エロシーンはありません。
「待ちなさい!」
何も判らないままで帰られるのは困る。科学部の施設内を勝手に探られる訳にもいかない。どちらにしろ、二人をこのまま行かせるのは得策ではないだろう。絵美佳は必死の面持ちで二人を引きとめようとした。絵美佳の思いが通じたのか、ドアをくぐったところで優一郎が振り返る。水輝も廊下に出たところで立ち止まった。
「どうしますか? 別に、僕は姉さんの許可を得なくても、なんとかなりますけど。姉さんのほうは迷惑なんじゃないんですか?」
つまり義理を果たすために伺いを立てたということか。絵美佳は心の中でそう呟いて皮肉な笑みを浮かべた。巴の新しい機体は大至急必要だ。そして多輝の身体も絵美佳にはどうすることも出来ない。絵美佳はそう考えてからため息をついた。
「仕方ないわね。多輝の身体、見せるだけなら見せてあげるわ」
今の水輝は使い物にはなっていない。優一郎も絵美佳の制止を振り切って多輝を連れ帰ることはあり得ない。そう判断して絵美佳は優一郎に駆け寄り、顎をしゃくった。何か言いたそうな顔をしている優一郎の脇を抜けて先を歩く。
多輝と巴の身体は同じ部屋に保管されている。そう説明しながら絵美佳は廊下を進んだ。絵美佳以外の部員には出入りを禁じている部屋へ向かう。優一郎も最初は戸惑っていたようだったが、説明しているうちに合鎚を打つようになった。水輝は相変わらず静かに優一郎について歩いている。
そして絵美佳は一つの部屋の前で立ち止まった。指紋照合タイプの鍵を開ける。絵美佳は真っ先にドアの傍にあるスイッチを入れて明かりを灯した。暗かった部屋が徐々に明るくなっていく。広い部屋の壁際に二つ並んでいるのが、二人が入っている保管用のカプセルだ。カプセル内部は常に温度が一定に保たれている。特殊な気体を満たしてあるために、肉体に及ぼす影響は殆どない。言わば、カプセルの中の時間だけが殆ど止まった状態なのだ。これなら巴の機体が不用意に劣化することもないし、多輝の肉体の異変にも即座に対応できる。もし、今すぐに多輝の精神が戻ってきても、何ら問題ないように肉体は管理されているのだ。
部屋の中に入った優一郎が真っ先にカプセルに向かって歩いてくる。多輝の傍に立っていた絵美佳は目でカプセルを示した。優一郎が興味深そうにカプセルを覗き込む。水輝は黙ったまま、そんな優一郎の背後に静かに控えている。ちらりと水輝を見やり、絵美佳は再びカプセルに目を戻した。
「特別注文した保管用カプセルよ。この中でなら老化を遅らせることができるの。あんたが思ってるよりはまともに管理してるつもりなんだけど」
挑戦的な言葉を吐き出しながら絵美佳は優一郎を見下ろした。優一郎は屈んでカプセルを覗き込んでいる。絵美佳の言葉にもそうですか、と単調に返してくるだけだ。絵美佳は舌打ちをして優一郎のシャツの首の部分を引っ張った。急に強く引かれた優一郎が呻きを上げて頭を上げる。
「聞いてんの?」
「ええ、聞いてます。だからそんなに引っ張らないで」
苦しそうに呻く優一郎から無造作に手を離す。すると優一郎はよろけてカプセルに手をついた。乱れたシャツを直しながら身体を起こす。ため息をついた優一郎を見ながら絵美佳は鼻で笑った。変に熱心に多輝を見ているからそんなことになるのだ。そう告げると優一郎が困ったような笑いを返す。
しばらくはカプセルの機能の説明をした。その間、水輝はただぼんやりと優一郎の傍に立っているだけで、話にもカプセルにも興味を示していなかった。もしかしたら今の水輝は優一郎の姿しか捉えていないのかも知れない。その絵美佳の思いを肯定するかのように、水輝は優一郎が動けばその後を追う。何も言われなくてもだ。絵美佳は怪訝に思ったが、大したことではないだろうと放っておくことにした。
どうせ多輝を攫うことが出来ないのなら放置しておいても無害だろう。力のない水輝であれば、恐れることも警戒することもない。最初は緊張していた絵美佳は、時間が経つにつれて警戒心が薄れていった。
優一郎はどうやら多輝の肉体が安全に保管されていると知って安心したらしい。ここにあることは判っていても、どんな状態なのかが判らなかったのだろう。そう思った絵美佳は優一郎を疑うことよりも、カプセルの説明や巴の事情を話すことを優先させた。当然の選択だと思ったからだ。
三十分ほどそれらの話をした時、絵美佳は言いようのないもどかしさを覚えた。優一郎は自分と同じく、科学者を目指す者だ。絵美佳の説明も一度で理解できる程度の知識は持ち合わせている。だから、優一郎に対して不安を感じることも、まして不満を覚えることもない。話の聞き手としてこれ以上はないほどの相手の筈だ。
話を続けながら、絵美佳は話とは全く関係ないことを考えていた。どうしてこんなにもどかしく感じるのだろう。そう思いながら絵美佳はさりげなく水輝を見やった。だが水輝も特に何かをしている訳ではない。ただじっと優一郎の傍に控えているだけだ。
じゃあ何がもどかしいのかしら。絵美佳はそう自問した。だが答えが判らない。無意識のうちに絵美佳は説明を止めてしまった。だが優一郎はそんな絵美佳を責めなかった。疑問にすら思っていない様子で絵美佳を見つめている。絵美佳はその視線に気付くことも出来ないまま、身体の中で大きくなってくるもどかしさに困惑した。
エロ何分前とかいう感じですかね。