※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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絵美佳にいらぬ誤解をされてますが、それでもマシなのです……。
あ、エロシーンはないです。


野木は下の名前があるんです 2

 

「その生徒会長サマの代理の野木クンとやらは、無人の教室に何か用があったわけ?」

 

 丁寧にお辞儀する野木を鼻で笑い飛ばし、絵美佳は大仰に教室の中を指してみせた。特別教室で授業をしているのだ。当然、他の生徒はいない。今、絵美佳がここにいるのは偶然に過ぎない。要するに野木は誰もいないと思ってここに来たのだろう。絵美佳はそう判断していた。誰もいない教室に用があるなんて、おかしいヤツ。授業中なのよ、今は。自分のことを完全に棚上げし、絵美佳は心の中で野木に対する文句をまくし立てた。

 

 折り曲げていた身体を伸ばした野木が微かに笑う。そして野木は黙って教室の中に入ってきた。真っ直ぐに絵美佳の近くに歩んでくる。絵美佳は怪訝に思いながら黙って野木の動きを見守った。

 

「今日も雨宮先輩はお休みですか」

 

 空席をじっと見下ろし、野木が呟く。絵美佳は肩を竦めて肯定した。

 

「まあね。もうしばらく来てないわね。これからも当分は来ないんじゃないの? 長期欠席の届けが出てるってことだし」

 

 何で休んでるかは知らないけどね。絵美佳はきっちりそう付け足して野木を伺った。だが野木は静かな面持ちで多輝の席を見下ろしている。それを見ている内に絵美佳の頭に怖い考えが浮かんできた。

 

 確かに多輝ってもてるけど……まさかね。絵美佳が内心でそう呟いたと同時に野木が顔を上げる。タイミングが余りにもぴったり一致したことに絵美佳は心底、驚いた。思わず上げかけた声を必死で飲み込む。

 

「ではしばらくは休戦ということですね」

 

 苦笑して野木が告げる。絵美佳は訳が判らず、口を両手で覆ったまま首を傾げた。だが野木はそんな絵美佳を見ようともしない。あくまでも視線を多輝の机に注いでいる。

 

「吉良先輩と対等に戦うためにはどうすればいいのか、自分なりにも考えてはみたんですけれどね。無駄な考えになってしまったようです」

「た、戦い?」

 

 口を手で覆ったまま絵美佳は頬を引きつらせた。

 

「まあ自分が考えたところで何の意味もなかったでしょうけれど。そもそも吉良先輩と雨宮先輩は公認の仲と噂されているくらいですから」

 

 絵美佳の反応を全く気にせず、野木が呟く。絵美佳は返す言葉を見つけることが出来ず、ただ野木を凝視した。

 

「それでは確かにお伝えしましたから、自分は戻ります」

 

 野木はそう告げてさっさと教室を出て行った。絵美佳は唖然と後姿を見送り、次いで額を押さえた。

 

 戦いって、もしかして多輝ってああいうのにも好かれてるってこと? 伝えるって要するに胸の内をあたしに伝えたってこと?

 

 怖い考えが絵美佳の頭の中に渦巻く。この時、まだ絵美佳はことあるごとに要に喧嘩を売られていることにさっぱり気付いていなかった。野木が単に要の意志を伝えに来たということも理解できていない。そして絵美佳は自分の勘違いにまったく気付いていなかった。

 

「ええと、人の趣味はそれぞれだし」

 

 試しにそう呟いてみる。すると少しはその通りという気になってきた。だが、だからといって多輝を野木に差し出す気はさらさらない。絵美佳は気合を入れて勢いよく顔を上げた。握りこぶしを高々と掲げる。

 

「負けないわ! 特に男にはぜえったいに!」

「どうでもいいがな、吉良。お前、授業はどうした。何してるんだ」

 

 後ろから肩を叩かれる。勢いよく椅子を蹴飛ばして立ち上がった絵美佳は、その勢いのままに振り返った。口許を引きつらせた英語教師が背後に立っている。その腕に抱えられているテキストを見て絵美佳はなるほどと納得した。どうやら隣のクラスに向かう途中だったらしい。引きつっている男性教師に笑みを浮かべ、絵美佳はこぶしを再び振り上げた。

 

「こうして戦いの誓いを立ててました!」

「いや、お前が不可解なのは前からなんだが、とにかく授業に行け。そうして騒がれてると煩くてかなわん」

 

 疲れたように笑い、教師は絵美佳の肩を軽く叩いた。

 

 仕方なく生物教室に向かい、生物の教師の小言に百倍言い返し、結局授業は無事に終わった。その日の授業の全てが終了した後、絵美佳は早々と地下を目指した。

 

 多輝のことも気になるが、今はまず巴を何とかしなくてはならない。巴の作りは絵美佳に言わせればとても無茶なのだ。まず、生体と機械の部分をでたらめに繋げてあること。次に生命維持のためのシステムが酷くいいかげんだということ。簡単に見て取れる二つの問題点を手っ取り早く解消するには、巴に新しい機体を与える必要がある。だが、絵美佳にはヒューマノイドの機体を開発する技術が足りないのだ。知識だけなら優一郎に負けなくとも、技術がなければどうにも出来ない。

 

「何とかしないと」

 

 今日も絵美佳は放課後になってすぐに研究室にこもった。他の部員が出入りしないそこには多輝の肉体を入れたカプセル状の保存ケースが設えてある。その隣に並んでいるのは巴の保存ケースだ。あのまま巴を動かしていれば、間違いなく機能停止の時が近づいていく。その時を遅らせるために絵美佳は巴をケースに入れたのだ。巴本人に承諾を得る手間は省いたから、もしかしたら目覚めた後に怒るかも知れない。だが巴を失うことに比べれば安いものだ。絵美佳は二人のケースを見比べて静かに頷いた。




周藤の扱いの方が酷い件(謎
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