で催眠術かけたらバッチリかかっちゃって、しかも解き方が分からない俺はどうしたらいいのか 作:布施鉱平
「はい、お兄ちゃん♡ あ~ん♡」
「…………あー」
「うふっ♡ 美味しい?」
「ハイ、オイシイデス」
「よかった♡ はい、あ~ん♡」
「…………」
俺は今、できるだけ心を無にしながら朝食の席についていた。
昨夜、俺は妹の
「お兄ちゃん♡ あ~ん♡」
「…………あー」
ご覧のとおり、本当にかかってしまったのだ。
────しかも、解けない。
というか、解き方が分からない。
俺が催眠術に興味を覚えるきっかけとなったweb小説『MC
さすがにこのままではまずいと思った俺はもう一度妹に催眠術をかけようとしたのだが、耐性でもできてしまったのか、妹が最初のような催眠状態になることは二度となかった。
で、
「あ~ん♡」
「…………あー」
これである。
…………心が痛い。
というか、視線が痛い。
だって、食卓テーブルを挟んだ俺の向かいには、母親が座っているのだから。
「……あんたたち、なんなの? 朝からイチャイチャして……ヤっちゃったの?」
「ごふっ!」
突然母親にとんでもないことを言われ、俺は思わず口の中に入っていた咀嚼中のソーセージを吹き出した。
妹が「あらら……」とか言いながら箸で拾ったそれをもう一度口に入れようとしてくる。
いや、ガチでやめろ。
「ヤっ、ヤっちゃったって、何馬鹿なこと言ってんだよっ! そんなわけないだろっ!?」
なんとか妹の手を押しのけながら、俺は母親に反論する。
だが、
「別にいいんじゃないの?」
「…………はあ?」
返ってきた言葉が理解できず、俺は間の抜けた声で聞き返した。
「光、昔っからあんたのこと好きだったし」
「へっ?」
そして更に付け加えられた情報は全くの予想外で、俺はまたバカみたいに聞き返す。
「まあ鈍感なあんたは気づいてなかったみたいだけど、小学生くらいの頃からあんたに彼女ができないように、他の女に対して色々牽制してたみたいよ?」
「えっ、いや、嘘だろ?」
次々に予想を超えてくる母親の言葉が信じられず、俺は未だに横から給餌を続けてくる妹に問いかけた。
「ん? 本当だよ?」
だが返ってきたのは、これまた信じがたい返答だった。
「…………で、でもっ! 俺と光は兄妹なんだぞ!? その辺どうお考えなのさ、母上っ!」
混乱した俺は、自分でもよくわからない言葉遣いで母親に尋ねた。
すると────
「好きにすりゃいいじゃない。血が繋がっているわけでもあるまいし」
……………………
「…………いま、なんと?」
「だから、別に血の繋がった本当の兄妹じゃないんだし、お互いに好き合ってるなら何も問題はないんじゃない? って言ったのよ」
「……………………つかぬことをお伺いしますが、母上」
「なによ」
「俺って、もしかして養子?」
「そうよ?」
な ぜ か い ま 明 か さ れ る 衝 撃 の 真 実 !
「えっ!? 俺って養子なの!?」
「そうよ? 言ってなかったっけ?」
「言ってないよ! ていうか聞いてないよ! いま初めて聞いたよ!
えっ、じゃあなに!? 俺は父さんや母さんや光とは血が繋がってないの!?」
「だからそう言ってるじゃない」
「だから聞いてないって言ってるじゃない!?」
「じゃあ今言ったからいいでしょ? はいはい、あんたは血が繋がってませんでした~。だから妹と結婚してもいいんです~。
どうよ、嬉しいでしょ?」
「そ……っ!?」
「じゃあ、お母さんかねてからの計画通り友達と温泉旅行一泊に行ってくるから。晩御飯はウナギでもスッポン鍋でも好きなもの出前とって食べてね」
「な……っ!?」
「ああ、でもちゃんと避妊はするようにね。まだお互い学生なんだから。でも別に出来たら出来たで、あんたの生みの親から預かってる遺産がまだ五億くらい残ってるから大丈夫だけど」
「ご……っ!!?」
「じゃあ行ってくるわね~」
「…………」
手を振りながらキャリーバッグを引いて家を出ていく母親の後ろ姿を、俺はバカみたいに口を開けたまま、呆然と見送ることしかできなかった。
「はい、お兄ちゃん、あ~ん♡」
そんな俺の姿が『あ~ん♡』を催促しているとでも思ったのか、妹が隣から卵焼きを放り込んでくる。
俺は口の中に広がる甘い卵焼きの味を噛み締めながら、受け止めきれないほどの情報量に目を白黒させていた。
…………ん、卵焼きうまい。