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ゆっくりと身体を起こして周囲を見回す。多輝はぼんやりとした目でしばらく部屋の様子を見つめていた。天井から下がっているモビールが風もないのに揺れている。それを見上げ、多輝は腕を上げた。指先をモビールに向ける。軽く力を送ると銀色のいるかが勢いよく回った。
頭がぼやけている。多輝は息をついてベッドから抜け出した。ここに来て三日。もう大分、身体にも慣れた。多輝は薄いネグリジェを脱ぎ捨て、ハンガーにかけてある服を手に取った。ストッキングを穿いてガーターベルトをつける。下着をつけ、ブラウスに腕を通す。短いスカートを穿いてエプロンをつける。最後に頭にフリルつきのヘアバンドをつけてから多輝は顔を上げた。姿見に自分の姿を映す。
見たことのない女だ。そう思いかけて多輝は苦笑した。端正な顔立ちはどことなくあの夜に見た青年に似ている。そう、水輝と名乗った青年だ。今の多輝は自分が人以外だと自覚した夜のことをはっきりと思い出していた。強制的に快楽を与えられたことも、目の前で絵美佳を犯されたことも、何もかもだ。思い出しながら多輝は歯を食いしばった。見ていた筈なのに何も出来なかった。その悔しさだけがある。
多輝は力を込めて鏡を殴りつけた。だがすぐに思い直す。このままではまずい。多輝は一度はつけたヘアバンドを外して頭を振った。寝ていたために乱れた髪に櫛を入れる。丁寧に髪を漉いてから、改めてヘアバンドをつける。
絵美佳が特別に好きだったのかと訊かれたら、多分、違う。多輝はぼんやりと姿見を眺めながら苦い笑いを浮かべた。優一郎に言われた通り、確かに自分は女を好きになったことはない。単純に、守れなかったという事実が悔しいだけだ。
あいつ、おれがこんなになったって知ったら少しは悲しむかな。そう思ってから多輝は小さく笑った。どちらでもいいと思う。一度、守り損ねているのだ。その絵美佳がどう思っても仕方がない。多輝は顔を上げてドアに近づいた。
ドアに手のひらを当てる。力を流すとドアは静かに開いた。厳重に封印されたドアを抜け、多輝は静かに廊下を歩いた。そして優一郎の私室の前に立つ。
ノックすると中から返事があった。多輝は極力、音を立てないようにしてドアを開いた。机に向かっていた優一郎がこちらを向く。多輝はドアの外に立ったまま、黙って優一郎を見つめた。
「先輩、どうかしました?」
手にしていた本を置き、優一郎がにっこりと笑う。多輝は一瞬、歩きかけて思い止まった。ため息をついて伏せていた目を上げる。
「お前が行って来いって言ったんだろ? 例の女子校に。行くんなら早い方がいいと思ってな」
そう告げると優一郎が首を傾げた。多輝の身体を上から下まで眺めてから小さく笑う。だが多輝は微動もしなかった。優一郎の近くにいるだけで身体が熱くはなる。だが、何とか耐えられる範囲だ。
「もう、身体には充分慣れましたか?」
「大丈夫じゃないか?」
多輝は小さく笑って指を鳴らした。優一郎の机の上にあった本のページが、風もないのにめくれていく。多輝は続いて指を鳴らした。すると本が静かに閉じる。黙ってその様子を見ていた優一郎が苦笑した。
「超能力のアシストシステムも充分使いこなせるみたいですね」
「ま、一度覚えればな。後は加減の問題だろ? とりあえずこの機体が壊れないように気をつけるさ」
そう言って多輝は素早く身を翻した。行ってくる、とだけ告げる。そのままドアを閉めようとして、ふと多輝は振り返った。優一郎はまだ多輝を見つめている。その視線を受け止め、多輝は思わず目を細めた。
「悪い。絵美佳にだけは言ってもいいか? おれがこんなだって」
身体が熱い。多輝はだがそのことを全く表情に出さなかった。静かに優一郎の返事を待つ。優一郎は少しの間、考えるように目を伏せていたがやがて顔を上げた。
「そうですね。あの人には言ったほうがいいかもしれません」
昨日の夜、優一郎はストッパーだと言って多輝の膣の奥に一つのカプセルを埋めた。おかげでどんなに身体が疼いても愛液が零れることはない。多輝はそのことに内心で苦笑した。
身体の疼きは耐えればいい。多輝は心の中で呟いて判った、とだけ告げた。そしてドアを閉じる。完全にドアが閉まってから、多輝は静かにそのドアに寄りかかった。声にならない声で笑いながら額を覆う。
この機械の身体にいつの間にか馴染んでいる。女としての感覚にも徐々に慣れつつある。数日前まではとても考えられなかったばかげた話だ。多輝はひとしきり笑ってからドアにもたれていた身体を起こした。ゆっくりと歩き出す。
去年のあの日、自分が何をしたのかを多輝は思い出していた。優一郎と過ごした二日間の中で凍り付いていた記憶がじわじわと溶けたのだ。あの日、自分は斎姫を犯した。しかも優一郎の目の前でだ。立城に大事に守られていた斎姫が憎くてたまらず、多輝は本能のままに斎姫を抱いたのだ。そして斎姫は多輝に処女を奪われた。
多輝はゆっくりと進んだ。研究室を横目に見ながら通り過ぎる。エレベーターの前に立った多輝は、静かに振り返った。自分のいた部屋が奥にある。
それを思い出した時、多輝は愕然とした。ばかにしていた斎姫と同様に自分も機械の身体になってしまっているのだ。しかも優一郎に欲情する。そのことに多輝は耐えられなくなった。少しでもいい、現実を忘れられるようなことをしていたい。そう言った多輝に優一郎が与えた初めての任務が女子校の潜入捜査だった。多輝は夢中でその話に飛びついた。このままここにいたら、きっと自分は壊れてしまう。そう思ったからだ。
額に指を当てる。小さな痺れが身体の奥に生まれる。多輝は苦い笑みを残し、地下施設から転移した。
こんなシーン書いたっけか……と思いながらアップしてみます(汗)
直してません!(居直り