入試倍率300倍がなんぼのもんじゃい!!こちとら感度3000倍やぞ!! 作:露木曽人
雄英高校ヒーロー科の一般入試定員は36名。2クラス18名のみ。ただしこれはあくまでも一般入試による定員であり、政府からの推薦や海外からの留学など、特殊な事情がある場合は1名2名増員されたりもする。そして、今年のAクラスは21名。
つまり、そのうちの3人は特別な事情をもって入学してきたことになる。まあ、うちひとりは俺なんですが。
「お久しぶりですイレイザーヘッド」
「おう。まさか施設でも一等無気力だったお前さんがヒーローを志すとは思わなかったぜ。どういう風の吹き回しだ?」
「ヒーロー免許取得すれば、もう悪戯に犯罪者扱いされずに済むかなって」
「...そうか」
ぶっきらぼうだけど、別にこれは俺のことを嫌っているわけではなく、この人は大体いつもこんな感じだ。相澤先生。抹消ヒーロー、イレイザーヘッドは年少院時代に面識がある。能力を暴発させたり暴走させた子供を鎮圧するのに、彼の個性無効化能力は便利だ。
そのため、年少院で過ごした子供は少なくとも一度はイレイザーヘッドを目にする。向こうが俺の存在を認識していたのは意外だったが。
「一度しか説明しないから適当に聞いておけ。俺はこれから三年間、お前の監視指導員としてお前を監督する。なので、面倒な問題は起こすな。以上だ」
「わかりました」
俺も、あらかじめそういった監督を受けることになるということについては聞いている。なので、イレイザーヘッドがそれを担当してくれるのならば安心だ。変に偏見持ったヒステリーおばさんでもあてがわれた日には、俺は迂闊にトイレにも行けなくなるからな。
そんなわけで、俺は晴れて雄英高校、1年A組の生徒になった。
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」
(なんかいるぅ~!?)
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
生徒になって早々、退学の危機を迎えるとは思わなかったが。
「個性把握テスト!?」
「入学式は?ガイダンスは?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」
個性使用可能な体力テスト。いきなりの実技試験に、入学したばかりの生徒たちは浮かれているようだ。
「何これ面白そう!」
「個性思いっきり使えんだ!さすがヒーロー科!」
「面白そう、か。ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?よし、8種目トータル最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「えええええ!?」
「生徒の如何は俺たちの自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
突然の除籍処分宣言に、生徒たちがどよめく。そりゃそうだ、あれだけ苦労して入学したのに、いきなり初日で退学なんてやってられまい。とはいえ、イレイザーヘッドはわりとガチなので、恐らく見込みなしと判断されたら容赦なく落とされるだろう。
ヒーローは遊び半分ではなれない。公認ライセンスは運転免許のような便利グッズではないのだ。お気楽気分でここにいる奴、私利私欲のためにヒーローを目指す奴。入学試験では、心の中までは測れないのだから。
いざ体力試験である。体内を流れる電気信号の感度を3000倍にしてやれば、人間の限界を超えた身体能力を引き出すことは不可能ではない。無論、体は壊れるが。なので、無理に3000倍まで引き上げる必要はない、といいたいところだが、微調整ができないのが困りものである。
50m走。これは瞬発力を3000倍にして突破。立ち幅跳び、反復横跳びも同様の手順でクリア。握力測定は、ほんの一瞬だけ握力を込める際に手への脳からの電気信号を3000倍にする。ボール投げもその理論で問題なし。
持久走は..苦手だな。さすがに長時間の感度倍増には心肺が持たないので無理。上体起こしは背骨を折らないよう気をつけて。長座体前屈は普通にやっていてもそこそこの成績が出るので大丈夫だろう。
さて、そんなこんなでボール投げまで来たところで、問題が発生した。
「個性が制御できないんだろ?また鼓動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」
「そんなつもりじゃ!」
「どういうつもりでも、周りはそうせざるを得なくなるって話だ」
ところで、マフラーものすごくヒラヒラしてますが、それって先生の個性何でしょうか?個性を消す個性にマフラーを空中で渦巻かせる力があるとは思えないのですが、それとも何らかの発明なのでしょうか。
何て疑問を抱いている間に、同級生の緑谷くんが個性の制御の甘さを叱責されている。彼は、本当に個性を制御しきれていないのだろうか。施設に連れてこられた子供たちも、概ね小学生ぐらいになる頃には、自分の個性の使い方を覚えるものだが。
それでよく入学試験に合格できたな、という視線が周囲から突き刺さる。が、本人は本気のイレイザーヘッドの迫力を前にそれどころではないらしい。こりゃ除籍処分はアイツで決まりかな、と誰もが思った時。
「先生、まだ動けます!!」
(コイツ!!)
指一本を犠牲に、彼は試験を続行する資格を勝ち取った。しかし、結果は惜しくも最下位。最下位の者は、除籍処分。というのは、相澤先生の嘘だったらしい。最初の体力測定でいきなり追い詰めて、本気を出させることを目的としたもの。
本当だろうか。彼は、プロヒーローだ。施設にいた頃は、たとえ相手が童女であったとしても、容赦なく鎮圧することに躊躇いを見せなかった。必要とあらばやる人間だ。だからもし緑谷少年が、あそこで体を全壊していたり、あるいは個性を使うことを恐れていたならば...本気で、彼は除籍させられていたのではないかと思う。
初っ端から波乱の幕開けとなった雄英高校ヒーロー科のスクールライフだが、授業は意外と普通だった。現役のヒーローが講師を務める英語や数学などは、冷静に考えてみるとかなり豪華だが、授業中にいきなり刃物が飛んできたりはしない。
午後からは本番のヒーロー基礎学だ。これを受けるために、ヒーロー志望の生徒たちはここにいる。
「私が~~~普通にドアから来た!!」
レジェンドヒーロー、オールマイト。全てのヒーローの頂点に立つ日本ヒーロー界の貌であり、不動の英雄。そんな彼が教師を務めるのだから、ヒーロー志望の生徒たちが盛り上がらないわけがない。
「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!!自覚するのだ!!今日から自分は、ヒーローなんだ!!と!!」
入学前に容貌を出しておいた通りのヒーローコスチュームが支給され、それに着替えて校庭βへ。なるほど、ヒーローというのは衣装を身に纏うもの。ひとりの人間から、ひとりのヒーローになる。その気持ちの切り替えは、確かに有効だろう。
ちなみに、俺は動きやすいように極力無駄のないボディスーツとゴーグル部分がオープン可能なフルフェイスのヘルメットにしてもらった。視覚や嗅覚、聴覚の感度を3000倍にする際に、有害音声や強烈すぎる光などを遮断してもらうためのハイテックな機能付きだ。
さあ、気合いを入れろ俺。遂に、実戦試験が始まるんだ。