浩二は、目の前に現れた鉄扉を開けてみた。そこから見えたのは、暗闇に続く階段だった。
「何してるのかな?」
降りてみようとしたところで、いやに明るい弘恵の声が聞こえた。油の切れたロボットのような動きで振り返ると、晴々とした表情の弘恵がいた。しかし目は、ギラついている。浩二が何も言えないでいると、弘恵は手にしていたコップを机に置いて、ゆっくりと迫ってきた。
「ふふふ、ねェ、新津君。何でもかんでも書道のためっていうのが根底にあったって言ったけど、そんなもの関係無しに出来ることも、少しだけあるんだよ」
「何だ、それは」
「簡単なことだよ。生理的欲求の発散。寝ること、食べること、それから——」
弘恵は浩二を壁際に追い詰め、背伸びをして囁いてきた。
「性欲の発散、だよ」
この時、浩二はギラついた目の正体がようやく分かった。内気で引っ込み思案な少女は世を偲ぶ仮の姿。その仮面の下には、雌彪の顔が隠れていたのだ。
***
浩二は、弘恵の背中に着いていって、隠し階段を降りる。この部屋にも電気は通っているようで、明かりを灯せば暗闇と思われたところもどうなっているか分かる。
「この隠し階段がいつからあったかは知らないけど、戦時中は防空壕代わりにもしてたみたい。電気はその頃から通してるんだって。今では私の秘密基地だけどね」
弘恵は得意げに語る。この空間のことは、よほど気に入っているらしかった。階段を降り切ると、またひとつ鉄扉があった。そこを開けると、浩二の目には、俄には信じ難い光景が広がっていた。
部屋のレイアウトは、殆ど真上の部屋と変わらない。変わっているのは、その中身だ。棚には本の代わりに大量のアダルトグッズやアダルトビデオが陳列されている。また、上とは違ってこちらにはベッドが置いてあったが、四隅に謎の輪がついている。壁にはレザーのボンテージや鞭が立て掛けられていて、頭の中の弘恵と、この部屋の内容が全く結び付かなかった。
「こーんなエッチな物に溢れた部屋で、二人きり。することぉ、分かるよね?」
弘恵の指が、浩二の体のラインを上からなぞっていく。指が動くにつれ、彼の理性は段々と崩壊し、下半身に血液が集中する。膨らみかけた股間に、服の上から弘恵の指が触れる。
「ねェ、興奮してきちゃった? 抜いて欲しい? 精液、びゅっびゅって、したい? したいよね?」
「あ、ああ。したい、させてくれ」
脳の奥が痺れてきた。殆ど反射的に、浩二は答えた。しかし、弘恵の手は股間から浩二の頬に移り、反対側の手も使って彼の顔を挟み込む。そして爪先立ちになって、弘恵は浩二の唇を奪い、続けざまに舌を入れてきた。
「んっ、ちゅ、れろれろれろ」
弘恵の舌が、浩二の口の中で激しく動く。正しく貪るという表現が似合うほど、その舌は蠢いていた。息継ぎのために口を離しても、弘恵はすぐにまたディープキスをする。際限なく続く、淫靡な口付け。それは、脳が痺れきった浩二に振り払うことはできなかった。
数えるのを忘れたくらいで、弘恵のキスの嵐が止んだ。お互いに上気して、息を荒げている。浩二が呆然としていると、弘恵は浩二のTシャツに手をかけた。
「はァい、脱ぎ脱ぎしようねー」
幼子をあやすような口調だった。しかし、その声に浩二は逆らうことができない。まるで操り人形のように、自分の裸を曝け出した。その時には、ペニスは最大限に膨れ上がり、亀頭の先からカウパーが滲み出ていた。
「こんなにおっきしちゃって。私たち、部活の同期で、恋人でもないんだよ? いけないんだァ」
「それは、岡谷が——むぐっ」
言い終える前に、弘恵が唇を重ねてきた。今度は舌を入れてこない。彼女は唇を離すと、手際良く自分の服を脱いだ。浩二とは頭ひとつ分ほど身長が違う彼女だが、胸は想像以上に大きかった。服の上からでも大きいと思っていたが、それでも着痩せしていたと分かる。少々肉付きの良い体も、胸と合わせて弘恵全体に妖艶さを醸し出させるのに役立っていた。
「ここは私に従ってもらうよ。じゃないと私、この格好で泣きながら逃げるから」
「……部屋に招いたのは、こうするのが目的だったのか?」
浩二は観念しつつも、どうしてもこれまでの弘恵と目の前の彼女のイメージが繋がらなかったので、そのように尋ねずにはいられなかった。
「半分くらいは。もう半分はさっきの話をしたかったからだけど」
「こっちが本性か」
「いつもの私も、本性だよ。性欲に正直なだけだよ」
そう語る弘恵の眼光は、全く変わっていない。浩二は、この獣にこれから食い散らかされるのだと、確かな予感を抱いた。
***
「じゅぼっ! じゅる! じゅるるっ!」
下品でいやらしい音が、地下室に響く。その音を奏でるのは、浩二のペニスと弘恵の口だった。彼の四肢は例の枷付きのベッドに拘束されて、身動きが取れない。唯一自由なペニスは、弘恵が一心不乱にしゃぶっていた。その彼女は、裸で浩二の体に跨り、秘部と肛門をまざまざと見せつけていた。その前の穴にはバイブが、肛門にはアナルプラグが入っている。
「ぷはっ。どう? 初めてだけど、ずっとディルドで練習してたから、じゅるっ、上手でしょ?」
