キャラブレブレwwww
あ、エロシーンはないです。
水輝は黙ったまま煙草に火を点けた。再び指を鳴らすと浮かんでいた火が静かに消える。
「今度会ったら、お返ししようと思って持ち歩いていたんですけど。まさか、要らないとかいいませんよね?」
穏やかな声が問い掛けてくる。水輝は肩を竦めて優一郎を見た。手の中に宝玉を握り締めた優一郎の顔からは、いつの間にか笑みが消えている。水輝は再び月を見つめ、ため息混じりに問い掛けた。
「訊いたって、誰にだ」
「本人に、ですよ。一週間くらい前に休眠が解けたみたいなんです」
本人。水輝はそれを耳にしてぴたりと動きを止めた。ゆらりと優一郎に顔を向ける。優一郎は真面目な顔で頷いた。宝玉を両手に包んで差し出してくる。水輝はだが黙ってそれを見下ろした。
あの時に何があったのかを覚えているだろうに。水輝は心の中でそう呟いた。宝玉の輝きは昔と寸分、違わない。
「本人、ね。それでお前は素直にそれをおれに返してくれる訳だ?」
瞬き一つで強張っていた顔に嗤いを浮かべ、水輝はそう訊いた。
「だから、要らないんですか?」
「要る」
即答して水輝はさっさと宝玉に手を伸ばした。優一郎の手から宝玉を取り上げて両手に包み込む。
「よかった。戻ったのは奇跡なんですよ。あなたに必要とされなかったら消えてしまうところでした。さっき、泣きそうになってたのわからなかったんですか?」
「生憎とな」
そう言って水輝は自分の左側の目を指差した。右と全く同じ青色の瞳が嵌っている場所を指し、軽く嗤う。
「こっちの目が完全に死んじまったみたいでな。色んなものが見えなくなってるんだ。内緒だけどな」
どうしてなのかは水輝にもまだ判っていない。ただ、はっきりしているのは眠る直前に大きな衝撃を受けたということだけだ。他のことは殆ど覚えていない。それも恐らく、受けた衝撃が大きすぎたからだ。
「眼球はイメージできるからな。形を保つことだけは可能だ。けど、どうしても視力が戻らない。ま、この宝珠には悪いがな」
我慢してもらうしかない。そう続けた水輝に優一郎はため息をついた。
「彼女には、いろいろ、愚痴とか聞いてもらったんですよ」
「ふうん」
言いながら水輝は軽く宝珠を放り上げた。タイミングを測って力を放つ。すると宝珠は空中で煌きを帯びる。ふわりと手の中に戻ってきた宝珠に水輝は何気なく唇を寄せた。
「可愛い方ですね」
「まあな」
あっさり切り返して水輝は宝珠に軽く口づけた。優一郎はそんな水輝を見つめてにっこりと笑っている。宝珠は輝きを増し、踊るように水輝の手から浮き上がった。空中で再びそれを掴み取り、水輝は優一郎に目をやった。唇だけで嗤って顎をしゃくる。
「何か言いたいことがあるんだろ?」
水輝はそう促した。だが優一郎は肩を竦めて苦笑する。
「いえ、言いたいことは、その方のほうに愚痴っておきましたから。斎姫のこと話したら、ちょっと怒ってらっしゃったような」
それを聞いた水輝は思わず吹き出した。宝珠を月にかざしながらくすくすと笑う。確かにそうだろうな。そう答えた水輝に優一郎は微笑んでいただけだった。
「もし必要でしたら、身体のほう注文承りますよ。やっぱり身体がないといろいろと不都合でしょう?」
優一郎がそう告げたのは、もう夕暮れが消えてしまってからだった。暗い夜空に赤い月が浮かんでいる。水輝は片手でつかんでいた宝珠にちらりと目をやった。身体、か。内心で呟く。
おれの傍にいることが苦痛でなければな。そんな風にも考える。だが水輝は苦笑してその考えを否定した。どのみち、形を持ったまま自分の傍にいればまた同じことが繰り返される。そうすればまた、彼女は自分の身を呈してでも水輝を守ろうとするだろう。それがたとえ誰かの企みによるものだとしても、だ。
時が流れ、昔と同じでは決してありえない筈なのに、それでも不安になる。水輝はしばらく黙っていた。優一郎は気長に水輝の返事を待っている。時折、水輝の手の中の宝珠を覗きこんでいるから、もしかしたら彼女の声がまだ聞こえているのかも知れない。
「おれには必要かどうかの判断が出来ない。彼女が望んでいる通りにしてやりたいとは思うけどな」
水輝が告げると優一郎はにっこりと笑った。そして軽く頭を下げる。
「わかりました、ご注文ありがとうございます」
「で、おれは料金代わりにくそがきの精神を肉体から引き剥がす訳か?」
多輝の精神を今の器から引き剥がし、別の入れ物に移し変える。水輝はあらかじめ拾っておいたことを提示してみた。だが優一郎は考えるように顎に手を当て、軽く俯いた。
