※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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エロシーンはないです。


以下、Q&Aから抜粋です。


Q.修正はどの程度してるの?

A.しようと思いましたが、出来ませんでした。

 修正しようとすると虫酸が走り、発狂しそうになるという事態に陥りました。
 昔の原稿を読むこと自体が地獄でした。
 なので、ヤケクソでそのままアップします。
 ドヘタなので駄目な人は是非回避してください。


一章
新しい春


 退屈な春休みが終わる。桜の季節になると新学期が始まる。多輝は大きな欠伸をしながら桜の花びらの散る小道を歩いていた。同じ制服に身を包んだ生徒たちが多輝の横をすり抜けて駆けて行く。あれは新入生かな。走りすぎた女子生徒のスカートを眺め、多輝は薄く笑った。

 

 春休みの間は大して面白いことはなかった。いつも通り街に出かけて、いつも通りに女を引っ掛ける。飽きれば女を替える。だがどんなに相手が本気になっても多輝は相変わらずだった。それほどの興味を相手に抱けない。結局は暇を潰すために一緒に遊んでいるだけで、それ以外の感情など持てる筈もない。多輝は春休みの間に出会った女たちのことを思い出して苦笑した。もう、顔も殆ど覚えていない女ばかりだ。中には同じ高校の女もいた気がしたが、自分にとってはそんなこともどうでもいい。多輝はゆっくりと小道を歩きながら伸びをした。

 

 全学年のクラス編成は正面玄関付近に張り出されている。多輝も周囲の生徒たちの流れに従って編成を確かめに行った。三年生の表を見やる。清陵高校の三年生のクラスは理数系、文系と単純には分かれていない。それは二年生、一年生も同様だ。一年生の間は生徒の能力を見極める年とされている。そして二年生に上がるとクラス編成は大幅に変更される。必要に応じてクラス分けが為されるため、少人数のクラスも出来る。だから一学年に何クラス、とは決まっていない。全ては生徒の能力、資質に応じて変更されていく。

 

 そして三年生になると、二年生の時より更に専門分野別にクラスが分かれる。隣のクラスの授業内容が全く判らない、などということも当り前になる。

 

「ええと……」

 

 多輝はいち早く自分の名前を見つけ、その場を離れようとしていた。だが傍で一生懸命に背伸びをしている女子生徒が目に留まる。多輝は生徒たちの輪の中でぴたりと動きを止めた。

 

 見慣れない顔だ。そういえば最近、校内の女子のことはあんまり気にしてなかったなあ。多輝は内心でそう呟いて隣の女子生徒を眺め回した。廊下ですれ違ったら一度で覚えてしまいそうな、印象的な女子生徒だ。顔立ちの美しさも際立っているが、何より気になったのは女子生徒が放っている妙な波動だ。

 

「どしたの? クラス、わかんねえの?」

 

 多輝は何気ない素振りでその女子生徒に話し掛けた。すると困惑していた女子生徒の顔がぱっと明るくなる。襟章を見ると、どうやら新一年生らしい。急に上級生に話し掛けられたことに動じることもなく、女子生徒は多輝に頷いた。

 

「あの、わたし、きざきともみって言うんですけど」

「木崎? 木崎はいいとして、ともみってのはどういう字だ」

「あ、あの、智美……こういう字ですっ」

 

 智美は多輝の手をいきなりつかみ、手のひらに字を書いてみせた。智美。多輝はそれを読み取って苦笑した。一年生の名前が並んでいる表に目をやる。その間も智美は多輝の手をしっかりつかんでいた。逆ナンかよ。心の中でそう笑いながら多輝は表を指差した。

 

「四組じゃねえの? ほら、名前があるぜ?」

 

 そう笑った多輝に智美は慌てたように頭を下げた。四組、と何度か呟いている。最初に感じた不審な波動が途端にかき消える。多輝は片方の眉を上げ、黙って智美を見下ろした。

 

 自分が人ではないことを知ったのは、去年の秋のことだった。人にはありえない力を使うことも出来る。目に見えない力を使うことは、呼吸をするのと同様に多輝にとって自然なことになりつつある。だが多輝は未だ、自分が何者なのかを理解できていなかった。教えてくれそうな唯一の相手は海外に出張に行っているし、最悪のめぐり合わせで出会った水輝という青年は、ずっと姿を見せない。結局、多輝は人でないことだけを突きつけられ、力の使い方を覚えるまでが精一杯だったのだ。

 

 その力を使えば人の思考をある程度まで読むことも可能だ。読む、と言っても表層的なものに限られるが、それでもさっきまでの智美の発していた波動は妙だ。多輝は無意識に智美をじっと見つめていた。すると知美が急に赤くなる。

 

「あ、あの、ありがとうございました。おかげで助かりました」

「あ? いや、別にいんだけどさ」

 

 上の空で答え、多輝は智美の目を覗き込んだ。周囲の生徒がざわつき始める。だが多輝は全くそれを気にしなかった。至近距離まで智美に顔を近づける。

 

「雨宮先輩、おはようございます」

 

