※この作品はR-18です。

IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜   作:イズモ

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四聖獣・白虎番堕ち編3

 ……さま………ヒカル様。

 

「……んっ……この声は?」

 

 聞き覚えのある懐かしい声に惹かれて、カグツチは目を開けた。

 すると、其処は寝入る前に居た筈の保険室ではなく、何とも不可思議な空間にカグツチは立っていた。

 

「此処は?」

 

『お久しぶりです、ヒカル様』

 

「その声は!?」

 

 今度はハッキリと聞こえた懐かしき女性の声にカグツチは目を見開く。

 何故ならばその声の持ち主に会う事をカグツチも望んでいたのだから。期待に逸る気持ちを抑えながら待っていると、カグツチの前に光が集まると共に、黒い着物を着て紅い鉢巻をした腰より長い銀色の髪の女性が現れた。

 その女性をカグツチは知っている。彼女こそが、ネノクニにやって来たカグツチが一番最初に『契りの儀式』を交わし、弟であるスサノオと共に生きる道を選んでくれた精霊。

 

「『楓』さん!?」

 

『はい、ヒカル様。こうして会える日が来るとは思っていませんでした』

 

「良かった。楓さんは無事だった」

 

 事前に占いの結果で楓の存命は明らかになっていたが、こうして目の前に現れた事でカグツチは深い懐かしさと安堵を覚えた。

 だが、カグツチの期待を裏切るように目の前の楓は首を横に振るう。

 

『いいえ、カグツチ様。残念ながら『私』もスサノオ様と共に命を落としました』

 

「なっ!?」

 

『今、ヒカル様の目の前にいる私は、万が一、アシハラノクニに転生したスサノオ様の転生体がこのネノクニに訪れた時に現れる思念体。記憶を失われているあのお方に危機を告げる為に、『私』が最後の力を振り絞って生み出した『影』なのです』

 

「残留思念……」

 

(つまり、目の前にいる楓さんは、『サギリ』さんと同じなのか)

 

 かの一族の遺産を守護し、カグツチ達に渡してくれた精霊の影だった『サギリ』。

 目の前の楓もまた、本当の『楓』が遺した精霊の影だった。

 

「それじゃあ、本物の楓さんはもう……」

 

「アシハラノクニに転生しているって訳ね」

 

「って、ツクヨミ!?」

 

 何時の間にか隣に立っていたツクヨミにカグツチは驚く。

 楓もツクヨミがこの場にいる事に驚く。この場所はアシハラノクニに転生する直前に、本物の楓が己を記憶を保持させた思念体を残す為に作り上げた精神世界。

 カグツチをこの世界に呼べたのは、嘗て『契りの儀式』を結んだ縁とカグツチ本人も『楓』に会いたいという気持ちを持っていたから。

 対してツクヨミは、楓とは余り深い縁を持っていない。それなのに何故と楓が困惑していると、溜め息を吐きながらツクヨミが説明する。

 

「『真の契りの儀式』のおかげでしょうね。ヒカルの魂には私の宝珠が宿っているから、その繋がりを利用して精神世界に入れたの」

 

(フフッ、つまり、今回みたいなヒカルへの精神的な干渉には、私が介入できるって訳ね)

 

 満足げにツクヨミは腕を組んで困惑している楓を見つめる。

 

『『真の契りの儀式』? そのような儀式が存在していたのですか?』

 

「ああっ、俺達も改めて知ったんだけど」

 

「その辺りに関しては後回しよ、ヒカル。どちらにしても、『真の契りの儀式』に関してはもう楓は結べないんだから。それよりも、楓。私達の方でも貴女を探していたわ」

 

『私をですか?』

 

「ええ、そうよ……率直に聞かせて貰うわ。スサノオとヒミコ……いえ、スサノオと『徐福』の関係に関してね」

 

『っ!?』

 

 楓は驚愕の余り目を見開いた。

 その反応を見たカグツチとツクヨミは察した。スサノオと『徐福』の間には、命のやり取りを行なっただけではない何か特別な因縁が存在しているのだと言う事を。

 そしてその因縁に楓もまた関わっているのだと言う事を察した。

 

「私達は既にヒミコの正体が嘗て四聖獣達が人間だった頃に、共に大陸から渡って来た者だと言う事は知っているわ。そしてそのヒミコが、スサノオを、正確に言えばその転生体を『救世主』としてこのネノクニに召喚しようと目論んでいる事までね」

 

『……其処までご存知でしたか』

 

「ええ……だけど、分からない事もあるわ。スサノオとヒミコは確かに戦い合った。結果はスサノオは破れて死んだ。その戦いで貴女も命を落とした。そのヒミコが何故スサノオに其処まで執着心を抱いているのか。ハッキリ言ってヒミコがスサノオに対する執着心は異常よ」

