※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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三分割の二個目です。
エロシーンはありません。


時は来た(とかしか言わない野郎だよな、こいつ by.水輝) 2

「さあな。それよりお前、そろそろ身体が戻る頃だぜ?」

「え?」

 

 無造作に順の腰を叩く。すると順は水輝を凝視した後、慌てて自分の身体を見下ろした。見た目にはそれほどの変化はないだろう。だが確実に順の肉体は元の性へと戻りつつある。水輝は笑って順の拘束を解いた。もう瞳は定着しているだろう。そうすれば特に順の行動を制限する必要もない。

 

 順は焦ったように自分の身体を撫でまわしている。それを横目に水輝は翠を眺めた。立城のよく着ているようなスーツを身に纏っている翠は初めて目にする。水輝はくすくすと笑って翠に顎をしゃくった。

 

「似合ってるじゃないか。いつもその格好でいたらどうだ?」

「居心地はさほどよくないな」

 

 きっぱりと翠が言い返す。水輝は笑って翠に自分の横を目で指した。翠は文句も言わずに水輝の横に腰掛ける。

 

「そこで二人してなごまないでくれないかなあ。オレ、どうすりゃいいのよ」

 

 情けない顔で順が呻く。水輝は笑って着替えてくれば、と進言した。順がため息をついて部屋を後にする。言いたいことも山のようにあるのだろう。名残惜しそうな瞳の色が印象的だった。水輝は順を目で見送り、改めて翠に向き直った。

 

「お前、くそがきに何した?」

「特に水輝に報告しなければならないことをした覚えはないがね」

 

 はっきりと言い切る翠に苦笑し、水輝は静かに振り返った。多輝は何事もなかったかのように眠っている。規則正しい寝息を刻んでいることから、機体の中にはまだ多輝がいることが判る。そうでなければ抜け殻と言われても納得できただろう。それくらい、多輝は穏やかな顔をしているのだ。

 

「報告しなくてもいい程度のことはしてるって意味か」

「暇だったのでな」

 

 またきっぱりと言われる。水輝は思わず呻いて額を押さえた。どんなに時が流れてもこいつのこの態度にだけは慣れないかも知れない。何となくそんな風に思いつつ、水輝は呆れて翠を見やった。

 

「おっまえ、ほんとに全然変わってないな」

「この世界には全く変わらずに存在できる者などいない」

 

 つまりは水輝の言っていることは間違っていると翠は示しているのだ。水輝はげんなりして肩を落とした。そりゃそうだろうよ、と投げやりに同意する。だが翠はまるで表情も変えず、当然と言わんばかりに頷いた。

 

 ……これでこいつ、真面目なつもりなんだよなあ。

 

 水輝はため息をついて心の中でそう呟いた。そういえば翠が冗談を言っているところを見たことがない。その意味でだけなら立城も冗談は言わないから似ているのかも知れないが、翠のは別の意味で笑えない。

 

 何しろ本人はいたって真面目でしかもどこまでも本気なのだ。いつだったか誰かが翠には触らない方がいいと言っていたことがある。それを思い出そうとして水輝はさらにがっくりとうなだれた。言っていたのは確か火藍だ。翠相手に火藍を差し向ける辺りが元の主君の非情なところか。火藍に洒落が通じないのは誰よりも自分が知っている。水輝は様々なことを思い出して頭痛を覚えた。

 

「よく考えたらあのバランスの悪さで保たれていた世界ってのの懐の深さは計り知れないかも知れないな」

「聞こえているぞ」

 

 いつの間にか感想を口に出していたことを冷ややかに翠に指摘され、水輝は飛び上がりそうなほどに驚いた。次いで息をつく。だが翠は水輝が落ち着ききる前に言葉を続けた。

 

「それに酔狂さ加減で競うなら、間違いなくわたしよりはお前の方が上手だろう」

 

 平然としつつちゃっかり水輝の心の中を覗いていたらしい。翠があっさりと心の中の文句について言い返してくる。水輝は引きつりながら頭を上げた。

 

「紅茶畑のために世界を一つ創っちまう奴に言われたくないな」

「違う」

 

 真剣な目をしたまま翠は即座に水輝の言を否定した。そして真面目な顔つきのままで正面を見つめる。

 

「畑ではなく紅茶の山だ」

「どっちでも一緒だろうが! ああ、もう、お前と普通に話しようとしたおれがばかだったさ! すみませんね!」

 

 水輝は頭を抱えて喚き散らした。おれが悪かったよどうせ、とさらに喚く。翠は冷ややかな眼差しをしてさっさと耳を手で塞いでしまう。水輝は勢いよく身体を起こしてそんな翠を睨みつけた。

 

 翠は時空を作成管理する者と言われている。翠が創る世界は箱庭などではなく、本当に生きる者の住む世界となる。そして水輝たちの知らないところで様々な世界が今日も生まれたり死んだりしているのだ。

 

 なのに管理者である翠は思った時には捕まえることができない。今回も翠は自分から水輝の元に訪ねてきたのだ。そうでなければ翠が話に加わってくることもなかった。手が足りないからと簡単に思ってしまった自分の愚かさ加減を水輝は心底悔いた。今から後悔したところでどうにかなるものでもないが、それでも思わずにいられなかった。

 

 どうしてこんな奴に頼んだりしたんだ、おれは。だがその思いは過去の自分に届く筈がない。気軽にお前も手伝えなどと言った自分はばかだと思うが、過ぎてしまった時間は戻ることはないのだ。

 

「確かにおれはくそがきを連れて来いとは言ったよ。でも、何で機械の方なんだよ。おれが言ったのは生身の」

「中身のない器はそれと呼べまい」

 

 水輝の言葉を遮り、翠が涼しく言い放つ。水輝は片頬だけで嗤って歯を食いしばった。そうでもしなければすぐさま翠につかみかかりそうだったからだ。




地の文すら見たくねー!(叫び
ハハハハハ。すみません、ちょっと鬱憤がたまったので叫んでみました。
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