※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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エロはないです!


私立清陵高等学校生徒会 1

 咲き誇っていた桜の花が風に散る。桜の枝では新しい葉が姿を見せ始めている。やがて花は完全に散り、新緑の季節がやってくるだろう。智美は桜の木をぼんやりと見上げ、小さく吐息をついた。

 

 私立清陵高校はとても変わった学校だった。智美は初めて学校を訪れた時からそう感じていた。システムに従い受験はした。噂通りにレベルの高い学校だということもわかった。だが中に入ってみると清陵高校は想像以上に変な学校だった。

 

 教師や理事長より生徒会の権限が強いことも特徴の一つだ。そして中でも生徒会長を務める生徒は学校の全てに目を配らなければならない。生徒一人一人に適したスケジュールを組むのも生徒会長の役目だそうだ。そんなことをしていて、生徒会長本人は勉強できるのだろうか。智美が清陵高校に入学してまず抱いた疑問はそれだった。だが智美が何気なくその質問をぶつけた時、担任はにっこりと笑って大丈夫だと断言した。何故なら、清陵高校歴代の生徒会長たちは社会に出るための演習として快くその任を引き受けているのだそうで、だから学校の全てに気を配ることそのものが勉強になるのだそうで……だが智美には未だにその理屈がよく判らない。実際は生徒会長を務められる生徒の学力は学校内でもトップレベルなのだが、智美はそのことをまだ理解していないのだ。

 

 現在の清陵高校生徒会長は如月要。三年生の女子生徒だ。生徒会長の選挙は毎年、秋に行われる。一年生から三年生まで、望めば誰でも生徒会長に立候補できるシステムになっている。が、事実上、三年生は任期最後まで務めることが出来ないため、立候補するのは一年生か二年生になる。

 

「よく判んない。やっぱり、変な学校だと思うな」

 

 智美は呟いてゆっくりと歩き始めた。六時間目が終了し、帰宅する生徒たちで小道は賑わっている。智美はそんな生徒たちに紛れて緩やかな坂を下った。

 

 入学して一週間。その間に智美は出来るだけ清陵高校の構造を把握しようとした。大きな校舎が二つ。その二つを渡している細長い通路状の建物が一つ。そして通路状の建物の一階部分は脱靴場になっている。脱靴場から真っ直ぐに歩いて行くと目の前にあるのがグラウンドだ。右手には格技場、左手には体育館がそれぞれ建てられている。

 

 東校舎は特別教室が入っている。音楽、美術、書道、化学……それらの授業に使われる教室だ。対する西校舎には普通教室がある。通常、クラスとか教室とかいうのは西校舎に入っている普通教室のことを指す。智美は校舎内の様子を思い出しながら一つずつチェックした。一階に入っているのは何、二階に入っているのは何、とひとつずつ挙げては頷く。

 

 そして東西の校舎の間には中庭がある。もう少ししたら藤が綺麗に咲くだろう。中庭には藤棚が並べられているのだ。そして誰でも座って休めるように、とベンチが幾つか据えられている。だがそんな中庭なのに地面は何故か真っ赤なアスファルトで埋められているのだ。色気も何もあったものではない。智美は思い出して渋面になった。一体、どういうセンスで学校を建てたのだろう。中庭だけでなく、校舎周辺は全てそのアスファルトで覆われているのだ。

 

 とりあえずセンスは置いといて。智美は慌てて自分をそう制し、記憶を再びたぐり寄せた。

 

 正面玄関から近い順に事務室、校長室、教頭室、保健室のそれぞれが配されている。全て西側の校舎の一階だ。そして保健室を通り過ぎ、校舎を中庭側に出ると食堂がある。食堂のメニューはバラエティに富んでおり、休憩時間になると常に生徒で賑わっている。智美はそこまで思い出して足を止めた。小道の脇には語らいのベンチと銘打たれたベンチが配されている。智美はその一つに近づき、腰を下ろした。

 

 定時報告は午後八時。それまでまだ時間はある。あるのだが、今日は一体なにを報告すればいいのだろう。特に変わったことがあった訳ではない。学校の構造については既に報告済みだ。校舎の作りそのものが一夜にして変わってくれたりすれば報告できるが、そんなことはありえない。智美は深々とため息をついてぼんやりと小道を行く人々を眺めた。

 

 一つだけ入れないドアがある。食堂の裏にある講堂にも、その北側に位置しているセミナーハウスにも智美は侵入している。鍵をこじ開けて、だ。通常、学校の施設は生徒が希望すれば鍵を借りることが出来るようになっているが、智美の場合、極秘探索が目的だったので鍵を借りることが出来なかったのだ。だが智美にもどうしても鍵を開けられないドアがあった。それが東校舎の一角にある金属製の扉だ。

 

 指紋照合なんて、普通の高校じゃないわよねえ。智美はそうぼやいて足元の小石を軽く蹴飛ばした。小石が芝の上を少しだけ転がる。智美は感情のない目でそれを眺め、次にため息をついた。

 

 噂によると、地下には特別な施設があるという。恐らく、扉はその地下施設に繋がっているのだ。智美は再びため息をついて肩を落とした。地下施設を使用しているのは科学部なのだという。その部に入部すれば内情を探ることが出来るのかも知れないが、生憎と智美は余り深入りしないようにという厳命を受けている。何故ならこちら側を探られる要因になるかも知れないからだ。

 

「ややこしいわよね。深入りせずにだなんて」

 

 智美はごく小さな声でそう呟いた。足を振って勢いをつけ、立ち上がる。だがそんな智美の目の前を何かが凄いスピードで横切った。続いて別の何かが横切っていく。坂を全速力で下っていく二人の生徒の姿を見止め、智美はあんぐりと口を開けた。確か前を走って行ったのはクラス分けが判らず、困っていた智美を助けてくれた男子生徒ではないだろうか。その男子生徒を追いかけるように走って行ったのは、白衣の女子生徒だった。智美は呆然と二人が過ぎ去った後に立ち竦んでいた。智美の周囲にいた生徒たちも大体が似たような状況だった。

 

 何なの、あれは。智美は既に視界から消えた二人のことを思い、呟いた。すると智美の近くにいた二人の女子生徒が顔を見合わせてくすくすと笑い出す。怪訝に思いながら智美はさりげなく二人に注意を向けた。ベンチに座りなおす。

 

「相変わらずだよねえ。雨宮先輩。いいかげん諦めればいいのにね」

「でもさあ。になっちは落ち込んでるよ、まだ。雨宮先輩、あれでフリーだったのにさ。なんか今はいっつも吉良先輩に追いまわされてて」

「んー。まあ、先輩たちが付き合ってるって思ってる子も多いよね」

 

 そんな会話をしつつ二人組の女子生徒たちが去って行く。智美は女子生徒たちの会話の中に出てきた名前を口の中で繰り返した。鞄からメモ帳を出してその名前を書き付けておく。大した意味はないかも知れないが、手に入れた情報はメモしておかなければならない。智美には息をするのと同じように自然とその行為が身についているのだ。

 

 あまみや。きら。平仮名でそう名前を記して、名前の下に手に入れた情報を一緒に書き付ける。どんな人間なのか。何年生なのか。そしてざっと見た容姿。それらを書き付けてから智美はため息をついた。

 

「花の女子高生のやることじゃないよね。なんか、哀しくなってきちゃった」

 

 言いながら智美は静かに立ち上がった。家に帰って報告しよう。義務づけられていることを思いながら、智美は重たい気分で家路についた。




すみません。新しいキャラクターの名前を一人忘れてました。

木崎智美

今回のメインヒロイン……だったんですよ……。
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