 

 確かにスサノオは神話級の力を持った悪霊だった。

 剣士としての腕はカグツチが現れるまで、ネノクニに随一の実力者だった。何よりも先代の悪霊の長であるヨモツオオカミの息子でもある。

 悪霊側の『救世主』として、その転生体をネノクニに召喚するのはおかしくない話かもしれないが、ツクヨミにはそれ以外にも理由があるように思えていた。

 その可能性を確信へと至らせる情報を握っているのが、今目の前にいる楓だった。

 

「……貴女には少し言い難いけど、既に私達はアシハラノクニでスサノオの転生体を見つけたわ」

 

『……スサノオ様の転生体のお方は、幸せそうでしたか?』

 

「幸せなんて人それぞれだからハッキリした事は言えないけど……少なくとも争いの無い平穏な日常を過ごしていたわね」

 

『……そうですか。良かった』

 

 心から嬉しそうに楓は微笑んだ。

 ツクヨミの言葉から、スサノオの転生体の傍に、アシハラノクニに転生した自身が居ない事を察していたが、それでも楓は嬉しかった。

 

『……分かりました。お話しします。ヒミコ……いえ、『徐福』様とスサノオ様のご関係を……遥か昔、ヨモツオオカミ様にはスサノオ様以外にも、一人のお方が共にお仕えしていました。その方こそがアシハラノクニよりネノクニに渡って来たお方……『徐福』様です』

 

「っ!? ……ヨモツオオカミにヒミコが……仕(・)え(・)て(・)い(・)た(・)」

 

 カグツチは呻くような言葉を発した。

 対してその可能性がある事を既に察していたツクヨミは、深い溜め息を吐く。

 

「ふぅ……つまり、ヒミコは私の前任者だった訳ね」

 

『そうなります』

 

「それを貴女が知っているのは、貴女を生み出したスサノオに仕えていたからかしら?」

 

 『女郎蜘蛛の精霊』である『楓』は、一匹の小さな蜘蛛だった。

 それをスサノオが術を施して霊力を渡す事で精霊へと至らせた。無論、それが可能だったのは邪神とは言え神の息子であったスサノオだったから。

 だが、剣士としてはネノクニにカグツチがやって来るまで並ぶ者が居ないほどに優れていたスサノオだったが、術師としては腕は殆どなく、生み出された楓は弱かった。それ故に今は出雲学園が建っている山に括られる形で捨てられる経緯があった。

 そう言った経緯を知っているツクヨミとカグツチは、楓がヒミコの事を知っているのは捨てられる前にスサノオに仕えていたからだと考えた。だが……。

 

『いいえ。正確には違います……他ならぬスサノオ様が私を生み出した術を教えられたのは、『徐福』様なのです』

 

『っ!?』

 

 楓とヒミコの関係は、ツクヨミとカグツチが考えていた以上に深かった。

 

『私を生み出した後も、スサノオ様は『徐福』様と共にネノクニに生きる人々を襲撃し、殺していきました』

 

「待ってくれ! 四聖獣の皆からは、『徐福』はヨモツオオカミと戦ったって聞いていたんだが……」

 

『はい。それも偽りのない事実です。ですが、それはネノクニの人々の為ではなく、ヨモツオオカミ様のやり方にヒミコ様が納得出来ず、袂を別って対立して起きた事……残念ですが、四聖獣の皆様と違い、『徐福』様はネノクニに来てから人々を殺す道を選ばれたのです』

 

「……なんてことだ……」

 

 カグツチは呻くような声を出すしかなかった。

 青龍から聞かされていた『徐福』と邪神ヨモツオオカミの争い。それはネノクニの人々をヨモツオオカミの脅威から護る為に起きた戦いではなく、方針の違いから起きた仲間割れによる争いが真相だった。

 

(ツクヨミから、もしかしたらの可能性で聞いていたが……こんな話……身重の青龍には聞かせられないぞ)

 

 遥か昔から四聖獣は『徐福』、そしてその傍で仕えていただろう『麒麟』にも裏切られていた。

 この事実を決して青龍には今は話せない。他の玄武、白虎、朱雀も聞かされればショックを隠せないほどの事実なのだから。

 

(全く。最悪の可能性だけは当たるわね)

 

 可能性としては考えていても、出来れば外れていて欲しかった事が事実となって明らかになった。

 

『当時、『徐福』様の裏切りを知ったスサノオ様は怒り狂い、手当たり次第に周囲を破壊し尽くしました』

 

「でしょうね」

 

