─ライ...ライ...貴方が好き。
─カレン...カレン...君が好きだ。
─行政特区日本の式典で、貴方が銃で撃たれたと聞いた時は目の前が真っ暗になった。
─君が式根島で取り残された時、生きているのか不安で胸が押し潰されそうだった。
─ラクシャータさんから命に別状はないと聞いて、貴方が目を覚ました時は歓喜に震えた。
─神根島の遺跡で君が無事だと確認できた時はとても嬉しくて、安堵感が体を包んだ。
─お互いの想いが通じあって、恋人同士になれた時には天にも昇るような気持ちだった。
─君が僕の為に涙を流して、生きていてよかったと喜んでくれた時は愛しさが溢れた。
─その時に思ったの。ああ、私は心の底からライの事が好きなんだって。
─その時に思ったんだ。僕の中で、君はかけがえのない人なんだって。
─貴方といると楽しい。
─君といると幸せ。
─貴方といると安心する。
─君といると世界が華やぐ。
─欲張りな私は、その幸せがもっともっと欲しくなる。貴方との繋がりをもっともっとと、求めてしまう...
─でも、君を好きになると同時に、過去に罪を侵したこんな僕が、君を愛してもいいのかと時々不安になる...
─ライが私の事を大切にしてくれてるのはわかってる。
─カレンを傷付けてしまうのが怖い...
─でも私は、もっと深く、強い絆が欲しい。
─でも、君に対する愛しさが体を支配して、君を求める想いがどんどん強くなっている...
─だから、私は.....
─だから、僕は.....
━━━━━━━━━・・・
(すぅ...はぁ..........よしっ)
コンコンッ
ガチャ
「やあ、カレン。いらっしゃい。待ってたよ」
「お、お邪魔します...」
ドアを開けたライが、優しい笑顔を浮かべてカレンを迎えた。
クラブハウス内のライの自室。
カレンはお泊まりセットを持ってライの部屋に訪れていた。
特区日本設立後、想いを伝え合い晴れて恋人同士になった2人。
しかし、早半年が経とうとしているのに2人はまだ事に及んでいなかった。
抱き締めたり、キスをしたり、デート等はしていたが、それだけ。
そんな日々を過ごしていた2人だが、ある日カレンがライの部屋に泊まって長く一緒に居たいと言い出した。
最初渋い顔をしたライだったが、カレンの並々ならぬ熱意に押され快諾し、今に至る。
「寒かっただろう?今、暖かい紅茶を入れるから」
「あ...う、うん。ありがとう...」
ライはカレンをソファまでエスコートすると、お茶を入れる為にキッチンに向かった。カレンはソファに座るとそわそわと落ち着きなくしている。
そう、カレンは今夜、ライとの関係を進めようと思ってお泊まりをしたいと言いだしたのだ。
(うぅ...自分で決めてきた事とは言え、恥ずかしいし緊張する.....ライの部屋に泊まるのも初めてだし...)
チラり、とキッチンにいるライの背中に視線を向けた。
彼は緊張しているような風体ではなく、いつも通りの平静さでお茶の準備をしている。
その姿に、カレンは色々と考えてしまう。
(なによ...恋人である私が部屋に泊まるっていうのに、ライったらなんであんなに平然としてるわけ...?)
自分はこんなに緊張してるのに...
そう思うと悲しい気持ちになった。
自分だけが意識して、もっと深い仲になりたいと思っているのに、ライは全然そんな事を考えてなさそうで...
(私ってそんなに魅力...ないのかな...)
そんな考えがカレンの頭を支配する。
ライが自分を大切にしてくれているのはわかっている、わかっているが...キスから先の事をする気配がないというのは、女として、恋人として、落ち込んでしまう。
カレンは悶々とした気持ちを抱えながら、ライが来るのを待った。
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─キッチン─
(カレンが僕の部屋に...カレンが僕の部屋にいる。しかも泊まりで...こ、これはそういう事をするのか?いやいやでも、もし違ったらどうする?彼女は純粋に僕と長く一緒にいたいから泊まると言っただけかもしれないし...)
ライはテキパキと紅茶の準備をしながら、こんな事を考えていた。
平然を装っていたが、内心はかなり緊張しており、瞬時に物事を判断できる彼が珍しく混乱している。
(しかし、もう半年経つし...リヴァル曰く世間一般的にはそういう事をするにはもう充分な期間らしいが...いやいや、それをカレンに当てはめてはいけない.......なにより、僕の欲望を優先させて彼女を傷付けてしまったら...)
ふと暗い影がライの顔を差した。昔侵した罪の意識からそういう事を考えると、どうしてもネガティブになってしまう。
が、すぐにライは軽く頭を振ってその思考を払った。
カレンと一緒にいるのに、こんな事を考えていてはあまりにも失礼ではないか。
(とりあえず落ち着け僕の心臓。もしかしたら違うかもしれないし.....平常心、平常心だ...)
