そーいえば果穂もなあ……(棒
あ、エロシーンはないです。
「果穂さん。どうぞ、こちらへ」
優一郎は静かに立ち上がり、果穂に手招きをした。果穂は無言で頷き、優一郎に従って部屋の奥にあったソファに腰を下ろした。なめぞうはドアの横でじっとしている。部屋に入る前に果穂がそう命じておいたのだ。
「たんとうちょくにゅうにいうわ」
優一郎が正面に腰を据えたと同時に果穂はそう口を開いた。
「わたしとなめぞうをやとってほしいの。わたしはできるかぎりあなたのけんきゅうのさぽーとをする。なめぞうはできるかぎりあなた、もしくはしていされたじんぶつをがーどする。そののうりょくをかってほしいのよ」
真剣に告げる。果穂は膝の上で小さな手で握りこぶしを作っていた。ここで優一郎に受け入れられなかったらまた別の方法を考えなければならない。優一郎は黙ってそんな果穂を見つめていた。
時計の音が聞こえる。果穂が秒針の刻む音に耳を澄ませた時、ふと優一郎が口を開いた。
「僕は基本的にヒューマノイドの女性しか部員や助手として迎えるつもりはないのですが……」
思案顔で優一郎が呟く。その姿に何故か疲れたものを感じ、果穂はふと眉を潜めた。優一郎は果穂の変化に気付いていない。額に手を当てて考え込んでいる。果穂は黙って優一郎を見つめた。
もしかしたらなにかあったのかしら。果穂は心の中でそう呟いた。その呟きがまるで聞こえていたようなタイミングで優一郎が俯けていた顔を上げる。果穂は一つ咳払いをして優一郎に向き直った。
「おねがい。わたしはどうしてもきむらにたいこうしなければならない。でも、いまのままではどうにもならないことがわかるの。このままいけばきっとわたしはけされてしまう。もっているじょうほうごとね」
そう言って果穂は頭を下げた。本当なら知らない相手に軽々しく頭を下げるなんてごめんだ。だが相手は優一郎だ。頭を下げるだけで自分を買ってもらえるなら安いと思える。果穂はテーブルに額をつけた状態で静止した。
「わかりました。助手として迎えることはできませんが、空いている研究室をお貸しすることは出来ると思います」
穏やかな声に果穂は勢いよく頭を上げた。テーブルに身を乗り出して目を潤ませる。今はそれで十分だ。少なくともあそこにいるよりずっといい。果穂は涙を滲ませて優一郎に感謝の言葉を述べた。
だがふと果穂は目を細めた。優一郎の様子が変な気がする。実際に会ったのは初めてだが、声の調子がどこか違っているような気がするのだ。果穂はどうしたの、と優一郎に問い掛けた。すると優一郎は困ったような顔で微かに笑った。
「弱みに付け込むようで恐縮なのですが、あなたの持つ、木村の情報をこれから直ぐにでも教えていただけないでしょうか?」
「すぐに?」
果穂はそう問い返した。優一郎が強く頷く。果穂は顎に手を当てて呻いた。情報。言うのは簡単だが優一郎は果穂の頭の中にある分だけを要求しているのではないだろう。きっと、木村に関するあらゆるデータを必要としているのだ。果穂が頭の中に叩き込んでいる程度のことは優一郎にも調べられる。
だが今は手元に優一郎の望む情報はない。果穂は正直にそのことを告げた。途端に優一郎が落胆した表情になる。果穂は慌てて手を振り、言葉を足した。
「ああ、でもあしたにはつくとおもうわ。こっちあてににもつをだしたから」
全てのものを抱えて歩く訳にはいかなかった。だからなめくじ以外のものは宅配の手配をしてきたのだ。果穂はそう告げた。すると優一郎が壁を見上げる。時計を見て、次に果穂を見やる。果穂は黙ってそんな優一郎を見ていた。
「隠し事はやめましょう。雨宮先輩が行方不明になったんです」
優一郎は疲れた顔でそう告げた。多輝が消えた。果穂はそう口の中で呟いた。あり得ない話ではない。多輝は人ならぬ力を持っていたという。それならばその力で消えることも可能だろう。
だがそれを多輝が望んでいたのだろうか。多輝が優一郎の話をしていた時のことを果穂は思い出した。少し照れたような顔で多輝は話をしていた。あれは嫌がっている顔ではない。どう見ても優一郎を信頼しきっている顔だった。
じゃあなぜ。果穂は自然とそう呟いた。優一郎が僅かに眉を上げる。だがそれ以外の反応を優一郎は見せなかった。優一郎にしてみても様々な可能性について考えたのだろう。多輝が一人で逃げる可能性について。
だから優一郎は恐らく、木村の科学研に多輝が囚われている可能性についても考察したのだ。そして現実的に考えられる可能性の中で、もっとも信憑性の高いものから当たることにした。そんなところだろう。果穂は頭の中で素早く優一郎のとった行動について考えた。
「あのたきをとらえるなんて、ただものではないとわたしもおもうけど」
でもやはり今は情報を提供するのは無理だ。果穂はきっぱりと優一郎にそう告げた。途端に優一郎ががっくりと肩を落とす。果穂が今までに聞いたことのある優一郎は、こうも簡単に心の内を表現する人物ではなかった。いつでも冷静沈着、激することなどないとも聞いた。その多くは多輝から聞いたことだ。
「だからこそ、雨宮先輩の身柄を確保しているのは、木村の関係者である可能性が高いと予測しています」
「そうかもしれないけど」
果穂は俯いて額に手をあてがった。今、全ての荷物は預けてある。この状態で木村の情報を引き出すことは難しい。かと言って優一郎は簡単に諦められないだろう。果穂はしばらく考えてふと目を上げた。
「いいわ。とりあえずきむらのでーたばんくにしんにゅうするぱすこーどだけはわかるから、ためしてみることはかのうよ。どうする?」
「お願いします」
懸命な優一郎の表情に押されるようにして、果穂は部屋にあったパソコンの前に座った。既に回線は開かれている。果穂は慣れた手つきで木村のデータバンクに潜り込んだ。
データと一口に言ってもその量は膨大だ。その中から多輝のデータだけを探り当てなければならない。簡単に検索できるようなシステムはバンクの中には存在しない。記憶を頼りに探るしかないのだ。果穂は白衣の袖を捲り上げ、横で見守っていた優一郎に目配せをした。
優一郎がノートパソコンと椅子を持ってくる。果穂は使用していたパソコンから優一郎のノートパソコンにデータを流した。二人がかりで調べれば何とかなるかも知れない。
でもなんともならないかくりつのほうがたかいわね。あくまでも冷静に果穂はそう心の中で呟いた。
陰謀論とかあるじゃないですか。
厨二病全開のおれは面白くて好きなんですw