エロシーンぽいのですが、ガチエロではありません。
「異常……って」
そんなことはないと多輝は小さな声で告げた。やんわりと優一郎の手を膝から退ける。だが優一郎は真剣な眼差しで多輝を見つめながら、触れていた手を握り締めた。両手に多輝の手を包みこむ。
多輝は壁に身体を貼り付けるようにして怯えた目をしている。だが優一郎の手を振り払うことはない。唇を噛んで息を殺しているのは感じているためだ。優一郎はそのことをしっかりと読み取り、多輝の指を手の中でさりげなく撫でた。
「……ん、あっ!」
指を愛撫された多輝が微かな声を上げる。
「以前も言いましたけど、恋愛感情を抱いていない相手に対して、こんな反応はしないはずなんです」
「そ……んなこと、言われて……もっ!」
吐息混じりに告げ、多輝は目に溜まっていた涙をまた零した。熱い息をつきながら身体を小刻みに震わせている。優一郎は握っていた手をそっと引き、傾いた多輝の身体を支えながら実験台から降りた。多輝も一緒に実験台を降りる。
優一郎はそのまま多輝の手を引いて研究室を出た。黙ったままで多輝がついてくる。時折、優一郎はそっと多輝を振り返った。多輝は歩いている間、ずって俯いていた。片手はまだしっかりとスカートを握り締めている。
特別室の扉を開ける。優一郎は多輝を部屋に入れた。多輝は扉のところに立っている優一郎を不安そうに見ながら大人しく部屋に入った。怯えた子供のような表情をしている。優一郎はそんな多輝に微笑みかけてそれじゃあ、と部屋を出て扉を閉めようとした。
「えっ、どこ行くんだよ」
震える声で多輝が問い掛けてくる。優一郎は閉めかけていた扉を再び開け、部屋を覗き込んだ。多輝は困惑した面持ちでじっと優一郎を見つめている。
「自慰動作を開始するんでしょう? 見ていていいんですか?」
「そ、そんなことしないっ」
あっさりと告げた優一郎に多輝は即座に言い返した。顔を赤くしてそっぽを向いている。だがそう言った多輝の身体が火照りきっていることは優一郎にははっきりと判っていた。
優一郎はため息をついて多輝の部屋に滑り込んだ。後ろ手に扉を閉じる。自動的に鍵がかかる音を聞きつけ、多輝が怯えたように肩を震わせた。頬には涙の跡が残っている。多輝の赤くなった顔を見つめながら、優一郎は扉に静かに寄りかかった。腕を組み合わせて困ったように笑う。多輝は優一郎の笑顔を見て、焦ったように目を泳がせた。
「別に、その……あの時にお前の名前呼んだの、その、ふ、深い意味はないんだからなっ」
多輝は苦しそうな顔つきでそう吐き出し、体を放るようにしてベッドに腰掛けた。その拍子にふわりとスカートが広がる。そして多輝はようやく気付いたように濡れた髪に手を触れた。優一郎は多輝を黙って見つめていた。
ゆらりと多輝が腕を上げる。指を鳴らすと一気に多輝の髪から水分が消えた。宙に浮かんだ髪がふわりと降りてくる。
「超能力補助システムの調子は良さそうですね。安心しました」
「ああ、大丈夫だ」
感情のない声で多輝が答える。優一郎はふと笑みを消した。多輝は息をついて黙っている。だが、一度欲情してしまったら多輝の身体の火照りは治まらない。そのことを知りつつ、優一郎はあえて何も言わなかった。
しばらく無言で待っていると、不意に多輝が頭を上げた。
「あのさ」
戸惑いながら多輝が告げる。優一郎は黙ったまま目で続きを促した。少しの間、多輝は迷っていたようだった。だがその内に視線が優一郎に戻る。
「お前、気持ち悪くねえの? その……ほら、おれが名前とか呼んだりしたじゃん」
どうやら多輝は後ろめたさを感じていたらしい。そのことを知り、優一郎は思わず吹き出した。声を殺して笑っていると多輝が段々と不機嫌な面持ちになる。ばかにされたと感じたようだ。優一郎は懸命に衝動を堪え、何とか笑いをおさめた。
「どうして不快に思わなければならないんですか? 逆にちょっと嬉しかったですよ。先輩が僕のことを名前で呼んでくれたのは初めてですよね」
そう言いながら優一郎は背中を扉から剥がした。ゆっくりと多輝に歩み寄る。多輝は呆然と優一郎を見上げていた。よほど驚いたのだろう。近づいても怯えたりもしない。優一郎は自然に歩み寄り、多輝の隣に腰を下ろした。多輝は目を見開いたままで優一郎の動きを追っている。
「で、でもさ。ほら、あんな時に呼ぶのって、なんかさ」
途切れがちに告げた多輝は今まで以上に真っ赤になっていた。もしかしたらなめくじの攻めを思い出したのかも知れない。優一郎は多輝を見やりながらにっこりと笑った。
「それだけ、僕のことを信頼していただいてるってことですよね。ずっと先輩には嫌われてると思ってましたから」
「そっ、そんなことねえって……あ。昼間も言わなかったのか、おれ」
多輝はそう言って頭をかいた。
昼間も同じことを訊いた。その時も多輝は優一郎の言を否定した。だがその時は首を振っただけで声に出しては答えなかったのだ。機体の動きを把握していた優一郎には多輝が何をしたのかを理解できていたが、多輝にとっては電話で話していた気分だったのだろう。困ったような顔でそうか、と呟いている。
無自覚なままで多輝は女である機体を徐々に受け入れつつある。最初ほどの抵抗はないようだ。多輝の横顔を見つめながら優一郎は小さく笑った。こうしていると多輝は水輝によく似ている。女性の身体になった方が水輝に似て見えるというのも不思議な話だ。
もしかしたら多輝は本当に最初から女の性を持っていたのではないだろうか。優一郎はふとそんなことを思って伏せていた顔を上げた。多輝はまだ困ったように呻いている。きっと多輝は優一郎を傷つけたと思っているのだ。だが優一郎はそんな多輝を見つめながら全く別のことを考えていた。
多輝をこの機体に定着させるために自分が言ったことは、実は現実だったのではないだろうか。龍神は元々、性別を自由に変えられる存在だ。だがその性別には指向性がある。多輝は元々、女の性の方が生きやすいのではないだろうか。優一郎は自然と多輝を食い入るように見つめた。視線に気づいた多輝が怪訝そうな顔になる。
「な、何だよ。どうしてそんなに見るんだ?」
言葉遣いは確かに乱暴だ。だが快感に溺れている時、多輝は明らかに女性的な反応を示す。もし、これが全て仕組まれていたことだったらどうだろう。多輝は本来の性を捻じ曲げられていたのだとしたら。優一郎は多輝を見つめながらその目を見開いた。
「お、おい?」
多輝が優一郎の目の前で手をひらひらさせる。優一郎は我に返り、小さく笑った。心配顔の多輝に何でもないと笑いかける。
それを望んだのは誰だろう。
性別とかアレコレのことは、この二人はまだ知りません。