ライは自分にそう言い聞かせ、努めて普段通りに振舞った。カレンに悟られぬように、心臓の早鐘は無視をして。
「カレン、お待たせ」
「.........」
「...カレン?」
ライは淹れたての紅茶を持って、ソファに座っているカレンに声をかけた...が、反応がない。
何か思い悩んだ表情のカレンに、ライはどうしたのかと心配になり、紅茶をテーブルに置くと少し身をかがめて再度名前を呼ぶ。すると、俯いたままカレンはぽつり...ぽつり...と話し始めた。
「ねぇ...ライ...」
「ん?」
「私って...ライの恋人よね...?」
「...?そうだな」
「なら...答えて。私って、ライにとって女としての魅力...ある?」
「っ!?」
ゆっくりとこちらを向いたかと思えば、泣きそうな顔でライにそんな事を問いかけるカレン。
「きゅ、急に何を言い出すんだ!?」
「いいから答えて!」
カレンの瞳は不安に揺れていたが、それでもライの目をジッと見つめ、答えを待った。
彼にとって、自分はどう映っているのか確かめたくて...
「えっ、と...(ど、どうしたんだ一体...?僕にとって女性として魅力的かだって?そんなの...魅力的に決まってるじゃないか!むしろ、魅力があり過ぎて最近は色々と理性が危ない時があると言うか...襲ってしまいそうな時があるというか...って言えるわけないだろう!?)」
「やっぱり...ないんだ...」
ライがなかなか答えない事により、カレンは勘違いをしてしまった。自分には彼にとって女性としての魅力がないのだと。
空色の瞳がどんどん潤んでいき、やがて一筋の雫となってカレンの頬を流れる。
「っ!(馬鹿か僕は!)」
それを見たライは自分を叱咤した。大事な人を泣かせてしまった。恥ずかしくて、グズグズして、彼女の答えにすぐに応じなかったのを後悔した。
カレンを泣かせるぐらいなら、自分の羞恥心など捨ててやる。
ライは涙を流しているカレンに手を伸ばし、抱きしめた。危ない発言はしないように、言葉を選びながらカレンへの想いを紡いでいく。
「ひっく...ぐす...ライ?」
「カレン、すぐに答えなくてすまない。君は...僕にとって世界一魅力的な女性だ。魅力があり過ぎて困るぐらいだ。君以上に、僕が魅力を感じる人はいないよ」
抱きしめる腕に力を込める。自分のカレンへの想いが伝わるように、強く。
カレンもその言葉を聞いておずおずと、ライの背中に手をまわした。
「.....それ、本当?」
「本当だよ」
頭を撫でながら、ライは優しく答えた。
それを聞いたカレンは、ゆっくりとライを見上げると、ずっと胸に秘めていた想いを告げる。
「.......じゃあ、ライは...私を抱いてくれる?」
「ああ、君を抱.......え?」
ライは抱きしめているカレンを見る。それはどういう意味なのか?カレンは潤んだ瞳のまま、真っ直ぐと強い意志を持って言葉を続けた。
「私は...ライの事が好き。心から好き。これからもライの隣でいるのは私でありたいし、結ばれるなら...ライとがいい」
「カレン...」
その言葉に、ライは嬉しくなった。こんな自分を心から好きと、結ばれたいと言ってくれる彼女に、愛しさが溢れる。
「でも、最近は時々不安になるの。付き合ってもう半年以上も経つのに、ライは私にキス以上の事をしてくれなくて...女としての魅力がないのかなって.....だから...んぅっ!」
言い切る前に、ライはカレンの唇を自身ので塞いだ。不安にさせてしまって申し訳ないという気持ちと、それ以上に大きな『好き』という気持ちを乗せて。
やがて唇を離すと、今度はカレンをじっと見つめ、優しく頭を撫でながら自分の中の気持ちを伝える。
「ごめんカレン。僕は怖かったんだ」
「怖かった?」
「過去に許されない罪を犯した僕が、欲望のままに動いたら、君を傷付けてしまうんじゃないかって、不安でたまらなかった。君が僕から離れていってしまうんじゃないかって...怖かったんだ...」
少しだけ苦しそうに、搾り出すように言った言葉。自分の欲望でまた大切な人がいなくなってしまうのでは、という恐怖心が、恋人として次のステップに進むのを拒んでいた。
でも今は、カレンが勇気を出して伝えてくれた。自分と結ばれたいと言ってくれた。
だから、その想いに応えたい。
「ありがとう、カレン。勇気を出してくれて。僕もずっと思ってたんだ。君と...結ばれたいって」
「ライ...」
カレンは涙を流した。だが、先程とは違う喜びに満ちた涙だった。