入試倍率300倍がなんぼのもんじゃい!!こちとら感度3000倍やぞ!! 作:露木曽人
英雄高校へのヴィラン襲撃事件は、幸いなことに誰も死ぬことなく終わった。俺の個性によりいきなりアヘアヘ状態になったあの暗闇男、ヴィラン連合の中ではかなり上の方にいた人間だったらしく、そいつが豹変したせいで一時期の空気はかなり妙なものになってしまったそうだ。
そりゃそうだろう、俺らだっていきなり授業中にオールマイトが感度3000倍でんほおおお!!となり始めた困惑する。だがしかし、腐ってもこんなところへ殴り込みをかけてくるような連中だ。
駆け付けてくれたオールマイトが戦っている間に、飯田くんに呼ばれた他の先生たちもやってきて、事件は無事収束した。もう動けまいと思っていたあの暗闇のヴィランが、執念で主犯格だけを逃して退避したらしいのだ。
生まれて初めてあの体感時間、射精量、感度3000倍射精!!を食らってまだ自我が残っていた何て、やっぱりヴィランというのは恐ろしい存在だと思う。自分を無敵と勘違いしていたわけではないが、どこか心に驕りがあったのは事実化もしれない。
「大麻ー、何ぼさっとしてんだよ」
「教室行けってさ」
「うん」
あの時、俺が何をしたのか、あの場にいたみんなは何となく察しただろう。くすぐったさ3000倍の餌食に一度なっている麗日さんなどは、さすがにアレが我が身に襲いかかっていたらと思うと、恐ろしくなってしまったようだ。無理もない。
「その、大麻くん!行こ!」
「そうだね、行こうか」
それでも、こうして何事もなかったかのように接してくれるのは、彼女が心優しい子だからだろう。俺は、あの場で奴を行動不能にするための最善手を打った。別に、ふざけていたわけじゃない。最も確実な方法をもってして、ヴィランを無効化した。それは事実だ。
とはいえ、とはいえだ。やっぱり、気持ち悪いものは気持ち悪いと思われてもしょうがないと思う。それでも、みんなは何も言わずにいてくれる。それが、迫害ばかりされて育ってきた俺には、何よりも眩しく、尊く、ありがたいものに思えた。
「みんな、ありがとう」
こうして事件は幕を閉じた。だが、これがオールマイト終焉に繋がる一連の事件の序章に過ぎなかったことを俺たちが知るのは、もう少し後の話だ。
☆
事件が起きようが人が死のうが死ぬまいが、当たり前のように朝は来る。あの事件から数日後。世間に報道されたヴィラン連合による雄英襲撃事件の話題は、今でもお茶の間を賑わせ続けている。
学校側の警備怠慢を主張するコメンテーター、今後の教育機関としてのあり方を問う専門家、おおよそ無責任にギャースカ騒いでいるだけの連中のことは置いといて、いくつか警察の捜査でわかったこともある。
死柄木を名乗る、降れたものを粉々にする個性持ちの主犯。そして俺がアヘらせてしまったその参謀、黒霧という偽名の裏社会の人間。やばくないか俺。裏社会の人間の面子を丸潰れにしてしまったのだ。かなりの恨みを買っていてもおかしくはない。
とはいえヒーローを目指しているからには、ヴィランからの恨みは買って然るべきものであることもまた事実。
俺の監督役である相澤先生が大怪我を負ってしまったため、現在は根津校長先生がそれを引き継いでくれたのだが、こうなってくると校長先生も巻き添えに狙われる可能性があるので、気を付けてくださいとは伝えておこう。
「皆!朝のホームルームが始まる!私語を謹んで席につけ!!」
「ついてるだろ!!」
「ついてねーのおめーだけだ!!」
「...どんまい!」
一日、臨時休校を挟んだとはいえ、あんなことがあった後でも笑えているのは、本当にみんな強い子たちだなと思う。さすが、ヒーローを志すだけのことはあるということだろうか。ちなみに相澤先生は全身包帯でグルグル巻きになり両手をギプスで吊りながらも、授業に復帰した。
「先生、さすがに無茶では??」
