絵美佳はデータを見たという話をした時の巴の動揺のほどを観察した。巴は諜報員であることが絵美佳に知れたということばかりを気にしていた。それ以外には何も隠していないつもりなのだ、と絵美佳は判断したのだ。
他にも何か隠しているなら巴はもっと違う反応を見せるだろう。それが絵美佳が下した結論だ。
「そんなに緊張することはないのよ」
「え、でも、あの」
俯いた巴は指を組み合わせてもじもじしている。訳が判らないままでシャワーを浴びて来いと言われ、さらに服は着るなと命じられていたのだから当然だろう。何より、巴にガウン一枚を手渡した時の絵美佳は一欠片も笑ってなかったのだ。
巴の身体は機械で出来ている。だが本人にその自覚はない。木村の開発チームが何を思ってそうしたのかは知らないが、少なくとも巴は人であるつもりなのだ。そしてそうであるが故に、されていないことがある。それも、本人に自覚はない。今は木村の当主を主人だと認識しているらしいが、それは記憶に植え付けられた表面的なデータに過ぎない。徹底的に、それこそ逆らう気など起こさないように刷り込みはされていないのだ。
そのことを木村のデータバンクに侵入した絵美佳はよく知っていた。そして恐らく、巴の機体は木村が総力を挙げて開発したものだ。それを簡単に敵地に送り込む木村当主の考えは謎だが、どちらにしろ刷り込むなら今しかない。巴が例えばここから木村財閥に戻ってしまったら、今度は確実に刷り込みが行われるだろう。そうなってからでは遅すぎるのだ。
絵美佳はためらいがちな視線を寄越す巴のガウンを静かにつかんだ。巴が慌てた声をあげる。だが絵美佳は構わずガウンの胸の合わせ目を少し開いた。白い胸元に顔を寄せる。
「あっ、あのっ、部長!?」
焦った巴の声を聞きながら絵美佳は滑らかな肌に唇をつけた。巴は驚いたような声をあげはするが、決して絵美佳を引き剥がそうとしない。絵美佳は薄く笑って舌先を肌に這わせた。
巴の肌が一気に粟立つ。絵美佳はガウンを開いて腰を屈めた。ガウンの中に頭を突っ込んで巴の乳房を舐める。
「え、えっと、あの、部長。あの、そのですねっ」
「なに」
絵美佳はうろたえる巴の呼びかけに顔を上げた。淡く色づいた乳首を指で探り当てる。絵美佳は巴を見つめながら指先で乳首を優しく撫ぜた。愛撫に応えて乳首が硬くなる。
「んっ……あっ、あのう。わたし、どうすればいいんでしょう?」
もしかしたら。絵美佳は一つのことに思い当たって目を見張った。ガウンに差し入れていた手を出し、腕組みをする。巴は視線を彷徨わせて言葉を濁してしまった。
「そのまま立っていて」
もしかしたら巴は性交についての知識を持ち合わせていないのではないだろうか。その視線は怯えているというよりは戸惑っているように見える。どうして絵美佳がこんなことをするのか判らないのもあるだろう。が、巴は基本的に自分の身体がどうしてそんな反応をしているのかが判っていないのではないだろうか。
それに気付いた絵美佳は小さく笑った。巴にとっては何もかもが初めてということだ。
「あなたの身体を調べたいの」
「え、でも調べるって何をですか?」
うろたえた巴がずれていたガウンの襟をきちんと合わせようとする。だが絵美佳はその手を握り、首を横に振った。巴は困惑した目を泳がせ、赤くなっている。
「あたし、あなたに助手になって欲しいって思ってる。できればずっと研究を手伝ってほしいの」
絵美佳はきっぱりと言いながら巴を見つめた。目が合うと巴が明らかに狼狽する。ずっと、と口の中で呟いてから巴は慌てて首を振った。
「あ、の、あのでも、わたしは」
そう言いながら巴は一歩だけ退いた。木村財閥当主に使われている身だから。続くとしたらそんな言葉だろうか。絵美佳はそのことを予測しながら巴に合わせて一歩だけ踏み出した。白衣の裾が絵美佳と共に動く。
「あなた、木村ではどのような扱い受けてるの?」
微かに笑みを浮かべて絵美佳はそう訊ねた。だが巴の答えは要領を得ない。つまりは大した扱いなど受けてはいないということだ。それはそうだろう。何しろ巴は本当は諜報員などではない。実験で作られた機械なのだ。
結局、巴はろくな答えを導けないまま俯いてしまった。きっと巴が主人と言っている存在は木村当主だろうが、その存在にすら巴は会ったことがないのだ。絵美佳はそう心の中で結論付けた。
「あたしは、あなたの意思を聞きたいの。木村がどうとかは関係なく」
すると巴は慌てたように顔を上げた。涙の滲んだ目で絵美佳を見つめる。絵美佳は黙って巴の答えるのを待った。
「そ、それは」
そこで言葉を途切れさせて巴は再び俯いた。
「わたしは部長と一緒にいたいです」
聞き取れるかどうかという消え入りそうな声で巴はそう呟いた。絵美佳はにっこり笑って巴の肩を軽く叩く。それなら何も問題ない。そう告げると巴は哀しそうな顔をした。だが俯いているために絵美佳には表情が見えない。それでも絵美佳は巴が今、どんな顔をしているのか容易に想像できた。
「じゃあ決まったわ。あなたは今日からあたしのものよ。文句は無いわね?」
「……はい」
巴は小さな声でそう答えて顔を上げた。泣きそうになっているのに必死で笑っている。
「それじゃあ、あなたの身体を調べさせて」
絵美佳は出来るだけ優しく微笑み、巴の肩を覆っていたガウンをつかんだ。ためらいがちに視線を彷徨わせてから巴が弱々しく頷く。絵美佳はゆっくりと巴のガウンをずらした。細い肩が現れる。巴は目を閉じて俯いている。絵美佳は小さく笑ってガウンを大きくはだけさせた。
巴がとうとうむかれます。