あんまり読み返してなくてすみません。
「そういえば、ひとつ質問したいことがあるんだけど」
あっさりとした口調で優一郎はそう切り出した。そっぽを向いていた多輝が目だけを優一郎に寄越す。優一郎は再び椅子に戻り、端末を操作した。数値がグラフになって画面に表示される。一目で機体の状態を判別するには、この方が楽なのだ。優一郎はさらにグラフに色を乗せた。カラフルなラインが画面に描かれている。
「な、何だよ。いきなり」
多輝はまだ動揺している。だが重要なのは心の動きではない。その機体の反応だ。優一郎は多輝の身体に快楽が発生していることを見て取った。主に動いている感覚は下半身に集中している。
優一郎は微笑みながら続けた。
「なめくじに攻められて絶頂に達したとき、どうして、立城さんではなく、僕の名前を呼んだのかなって思って」
その瞬間、多輝が顔を引きつらせる。画面の中のグラフが一気に上昇曲線を描く。優一郎は薄い笑みを浮かべたままゆっくりと顔をあげた。多輝は真っ赤になって目を泳がせている。
「あの、それはその、ええとだな」
はっきりした答えは口に出来ないのだろう。多輝はうろたえながら曖昧に笑っている。ごまかしたい気持ちなのだろう。だがそんな多輝を優一郎は容赦しなかった。にっこりと笑って首を傾げる。
「先輩が、立城さんに好意を抱いてらっしゃるのはわかっています。なのに、どうしてあの時、僕の名前を口に出したんですか?」
笑顔で訊ねると多輝は赤い顔を逸らして無言を通した。だがスカートをつかんだ手が震えている。グラフなど見なくても多輝の機体がどう反応しているのかはよく判る。優一郎は薄笑いを浮かべて立ち上がった。端末を椅子に置き、実験台に静かに歩み寄る。
手に入れたいとずっと思っていた。だが半分は諦めていた。多輝は立城が手をかけて育てた存在だ。それは優一郎もよく知っていたのだ。他の誰かならためらわなかった。だが相手は立城だ。斎姫を作り上げて優一郎に寄越したやり方といい、そして斎姫と多輝の両者をここまで真っ直ぐに育てたことといい、立城が一筋縄でいかない存在なのは確かなのだ。そんな相手を敵に回す訳にはいかない。だから優一郎はしばらくは様子を見ていたのだ。
だが立城は優一郎にはたまに連絡をくれるが、多輝には全く連絡を入れていないようなのだ。今に始まったことではないかも知れないが、あの日からの多輝はそれを酷く不安に感じているようだった。あの日……事故の関係者の記憶が凍り付いてしまった日から。
だから優一郎の作戦にも引っかかった。そして多輝は優一郎の思惑通りに機械の身体にその精神を移してしまったのだ。だがこうなってみてもまだ立城は何のコンタクトもしてこない。それはつまり、止める気はないということではないだろうか。
それなら自分が働きかけても何も言われないだろう。もしかしたら立城自身、それを望んでいるのかも知れない。優一郎は薄く笑いながら多輝の顔を覗き込んだ。多輝は目に涙を浮かべている。
「うっ、うるせえなっ。別に立城は、その、ともかく今は関係ねえだろっ」
そう叫びながら多輝はじりじりと後ろに下がった。あぐらを組んでいた足を解き、ストッキングに包まれた足で実験台を蹴って後退している。優一郎は薄笑いを浮かべたまま、そんな多輝を静かに見下ろした。
「そうですね。それでは、立城さんに関係なく、なぜ絶頂到達時に僕の名前を呼んだのか、説明願えますか?」
膝上までのスカートを握る多輝の手がびくりと震える。多輝は完全に俯いていた。優一郎は多輝の濡れた髪を見つめ、薄く嗤った。時折、多輝の足が動く。ぺたりと実験台に座った多輝は足を折り曲げて両の内腿を合わせていた。時々足が動くのは、疼いた女性器ユニットに刺激を送るためだ。
「う……っせえな」
言葉だけなら気丈に思えたかも知れない。だが多輝の声はさっきまでとは違っている。甘い響きのこもる声に嗤いながら、優一郎は実験台に身軽に飛び乗った。角に腰を下ろすと実験台が微かに揺れる。すると多輝が弾かれたように顔を上げた。目に溜まっていた涙がいつの間にか流れている。
ゆっくりと心を侵食する。大きな存在であった立城の影を少しずつ隠していく。そしてやがては自分にだけ欲情するようになる。優一郎は密かに思っていたことが目の前で現実になっていることに喜びを覚えていた。自然と股間が熱くなる。陥落不能に思えていた多輝を支配しつつあるのだ。そう思うだけで痺れるような快感が走る。だが優一郎は身体が熱くなってきたことをおくびにも出さなかった。
「先輩、どうしたんですか? 紅潮してるような。もしかして、どこか不具合でも?」
「なっ、何でも、ないっ」
多輝は怯えた目をして首を横に振った。しっかりとスカートを握り締めた指の先が白くなっている。相当に力を入れているのだろう。そうしなければ欲情に流されてしまうからだ。優一郎は多輝の身体の様子を正確に理解していた。掠れた呻きを上げて多輝は足を擦り合せている。
なめくじに攻められて絶頂に達した時、多輝は初めて優一郎の名を呼んだ。それまで多輝はどんな場合でも優一郎の名を口にしたことはなかったのだ。お前だのてめえだのという呼ばれ方しかしたことがない。通信を通して呼ばれた優一郎自身も驚いたのだ。
あの時の多輝の声は甘く切ない響きをしていた。優一郎の耳にはその時の多輝の声がはっきりと残っている。それを思いながら優一郎は少しだけ多輝に近づいた。すると多輝が慌てたように後ろに下がる。だがほどなく多輝の背中を壁が塞いだ。
「もしかして、性感システムに異常が発生してません?」
気遣う振りをしながら優一郎はそっと多輝の足に手を伸ばした。剥き出しになっていた膝頭に触れる。多輝は優一郎に触れられた瞬間に声を殺して顔を歪めた。
多輝が乙女的な反応をするようになったのは、色々な理由からの不具合みたいなものです。