※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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エピタイは自分用!w
エロシーンはありません。


優一郎と絵美佳の取引 1

「それじゃ、行こうか」

 

 優一郎は深い笑みを浮かべて水輝の手を取った。虚ろな眼差しをした水輝が黙ってついて歩く。ときおり振り返りながら優一郎は水輝の様子を確かめて歩いた。地下二階のエレベーターの前で立ち止まる。水輝も優一郎に合わせて足を止めた。

 

 今日は満月だ。心の中でそう呟いて優一郎は少し肩を揺らした。声を殺して笑う優一郎を水輝はぼんやりとした目で見上げている。視線に気づき、優一郎はああ、と答えた。

 

「今日はね、満月なんだ」

 

 待ち望んだ日だ。だがそう言ったところで水輝に言葉は届かない。虚ろな眼差しが二、三度ほど優一郎の視線の先を行き来する。ゆっくりと視線をずらした水輝は次にエレベーターの扉を見つめた。軽く息をつき、扉に手をあてがう。優一郎を認識した扉は静かに両側へと開いた。

 

『行ってらっしゃいませ、優一郎様』

 

 穏やかな女性の声に送られるように二人はエレベーターに乗り込んだ。ほどなく扉が閉じる。

 

 狭いエレベーターの中でも二人は一切、口をきかなかった。すぐに扉は再び開く。廊下に出ると仄かな明かりだけが残っていた。

 

「あら、部長。どちらかにおでかけですか?」

 

 声をかけてきたのは保美だった。半開きになっていた胸元をきっちりと直しながら歩いてくる。優一郎は微笑みを浮かべて水輝の手を引き、保美に近寄った。

 

「ここのところずっと仁科さんに任せっぱなしにしているけど、何か不都合はない?」

 

 斎姫のストレスは日に日に色濃くなっているだろう。たとえ保美が優秀な機体を駆使して慰めても、やはり限界はある。保美は人形たちの中でも随一の技術を持つ。優一郎の指示に従って人形の機体の修理をすることなど造作もない。だが幾ら技術があっても、斎姫の精神面でのメンテナンスは保美一人で長くは面倒みられないのだ。

 

「いいえ、今のところは何も。吉良部長に会えないと寂しがってはいますが」

 

 つまり問題らしい問題にはなっていない。保美の言葉の裏側を読んで優一郎は黙って頷いた。保美もにっこりと笑って頷き返す。ふと、その目が優一郎の背後に佇んでいた水輝へと移動した。だが保美は水輝を少しの間だけ眺め、また視線を戻す。余計なことは訊かない。保美の無言の優しさに優一郎は笑顔で応えた。

 

「カレンは今日は自宅に戻っています。後の部員は眠っています」

「そう」

 

 優一郎は頷いて保美の脇を通り過ぎようとした。だがふと立ち止まる。優一郎が振り返ると保美は不思議そうな顔をした。

 

「仁科さんの妹さんは」

「ああ、果穂ですか。今は研究に打ち込んでいるようです。先日の特殊な精子が気になるとかで」

 

 水輝の体内に溜まっていた精液を採取したのは保美だ。そしてその分析を頼んだのは他でもない優一郎なのだ。果穂が弾き出した分析結果は既に優一郎の手の中にある。なるほど、と笑って優一郎は頷いた。

 

 果穂がなぜ近づいてきたのかは判っている。彼女は優一郎を利用して木村に対抗しようとしているのだ。優一郎の研究成果を武器に木村に殴りこむ。プランとしては面白いかも知れないが、それを実行するにはかなりの無理がある。それにそのプランは優一郎が気づいていない状態でなければ成立しない。

 

 つまりは無理なんだけれどね。優一郎は心の中でそう呟いた。大事な人形のデータをそう簡単に外部に流す気はない。それでは自分だけの人形であるという意味がなくなってしまう。誰でもが簡単に手に入れられるものを作ったつもりはないのだ。

 

 自分だけのものだからこそ価値がある。他の誰にも真似できないからこそ、大切な人形でいられるのだ。出来の悪いコピーのような人形が世の中にひしめくくらいなら、最初から研究は公表しない。優一郎はそう思いながらふっ、と笑った。

 

「彼女も調整が必要かも知れませんね」

「そうですね。きっと果穂も喜ぶでしょう」

 

 そしてきっと保美は妹である果穂を食いたいと願っているのだろう。優一郎は苦笑して保美にそうだね、と応えた。

 

 保美は人がタブーとする形での性交を好む性質がある。そして保美は己の快楽を満たす為であれば果穂をも利用するだろう。ある意味では人形の中でもっとも冷徹なのが保美なのだ。

 

 保美に見送られて優一郎たちは地上へ出た。月光が静かに降り注いでいる。優一郎は水輝の手を引いて歩いた。

 

 空調のない外はむっとするほどの湿気がある。初夏特有の空気を肺いっぱいに吸い込んでみる。夜の湿った空気を吸い、静かに吐く。優一郎は何度かそれを繰り返した。ふと振り返る。すると水輝はぼんやりとした顔つきで月を見上げていた。

 

 まだ月は東に傾いている。生徒たちの声はもうないが、深夜にはまだ時間がある。優一郎は小さく息をついて足を止めた。水輝も黙って立ち止まる。優一郎は無言で目の前にある扉を叩いた。だが返事がない。当り前か、と笑って優一郎はドアの脇にあった呼び鈴を押した。

 

 小さな電子音が響く。そして重い扉は内側から開いた。




ちらちら出ている保美ですが。
このキャラはしぶとく長々と出てきますw
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