赤いじゅうたんの敷き詰められた玄関は静まり返っていた。水輝は足音を殺してカーペットの上を歩いた。もしかしたら気を遣わなくとも音など吸収してしまうかも知れない。そう思いながら目を落とす。毛足の長いじゅうたんは毛並みの揃った動物の毛皮のような印象がある。
小高い丘の上にある巨大な洋館。水輝は玄関からその中へと侵入していた。ぼんやりとした明かりが壁際に灯っている。どうやら蝋燭の火を使っているらしい。水輝は舌打ちをして廊下を進んだ。まるで誰もいないように洋館の中は静かだ。水輝は抜き身の刀をぶら下げたまま、先を急いだ。
外の雨の音が遠くに聞こえる。水輝は大きな扉を一つずつ開けた。中を覗いて誰もいないことを確かめては扉を閉じる。その繰り返しだ。一階の部屋だけでも幾つあるのだろう。水輝はうんざりしながら部屋の一つずつを慎重に確かめていった。
ここを直接、ぶっ壊すってのはなし? 水輝はここに入る前に優一郎にそう訊ねた。だが優一郎は苦笑して首を振った。木村財閥の屋敷には得体の知れないものが数多く眠っている。いきなり屋敷を壊してしまって、もしも眠っていた虎の子を起こすことになっては困る。そう告げた優一郎を思い出して水輝はため息をついた。なるほど、立城が保護していただけあって、なかなかのつわものらしい。優一郎は言うこともしっかりしているし、水輝を納得させるだけの説得力もあった。
「ま、いっけどさ。どうせ誰もいないみたいだし」
水輝は一階の部屋を調べ終わって玄関に戻った。大きな階段が玄関から二階の廊下に続いている。水輝はそれを見上げて苦笑した。ゲームならここでセーブしたいところだ。内心でそう呟いて階段を上がり始める。
立城は今、ここを離れている。とても遠いところに行ってしまっているのだ。どうすべきかの判断を委ねる訳にはいかなかった。水輝はゆっくりと二階の廊下を行きながら苦笑した。
誰もいない。もしかしたら水輝を迎撃するために屋敷の人間が全員で襲い掛かってきたのかも知れない。水輝は静かに二階の部屋を探り始めた。暖炉のあるリビング、絵画の飾られた部屋、ピアノなどの楽器が設えられた部屋。広々とした部屋は用途別に設備が整えられている。大きな硝子窓のはめ込まれたティーサロン、そして何故か座敷牢までがある。水輝は黙ってそれらの部屋を確かめていった。
木村の繁栄の裏には多くの人の血が流れている。そのことが表沙汰になったことはない。常にどういう方法でかもみ消されているという。だが、どうしても関係者全員の口を塞ぐことは出来ない。自然と木村の黒い噂は裏社会に流れて出た。
まあ、おれには関係ないけどな。水輝はそう呟いて二階の一番奥の部屋の前で足を止めた。一際、大きなドアが水輝の行く手を阻んでいる。水輝は素直にドアノブに手をかけた。だがここにだけ頑丈に鍵がかけられている。
「へえ。わざとらしいけど、ここがそうなのかな」
水輝は嗤いを浮かべてドアから少し離れた。担いでいた刀を両手に握る。大きく息を吸い、水輝は強く一歩、踏み込んだ。振り下ろした刀を通じて水輝の力がドアに流れ込む。刀に突かれたドアは一瞬で砕け散った。
ドアの破片の隙間から光が見える。それと同時に水輝は部屋の中に飛び込んだ。
こんな感じで色んな視点が挟まってきます。
登場人物が増えるとそれだけ視点者が増えるのですが、あくまでも三人称なので読みづらかったらすみません(汗)