 その怒りようが目に浮かぶのかツクヨミは同意を示した。

 ただでさえ邪神ヨモツオオカミが誕生した経緯には、遠縁で大陸から渡って来た『徐福』、『麒麟』、そして四聖獣が関わっているのだ。その中での更なる裏切りに加え、敬愛する母親であるヨモツオオカミの命を狙った『徐福』をスサノオが赦すとはツクヨミには考えられなかった。

 

『敗れた『徐福』様をヨモツオオカミ様が吸収し、その後、暫らくして私はあの山に捨てられました……今思えば、私を見ていると『徐福』様の事を思い出してしまうからだったのかも知れません』

 

「……二千年前の事情は分かった。それじゃあ、スサノオの奴がヒミコに挑んだのは、昔の借りを返す為だったんだな?」

 

『……いいえ、それも違います。今からその時の光景をお見せします』

 

 告げると共に楓は力を使い、自身の精神世界に別の光景を映し出した。

 その光景には長い銀髪に紅玉の瞳を持った巫女服姿の少女-『ヒミコ』-と、何処となくカグツチに似ている顔立ちをした剣を携えた少年-『スサノオ』-が相対している様子が映っていた。

 

『スサノオ様……』

 

『徐福……いや、今はヒミコと名乗っているのだったな』

 

 ヒミコと対峙しているスサノオは険しい視線を向けながら、何時でも剣を抜けるように構えていた。だが、ヒミコの方は……。

 

『会いたかった……ずっと、貴方に会いたかった……』

 

『………?』

 

 感極まって自身を見つめて来るヒミコに対して、スサノオは訝し気な視線を向ける。

 そんなスサノオに視点が楓のものである為なのか光景には姿が映っていないが、楓が声を掛ける。

 

『スサノオ様……』

 

『下がっていろ。こいつは危険だ……悪霊となった事で嘗ての半身を吸収される前の母上と同じか、それ以上の力を持っている』

 

『っ……』

 

 息を呑むような声と共に僅かに光景が遠退いた。

 楓がスサノオの指示に従って下がったのだ。その中で感極まってスサノオを見ていたヒミコの視線が、楓に向く。紅玉の中に嫉妬に満ちた目が……。

 

『その……女郎蜘蛛は……』

 

『ああ、あんたに作り方を教えて貰った、アイツだよ』

 

『………』

 

『あれからずっと、俺に仕えてくれている。一度は怒りに駆られて捨てたこんな俺にだ。だから、こんなことになってしまったがこいつを俺に与えてくれた事には、本当に感謝しているんだ。あの時にあんたが止めてくれなかったら、俺は一(・)番(・)大(・)切(・)に(・)な(・)る(・)相(・)手(・)を失っていたんだからな』

 

『そう……そうですか……』

 

 ヒミコは物思いにふけるように目を閉じた。

 やがて何かを振り払ったかのようにヒミコは目を開けて、スサノオを見つめる。

 

『スサノオ様、どうしても、私に協力するつもりはないのですね?』

 

『ああ、俺はもう人間達を滅ぼす手伝いをする気はない』

 

『貴方のお母上の意思を、私は継いでいるのですよ?』

 

『っ……違う。母上が本当は何を望んでいたかは、俺が一番良く知っている』

 

 一瞬苛立たしそうに眉を顰めたスサノオだったが、冷静にヒミコの言葉に返事を返した。

 カグツチに敗れる前は、母であるヨモツオオカミの願いに従ってスサノオはネノクニの人間達を虐殺していた。

 だが、最後のイザナミとの会話によってヨモツオオカミの気持ちを知り、長く存在しながらも成長出来なかった精神は大人へと至っていた。

 

『それにあんたが母上の意思を継いでると言うな……他ならぬ母上を裏切ったのはあんたの方だった』

 

『っ……その通りですね……それもまた私の過ちでした……ですが、どうかせめて人間達に協力するのはお止めください』

 

『くどいぞ。俺はあんたに従わない』

 

『……ならば、致し方ありません』

 

『……っ!』

 

 空気が変わったのを感じたのか、スサノオは自らの愛剣-『天叢雲』を構えた。

 

『貴方を倒して、その力を奪わせて頂きます!』

 

 対峙するスサノオとヒミコは一瞬即発。しかし、ヒミコが霊気を集中させると共にスサノオの表情が変わった。

 

『この気……この呪力と霊力はヒミコのものではない……』

 

『その正体は、貴方も良くご存知の筈……』

 

『どうして、お前から『ヤマタノオロチ』の霊力を感じるんだ!? いや、『ヤマタノオロチ』だけではない!? 何だ、この無数の力の気配は!?』

 

