※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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絵美佳のキャラがぶれぶれだー!(棒
あ、エロシーンはないです。


八章
かつての在り方と今 1


 夕暮れの中に誰かが立っていた。いつの間にか現れた人影に絵美佳は呆然とした。立っていたのはいつかの青年だ。柔らかな微笑みは逆光で見えにくい。だが絵美佳は青年の表情を正確に読み取っていた。脳裏に微笑みが焼き付いてしまっていたからだ。

 

 何の用、と絵美佳は静かに問い掛けた。青年が人ではないことは、青年自身が告げたことだ。今更、驚く必要もないだろう。多輝と同じように空間を渡って現れたというだけのことだ。

 

 青年は静かに絵美佳に近づいた。窓際から部屋の中に向かって影が伸びる。長く伸びた影を絵美佳はぼんやりと目で追った。他のどんな反応も出来なかった。

 

 あなたは多輝をどうしたいですか。青年はそんな風に訊ねてきた。多輝の肉体は今、深い眠りに就いている。あなたはそれを起こしたいのですか。それとも妨げないようにそっとしておきますか。青年は答えない絵美佳に数回、そう問い掛けた。だが絵美佳は青年と多輝を見比べただけで答えなかった。

 

 やがて沈黙が降りる。そして絵美佳は青年を睨みつけた。

 

 多輝の言っていたたつきという人物像を思い描く。確かに青年はその人物に酷似しているのだろう。実際、多輝に聞いたことのある人物像に当てはめてもどこにも違いはない。だが絵美佳はどうしても青年に対する薄ら寒い感覚を拭えないでいた。

 

 気持ちが悪い。絵美佳は正直に青年にそう告げた。すると途端に青年が微かな声を上げて笑った。どういうつもりなのか、と問い掛けると青年はやがて笑いをおさめた。静かな眼差しで絵美佳を見つめる。

 

 あなたはどうやら思っていた以上に封印を破ってしまっているらしい。青年は穏やかな口調で絵美佳にそう告げた。何のことだろう。絵美佳は考えた。だが青年は絵美佳が疑問に思っていることなどどうでも良かったらしい。さっさと被っていた仮面を脱ぎ捨ててしまった。

 

「多輝の精神は今、機械の身体の中に閉じ込められている」

 

 そう告げた青年の声からは優しい響きが完全に消え去っていた。変わりにあるのは、言いようのない冷たさだ。絵美佳は無意識に身震いして青年を凝視した。

 

 それからのことはあまり思い出したくない。本当は智美のことを調べるためだけに家に戻った筈だった。なのにどうして思いがけないことばかりが起こるのだろう。絵美佳は内心で自分の行動を呪った。だがそれも後の祭りだった。

 

 青年は語る。絵美佳には止めようがなかった。

 

 多輝の精神は元々、とても不安定だ。そこに罠を仕掛ければ造作もなくおちてしまう。今回のことは全て、最初から仕組まれていたのだ。そう、青年は告げた。誰に、と絵美佳は問い返した。だがもしかしたら答えは最初から判っていたのかも知れない。それを認めたくなかったのだ。そうも思っていた。

 

 吉良優一郎。その名前を聞いた時、絵美佳は心のどこかで納得した。ああ、やっぱり。優一郎になら出来るでしょうね。そう思った。憤ることも出来ず、絵美佳はその場にへたり込んだ。青年はただ喋っているだけだ。なのに青年はとても冷たく感じられる。もしかしたらそれこそが青年が本来持つ性質なのかも知れない。実際、その時の絵美佳はもう気持ちの悪さを覚えていなかった。青年が被っていた皮を脱ぎ捨てたからだ。

 

 そして青年は続ける。多輝の唯一の支えになっていた人物は今はいない。不安になっていた多輝を狙った、優一郎のやり方には感心できる。だが詰めが甘い。こうして肉体を横からさらわれるようなことでは駄目だ。どうせなら肉体を破壊すれば良かったのに。そう言って青年は薄い笑いを浮かべた。言われた瞬間、絵美佳は全身の血が凍りついたような気分になった。多輝の身体を完全に壊す。そうすればこうして多輝を奪うことは出来なかったのだ、と青年は言っているのだ。

