智美は一気にまくしたてて息をついた。穏やかな日差しの入る午後、生徒会室には会長の要と二人のボディガード、そして智美がいた。
これで報告は終わりよね。智美はゆっくりと顔を上げた。真正面に座る要は静かな面持ちでレポート用紙をめくっている。智美が昨晩、必死で作成した科学部についての報告書だ。当然、同じものを主人にも送ってある。
「……よく判ったわ。大変、詳しく書かれていて判りやすい内容だったと思うわ。……紫芋については」
そう言って要はレポートを机に放った。ため息をつきながら額を押さえている。智美は慌てて腰を浮かせた。具合悪そうな要の様子を伺う。だが要は息をついてなんでもないわ、と呟いた。
そう。智美が合宿でしていたことの中で理解出来たのは、紫芋についてだけだった。絵美佳との他の会話については殆ど理解できなかった。他の部員については特に変わったところもなく、智美と一緒に芋掘りをしていたのだ。他にどう書けというのだろう。智美は要を心配しつつうろたえた。
だが科学部の使う施設の構造だけは頭に入っている。智美がレポートの最後に添付した図を眺め、要が息をついた。
「これが地下施設……。随分と広かったのね。入り口は一つだけ?」
要が静かに問い掛ける。智美はぱっと明るい顔になり、力強く頷いた。
「はいっ。あたしが確認したところによると、一箇所だけですっ。でも、その一箇所も部長でないと開けられません。部員はみんな、携帯で部長に連絡して内側からドアを開けてもらうんです」
そう言ってから智美は絵美佳のことを思い出した。合宿の最後の日、絵美佳はやけに落ち込んでいた。合宿中ずっと眠れなかったらしいが、最後の一日はさらに酷い有様だった。実験中に火傷はするし、その後に器具を取り落として壊したり、しまいには使用していたコンピュータの操作を誤り、入っていたデータの一部を飛ばしてしまったらしい。智美はそのことを思いながらため息をついた。
放課後のこの時間は帰る生徒で校舎の周りは賑わっている。智美はちらりと窓の外を見やった。今日もきっと科学部の活動はある。絵美佳には連絡先を聞いておいたので行けば地下には入れてくれるだろう。確かに科学部の所有する地下は広いが、結局はさほど怪しいとは思えなかった。これ以上、彼らに深入りしてもいいのだろうか。智美はぼんやりとそう考えた。必要がなければ関わらない方がいい。だがそう思う心のどこかで絵美佳たちと離れがたいと感じている。
やっぱり最初から科学部には関わらない方が良かったのかなあ。智美は心の中でそう呟いた。ふと、目を戻す。要が眉間を指で押さえてため息を吐き出した。
「とにかく調査を続行していただけるかしら? これだけではわたくしには何も判らないわ。木崎さんはお嫌かしら?」
「い、いえ、そういう訳ではないんですけどぉ」
だが曖昧に笑った智美を見つめていた要の目が鋭くなる。智美は思わず笑いを引っ込めた。要は穏やかに微笑んでいる。だが目は智美を睨んでいるのだ。
「あ、あのお」
「とりあえず科学部員のデータが欲しいわ。こちらもある程度は生徒のデータを把握していますけれど、完全なものではないんですの」
さらりと告げて要はにっこりと笑った。智美は断る術を見つけられず、仕方なく頷いた。どうせ主人にも詳しい状況を報告しなければならない。ついでといえば言える。智美は要の指示に従うことにした。
でも、どうして生徒会長は科学部にこだわるのだろう。別に施設自体に大きな問題がある訳ではない。そのことは説明した。なのにまだ要は納得していないようなのだ。智美はそのことを考えながら生徒会室を後にした。直接、要にそのことを問うのは怖かった。
当時、作者が紫芋が食べたかったんだと思います。