入試倍率300倍がなんぼのもんじゃい!!こちとら感度3000倍やぞ!! 作:露木曽人
その昔、中国で光る赤ん坊が産まれてきたらしい。光る赤ん坊でよかったな、と俺は古事記を読みながら思った。その昔、ヒノカグツチという炎の神様は、燃えながら産まれてきたせいで母イザナミの股間に大火傷を負わせてしまい、怒った父イザナギによって海に投げ捨てられたとか。
しかも後で知ったことなのだが、俺が読んだのは子供向けにマイルドにされたバージョンだったらしく、本当は怒った父親によって殺されてしまったらしい。まさに生まれてきたことが罪、だったわけだ。
もし中国で生まれてきたのが燃える赤ん坊だったなら、今の個性化社会はどうなっていただろうか。個性持ちは危険と迫害され、YとZの前MENみたいになっていた可能性もなきにしもあらずだろう。
そして俺、大麻忍(たいましのぶ)もまた、個性を発言しながら産まれてきた赤ん坊であったらしい。
『んほおおお!?』
『な、何じゃこりゃあああ!?』
その個性、対魔忍。相手を感度3000倍にする能力。意味がわからない。そもそも、性感と忍者に何の関係性があるのか?わからないものは悍ましい、理解できないものは恐ろしい。
そして何より、3000倍の快感を伴いながら出産をしたため、出産でなければ性的興奮を得られない体になってしまった母が、毎年出産したい!!と言い出し家族を絶句させたこともまた恐ろしかった。
父は俺をバケモノ扱いし、両手で首を絞めて殺そうとした。だが殺意をもって俺に触れようとした瞬間、まだ赤ん坊だった俺は本能的に命を守るために個性を行使した。結果、父の手は空気に触れているだけで3000倍の快感が絶えず続く異常な手になってしまい、今は両親ともに精神病院に入院している。
同じように、子供の個性で人生や人格を壊された親が集う専用の病院と、意図せずか意図してかは無関係に、制御できない能力で親を壊してしまった子供たちが引き取られる養護施設。
少年院ならぬ、通称、年少院で俺は育てられた。そこでは俺たちは、物心つく前から既に親を壊した犯罪者予備軍として扱われ、更生のための虐待めいた厳しい教育にさらされた。
中には脱走してヴィランになる者もいたし、洗脳めいた教育の甲斐あってかヒーロー志望になった子供もいた。俺は、どっちでもよかった。ただ、ほんとクソみたいな個性だな、と、日に日に自分が疎まれる理由がわかっていった。
「出なさい」
「はい」
年少院への服役は、十五歳までだ。俺は檻の中の小学校で学び、鉄格子の中の中学校で教育を受け、そして卒業と同時に釈放される。人権問題とか、色々あるらしく、そこで釈放された子供が、再び罪を犯せば今度は少年院行きだし、戻ってこなかったならそれでよし、らしい。
歪だな、と思う。歪んでいる。だが、文句を言っていてもしょうがない。父母どちらの親族にも引き取りを拒否された俺は、弁護士を通じて養育費を支給され、そのまま独り暮らしをすることになった。
そして今日、俺はとある高校を受験する。雄英高校ヒーロー学科。個性を活かし、ヒーローとなるための全てを学ぶ、いわゆるヒーロー養成学校。その日本一の名門校だ。
本来ならば前科のある人間が受けられるような学校ではないのだが、俺の場合は年少院という少々特例ゆえの措置であり、実技・筆記の両試験に加え、面接試験をパスできたなら入学してもいいらしい。
「はい、スタート!!」
同校・演習場を借りての実技試験はいきなり始まった。ボイスヒーロー、プレゼントマイクが司会進行を務めるこの実技試験では、3種類の仮想ヴィランロボを撃破して稼いだポイント数を競うという。もちろんヒーロー適性を測る試験だから、他人の妨害などは即失格。
敵の強さに応じて1,2,3のポイントが割り振られており、0ポイントのお邪魔虫を倒しながらポイントの高い敵を数多く倒していくというのがこの試験の概要らしい。なるほど、武力のない奴はヒーローにはなれないわけだ。
正義なき力はただの暴力だが、力なき正義は無力というらしい。俺は試験会場を暴れ回るロボットたちを、適当に絶頂させながら、順調にポイントを稼いでいく。
ロボットに感度3000倍攻撃が効くの?と思ったら、想像してくれ。
『残念ながら、ロボットである私には人間ならば当然保有しているはずの神経が一切通っておりません。ゆえに、いかなる辱めも通用しないのです。ご理解頂けましたか?それでは、お覚悟を』
とかなんとか言いながら、キリっとしてるロボ娘を。
『んほおおおErrorErrorErrorError!!こんなに知らない!!どぼじでえええ!?私はロボットのはずなのにいいい!!んぎいいい!!』
そうだね、即堕ちフラグだね。快感に限らず、神経というのはつまり、ただの電気信号の伝達路だ。ロボットであるならば当然、CPUからの電気信号を必要な箇所へに伝達するための信号が必要となる。無線であれ有線であれ、そうでなければ動けないからだ。
