前に続いてエロシーンはありません。
随分と遠い日のことに感じられる。水輝は順を睨んだまま微動もしなかった。首に嵌められた黒い輪に順の手が触れている。
水輝が深い眠りにつく前のことだ。大切な少女をさらわれた水輝は焦っていた。陽動にまんまと引っかかり、その間に少女は結界の中から連れ去られてしまったのだ。戦いの最中だというのに水輝は一直線に少女を捕らえた者のところへと飛んだ。だが、それすらも罠だった。
通常、水輝たちの言う結界は力を織り合わせて作られる。薄いベールのような形を取るのだ。柔らかな印象を受ける膜だが、力の強い者が織り上げる結界はとても強固だ。特に水輝たちのような龍神の中でもトップに属する者が作る結界は、本当の意味で他者を退ける効果を持つ。
「なるほどねえ。すっかり立ち直っちゃったわけね」
呆れたように笑いながら順は軽く手を振ってみせた。赤かった手が徐々に元に戻っていく。順もそれなりに治癒力があるようだ。水輝は治っていく順の手を見ながら片眉を上げた。
「それで? 水輝ちゃんはどうするの? オレに仕返しでもする?」
からかう口調で告げながら順はベッドに横たわった。横向きになって肘をつき、手のひらで頭を支える。水輝はしばらく手の中の炎を見つめてから、そうだな、と笑った。
「おれはノーマルだからな。お前と違って」
「へえ。言ってくれるじゃないの。あれだけ感じてたくせに」
そう言いながら順は笑った。水輝も一緒になってくすくすと笑う。記憶は途切れているが、自分が何をされていたのかは覚えている。水輝は手の中の炎を消し、次に両手を静かに合わせた。手の中に力を生み、それを首に嵌っている輪に触れさせる。すると首輪が一気に弾けた。砕けた首輪の残骸が宙を漂う。
軽く手を打ち合わせる。水輝の拍手に合わせるようにして宙に浮かんでいた黒い破片がゆっくりと動き始めた。
「ふうん? 何の術を見せてくれるの?」
順は楽しそうに笑いながら水輝の手元を見つめていた。水輝はそんな順に片目を閉じ、合わせていた手を静かに開いた。黒い破片が手の間に漂ってくる。小さな渦を巻いた破片はやがて一つの黒い玉になった。
「物騒なものを嵌めてくれた礼だ。そもそも、宝珠というものは形を自由に変えられるものだが、何も変えられるのは形だけじゃない」
水輝を捕らえていたものの正体は黒い宝珠だ。元々、黒宝珠は欲望を司る。水輝は嗤いながら空中に手を差し伸べた。片手に先ほどの黒い玉を握り締める。すると宙に向けていた手の先で何かが蠢く。それを見ていた順は目を見開いた。
何もなかった筈の指先に青白い何かが集まってくる。水輝は嗤いながら軽く指を鳴らした。するとゆっくりと集まり始めていたものが急速に動き始める。
「元はおれの精液だよ、これ。散々、出させてくれたみたいだなあ、おい」
おもむろに順が身体を起こす。驚愕を露にした順を見やってから水輝は軽く手首を捻った。閃いた指先で青白い力が一気に凝縮する。やがてそれは一つの丸い玉になった。水輝は右手に握っていた黒い玉と、左手の指に挟んだ青白い玉を目の前で近づけた。
「そ、それ、どうする気?」
「こうするんだよ」
水輝は嗤いながら両手の玉を触れさせた。力をこめた息を吹きかけると互いの玉が引き合って溶け合わさる。そして二つの玉は一つになった。
「でな」
真横にいた順を見やり、水輝は素早く左手を振った。有無を言わせず順の肩をつかみ、引き寄せる。驚きの声を上げた順の右目の位置に嵌っている硝子玉に息を吹きかける。玉にこもっていた力はあっという間に霧散した。
「ちょっと、水輝ちゃん!?」
「うるせえな。少しくらい黙ってられないのか」
ぽっかりと空いた順の右目に水輝は握っていた玉を嵌め込んだ。小さな灼ける音がした途端、順が悲鳴を上げる。だが水輝は嗤って順を捕まえていた。
「お。成功したかな。初めてにしては上出来だぞ、おれ」
そう言って水輝は手を離した。さっきまで暴れていた順が力なくベッドに倒れる。もしかしたら痛みのために失神したのかも知れない。だが順の身体は確実に変化しつつあった。水輝はにやにやと嗤いながらそんな順を見下ろしていた。
水輝というキャラクタは平気で無茶苦茶なことをやらかすという設定になってます。