※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

115 / 174
この話で七章は終わりです。
エロシーンはありません。


知美のハンバーググラタン 2

「不思議よね。こんなに光ってるのに、多輝の身体は熱くも何ともないのよ。試しに計測してみたんだけど、本当に光だけが出ているの。体内と体外については全く変化はなくて」

 

 ただ光があるだけ。絵美佳はそう言って微かに笑った。発光のために身体のどこかが特別に動いている訳ではないのだという。

 

 ぼんやりとしたまま絵美佳の言うのを聞いていた智美はふと目を上げた。計測した、と絵美佳は言った。つまりは絵美佳は大分前にここに戻っていたということだろうか。部員の誰にも帰ったことを報せず、一人でここにこもっていた。そう考えるのが自然だ。そして絵美佳は恐らく、智美が一人きりになるのを待っていたのだ。

 

 何でだろう。智美はそう思いながら絵美佳を見つめた。恐怖が次第におさまっていく。冷静になると多輝の発している光をきちんと見ることが出来た。淡く青白い光は澄んだ輝きを持っている。見ているといつの間にか恐怖など全く感じなくなった。

 

 もしかしたら絵美佳は多輝のこの光を見せたかったのだろうか。智美はその考えにたどり着いて小さく笑った。すると絵美佳も微かな笑い声を発する。

 

「あんたにはちゃんと見せたいと思ったの。人じゃないなんて幾ら口で言っても理解なんてし難いじゃない。だから」

「確かに見た方が早いですよね。それにしても綺麗ですね」

 

 光に包まれている多輝は眠っているように見える。傍に二人が立っていても起きる気配がない。ごく僅かに胸が上下しているところを見ると、本当に眠ってしまっているのだろう。注意すると微かに呼吸音も聞こえてくる。智美はそっと息をついて多輝の胸元に屈み込んだ。光が智美の顔に当たる。間近で見ると多輝の胸は規則正しく上下していることが判った。

 

「眠ってらっしゃるんですね」

 

 にっこりと笑って智美は屈めていた身体を起こした。ついでに腰に手を当てて身体を上下に伸ばす。座り仕事の多い部活動をしているため、時々は意識的に身体を伸ばさないとあちこちが凝ってしまうのだ。そんな智美を見ていた絵美佳も苦笑しながら腰を軽く捻った。

 

 少しの間、二人で体操をした。そして絵美佳に促され、智美は部屋の隅にある小さな机の前についた。絵美佳が向かい合わせになって座る。

 

「色々とありすぎてあたしもまだ混乱してるんだけどね」

 

 そう切り出した絵美佳の顔には微かに笑みが浮かんでいる。智美は気を引き締めて頷いた。

 

「多輝がいきなりあたしの家にいたのよ」

 

 絵美佳は今日、調べることがあって家に戻ったのだという。科学部の部活動を休んでいたのはそのせいだと言った。そして絵美佳の部屋のベッドにはいつの間にか多輝が寝かされていたのだという。その話に智美は真面目な顔で頷いた。言葉を挟むことなど出来ない。絵美佳は流れるような口調で続けた。

 

 絵美佳は自分のベッドで眠っている多輝をしばらくは見つめていた。いつの間に多輝は男に戻ったのだろう。いや、それ以前にどうしてこんなところにいるのだろう。確かに多輝は以前にも絵美佳の部屋に上がったことがある。だから場所そのものは知っていただろう。けれどそれだけではここにいる理由にはならない。絵美佳は多輝を見つめたままで色々と考えた。

 

 だが答えなど出ない。絵美佳は仕方なく多輝を起こそうとした。だが多輝は揺すっても声をかけても目覚めない。妙だと思った絵美佳は大声で名を呼んで多輝を激しく揺すった。だがそれでも多輝は目を開けようとはしなかった。

 

 生きていることは判る。呼吸があるのだ。だがどうして反応しないのだ。絵美佳は焦った。どんなに声をかけても多輝は目覚めない。そして絵美佳は途方に暮れた。どうすればいいのだろう。答えが見つからないまま、絵美佳はしばらく部屋の中に佇んでいたという。

 

 その話を聞きながら智美は固唾を飲んだ。絵美佳はまるで歌うように語っている。作られた物語を聞いているようだ。そして物語の先がとても気になってくる。智美は無意識にテーブルに身を乗り出した。

 

 時間が無情に過ぎる。絵美佳は自然と床に座り込んだ。見つめていることしか出来ないと気付いて脱力してしまったのだ。調べようにも部屋に研究用の機材はない。それに絵美佳はさほど力のある方ではない。誰かの手を借りなければ多輝を移動させることもままならないのだ。

 

「何も出来ないままで日が暮れて、夕方になったわ。その時にあいつが来たの」

「あいつ?」

 

 智美は訝りに眉を寄せて首を傾げた。絵美佳には一人、弟がいる。吉良優一郎。智美より一つ上の二年生だと聞いている。優秀な頭脳を持ち、可愛い彼女もいるという。最初、智美は絵美佳のいうあいつというのが優一郎なのだと思った。だがすぐに胸のうちでそれを否定する。違う。絵美佳は確かに優一郎をあいつと呼ぶが、決して今のような憎々しい感情を剥き出しにはしない。ぞんざいな呼び方でも、絵美佳が優一郎を呼ぶ時には声にどことなく暖かい響きがあるのだ。

 

 なのに今、あいつと言った絵美佳にはとても相手を思いやる感情はない。それどころか沸き起こる怒りを抑えているようにも見える。智美は絵美佳の形相に驚き、それ以上の声をかけられなかった。

 

 青白い光が部屋を仄かに照らしている。




どこがどーなってブレたのか、自分では判るんですよね……(汗)
だから修正出来ないという妙なことになってます。
読みにくかったらごめんなさい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。