というかもう思いつかない!!><
自分が内容を把握するためのタイトルなので、気になさらないで下さい(泣)
あ、エロシーンはないです。
電話の向こうの由梨佳は戸惑っていた。だが研究があるから、と告げるとそれだけで納得したらしい。気をつけてね、という由梨佳の声に適当に応え、絵美佳は携帯電話のボタンを押した。通話時間三分。意外と長く話してしまった。絵美佳は眉間に皺を寄せて息をついた。
「お話は終わりましたか?」
笑顔の青年が囁くように告げる。絵美佳は頷いて携帯電話を鞄に突っ込んだ。今日に限って家への連絡を忘れていたのだ。遅くなる、もしくは帰らないと連絡を入れていれば、家から電話がかかることは滅多にない。絵美佳はため息をついて目の前に並べられた料理に向き直った。
静かな店だ。店のあちこちにほんのりと灯る明かりを絵美佳はじっと見つめた。他に客はいない。どうやら今日は青年の貸切らしい。絵美佳はぎこちなく青年に笑み返し、フォークとナイフを手に取った。まだ皿の料理は温かい。子牛のソテーらしいのだが、正式な料理名を絵美佳は忘れてしまった。とにかく綺麗な皿だということはわかる。グラスには赤いワインが注がれている。青年は優雅に肉を切り分け、口に運ぶ。絵美佳も滑らかな手つきで肉を切った。
「どうして、あたしを誘ったの?」
ちょうど良い加減にソテーされた肉を食べつつ、絵美佳は言葉だけを投げかけた。食事中に手元から目を離すのは行儀が悪いと躾られているからだ。青年は手を止めて絵美佳を見た。視線を感じながら絵美佳は口に肉を運んだ。それから目を上げる。青年は口許をナプキンで拭き、微笑みながらグラスに手を伸ばした。
「誘いたかったから、という答えではいけませんか?」
青年は悪戯っぽく笑いながら首を傾げた。薄く形のいい唇が開くとそれだけでどきりとする。絵美佳は内心の動揺を出さないように注意しながら青年を睨みつけた。
「それ以前に、あなた、いったい何者なのよ?」
別の皿に乗っていたパンをつかむ。絵美佳は青年を睨みながら千切ったパンを口に放り込んだ。乱暴な絵美佳の仕草にも青年はまるで動揺しない。穏やかな微笑みを浮かべているだけだ。
「その質問には先ほど答えた筈ですよ。僕も多輝も人ではありません。龍神という名を持つ者です」
そう答えて青年はグラスを傾けた。再びカトラリーを手に取る。絵美佳は膨れ面をしつつ仕方なく食事を続けた。ここでいきなり青年を怒鳴りつけることも出来る。だが折角の料理が冷めては勿体ない。絵美佳はしばらくの間、美味しい料理を味わうことに専念した。
その間、青年は柔らかな声で話をしてくれた。話といってもささやかな世間話だ。絵美佳は料理を食べながら感心したり、笑ったりした。青年の正体のことに気を回さなければ楽しい食事だった。青年も時折、楽しそうな顔を覗かせていた。
デザートと共にコーヒーが運ばれてくる。デミタスカップに淹れられたコーヒーは少し濃い目だ。絵美佳は十分に香りを堪能してからコーヒーと共にケーキを味わった。青年は小さなフォークを器用に操ってミルフィーユを切り分けている。
「名前は符号と同じですからね。大した意味を持たないものなのかも知れません」
青年は名前を教えろという絵美佳にそんなことを言って微笑んだ。絵美佳は苦く笑ってケーキを口に運んだ。恐らく、この青年は名乗る気はないのだ。それは会った時から何となく判っていた。絵美佳は生クリームたっぷりのケーキを大ぶりに切り分け、再びそれを口に運んだ。甘酸っぱい苺の香りが鼻をつく。
「あなた、もしかして、たつき?」
行儀悪くフォークで青年を指す。だが青年は嫌な顔一つしなかった。にっこりと笑ってデミタスカップを取る。
「さあ、どうでしょう」
青年の動きは実に優雅だった。だが同時に全く無駄のない洗練された動きにも見える。絵美佳は首を捻りながらケーキの欠片を口に放り込んだ。甘いクリームをコーヒーで喉の奥に流し込む。
たつき、という名前は多輝から聞いたことがある。孤児だった多輝を引き取り、育ててくれた養い親だという。たつきという人物の話をする時の多輝は妙に照れくさそうで……だから絵美佳は覚えていたのだ。そんな素振りをする多輝は珍しい。絵美佳も照れる多輝を見たのはあの時が最初で最後だ。
「だって、その笑い方! なんかあいつの言うとおりだし!」
絵美佳は口の中のケーキを綺麗さっぱり腹に納めてから再び口火を切った。すると青年が意外そうな顔になる。絵美佳は一瞬、問い詰めることも忘れて青年の顔に見入った。出会ってから初めての表情だ。
「へえ。多輝がそんなことを言っていたんですか。それは知りませんでした」
そう言ってから青年は多輝が幼い頃の話をしてくれた。昔からよく喧嘩をしていたこと。小学生の頃から女の子にもてていたこと。そして時折、酷く寂しそうな顔をすること。そんな話をされた絵美佳はつい、青年を問い詰めることをうっかり忘れてしまった。
「デザートをもう一皿どうですか?」
話を終えた青年がにっこりと笑いかける。絵美佳は我に返って慌てて横を見た。いつの間にかデザートの乗せられたワゴンが近づいている。絵美佳は腹と相談しながら気に入ったケーキを切り分けてもらった。青年はコーヒーだけをおかわりしている。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったですよ」
コーヒーを飲みながら青年がそう告げて微笑んだ。絵美佳は慌てて手を止めた。まだ訊きたいことはたくさんあるのだ。これでさようなら、と放り出されるのは納得出来ない。絵美佳は青年を睨みながら皿にフォークを乗せた。
キャラぶれぶれの中で絵美佳はしっかりしてる方です。
今とあんまり変わりません。