「というか、その方の身体を作るのに、必要なデータを収集するために、もう少し研究を進めないといけないんですよね」
「データ、ねえ」
「僕にできることは僕がやります。ただ、場合によっては僕が自力でやろうとすると不可能ではないにしても時間がかかりすぎる場合があるわけで」
なるほど、と水輝は呟いた。優一郎はあくまでも自分の手で色んなことを片付けるつもりなのだ。恐らく、前回の時に懲りているのだろう。水輝は肩を竦めて短くなった煙草を吐き捨てた。地面にたどり着く前に煙草は消滅してしまう。
「それで? お前はおれを使う権利を放棄する?」
「いえ、多輝の件も手伝ってもらえるならとてもありがたいです。ですけど、それよりももっと危険なことがあるわけです」
そして優一郎は俯けていた顔を上げた。水輝はふわりと腰を上げ、空中を歩く。優一郎の目の前の空中に座って足を組む。それから水輝は言ってみろ、と促した。
「フェイクとハンターってご存知ですよね?」
ぴくりと眉を上げ、水輝は唇を歪めた。
「ま、人並みにはな」
「話をつけてもらいたいんですよ。彼らに。あちらの人形に手を出す許可をもらっていただけないかな、とか」
ふむ、と呟いて水輝は膝に肘をかけた。手に顎を乗せて片手で宝珠をもてあそぶ。優一郎は真剣な眼差しをしてはいるが、顔だけにはきっちり笑みが浮かんでいる。さすがにあれは痛かっただろうからなあ。水輝は心の中で呟いて苦笑した。
龍宝珠専門のハンター。その世にはそういう闇の仕事が存在する。ハンターというのは生きた龍神を襲い、彼らの持つ龍宝珠を奪うことを生業としている者たちの総称だ。通常、龍神に成り損ねたものがハンターに墜ちる。それは別名、堕天使とも言われている存在だ。
先の事件で多くの龍神がその命を散らせた。ハンターも大幅に減った。だがそんな中でも龍神のトップは生き残ったし、ハンターの元締め的存在は生き残っている。事件の被害者になった多くは、力なき者たちだった。
そして現在、龍神のトップの一人、立城が吉良瀬財閥の当主に、ハンターの元締め的存在である男が木村財閥の当主となっている。そして互いに牽制しあっているのだ。
だがこの世には龍神を模したもの、というものも存在する。それが優一郎の言ったフェイクだ。フェイクは龍神に似た力を発揮できるが、本来の器ではないものに閉じ込められているため、生まれながらの龍神より力は落ちる。だが時にとんでもないフェイクが出来上がる時があるのだ。
そのとんでもないフェイクが、数多くの龍神を惨殺した風龍神のフェイクだ。彼女は今でも木村財閥の奥深くに眠っているという。そして当主に求められれば狂ったようにその力を発揮する。まさに爆弾のような存在だ。
「話なんて通じる相手かよ。あれが。半殺しにしてもいいってんならやってもいいぜ? 要するに足止めしておけばいいんだろうからな」
「ええ。あなたが出張れば、彼らにとって人形関連なんて、とるにたらないささいなことになるでしょうし」
しゃらっと告げて優一郎はにっこりと笑った。水輝はため息をついて宙を漂っていた宝珠を掴み取った。あの時とは反対だな。水輝は宝珠に心の中で声をかけ、頬を歪めて嗤った。
「いいだろ。その話、乗ってやる。どうせなくしかけた命だしな。蘇るってんだったら賭けてもいい」
そう告げて水輝は宝珠を無造作に放った。慌てた優一郎の手の中に宝珠が収まる。優一郎が怪訝そうな顔を上げた時、水輝は立ち上がっていた。少し高くなった月を見上げる。
「ええ。僕は全力をもってフェイクドールを手に入れます」
「契約成立。んじゃ、おれもさっそく動くかな」
水輝は嗤って手を伸ばした。優一郎の手の中に収まっていた宝珠がゆらりと浮き上がる。宙を漂って水輝の手に収まった宝珠が光をまとった。
「あと、良かったら。うちにもちょくちょく遊びに来てください。奈月さんの身体をカスタマイズするために、いろいろお伺いしたいこととかありますし、うちの部員も協力してくれると思いますよ」
「残念だがな」
宝珠に口づける。水輝の手の中で宝珠が一際輝いた。一瞬で一振りの刀へと変貌する。それを肩に乗せて水輝は嗤った。
「もう、先の約束はしない。悪いがおれも懲りてるんでな」
奇蹟は何度も起こらない。二度目の幸運もありえない。水輝はそれでも嗤っていた。
時系列的にこの話の前の話、というのがあるのですが……
実はその話自体は書いてません。