あ、エロシーンはないです。
「やだなあ、そんなに睨むことないじゃない? 心配しなくても襲ったりはしないからさあ」
呑気に笑いながら男は多輝の傍にわざわざ椅子を引っ張ってきた。拒否する暇もなく男が間近に座る。多輝は鋭く男を睨みつけてから翠に目をやった。だが翠は無言のままだ。どうやら説明してくれる気はないらしい。
「あー、無理よ、無理。このヒトは説明なんてしてくんないから」
多輝の思っていたことを読み、男が笑いながら告げる。多輝は訝りの眼差しを男に向けた。どうして判るのだろう。だがそう訊く前に男が続けた。
「多輝ちゃんって無防備だからさあ。こー、考えてることが全部筒抜けになってるんだよねえ」
こめかみの辺りを指しながら笑う。そんな男を見ていた多輝は驚きに目を見開いた。つまりは男も人ではないということだ。自分の予測は間違っていないという安心感と、それとは別に異質感を覚える。確かに男は人ではないかも知れない。だがどうしても自分と同質のものとは思えないのだ。
多輝はその辺りの疑問を口にしようとした。だが先手を取って男が喋りだす。
「このヒト、ぜんっぜん説明してくんなかったわけね? なるほど。要するにオレは説明役を務めるためにわざわざ起こされたって訳なのかな?」
男は今度は翠に目を向けて笑った。すると翠が無言で肩を竦める。どうやら肯定の意らしい。多輝は呆れて翠と男を見比べた。
「それはそうと、どうしておれのことちゃんなんて呼ぶんだよ、てめえ」
さっきから腹の立っていたことを先に告げる。怒りを露にしている多輝を見やり、男はくすくすと笑い出した。
「えー。だってオレからすれば多輝ちゃんってずうっと年下なんだよ? ちゃんって言っても変じゃないと思うけどなあ」
「そうじゃなくて! おれは男なんだから」
そこまで言って多輝ははたと気付いた。そういえばこの機体は女のものだ。つまり、見かけは完全に女に見えるのだ。ここで幾ら自分が男だと言ってみても誰も納得しないだろう。多輝は冷や汗をかきながら恐る恐る男を見た。案の定、男は不思議そうな顔をしている。
「あのさあ。どうも誤解があるようだから言っとくけど」
男はそう言いながら指先で多輝の額を軽く小突いた。
「そもそも、龍神の性別なんてとおってもいいかげんなんだよ?」
「いいかげんなのではない。融通が利くだけだ」
すかさず翠が口を挟む。多輝は怪訝な顔をして二人を見比べた。男はあっそ、と軽く笑って多輝に向き直る。翠はと言えば、多輝の方すら見ることはない。男の発言の間違いを正したかっただけらしい。多輝は引きつりながら男に目を戻した。
「……もしかしてその辺のことも知らない?」
疑うような眼差しを受け、多輝は何となく頷いた。すると男が困ったような笑いを浮かべて息をつく。多輝は困惑して思わず助けを求めるように翠を見た。だが翠は多輝と目も合わせず立ち上がり、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「あのさ、ひょっとしておれって翠に嫌われてんの?」
音もなく閉じたドアを見つめたまま、多輝は小さな声で訊ねた。男はうーん、と考えてから首を横に振った。
「それはないんじゃない? だってキミ、名前呼んでも平気みたいだし」
「は?」
「だからさ。あいつの名前。呼んでも何も言われなかったっしょ?」
ちなみにオレは駄目みたいだけどね。男がそう付け足して笑う。多輝は意外な気がして目を丸くした。つまり、名前を呼んでも怒らない程度には好かれているのか。勝手にそう結論づけてみる。すると男がそうそう、と隣で笑った。
男は順と名乗った。どうやら木村財閥のトップに位置しているらしい。そのことを聞いた多輝は飛び上がりそうなほどに驚いた。おれを人質にとって立城を脅迫しようとしても無駄だぞ。先にそう喚いた多輝を順は穏やかに制した。
「そんなつもりはないってば。第一、そんなことしたらあのヒト、オレを半殺しにしかねないもん」
順の言う『あのヒト』というのが誰を指しているのか判らないが、とにかくそのつもりはないらしい。そのことだけは多輝にも理解できた。
それからの順の話は長かった。途中、お茶を淹れてくれた時間を除けば、殆ど順は一人で喋りっぱなしだった。多輝の質問には後でまとめて答えると先に言っていた通り、順は最初にずらりと龍神についての説明を並べたのだ。
この時の多輝は順の話を聞くのが精一杯で、理解できるところまでには至らなかった。まるで物語を聞いているようにも思えた。けれどそれは順が悪いのではない。順は判りやすく丁寧に説明をしてくれたのだ。理解出来なかったのは話の内容が大きすぎたためと、理解したくないという多輝の心の願いが原因だった。
そのことを後に多輝は自覚することになるが、この時は考える余裕もなかった。流れる順の声を耳に入れ、物語を頭の中に叩き込むのがやっとだ。到底、話について自分の意見を挟む余地もない。
そして、長い話を聞いている間に別の場所で起こっていたことなど……多輝には全く感知できなかったのだ。
もう少しでラストです。
……はー……次はアレか……。
作品説明とかどうしよう(泣)