裸エプロンくらいですかね?w
その日の朝は静かな音楽と共に目覚めた。多輝はぼんやりとした目を半分だけ開けて周囲を見回した。もうすっかり馴染んでしまった部屋が見える。淡い色使いの壁紙も慣れてしまえばさほど気持ち悪くもない。天井から釣り下がっているイルカのモビールもそれなりに愛嬌があると思えてくる。だがどうしても我慢ならないのが、窓がないことだ。多輝は眠い目をこすって大きな欠伸をした。
まだ寝足りない。だがこの部屋は朝のある時間になると、自動的に電灯のスイッチが入るように設定されているようだ。毎朝、この人工的な光が灯ることで目が覚めてしまう。多輝は顔をしかめて布団に潜り込んだ。
のろのろと目を閉じる。真っ暗になった瞼の裏に、ふと優一郎のことが浮かんでくる。多輝はぼんやりと昨日のことを思い出していた。
裸の上にエプロン一枚という格好に何の意味があったのだろう。結局、優一郎は多輝と共にふろふき大根を食べてしまうと、さっさとキッチンを出てしまった。もしかしてからかわれているのか、と多輝は何度も考えた。だが幾ら考えてもろくな答えは出てこない。それから多輝はとりあえず空腹を満たし、さっさとベッドに潜り込んだ。もちろん、パジャマに着替えてからだ。
一体、あいつは何をしたかったんだろう。ただ単に裸エプロンが見たかっただけか。多輝はそう呟いて息をついた。自分は何かを期待していたのだろうか。ばかばかしい。昨日からずっと自問自答を繰り返している。多輝はうんざりしながらため息をついた。勢いよく布団を跳ね上げる。
部屋の様子は寝る前と全く変わっていない。床に投げ捨てられたエプロンが何故か無様に見える。多輝は苛々しながらベッドから足を下ろし、エプロンをつま先に引っ掛けた。そのまま天井に向かって足を振る。エプロンはゆらりと宙に舞い上がり、力なく落下した。
今日は出かけなくてもいいことになっている。昨晩、優一郎にそう言われたのだ。どうやら優一郎なりに調べたいことがあるらしい。多輝の持ち帰ったデータを基に何かを探るのだろう。多輝は肩を落として再び布団の中に戻った。試しに天井の明かりに向かって微かな力を放り投げてみる。だが、蛍光灯は消えなかった。腹立たしさを込めて布団をつかみ寄せる。多輝は憎しみを込めて蛍光灯を見上げた。
本来、多輝の行動にははっきりとした制約はつけられていない。力を使えば簡単に部屋を出ることも可能だ。現に明峰女学園に向かう時には直接、この部屋から飛んでいた。だから今も出ようと思えば出られるのだ。だが多輝はそれをしようと思わなかった。逃げたいという欲求がまるでない。自分で気付かないうちに機体に馴染んでいるのだ。
もう一度、眠ろうとして多輝は目を閉じた。だが何かが気になって眠れない。何だろう、と考え、多輝ははっと目を開いた。慌てて布団を蹴飛ばす。そういえば優一郎に朝食を作る約束をしていた。そのことを思い出したのだ。
焦って着替える。多輝はこの部屋で過ごすためにと優一郎が用意しているメイド服をためらいなく身につけた。女物の下着をつけることにもすっかり慣れてしまった。だが今の多輝にはそれを悲しんでいるゆとりなどなかった。慌てて部屋からキッチンに直接飛ぶ。
幸い、優一郎はまだ眠っているようだ。多輝は急いで冷蔵庫の扉を開けた。材料を目で確かめてから小鍋を引っ張り出す。
数分後、キッチンには味噌汁の香りが充満していた。豆腐とわかめだけのシンプルな味噌汁だ。多輝は味見をして軽く頷いた。久しぶりに作ったにしてはまともな味に仕上がっている。そのことに満足して、多輝はまな板に向き直った。刻みかけていたねぎを最後まで刻む。
魚の開きと味噌汁と卵焼き。海苔もつけてあとは梅干でもあれば。メニューを思い浮かべながら多輝はかいがいしく働いた。その内に炊飯器が電子音を立てる。ご飯も炊けたし、と多輝は頷いた。
食べるの好きなんですよね……作者が……w