※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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我ながらどうしてそうしたのか判らないナメクジ。
ちなみに果穂は後々、他の話でけっこー無体なことになります。

エロはありません。


だからなんでナメクジなのか 1

「判らない?」

 

 保美は穏やかな声で問い返す。果穂はくるりと椅子を回転させて保美に向き直った。眼鏡を外して白衣の胸ポケットに落とす。目頭を強く指で押さえ、果穂はため息をついて頷いた。

 

「ええ。ねえさまのさいしゅうしてくれたせいえきは、かなりひととはかけはなれていたみたいね」

 

 何しろ顕微鏡を粉々に破壊してくれた代物だ。ただの精液だと思っていた果穂はそれだけでもかなりの衝撃を受けた。冗談じゃない。それが正直な気持ちだ。果穂はそのことを保美に素直に伝えた。だが保美はそう、と答えて笑っている。全く驚いた様子はない。

 

 一つのカプセルを果穂が受け取ったのは数日前だ。詳しい事情は判らないが、どうやらどこかで採集したものらしい。果穂は軽い気持ちでその分析を承諾した。ちょうど、この施設にある設備に慣れなければと思っていたところだったからだ。

 

 カプセルに詰まっていたのは誰かの精液だった。果穂はだがそこまでしか分析することが出来なかった。顕微鏡にセットしたそれがどういうからくりで破裂したのかは判らない。だが元々少なかった精液は顕微鏡と共に吹き飛んでしまったのだ。

 

「だれのものかをちょうさするいぜんのもんだいね。けんびきょうをふんさいするせいえきなんてきいたことがないもの」

「そう。果穂に無理なら他の誰にも無理でしょうね。どうもありがとう」

 

 保美は穏やかな笑みを残して果穂の部屋から出て行った。果穂は保美を見送ってから机に向き直った。あの精液に関するデータは少ない。だが全く何も判らなかった訳ではないのだ。

 

 まずその精液の持ち主が人ではないということ。これは間違いない。この辺りのことは優一郎に幾つかの質問をし、ある程度の答えも得ている。どうやら多輝は機械になる以前、人ではなかったようだ。優一郎が言うのだから間違いない。つまりこの世には果穂の知らない、そういった生き物が実在するということだろう。

 

 だがその精液は多輝のものではない。これは優一郎があらかじめ採集していた多輝の精液のデータと比較した結果、導き出した答えだ。果穂はディスプレイに映し出されたグラフを眺めながら親指の爪を強く噛んだ。あり得ない力を持つ生き物たち。出来ればサンプルを手に入れたいところだが、残念ながら心当たりはない。果穂は舌打ちをして表示されたデータを目で追った。

 

 聞けば保美は優一郎の命令に従ってその精液を採集したのだという。だがその精液の持ち主はもちろん優一郎ではない。保美たち人形でないことも確かだ。例えばカレンに付けられた機械仕掛けのペニスからは精液に似せた液体が噴出される。だがそれはあくまでも似せてあるだけで、本物ではない。当然、細胞レベルで分析すれば生きた精液との違いは一目瞭然だ。そして生きた身体を持っていた頃の多輝ものでもない。

 

 とすると、わたしのしらないあいだになにかがあったとみるのがしぜんね。果穂はそう呟いて息をついた。ぬるくなってしまった紅茶を喉に流し込む。

 

 恐らくあの日。果穂は思い出しながら目を閉じた。自分が優一郎の元に駆け込んだ日、きっと何かがあったのだ。優一郎は果穂が眠るまで取り乱していた。傍目には判らなかっただろうが、果穂には優一郎の焦りがよくわかった。何しろ、何度もミスタイプをしていたし、データを洗う時に同じ間違いを繰り返していたからだ。人形の誰も気付かなかったことに果穂は気付いていた。優一郎は多輝をとても心配していたのだ。

 

 だが夜が明けてみると、優一郎は前日の慌てぶりが嘘のように落ち着いていた。果穂が眠っている間に何かが起こったと考えるのが妥当だろう。果穂はそっと目を開けて天井を見つめた。結局、優一郎と人形たちは学校に行き、自分だけが地下の施設に残された。果穂はその日、誰もいない施設の中をうろつき回った。設備に慣れる必要もあったし、施設の構造そのものも把握しておきたかったからだ。

 

 一つだけどうやっても開かない扉があった。その奥に何があるのかは未だに判らない。さりげなく保美たちにも訊ねたが、明確な答えは返ってこなかった。どうやらその扉の向こうには優一郎だけが入れるらしい。それだけが果穂にも理解できたことだった。

 

 人形である保美たちは優一郎を全く疑わない。後に紹介された他の人形もそうだろう。主人として優一郎を信頼しきっているのだ。疑うはずもない。だが果穂は違う。成長速度は遅くても生きている人間だ。それに優一郎に恩はあるが、絶対的な信頼を置いている訳でもない。果穂はあの扉の奥に何があるのか気になった。それとなく優一郎にも訊いてみたが、彼は笑うだけでその奥に何があるのかを答えてはくれなかった。

 

 けっきょくわからないことばかりなのよね。果穂は呟いてため息をついた。精液の分析の際に壊れた顕微鏡のことは優一郎にも話してある。優一郎は報告を受けて苦笑していた。果穂を責めることもない。果穂はそのことも疑問に思っていた。優一郎はまるでそうなることを知っていたかのようだ。だがそれを知りながらどうして自分に分析を依頼したのか。そのことも気にかかる。




保美は後でもけっこー出番あるんですけど、果穂は……w
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