「気にするな。俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねえ。雄英体育祭が迫ってるからな」
雄英高校体育祭。個性が当たり前のものとなり、超人化社会が進んだ現在では、個性使用禁止のオリンピックよりもはるかに盛り上がるイベントとして、国内では最も盛り上がるイベントといっても差し支えのないほどの一大行事だ。
無論、そこで活躍できればぐっとヒーローへの道が近づく。なんせ俺たち生徒の実力を見極めるための試金石なのだ。見込みがあると判断された者は、オリンピックを見ていたヒーローたちから直々にスカウトがかかることもある。
「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に1回、計3回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな」
「はいっ!!」
みんな、本気だ。ヒーロー科には、A組の他にB組もある。当然、どちらが上だとか下だとかではなく、みんなそれぞれにヒーローを目指して日夜努力している。それは一般科も同じだ。
ヒーロー科には落ちたものの、切るには惜しいと判断された個性持ちたちが集う、いわば予備科。成績やヒーロー科の生徒の除籍処分などの発生次第では、繰り上げ編入されることもある。
「心操くん、久しぶり」
「大麻くん...」
心操人使。洗脳という個性を持つ普通科C組の生徒だ。俺は彼と面識があった。遡ること中学時代、彼の通っていた中学で、運動部員たちによる女生徒の強姦事件が発生した。加害者たちは、『心操くんに洗脳されてやらされましたー』と主張。
やったのやってないのの水掛け論は加害者と被害者、そして心操くん一家を巻き込んでの大事に発展し、結果、彼の身柄は三日間だけ年少院内にある仮留置所へ一時的に拘束。そこで俺は、彼と面識を持ったのだ。
結局事件は、嘘を見抜く嘘発見器ヒーローの登場により、強姦事件を起こした運動部員ただの真っ赤な嘘であったことが発覚。
加害者側の家族は被害者となった女生徒と、冤罪で巻き込まれただけの心操くん一家に多大な賠償金を支払うことになり、そして心操くん一家は、風評被害をおそれ引っ越し・転校を余儀なくされた。
「ヒーロー科、駄目だったんだ。君の個性、戦闘向きじゃないもんな」
「ああ。滑り止めで普通科も受けといてよかったよ。普通科だったとしても、ここにいる限りヒーロー科への繰り上げの余地はあるから」
「相澤先生も言ってたけど、雄英の入試ってあんま合理的じゃないよね」
「だけど、戦う力のないヒーローじゃどうしようもないのは本当だろ?現に、A組はヴィラン連合に襲われたんだ」
放課後の喫茶店。久しぶりに会ったということで、俺たちはコーヒーを飲みながら、ダラダラと互いの近況について話し合っていた。幼い頃から周囲から白眼視され、あんな事件さえあったというのに、それでもまっすぐヒーローを志す彼は、俺の尊敬する人間のひとりだ。
だから話した。彼は、俺の両親のことを知っている。濡れ衣で留置所にぶち込まれ、膝を抱えていた彼と、施設の人間の目を盗んでコッソリ友達になったあの三日間。それは、俺にとっても大事な記憶だから。
「大麻くん」
「何?」
「俺は、本気でヒーローを目指す。次の体育祭は、そのためのビッグチャンスだ。だから、君が相手だったとしても、容赦はしない」
「もちろんだよ。君なら、そう言ってくれると思った」
宣戦布告されたというのに、俺たちの間に嫌なものは何ひとつとしてない。互いに、夢を追っている。周囲から、あいつはヴィラン向きだ、きっと将来は凄いヴィランになるに違いない、と偏見の目で見られながらも、それでもヒーローを目指す者同士。
個性への偏見に振り回され、友達なんかできるはずもなかった人生において、どこか似た者同士な俺たち。これもまた、ちょっと歪な友情の形なのかもしれない。
「お互い、全力で頑張ろう」
「ああ」
波乱の体育祭が、やってくる。