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「ここ一週間の報告書です」
そう言いながら良子はホッチキスで留めた書類を差し出した。順は黙って受け取ってちらりと差出人を確認した。定時報告書の束だ。順は微笑を浮かべて良子に頷いた。この報告書は良子の娘である木崎智美からのものだ。
「それでは、わたくしはこれで」
「あ、ちょっと待って。あのさ、一つ頼みがあるんだ」
順はスカートのポケットに報告書を突っ込んでから良子に向き直った。良子は不思議そうに首を傾げている。順は苦笑しながら両手を合わせて良子を拝んだ。
「急な客が来ちゃってさ。申し訳ないんだけど、美味い紅茶を用意してくんないかな?」
良子が手際よく淹れてくれた紅茶を手に、順は水輝の待つ部屋へと戻った。一階のその部屋は客人用に作られた部屋で、屋敷の中でも大きい。東側のその部屋の前に順は黙って立った。するとドアがゆっくりと自動的に開く。中に入ると水輝が不機嫌そうな顔で待ち構えていた。
「遅いっ」
苛々した声を飛ばしてベッドから飛び降りる。そんな水輝に苦笑しながら順は静かに部屋に入った。後ろでドアが激しい音を立てて閉じる。水輝が力を飛ばしたのだ。
「そんな、機嫌悪くしなくてもいいじゃないの。ほら、朝ご飯もついでに準備したからさ」
そう言いながら順は手にしていたトレイをテーブルに乗せた。水輝が黙って寄って来る。当然のような顔をして頷いた水輝にため息をつき、順はポットから紅茶を注ぎ分けた。
朝食のサンドイッチを水輝と向かい合って口にする。順にとっては何だか奇妙な感じだった。水輝は黙々と食べ続けている。一見、平穏な時間の気がして、順は何となくほっとしていた。どうやら水輝は無理に順を女にした割には、のべつ幕なしで乱暴をしようと思っている訳ではないらしい。
食後の紅茶を淹れ、順はゆったりとした時間を味わっていた。水輝も世間話をしながらクッキーをつまんでいる。感心するほどの食欲だ。順はそんな水輝を見ながら合鎚を打っていた。
「あ、そうだ」
ふと、順はスカートのポケットに手を入れた。入っていた報告書を引きずり出す。水輝が興味深そうな顔で立ち上がり、順の背後に回ってその報告書を覗き込んだ。
「……何だ、これ」
そう言った水輝のせりふには笑いが混ざっていた。順もくすくすと笑いながら報告書を読む。報告書と銘打たれたその紙面には、愛らしいイラストと共にその日の出来事が綴られているのだ。
「趣味の絵日記鑑賞だってば。面白いでしょ?」
「確かに面白いが、なあ」
智美の報告書は、彼女が入学した当日のものから順がとても楽しみにしている物だ。毎日、欠かさずに送れと命じているだけあり、智美は様々な出来事を綴ってはファックスで送ってくる。送り先は良子の自宅だ。そして順の手に渡る時には一週間の分がまとまっている。
どうやら生徒会会長との取引は順調に崩れつつあるらしい。そもそも、智美に諜報能力を期待する方が間違っているのだ。順は笑いながら次々と報告書をめくっていった。水輝も時折、吹き出しながら報告書を読んでいる。
「今期の生徒会長もなかなか愉快な壊れ方をしているみたいだからなあ。ご苦労さんだよ、全く」
水輝が背後で苦笑する。順は肩越しにそんな水輝を見返ってから紙面に目を戻した。一枚めくる。すると今度は不思議なイラストがついていた。
「何だ、こりゃ。人の絵か?」
「うーん。多分、人体解剖図を描きたかったんだと思うけどね」
どうやら調査の対象が科学部の部員になったらしい。一人一人の特徴を書き連ねた文章の横に解剖図がつけられている。智美としては内臓器官についての特徴を示したようだ。だがどう見てもそれはギャグ漫画の絵としか見えない。何しろ心臓がハート型になっているのだ。
「絵美佳ちゃんも変なデータを揃えてるんだなあ。胃が弱い? どうやってそんなの調べるんだか」
「まあまあ。あれ? これって例の子じゃない?」
そう言いながら順は次のページを完全にめくった。水輝が順の肩越しに覗き込んでくる。そこには多輝の名前が記されていた。
多輝はちょっと特殊なんですよね……色々。