よって、その電気信号の伝達回路に3000倍の負荷をかけてやれば、あっさりショートする。1個別窓で開こうとしたら一瞬でウィンドウが3000個出現したパソコンを想像してもらえればいい。ああ、そりゃフリーズするわ。
個性:対魔忍で3000倍にできる感度は何も性感だけではないのだ。もし俺の母親が、出産時に痛覚3000倍!!とかやられてしまっていたならば、きっと痛みに耐えきれずショック死していたことだろう。
『この実技試験は受験生にヴィランの総数も配置も伝えていない。限られた時間と広大な敷地、そこから炙り出されるのさ。状況をいち早く把握するための情報力、あらゆる局面に対応する機動力、どんな状況でも冷静でいられる判断力。そして純然たる戦闘力。市井の平和を守るための基礎能力が、ポイント数という形でね』
『今年はなかなか豊作じゃない?』
『まだわからんよ。真価が問われるのはこれからさ』
そして試験も終盤に差し掛かった頃。突如として、10階建てのビルを超える超巨体を持つ、4番目の仮想ヴィランロボが姿を現した。恐らくはあれがポイント0のお邪魔虫なのだろう。巨大であるということは、それだけで大層な脅威だ。
握り拳だけで8tトラックぐらいありそうな巨大ロボの攻撃を受けてしまえば、蚊が叩き潰されるように人間などたちまち押し潰されて死ぬだろう。いくらヒーローを目指す人間とて、その威圧感には恐怖心を刺激される。
「きゃ!?」
「大丈夫!?」
「あ、ありがとうございます!」
そんな巨大ロボの出現に脚が竦んでしまい踏み潰されそうになっていた女の子を、3000倍に強化した瞬発力と反射神経、動体視力で助け出した。脅威は脅威だが、あの養護施設に比べればこの程度の敵、あまり恐ろしく感じられない。ちょっと小突いてみたら、途端にドタァン!!と地面にひっくり返って、その巨体を悶絶させながら痙攣し始めた。
「お、おい!?どうなってんだありゃあ!?」
「まるで女の子が感じてるみたいじゃねえかよお!?」
お、あのブドウみたいな髪型の少年、なかなかに見る目があるな、と思いながら、俺はポケットに手を突っ込んで、悶絶巨大ロボの前に佇む。身を捩るだけでも地響きか。怖ろしい敵だった。
「残り3ぷぅん!!」
プレゼントマイクの楽しげな声が会場内に響き渡り、あの巨大ロボ突然の異変に戸惑う受験生たちが早く終わってくれと願う。チャンスだとばかりに立ち向かっていく者、とにかく遠ざかることに徹する者、隠れる者。ポイントを稼がねばと焦る者。反応は様々だ。
「試験終了ー!!」
そして、何事もなく試験は終わった。やれるだけのことはやったのだ。これで落ちたら、学費が格安の定時制の高校に通いながらアルバイトでもしようかと思っていた一週間後。
『私が投影されたァ!!』
俺の元に届いたオールマイト直々のビデオメッセージは、合格を伝えるものだった。
☆
『私は断固反対です!!』
『私もだ。彼の経歴を読まなかったのか?あんな破廉恥な能力を持つ子供が、どうすればヒーローになれるというのだ』
『その通りです!!校内の風紀が乱れるだけで済めば御の字ですよ!?思春期の少女たちに何かがあってからでは遅いのです!!』
『なるほど、なるほど?君たちの意見はよーくわかった。だが、彼が筆記・実技ともに文句なしの合格点を叩きだしたことは事実だ』
『それも、レスキューポイントを大幅に獲得してね』
『ヒーロー学科は未来のヒーローを育てるための学科だ。彼に正義感があり、ヒーローを目指す意思があるならば、我々はそれを尊重するのが筋ではないかね?』
『ですが!!』
『では、こう考えたまえ。自己採点の結果、実技・筆記ともにきちんと合格できるだけの点数を出したにも係わらず、あきらかに不自然な落とされ方をした』
『そうなったら、彼は思うかもしれないね?ああ、やっぱり前科者の自分には正義のヒーローなんて無理だったんだ、と。こんな能力を持っている自分が、世の中に受け入れられないのは当然なのかもしれない、と』
『毎年雄英や他のヒーロー学校に不合格になったからという理由で、世の中を逆恨みしてヴィランになる人間も多くいることは紛れもない事実だ。』
『なればこそ、彼を野放しにするよりも、この学校でキッチリとヒーローらしいモラルを身につけてもらう方が安全なのではないか、とね』
『以上だ。これ以上の不満は受験生に対する不当な個性差別を見なされかねない。君たち自身のためにも、ここは大人しく引き下がりたまえ』
『くっ!!失礼します!!』
『やれやれ、嫌な仕事だ全く』
『とはいえ、必要なことでした』
『そうだね。さて、大麻忍君。君はこの学校で、果たしてどんなヒーローを目指すのだろうね?』