エロはないです。
短めですが分けました。
「そうですか。判りました。とりあえずは怪しいところはないということですわね」
智美は生徒会室の中で恐縮しきっていた。科学部部員のデータを記した報告書をめくっているのは要だ。ドアの横にはやはり、野木と周藤がへばりついている。どうにかしてよ、このうっとうしさを。そう思いながら智美は黙っていた。要は報告書の隅々にまで目を通している。
そんな要の前で智美は必死で動揺を押し隠していた。一つだけ、たった一つだけ自分は嘘をついている。そのことが胸に痛い。誰のためでもない。自分のために智美は多輝に関する情報を偽ったのだ。
特に罪悪感があった訳ではない。多輝のことを報告することに別段、気が咎めるようなことはなかった。だが智美は絵美佳のことを考えていた。確かに主人には正確な情報を流した。だがこの学校の、しかもたかが生徒会にそんな情報を流していいのだろうか。絵美佳は多輝のことを他の誰にも言わないでと言っていた。ただでさえ主人に流し、さらにその上、科学部をどうやら憎んでいるらしい要にまで情報を流す必要があるだろうか。
本当は自分が嫌なだけだけど。智美は言い訳めいたことを考える自分を心の中で嘲笑した。
今まで主人に逆らおうと思ったことはない。生徒会長の要の命令にも従おうと思っていた。だが本当にそうしたいのか、と考えた時に答えは簡単に出てしまった。嫌。少なくとも絵美佳を悲しませるような真似はしたくない。確かに絵美佳は少し変わっている気がするし、不思議なことを考えていると思う。
だが絵美佳は今まで智美が見てきた誰よりも真剣だった。真剣に考えて研究を進めている姿を見て、どうしても絵美佳の邪魔はしたくないと思った。だから智美は要を偽ることに決めたのだ。
諜報員としては出来そこないだ。本当のことが要に知れたら、きっと自分はここにいられなくなるだろう。主人も怒ってしまうかも知れない。だがそれでも良かった。智美はスカートをきつく握り締め、顔を上げた。
要はため息をついて報告書を机に置いた。その顔にとてもつまらなさそうな表情が浮かんでいることは、智美の目にも明らかだった。どうしましょうか、と呟き、要は困ったような笑みを作った。首を傾げて智美を見る。智美は真正面から要の視線を受け止めて唇を引き結んだ。
そもそも部員のことを探れと命令してきたのは要の方だ。自分は出来る限りの報告はした。これ以上、何を望むのだろう。そう思った智美は要を挑戦的に睨むように見た。だが要はまだ笑みを浮かべている。その目に何故かばかにしたような気配があることも智美は読んでいた。役に立たない奴とでも思われているのだろう。それは一向に構わない。そう思いながら智美はあの、と切り出そうとした。だが一瞬早く、要が片手を軽く上げた。するとドア横に立っていた周藤がすぐさま要の脇に飛んで来る。素早いその動きに圧倒され、智美は口まで出かかっていた声を自然と飲み込んだ。
「この方、何か誤解なさっているようですの。あなたから説明して頂戴」
要は微笑を浮かべて机にあった報告書を周藤に手渡した。周藤が黙って報告書に目を落とす。智美は訝りながら二人を交互に眺めた。要は笑ってはいる。だがその微笑はとても冷ややかだ。対する周藤は全くの無表情だ。到底、報告書の内容に感心しているようには思えない。確かに感心できるほどの内容ではないかも知れないが、精一杯作ったことには違いない。智美は眉間に皺を寄せて周藤を凝視した。
絵日記と調査書の区別くらいはつくと思うんだけども……w