サイド6。クラップ級とサラミス改級四隻。合計五隻からなる艦隊が、航行していた。
「正義とは、常に悪との隣り合わせだ。悪が無ければ、正義とて存在し得ない」
「全くですな。戦争屋のタカ派共は、それが分かっていない」
『対象艦船接近!!』
オペレーターの声と共に、前方に艦が見える。旧ネオ・ジオンのムサカ級だ。
「連中、食いつくでしょうか」
「食いつくとも。旧ニュータイプ研究所の遺物にしてネオ・ジオンとも縁がある、さらに連邦軍の威光の象徴たる”ガンダム“だ。食いつかん理由が無いさ」
「あの頃はまだ・・・アクシズ、でしたかな」
「・・・そうだったか。やるとすればあの時が、ジオン一掃の最後のチャンスだったのかもしれんな」
『全く以てその通りでございます、准将閣下』
突如、ブリッジに響き渡る声。
「何だ!!」
「通信ジャックです!!」
「発信源を特定しろ!」
『クラップ級の左舷でございます、閣下』
「貴様は何だ、名を名乗れ!!」
啖呵を切る准将。さらに、宇宙に浮かぶ一隻のモビルスーツ。からかうように男は言った。
『特に、名乗るような名前はございませんが・・・さしずめ“ティターンズの亡霊”とでも』
「ふざけるな!ティターンズは十年も前に解体されている!戯言を!」
『ですから、亡霊なのでございます』
「貴様!」
『・・・准将閣下。貴方は旧式とはいえ、ジオン残党に“ガンダム”を譲渡しようと画策なさいました。これは許されざる罪です』
「何を」
『宇宙世紀・・・特に――一年戦争が勃発し、“ガンダム”の威光が文字通りの力になった0079年以降から、ジオン残党を始めとした勢力に“ガンダム”が強奪、ないし譲渡されるのは、珍しくありませんでした』
「・・・貴様」
『そして――我々もその一つだというのですよ、准将閣下。特に、そのクラップ級の中に積み込まれている“ガンダム”は、我々の先達が駆ったまさに記念碑的機体なのですよ・・・できれば、無傷で渡して頂きたい。無論条件を受け入れて下さるのならば、それなりの対処は致します。こちらとしても、無益な殺生はしたくありませんので』
「・・・それは」
瞬間、閃光。
「何をしている!!」
「ムサカが発砲!!」
『・・・准将閣下。残念です』
「ま、待て、我々はまだ・・・」
「・・・これが、二年前だ」
「で、結果はどうなったんだ」
UC0098。サイド6、リボー。動画を見た男が二人。
「件のモビルスーツを筆頭とする武装勢力によってムサカが撃沈されたのは、確実に確認されている。だが・・・旗艦たるクラップ級と、サラミス改級四隻は丸ごと行方不明だ」
「・・・おまえも面倒になったな、ベルガー」
「・・・何がだ?」
ニヤニヤと笑う、スーツ姿の男。対面に座るツナギ姿の男は、不満そうに言った。
「・・・まず一つ。この動画、誰が撮った」
「誰って?」
「・・・まるで映画だ。音声通信の内容はいいとして、この動画。ムサカ撃沈から始まって、連邦艦隊への攻撃まで、事細かに撮られている・・・出所は何処だ」
「その武装勢力さ」
「何?!」
「連邦軍本部宛に、この動画を送りつけてきた。送信経路も何もかも一切不明、脅迫も無し。やってることは愉快犯だが、軍艦が五隻も行方不明だ。そういう訳にもいかん」
「・・・さらにだ。これに映ってるモビルスーツ――ジェガンだな?」
「そうだ、それも問題だ。が、もっと重要なことがある」
「・・・このデブリの影。暗くてよく見えんがキャノン系のモビルスーツだ、しかもかなり小型の。俺の記憶に間違いが無ければ――こいつ、特殊部隊用の小型可変機じゃ?」
「その通りだ。D-50C《ロト》。特殊部隊用の兵員輸送可変モビルスーツだ」
「何故こんなものまで流出している?」
「そんな事は無い」
「事実を認めん気か」
「・・・そういう意味では無い。
ツナギの男は考え込んだ後、急に目を見開く。
「おい、まさか」
「そのまさかだ」
「・・・下手人は身内かよ」
「正解、連邦軍内の過激派だ。艦船もモビルスーツも所有している」
「と言うことは、さっき艦隊が行方不明だと言ったのも」
「・・・
「・・・人員ごとか」
「いや、外だけだろう」
「中身は綺麗に処分されたか」
「当然だ。一番連中が欲しかったのは、中身の“ガンダム”だろうからな」
「・・・型式は」
「お前もよく知っている。もっとも発展量産機の方で・・・俺の古巣にも関係がある」
スーツ姿の男は、その顔に僅かに笑みを湛えて、言った。
「ORX-013、《ガンダムMk-Ⅴ》。旧オーガスタ研究所謹製。現存してる内の――恐らく最後の一機だ」