※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

136 / 174
7月の頭がこのタイトルで始まるとか……w
あ、エロシーンはありません。


だからなんでナメクジなのか 2

 いつかおしえてくれるのかしら。果穂は心の中でそう呟いた。いつか優一郎は様々な疑問に対する答えをくれるだろうか。そう自問して果穂は苦笑した。あり得ない。優一郎は自分の欲求を追及するために人形を作成している。科学に貢献する気などさらさらない。まして自分のように木村に対する憎悪がある訳でもない。結局、優一郎は自分の研究の成果を誰に報せる気もないのだ。

 

 とりあえず優一郎は果穂に生活の保障をしてくれた。住むところを提供してもらっただけでも感謝すべきだろう。だが果穂の心の中には言いようのない苛立ちが芽生えていた。確かに自分の力を買ってくれとは頼んだ。だが決して自分を保護して欲しいと頼んだ訳ではない。もしかしたら舐められているのだろうか。最初はそう思った。だが違うのだ。要するに優一郎は果穂に対して興味を持っていないのだろう。興味があるのは果穂が握る木村のデータだけだ。果穂自身に対しては全く興味がない。そのことを果穂が理解するまでにはさほど時間はかからなかった。

 

 興味がない相手に頼ることも、何かを願うこともない。優一郎は保美の妹としての果穂を保護したつもりでいるだけだ。もちろん、果穂に協力を求めるだろうが、それは木村に関するデータを入手したい時に限られる。のべつ幕なしで頼られるのも腹立たしいが、こうも無視されるのも癪に障る。

 

「でもあせっちゃだめよね」

 

 焦りは何も生み出さない。苛立っていても、表面的にだけでも何事もないように振舞わなくてはならない。そうでなければ優一郎のことだ。あっさりと果穂の目論見など見抜いてしまうだろう。いや。もしかしたら今の時点で既に見抜かれているかも知れないのだ。

 

 結局は下らない感傷なのだ。この感情がなければもっといいのだろう。果穂は次第に俯いていった。画面から目が離れると、急に視界が暗く閉ざされた気分になる。もし、この感情が意のままに操れるなら、きっと連中はここまで自分を無視しなかっただろう。立派な研究成果として、両親にも認められた。そして多分、木村の科学研にも受け入れられた筈なのだ。

 

 過ぎたことを。人に話せばそう笑われるだろう。そのことも果穂はよく判っていた。だから今まで、誰にもこの話をしたことはない。学校にいた実験体のデータも収集はしたが、自ら話し掛けるようなこともしなかった。

 

 本当は誰かに話を、思いを聞いて欲しかった。果穂は小さく笑って顔を上げた。自分とある意味で同じ立場である実験体なら、きっと思いを判ってくれるのではないだろうか。そんな甘い期待があった。だが学校に通っていた実験体たちは、それぞれがそれぞれの幸せを手にしていた。ある者は愛しい人を見つけ、またある者は熱中できるものに巡り会う。そして果穂は自分だけが取り残された気分を味わったのだ。

 

 寂しい。その感情もなくなればいいと思っていたものの一つだ。だが今でもこうして心の中に寂しいという気持ちは残っている。なくなって欲しいと願っても、決して消えてしまわない思いなのだ。

 

 もしかしてわたしはだれかにすりよりたかったのかもしれない。果穂はそう呟いて自嘲気味に笑った。保美が主人と慕う優一郎に、近づいてみたかったのかも知れない。そうしてみると納得できることがたくさんある。多輝にどうして優しくする気になったのか。そしてまた、どうして簡単に木村のデータを流してしまったのか。集めるだけでも随分と手間と時間のかかったデータなのに、だ。そう考えていくと自分の行動の全てが、優一郎に近づきたいという思いに繋がっていたということが判る。果穂はくすくすと笑って軽く机の脚を蹴った。椅子が動いて机から離れる。果穂は椅子から飛び降り、ドアの傍にいたなめくじに近づいた。

 

「なめぞう。そろそろごはんのじかんよ」

 

 果穂は白衣のポケットから幾つかのカプセルを取り出した。幼い頃に作り上げたなめくじは、他の誰よりも長い時間を果穂と共に生きている。果穂は優しい笑みを浮かべてなめくじの口にカプセルを落とした。なめくじが租借するのをしゃがんで見守る。 運ばれてきた荷物はまだダンボールの中に入っている。果穂はぼんやりと壁際に積み上げられているダンボールを見やった。この地下の施設に運んでくれたのはカレンだ。そして暇があればカレンも保美も果穂の様子を見にきてくれる。だから果穂は前の学校にいる時よりも楽しいと感じる時間が増えてはいた。だがどうしても満たされない。

 

 それは果穂が望む形で必要とされてはいないからだ。果穂はダンボールを見つめてからため息をついた。なめくじが慰めるように触手を伸ばして果穂の頭を撫ぜる。果穂は潤んだ目を白衣で拭い、気丈に笑ってみせた。

 

「だいじょうぶ。わたしはへいきよ」

 

 だってこれまでだっておなじだったもの。いまはねえさまとかれんがいてくれる。それだけでもじゅうぶんだから。

 

 果穂はなめくじにそう語りかけた。なめくじは元々、喋る機能を持っていない。そのことが今の果穂には少しだけ寂しく感じられた。

 

 話が出来れば相談できる。誰よりも果穂のことを知っているなめくじはだが、喋らない。果穂はそっと息をついてなめくじに額を寄せた。静かに触れさせる。なめくじの触手はしばらくの間、慈しむように果穂を抱きしめていた。




触手プレイとか考えてたんだろうなあ……w
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。