「ああ、凄く、気持ちいい……」
浩二はもう、考えるのを放棄していた。別に、彼女は自分を殺そうとしているわけではない。自分のオナニーの道具にしたいだけだ。であれば、自分も快楽に身を任せようと、彼は思った。彼女の舌がペニスに絡むたび、また唇がそれを吸い上げるたび、麻痺した脳に快感が送り込まれる。
「ず、じゅるるるっ! タマタマも上がってきてるねェ。舐めてあげるよ。れろれろ……ちゅっ。れろれろれろ……」
「あ、それ、やば……!」
全く知らない快感が、浩二の全身を駆け巡った。反射的に腰が動き始める。それを見て、弘恵が嗤った。顔は見えないが、そう確信できた。
「そっかー、これ好きなんだ。じゃあ、そろそろ本番したいし、イかせちゃお♪」
弘恵の手が、浩二のペニスを掴む。そして、横合いから彼の陰嚢を舐めながら、竿を扱き始めた。
「ちゅっ、れろれろ……。腰ガクガクしてきてるねェ。んー、ちゅっ。せーえき、早く出して? れろっ、れろれろ……私にィ、ぶっかけて?」
「あああ! それヤバ……で、出る!」
情けなく、浩二は精液を撒き散らした。更に、射精したばかりのそのペニスに追い討ちをかけるように、弘恵がそれにしゃぶりついた。
「んっ、じゅるるるっ! ず、ずろろろっ! ぷは。おそーじフェラ、どう? 気持ちいいでしょ」
浩二はただ頷くだけだった。射精後も冷静な思考になることができず、ペニスは屹立したままだ。
「岡谷! 早く、早く挿れさせてくれ」
浅ましくも、浩二はせがんだ。すると、弘恵はクスクス笑いながら、睾丸を優しく掴んで弄り始めた。
「うあ、お、岡谷?」
「せっかちだなァ、まったく。いつものカッコいい新津君はどこに行ったのやら」
ひとしきり遊んだのち、弘恵はスッと立ち上がり、脱ぎ捨てた服の山の中から紫の布地に黒のレースが入ったショーツを取り出した。そしてそれを丸めて、空いた手で浩二の鼻をつまんだ。思わず口が開く。そこに、弘恵がショーツを突っ込んできた。滑らかな舌触りと、少しの臭さに、浩二は更に興奮する。
「それ、はむはむしてていいから。その代わり、静かにしててよね」
そう言いながら、弘恵は膣に入っていたバイブを一気に引き抜いた。その勢いで、愛液が浩二の体に撒き散らされる。
「初めてのナマちんぽ……。いただきます♪」
恍惚とした表情で、弘恵は自分の秘部に浩二のペニスを迎え入れた。その瞬間、彼女は背中の筋肉をピンと張って、首を思いっきりのけぞらせた。
「んっ!? ああッ!? しゅ、しゅごい、これェ……。おちんぽとアナルプラグでお腹の中挟まれて、すぐイっちゃいそう……」
(俺もヤバかった……なんなんだ、岡谷のナカ。すっげェうねって、気持ち良すぎる……!)
司の時のような、拒むような膣の動きではない。弘恵の膣は、それ全体で肉棒を包み込み、奥へ奥へと迎え入れるような感じだ。
「これ、好きィ! こんなの覚えたら、もうオナニーじゃ満足できないよォッ!」
弘恵は、狂ったように腰を振る。ただ浩二も、彼女の性欲の発散のみに自分の一物を使われるのも癪だったので、弘恵の腰の振りに合わせて、自分も腰を突き上げた。
「んおおっ!? 奥まできらぁっ! あっついおちんぽ、ずんずん突いてェッ……、いいのぉぉッ!」
淫靡な地下室に響く、弘恵の喘ぎ声と腰を打ち付ける音が、聴覚からも浩二の射精を促してくる。腰を一突きする度、彼の理性は薄れていき、ただただ快感に溺れていく。
「ああっ、はぁ、はぁ、あ、あああっ! らめ、もうイグ、イッグゥゥゥゥー!」
弘恵が体をビクビクと痙攣させ、思いきりのけぞって叫ぶ。その絶頂に合わせて、浩二も強く腰を打ちつけ、膣内に精液を撒き散らした。
「あ、ああ……。ナカ、あったかい……」
恍惚とした表情で弘恵が呟いて、そのままゆっくりと浩二の胸の上に倒れ込んだ。それから、まるで排泄するように、ぬちゃぬちゃと音を立てながら、アナルプラグをひり出した。浩二の口に嵌ったままだったショーツを何でもないように取り出した。
「よかったのか、お……弘恵」
「何が? てかさりげなく下の名前で呼んだね」
「いや、抱き合ったわけだし、こういう時って下の名前で呼ぶんじゃないの?」
浩二はやや目を逸らしながら訊いた。すると、弘恵は何も答えず、浩二に背中を向けて、彼の手枷や足枷を外し始めた。
「あ、その、嫌だったらゴメン」
「いや、下の名前で呼ばれるのが嫌な人とセックスなんてしないよ。ただ、あんなセックスでそんな気になるんだって思っただけ」
枷を外し終わった弘恵は、清々しい顔だった。つい先ほどまで快楽を貪っていたとは全く思えない、美しい顔だった。
「で、何気にしてたの、浩二君」
そのままの清らかさで笑い掛けた弘恵に、浩二は一瞬我を忘れた。しかしすぐに自分を取り戻し、深呼吸をしてから質問に答えた。
「ナマでやったろ、俺ら」
「ああ、そのこと。大丈夫だよ、私ピル飲んでるもん」
あっけらかんと弘恵は答えた。彼女の頰はまだ赤く、裸の肢体には玉の汗が付いている。なのに表情はいつものとも情事の時のものとも違って、また浩二は言葉に詰まってしまった。