 急に背後から声がかかる。多輝はびくりと身体を震わせて恐る恐る振り返った。よく知る顔がそこにある。にっこりと笑っている吉良優一郎の姿を見止め、多輝は顔を引きつらせた。優一郎の隣にはいつもの通りに吉良瀬斎姫が立っている。それぞれの顔を見やり、多輝は何気なく智美の手を離した。すると智美は慌てたように走り去って行く。その姿を見て多輝はため息をついた。

 

「朝から不吉な奴め。おかげで女、逃がしただろうが」

 

 不機嫌な顔で告げると優一郎は穏やかな微笑みを浮かべてクラス分けの表に目を転じた。そのまま声をかけてくる。

 

「新入生は雨宮先輩の噂を知りませんからね。フェアじゃないでしょう?」

 

 明るくそう言いながら優一郎は頷いている。どうやら自分のクラスを探し当てたらしい。隣で斎姫が頬を染めているところを見ると、二人は同じクラスになったのだろう。多輝は肩を竦めて優一郎にうるせえ、と返した。

 

 優一郎の告げた噂というのは多輝の悪名のことだ。今はもう、すっかり大人しくなってしまっているとの噂も流れているが、多輝は以前、カップルの仲を壊すことを趣味にしていた。男のいる女子生徒をターゲットにしていたのだ。

 

「最近はやってねえだろ。お前も昔の話をいつまでも……」

「先輩がそう言うなら、そういうことにしておきましょう」

 

 あっさりそう言って優一郎は多輝に向き直った。にっこりと笑ってから会釈する。その場を後にした優一郎に続くのは斎姫だ。斎姫は今ではもうすっかり優一郎の彼女ということで知られている。だが、学校内に斎姫の正体を知る者は少ない。

 

「ま、いっか」

 

 多輝はそう呟いて別の生徒に場所を明渡した。脱靴場で靴を履き替え、教室に向かう。三年生のクラスは西校舎の二階に並んでいる。二年生は校舎の三階、そして一年生は四階を使う。多輝は階段を昇りながらぼんやりと思い出した。

 

 目標を捕捉しなければ。

 

 智美の波動からはその思いが読み取れた。あれは一体、何だったのだろう。表層意識にしては奇妙だ。ゲームのことでも考えていたのだろうか。だがそれならゲーム画面の様子が一緒に見えたりする筈だ。多輝は首を傾げながら廊下を歩いた。三年一組は廊下の一番端、食堂にもっとも近い普通教室だ。教室の北には脱靴場とは別に階段がある。そこを一階分降りれば、食堂は目の前なのだ。

 

「変な女だったなあ。ま、別におれには関係ないか」

 

 多輝は呟きながら教室の扉を開けた。見知った生徒に挨拶をして自分の名前を書いたシールが貼られた席を探す。窓際にその席を見つけた瞬間、多輝は嫌な予感を覚えた。ゆっくりと振り返る。

 

「おはよう! 多輝。これから一年間よろしくね」

「何でお前がここにいる!」

 

 多輝は笑顔で挨拶してきた女子生徒に指を突きつけながら怒鳴った。その生徒は吉良絵美佳。先ほど会った優一郎の姉だ。だがしかし、絵美佳は去年、三年生だった。その筈だ。多輝は何度もそうだよな、と心の中で確認してから絵美佳を睨みつけた。だが絵美佳はけろりとして多輝の隣の席に座っている。机を見ると、確かに絵美佳の名前が記されていた。

 

「あはははは。深いことは気にしないよーに」

 

 手を軽く振りながら絵美佳は呑気にそう告げた。多輝は鞄を机に叩きつけ、乱暴に椅子を引いた。身体を投げるように椅子に腰掛けて窓に寄りかかる。

 

「絵美佳……おれの教えた現代国語は? 英語は? 日本史は? まさかと思うが、赤点取ったんじゃあるまいな?」

 

 絵美佳を指差しながら多輝はそうまくし立てた。だが絵美佳は多輝の声にも全く動じない。それどころか笑ってすらいる。

 

「だから、友人Kの心情を答えよとかいわれても、あたしにはわかんないってば」

 

 誰が恥をしのんでノートを借りに行ってやったと思うんだ。多輝はそう怒鳴りたい気持ちを押し留めた。幾ら言っても絵美佳には通用しないだろう。

 

 以前、この学校に通っていたという知り合いに多輝はノートを借りに行ったのだ。幾ら多輝が勉強が得意だと言っても、当時、相手の絵美佳は三年生だ。多輝にも判らないところだって出てくる。だからせめてノートだけでもあれば教えやすいと思った。それなのに、と多輝はそこだけ呟いた。

 

「おれの冬休みをどうしてくれるっ」

 

 多輝は机に突っ伏して呻いた。だが絵美佳は気軽にそんな多輝の背中を叩く。

 

「別に、あたしもう、学位ならもってるし。無理して高校卒業する必要ないし。ネットで学位くれるなんて、アメリカの大学は融通が利くから好きよ」

 

 笑いながらそんなことを言ってくれる絵美佳に、多輝は心底疲れたため息をついた。




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