※この作品はR-18です。

夢の隙間   作:伊駒辰葉

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三分割です。
エロシーンはありません。


絵美佳と智美と多輝 1

「え?」

 

 絵美佳は呼び声に振り返った。放課後の地下施設で部員たちはそれぞれの研究に没頭している。絵美佳も新薬の開発計画を練っている最中だった。絵美佳の振り返った先にはちょうど智美がいる。だが智美は実験器具の入ったトレイを抱えて不思議そうに首を傾げてみせた。

 

 まただ。絵美佳はそう心の中で呟いて智美に何でもない、と告げた。昨日は家で一度だけ。今日はこれで五回目だ。絵美佳はうんざりしながらパソコンに向き直った。

 

 呼ばれている気がする。誰にかも、どこからかも判らない。時折、ふとした瞬間に自分の名を呼ぶ声が聞こえるのだ。昨日は由梨佳とそのことで喧嘩になった。あんた、いま呼んだでしょ。いいえ、呼んでいないわよ。昨日はそんなやり取りを始め、ついには絵美佳は猛烈な勢いで由梨佳を罵倒するに至った。優一郎がいればそこまでのことにはならなかったのだろう。だが優一郎は近頃、家に戻ってこない。時折、着替えを取りに来るだけだ。

 

 絵美佳は苛々しながらインターネットにアクセスした。父の総一郎は最近では殆ど自宅に戻らない。研究が一段落した時だけ顔を見せに来る程度だ。絵美佳はとても総一郎を好いていたので、そのことを寂しく思っていた。そうしたら今度は優一郎までが家を空けがちになった。結局、近頃の絵美佳は由梨佳と二人きりで暇な時間を過ごす羽目になっているのだ。

 

 大嫌いなママとだなんて楽しい訳がないわ。内心でそう呟きながら絵美佳は仏頂面でメールチェックを行った。大したメールは届いていない。要チェックなのは人体模型のオークションの報せくらいだ。絵美佳は手早く人体模型のオークションの画面を出した。絵美佳の提示した金額に百円だけ乗せた金額を書き込みしている者がある。絵美佳は頬を膨らませて千円ほど加算した金額を書き込んだ。

 

 絵美佳はため息をついて前髪をかきあげた。優一郎のことも気になるが、それ以前に気になるのが多輝のことだ。あの時以来、多輝は姿を見せない。絵美佳は気付くと多輝は今ごろどうしているのだろうと考えることが多くなった。それに気になると言えばあの青年のこともそうだ。結局、あの日は食事をご馳走になって別れたが、青年は一体なにをしたかったのだろう。自分と食事したかっただけとはどうしても思えない。絵美佳は自分でも気付かない内に親指の爪を強く噛んでいた。

 

 優一郎が多輝の機体を作ったということは理解できる。だが何故、優一郎は絵美佳に報せてくれなかったのだろう。もし、多輝が自分で報告してこなかったら絵美佳は今でも多輝がどうなっているのかを知ることが出来なかっただろう。絵美佳は不機嫌な面持ちで保存してあったデータを画面に表示させた。自宅にある優一郎のマシンからかっぱらったデータだ。だが以前ほどには優一郎は油断してくれていないらしい。絵美佳が見られるものもごく少なかった。

 

 だが絵美佳に拾えたものの中には幾つか欲しかった情報があった。まずは多輝の機体の構想についてだ。多輝の機体は基本的に人を模して作られている。斎姫のような機械とはっきり判る器官は取り付けていないということだ。次に性能について。これも最新作らしく今まで作られた機体とは段違いに性能も上がっている。まず、機械特有のぎこちなさがまるでない。ヒューマノイドはまだ完全体と呼ばれるものは出来上がっていない。まだ、時折は動きにぎこちなさが出るのだ。その大半は関節動作時に現れる。関節が特に摩擦の大きい部分だからだ。

 

 多輝の機体は完璧と呼ぶにふさわしかった。少なくとも優一郎の構想を見る限りでは絵美佳にはそう思えた。そして実際に多輝を見ていた絵美佳は、優一郎が構想通りの機体を作り上げたことを理解した。発表すれば賞賛を浴びる出来栄えだろう。だが恐らく優一郎はそうしない。何より優一郎はヒューマノイド工学に貢献するつもりなどさらさらないだろうからだ。

 

 あくまでも自分のために優一郎はヒューマノイドの機体を作っている。そこが大きく総一郎と違っているのだ。総一郎と優一郎は間違いなく天才だろう。だが、総一郎は基本的に科学のためと称して研究に没頭する。対する優一郎はそんなことは言わない。だから折角の機体も恐らく誰にも発表するつもりはなかったのだ。

 

 だから多輝のことも黙っていたのかも。絵美佳はそう思いながら画面に表示していたデータを閉じた。続いてとあるホームページにアクセスする。

 

「あっ、信じられないっ! あたしのハムちゃんがあっ」

 

 絵美佳は情けない声をあげて机に突っ伏した。絵美佳がいつも訪ねるそのホームページのトップには愛らしいハムスターの画像が貼り付けてあったのだ。その画像はホームページの管理人の趣味で、時折、入れ替えられていた。横向きハムちゃん、後ろ向きハムちゃん、はにかみハムちゃん……。それらの画像を見るのが絵美佳の楽しみになっていたのだ。

 

 だが今のトップページからハムスターの画像は消えている。先日までの愛らしいトップページとは一転し、今度はシックな色使いになっているのだ。管理人は「イメージチェンジしました♪」と一行だけのメッセージをトップページに載せている。音符つけるくらいなら、あたしのハムちゃんを返してよう! 絵美佳は当たり構わずそう喚き散らした。




絵美佳のキャラがブレてるところが……(泣)
理由ははっきりしてるのですが……(泣)
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