事後ですが。朝チュンみたいなものですかねw
夜が明ける。水輝はまだ寝ぼけている目をこすって欠伸をした。窓からはぼんやりとした日が入っている。どうやらまだ雨は降り続いているようだ。水輝はふうん、と口の中で呟いて隣にあった温もりを条件反射的に抱きしめた。腕の中の何かがびくりと震える。
「あれ? 何でお前がいるんだ? 順」
薄目を開けて問い掛ける。朝の時間は苦手だ。喉も枯れているために声もまともに出ない。掠れた水輝の声を聞いたのか、間近にいた順は呆れたような顔になった。
「そりゃないと思うなあ。水輝ちゃんがこうしたんでしょ?」
そう言いながら順は小さく動いて自分の両手首を目で示した。つられて水輝もそちらを見やる。順の手首に嵌っているものを確認してからようやく水輝は納得した。そうだ。確か昨日、ここに忍び込んだんだ。そう心の中で呟くと明らかに順が不服そうな声を漏らした。
「悪い。朝は駄目なんだよ、おれ」
だからもう少し寝かせろ。そう呟いて水輝は順の細い身体に回した腕に力を込めた。強く抱くとそれだけで順が慌てた声を上げる。
「だっ、だからってオレを抱き直して寝ることはないんじゃないの? オレ、もっと早く目が覚めてたのにさあ。水輝ちゃんが離してくんないから起きられないじゃん」
力なくぼやく順に微かに笑い、水輝は腕を動かした。ついでに指を鳴らして順を拘束している鎖を長くする。順は水輝から離れてベッドから降りた。裸の身体を情けない顔で見下ろしている。
順の右目部分の空洞にはまだ水輝の力のこもった玉が嵌っている。だがその玉は順が嵌めていた硝子玉とは違い、実際に目としての機能を果たすものだ。現に順は右目でものが見えているのかどうかを確かめている。目の前に手をひらひらさせる順を見ながら水輝は小さく笑った。
「心配しなくても大丈夫だ。その目はお前にくれてやる。どうせ元々は誰かからかっさらった宝珠だろうがな」
欠伸をしながら水輝はそう吐き捨てた。ずれていた布団を肩まで引っ張り上げる。順はしばらく呆れたように水輝を見つめていたが、間を空けてため息をついた。水輝は片目だけを開けてそんな順を見た。軽く笑うと途端に順が嫌な顔をする。
「身体は戻してくれないわけ?」
「そんなにその身体が不服か? 我ながらいい出来だと思うんだけどな」
露になっている順の身体は滑らかなラインを描いている。朝日の中に佇むその姿は少女以外の何物でもない。順はため息をつきながら自分の身体を眺め回している。水輝は小さく笑って肘杖をついた。瞼をこすって目をしっかり開ける。
「確かに魅力的な身体だとは思うよ? でもさあ。オレ、どっちかと言うとやっぱり男の身体の方がいいなあ」
順は布団の間に手を突っ込み、中からガウンを引っ張り出した。それを見下ろして情けない顔をしている。順のガウンにはしっかりと血の跡が残っていたのだ。水輝は声を殺して笑いながらガウンを指差した。
「それ、もう駄目だろ。他のに着替えれば? 都子の服でも借りればいいじゃん」
欠伸しながら水輝はそう告げた。肩を落として順が力なく笑う。ガウンを床に落とし、順はため息をついてベッドに腰掛けた。相当にショックを受けているのか、それともかなり疲れているのか。水輝は順の置かれている状況を思いながら笑っていた。
丸めている順の背中が小さく見える。水輝は何気なく腕を伸ばしてその背中を指先で撫ぜた。途端に順が驚いた声を上げてベッドから飛びのく。水輝はくすくすと笑いながら指をひらひらさせた。
「ほら、触られたくなかったら都子の服、借りて来い」
「だからあ、都子にこのかっこを見せたくないんだってば」
顔をしかめながら告げた順を眺め、水輝は呆れた声を上げた。順は腕組みをして憤然と水輝を睨んでいる。どうやらさっきの言葉も本気らしい。水輝は瞬きを繰り返し、それから深々と息をついた。
初めて二人に出会った時から感じていたことだ。順は都子を、そして都子は順をとても大切に想っていた。だがそれ故に二人は兄妹という関係には見えなかった。確かに口では妹、兄と言ってはいたが、水輝は二人から全く別のものを感じ取っていたのだ。
生まれ方がどうであれ、二人は互いを好いていたのだ。
「順。お前って変わってるな。もう、都子は今のお前を見ても身体が変わったことが判らないんじゃないか?」
戦う人形として生きることを決めた娘のことを思い出し、水輝はそう呟いた。順は黙って水輝を睨んでいる。だがその眉が跳ね上がったことを水輝は見逃さなかった。他の何でもない、順の逆鱗は都子に関することだ。水輝はそれを知りながらあえて続けた。
「だったら気にすることねえじゃん。見られたところで別に」
「それを余計なお世話って言うんだと思うよ、水輝ちゃん」
冷ややかな声で水輝のせりふを遮り、順は腰を屈めて床のガウンを拾い上げた。赤い染みのついたそれを着込む。水輝は目を細めて順を見上げていた。血の跡のついたガウンをためらいなく着てしまう程度には順は怒っているらしい。
戦う人形。水輝は心の中でそう呟いた。既に力を取り戻しているから順に思考を読まれることはない。そう考えている間も順は腕組みをして水輝を睨んでいる。水輝は黙って都子のことを考え続けた。
順に従うことを約束した都子は、その時に何を思っていたのだろう。もしかしたら都子は人形にはなりたくなかったのではないだろうか。生きながら死んでいるようなものだと感じなかったのか。だがどれだけ考えてもそれは想像に過ぎない。二人の間で取り交わされた約束の時は既に過ぎ去ってしまっているのだ。
水輝はため息をついて布団を跳ね上げた。床に落としていた服を拾い上げて身につける。
「美味い紅茶と引き換えな。ちなみにおれはストレートが好きだぞ」
そう言い放ち、水輝は順に向かって指を鳴らした。するとあっという間に順のガウンが消滅する。続いて裸になってしまった順の身体には女物の服がまとわりついた。水色を基調にした、腰にリボンのついたワンピースだ。一瞬の出来事に順は瞬きをし、次いで自分の身体を見下ろした。
「……水輝ちゃん。時々くらいはワガママとか人に責められるでしょ」
「うっせえな。とっとと茶を淹れてこい。気が変わっても知らないからな」
水輝は眉間に皺を寄せて再び指を鳴らした。順の手枷についていた不可視の鎖が弾けて消える。順は苦笑しながら部屋を出て行った。
まじめなエピタイは諦めました!w