エロシーンはないです。
「鍵はそれぞれが持っているでしょ? もしかしてなくしたの?」
優一郎は苦笑して絵美佳を見つめた。だが絵美佳の怒りは全く衰えない。それどころか絵美佳の目は憤怒の色をたたえた。やばい、と優一郎は内心で呟いた。絵美佳がこんな目をする時にはろくなことがない。昔からの絵美佳の癖を見取り、優一郎は苦笑を消した。
聞けば絵美佳は鍵をなくしてなどいないらしい。それどころかちゃんといつものように鍵を開けようとしたらしい。だがどうしても家のドアは開かない。それで仕方なく学校に戻ってきたという。授業を放り出してまで家に帰らなければならなかった理由は、きっと今訊ねても無駄だろう。優一郎はそう思いながら絵美佳が喚くのを聴いていた。
「あたしに黙って鍵を変えたに違いないのよっ」
「僕も最近は戻っていないから」
絵美佳の意見を肯定も否定も出来ない。優一郎がやんわりとそう告げると絵美佳は目を吊り上げた。だがすぐにそうよね、と呟く。確かめていないことは優一郎にも判らないと理解したらしい。絵美佳はため息をついて浮かせかけていた腰を椅子に戻した。三つあみにされた髪が揺れる。優一郎は茶を飲み干し、空になったコップを両手で弄んだ。つまりは絵美佳は困っているということだろう。だからこそ優一郎に声をかけてきたのだ。そのことは十分に判った。
今から家に帰り、ここに戻るまで一時間。それくらいなら留守にしても問題はない。優一郎はそう心の中で計算して苦笑を浮かべて頷いた。すると絵美佳の曇っていた顔がぱっと明るくなる。
「一緒に帰ってくれるのね?」
優一郎はもう一度頷いて立ち上がった。どのみち、絵美佳は優一郎がついて帰ると言うまで粘るつもりだっただろう。それならさっさと鍵を開けた方がいい。ちょうど着替えを取りに戻る必要もあったのだ。優一郎は絵美佳と共に家に帰ることにした。電話で斎姫にその旨を伝えると、快く留守番を引き受けてくれた。
二人で並んで家に帰るのも久しぶりだ。小学校以来ではないだろうか。あの頃は確かまだ絵美佳に強引に手を引かれて帰っていた気がする。優一郎は桜の木の並ぶ道を歩きながら幼い頃のことを思い出した。考えてみれば、小学生の時の自分は今とは随分と違っていた。素直で元気で明るくて、と絵に描いたような健康優良児だったのだ。今でも肉体の方は健全だが、精神的にどうかと言われると自分でも首を傾げたくなる部分がある。優一郎は絵美佳と会話しながらそんなことを考えていた。
何が正しくて何が間違っているのか。その基準はではどこにあるのだろう。そう考えるときりのない話だ。大多数の意見が正しいと一概に言える筈がない。ならば普通という基準だって人によって様々だろう。そして優一郎は少し普通とはずれていることを自覚していた。
だがどこでずれたのかをどうしても思い出せない。優一郎は帰る道の途中でふと足を止めた。中学生の時には既に今の自分に近くなっていた気がする。だが小学生の時はそれなりに純粋だった筈だ。だとするとずれたきっかけはその間にあることになる。だがどう記憶を辿っても原因がわからないのだ。
絵美佳が訝りながら声をかける。優一郎は珍しく生返事をしながら再び歩き始めた。その僅かな異変に気付いたのだろう。絵美佳はそれきり優一郎には話しかけなかった。優一郎も考えることに没頭していたため、絵美佳に全く声をかけない。結局、そのまま二人は家に辿り着いた。
二人の家は総一郎の研究所の続きになっている。玄関を通るためにはカードキーが必要だ。優一郎はパスケースの中から家の鍵を取り出した。カードスロットにキーを入れ、暗証番号を打ち込む。だが絵美佳の言ったようにドアはぴくりとも反応しない。優一郎は訝りの眼差しをドアに向けた。戻ってきたカードキーを抜き取る。すると横から絵美佳が手を伸ばし、優一郎のキーを奪い取った。再度、絵美佳がキーをスロットに入れる。だが絵美佳が同じことを繰り返してみても、ドアは無反応のままだった。
「これは締め出しを食らっているのかな」
優一郎は苦笑してそう告げた。それを聞いた絵美佳が憤然とドアを叩き始めた。冗談だよ、とどんなに言っても絵美佳は収まらない。最初は平手でドアを殴り、最後には足でドアを蹴る。優一郎はため息をついて携帯電話を取り出した。家の中に誰もいないことは明白だ。ここまで騒いだらさすがに探知機が家の中の人間に知らせるはずだ。なのに反応がないということは、両親共に出かけているのだ。
絵美佳がドアを蹴っているのを尻目に、優一郎は総一郎に電話をした。だが繋がらない。どうやら電源を切っているらしい。由梨佳の携帯電話も同じだった。感情のない女性の声が電源が入っていないと告げている。優一郎は息をついて電話を切った。絵美佳はようやくドアを蹴るのをやめ、肩で息をついている。肩越しに振り返った優一郎は両親が電話に出ないことを絵美佳に報せた。すると絵美佳が地団駄を踏む。
特に優一郎たちの両親は研究に携わる者だ。携帯電話の電源を入れられない実験でもしているのかも知れない。そのことを説明したが、絵美佳の怒りはおさまらなかった。険悪な顔つきで家を睨みつけている。
自分でちょっと見てもキャラがブレてるのが判る……(汗)
すみませんー。