 

 愕然と目を見開いた絵美佳に青年は笑う。

 

 心の隙間に潜り込む手腕は認めるがね。そう言って青年はひとしきり優一郎を誉めた。だが口で何と言っていても、青年の冷ややかさには変化はない。本当に爽やかな口調で残酷なことを口走るのだ。

 

 優一郎が多輝をこんな風にしたというの。絵美佳は力なく青年に問い掛けた。すると青年はいともあっさりと絵美佳の言を肯定した。他に誰がいるというのだ、とも言われた。絵美佳は呆然と中空を見つめた。

 

 だが青年の声はそこで留まらなかった。続いて嫌なことを吐き出したのだ。

 

「あなたは元より、人ではない。ずっと昔に多輝と同じ輝きを持つ者に会っている筈だ。その時のことを忘れたのか?」

 

 静かな問いかけだった。絵美佳は力なく笑って頭を垂れた。

 

 青年は何をしている訳でもない。なのに絵美佳の心の中にまざまざと蘇る光景があった。いつの時かは判らない。だが確かに自分は多輝と似た誰かを見たことがあるのだ。それはいつだったのか。もしかしたら生まれる前だったのかも知れない。ふと、そんなことを思う。絵美佳は乾いた笑い声を上げ、ゆらりとその場に立ち上がった。

 

 向き合った青年はただ立っているだけだ。そうしていても青年から漂ってくるただならない気配は感じ取れる。

 

 嫌だと言ったらどうするの。それをあたしが拒絶したらどうなるの。

 

 絵美佳は掠れた声で青年に問い掛けた。だが青年は首を横に振る。

 

「あなたに拒否権など存在しない。命を捨てる自由もない。多輝に出会う前からそれは決まっていたことだ。人の手によって作られた命でも、生まれるべくして生まれているのだから」

 

 何よりも冷たい声に思える。絵美佳は微かに笑って首を傾げた。こうして青年に会うのも初めてではないのだ。そのことが今ならよく判る。

 

 遠い昔、青年に拾われた。あれはいつのことだっただろう。青年は死にかけていた魂を拾い上げ、誰にも判らないところに隠してしまったのだ。やがて必要とする肉体に入れるために。

 

 そして人の手で作り出された器に魂を封じ込める。魂は飢えを満たす為に傍にあった命を啜った。必死だった。だが傍にいるどんな人間の生気も魂の飢えを満たすには足りなかった。

 

 やがて作られた誰かの生気を啜るまで、魂は満たされないままでいたのだ。

 

 そして魂はある日、ようやく飢えを満たされる。自分に程近い輝きを持つ誰かの生気を十二分に吸い上げ、そして初めて落ち着くことが出来たのだ。だがそれは絵美佳が生まれて間もない頃の話だ。記憶になど残っていない筈の光景が、何故か絵美佳の脳裏にはっきりと蘇る。

 

 肉体を形成できなくなった斎姫の姿が見える。斎姫は絵美佳の糧となり、脳だけしか形にならなかったのだ。

 

 絵美佳は五体満足に。斎姫は脳のみ生身で。そして二人は今も全く別の人生を歩み続けているのだ。

 

「再び生まれる筈のない魂が、奇跡的に器を持つ。このことを一番に恐れていたのは彼だろう。だが現実になってしまった。現実になってから覆すことなど、彼には出来なかっただろう。そしてあなたは今でもそうして生きている」

 

 絵美佳は黙って青年を睨みつけた。全てが青年の思惑通りに動いている事実に腹が立った。




何でブレブレなのかは自分では判るんですが……
しかも代名詞がまだばりばり出てるころですな……誰が誰だかわからんぞ、これw

みなさん「も」脳内補完してください(泣)
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