※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

58 / 174
エロシーンはまだ来てないかも? ですね。
保美の中では色々エロなんですが。


コーヒーサーバーと保美 2

「コーヒーを淹れたの。一緒にいかが?」

「仁科先輩……。ありがとうございます」

 

 弱々しい声で答え、斎姫はすんなりと保美に道を開けた。保美は軽く頷いて研究室に入った。斎姫がドアを閉め、テーブルに広げられていたノートパソコンの蓋を閉じる。どうやら玲花の報告書を作っていたようだ。保美は黙って片付ける斎姫の後姿を眺めていた。

 

「あの……優くんは?」

 

 ためらいがちに目を上げて斎姫が訊ねる。保美は片付いたテーブルにトレイを乗せ、静かにコーヒーを斎姫の前に押し出した。

 

「吉良部長は新しい機体の研究をしていらっしゃるみたい。大変よね。ここのところずっと忙しいとも仰ってたし」

 

 新しい機体を使っているのが誰なのかを優一郎は言わなかった。ということは、恐らく訊いてはならないことなのだ。保美はそう割り切っていた。どちらにしろ、新しい仲間が増えることには違いない。そうすればまた新しい実験も行われる。保美にとってはそのことだけが重要だった。

 

 だが斎姫にとっては意味が違ってくるらしい。目を潤ませて俯いてしまう。

 

「そう……ですか」

 

 そう言いながら斎姫は大人しく椅子に腰を下ろした。腕に抱えていたパソコンを隣の空いた席に乗せる。保美は苦笑しながら斎姫の前に腰を下ろした。トレイから籠を取り上げ、斎姫の方に寄せる。

 

「斎姫さんは辛いでしょうね。吉良部長に一番、気にかけて頂いているのですもの。だから急に放り出された気がするのでしょう?」

 

 哀しそうな笑みを浮かべ、保美は斎姫の顔を覗き込んだ。斎姫がためらいがちに目を上げる。その視線の先に保美は菓子の入った籠を押し出した。

 

「こんな風じゃいけないって解っては居るんです。もっと、優くんに負担をかけないようにしなきゃって。でも……」

 

 話の出来る相手を見つけたためか、斎姫はいつもよりも饒舌になっている。保美は静かな笑みを浮かべながら黙って頷いた。目で籠を示すと斎姫がためらいながら菓子に手を伸ばす。細い指がクッキーを取り上げたのを見て保美は小さく頷いた。

 

「いけないということはないと思うわ。だって斎姫さんの身体はとても美しい作りだと思うもの」

 

 優一郎に絶えず欲情する身体も、支配された精神も、そして機械らしい女性器も素晴らしい。保美はその思いを込めてそう告げていた。斎姫が困惑した顔で手を止める。だが思い直したように息をつき、指に挟んでいたクッキーを口に運んだ。

 

 研究室はとても静かだ。斎姫のクッキーを噛む音が微かに保美の耳に届く。通常では拾えないほどの小さな音だ。保美は斎姫の発する音に耳を澄ませていた。口の中で唾液とクッキーが混ざる音がする。それは聞いているだけで保美の興奮を煽った。

 

「仁科先輩だってとっても綺麗です。それに、わたしよりも……」

 

 クッキーを飲み下して斎姫が小さく告げた。保美は微笑みながらコーヒーカップを手に取った。温かいコーヒーを少しだけ啜る。

 

「私は斎姫さんの機体はとても素敵だと思うわ。きっと吉良部長も愛らしいあなたをとてもお気に召しているんじゃないかしら」

「ですけど、わたし、自分が優くんに相応しいとは思えないんです」

 

 斎姫は涙ぐんで声を震わせた。今まで誰にも打ち明けたことのない想いなのかも知れない。保美は頷きながら斎姫の話を聞いた。

 

 斎姫は特別だ。自分たちの中で唯一、優一郎でない誰かに作られている。だがそのことを斎姫は人形である自分たちにひた隠しにしている。きっと不安なのだろう。保美はあらかじめ優一郎から教わっていたことを思い出していた。目の前の斎姫はコーヒーカップを両手に包み、哀しそうにため息をついている。

 

「どうして? 私の目から見ても斎姫さんは吉良部長ととてもお似合いだと思うのに」

 

 困惑した顔を作って保美はそう告げた。すると斎姫が視線を彷徨わせる。何度か保美を見つめるが、その度に力なく目を逸らす。保美は困ったような顔を維持したまま、内心では笑っていた。

 

 カレンは当然として、保美はちなりや玲花とも交わったことがある。機体に仕込まれた機能をフル活用するのが保美の喜びなのだ。そして保美の機体は性行為のための機能も充実している。女性だけではなく男性も満足させられるように作られているのだ。

 

「わたし、優くんに制御されなければ、何もできないんです。いちいち動作を指示してもらって、スイッチを切り替えてもらわなければ何も出来ないんです」

 

 傾けたコーヒーカップの中に斎姫が小さく呟いた。だが保美の耳にははっきりと声が届く。保美は息をついて首を振った。

 

「それが嫌なの?」

 

 保美はそう告げてコーヒーを飲んだ。保美の機体は他のそれより多くのシステムを積んでいるため、固形の食事を摂れない。だが液体だけは体内でも処理可能だ。豊かなコーヒーの香りを満喫しつつ、保美はふと目を上げた。斎姫は俯いてしまっている。

 

「嫌じゃありません。だからこそ駄目なんです。わたしがそれを望んでいるから、だから駄目なんです」

 

 首を小さく横に振りながら斎姫が告げる。斎姫は肩を震わせて泣いていた。保美は目を細めて薄い笑みを浮かべた。だがすぐに顔から笑みを消す。心配顔になった保美はテーブル越しに斎姫の肩を優しく叩いた。




保美は妹の果穂とは性格が全く違います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。