『倒した者の力を取り入れ続けて……私は今や、貴方のお母上を超えるこの世界で最も強大な悪霊です』

 

『まさか、そんなことが……』

 

『二千年前に、貴方の母上が私(・)に(・)使(・)っ(・)た(・)術ですよ』

 

『くっ! 不味い! 逃げろ、楓!』

 

『スサノオ様!?』

 

 形勢不利と判断したのかスサノオは大切な相手である楓に指示を出すと共に、圧倒的な力を持つヒミコに挑んだ。

 戦いは何日も渡って繰り広げられ、地形が変わり果てるほどの戦闘を行ない続けた果てに……スサノオは敗れた。

 

『はぁ、はぁ……』

 

『終わりです』

 

 ボロボロな姿のスサノオに対してヒミコは余裕を持って立っていた。

 そしてヒミコはスサノオに向かって左手を構えて、何らかの術を行使しようとする。

 

『貴方のその強大な力と魂、私のものにさせて頂きます』

 

『無念……』

 

 遂に限界を迎えたのかスサノオは膝を屈し、まさにヒミコにその力を取り込まれそうになった。その時……。

 

『スサノオ様!』

 

『……楓っ!?』

 

 楓がスサノオを護るように両手を大きく広げて、ヒミコの前に立ちはだかった。

 

『どきなさい! 貴女に出来る事などなにもない!』

 

 苛立ちながら脅すヒミコに対し、楓は決意に満ちた顔で敢然に言い返す。

 

『いえ、あります……たった、一つだけ』

 

『……っ!? まさか……』

 

『スサノオ様……この命に替えても、貴方は私が御守りします』

 

『楓、よせっ……やめろぉっ!』

 

 楓は儚げに微笑むと共にそ(・)の(・)術(・)を行使した。

 今は出雲学園がある山は、そもそも二つの世界の境界線が最も薄い地でもあった。アシハラノクニとネノクニの狭間と言える地に長く括られていた楓は、その影響を強く受けて『夢を紡ぐ力』がなくとも、『反魂の術』とは全く違う新たな二つの世界を行き来する術を編み出していたのだ。

 ……その術の行使に必要なのが己の命である事を察しながらも、楓は止まらずに術を発動させた。

 

『楓っ!』

 

 楓の祈りに守られて、スサノオの魂はヒミコから護られて、空高く昇っていく。

 何とかスサノオの魂を得ようとヒミコも動いているが、楓が行使した術は『反魂の術』と違い、全く独自の術。故に、幾ら卓越した術師であるヒミコを以てしても即座の妨害は出来なかった。

 

『楓っ! くっ、うわあああっっ!』

 

 空高く舞い上がりながらスサノオの魂は泣き叫んだ。

 スサノオは分かっていた。自身をアシハラノクニに逃がす為に術を行使した楓がどうなってしまうのかを。

 だが、最早発動した術は止まる事無く、スサノオの魂は楓が命と引き換えに使った術に依って、ヒミコに取り込まれる事なくアシハラノクニに逃れた。

 しかし、術者本人だった楓にとっても予想外の事が起きた。

 楓の行使した術は、二つの世界を行き来できる『反魂の術』と違う。言うなれば魂を新たな生命へと生まれ変わらせる『転生の術』と呼べるもの。

 アシハラノクニにスサノオは転生する時に、猛る魂と剛き心の二つに分かたれ、それぞれ転生してしまったのだ。

 術者である楓はその事実を悟り、驚愕に目を見開くが、既にその身には殆ど力なく地面に倒れ伏した。

 

『くっ! スサノオ様……』

 

 手の届かないところにスサノオが逃がされた事に、ヒミコは怒りと憎しみに満ちた目を倒れ伏す楓に向ける。

 だが、それ以上何もすることなく闇を纏ってヒミコは地面に落ちていた『天叢雲』と共に姿を消した。余裕があるように見えたヒミコだが、実を言えばスサノオとの戦いによって消耗していたのだ。

 ヒミコの強大な力は外付けによるものが大きい。まだ、その力に馴染み切っていないが故に疲弊してしまえば、吸収した力が暴走してしまうのだ。

 最早消え去る小さな命に興味ないと言うように、ヒミコはスサノオの愛剣である『天叢雲』と共に去って行った。

 

『はぁっ……はぁっ……』

 

 楓は悟っていた。ヒミコがスサノオを諦める事は無い事を。

 

『……スサノオ様……何があっても貴方様をお守り……いたしますっ』

 

 残る僅かな力を使い、楓は己の影を生み出した。

 生まれ変わったスサノオの転生体がネノクニに訪れた時。或いはヒミコの脅威からスサノオの転生体を護ってくれる者達に伝える為に、自身の記憶と影を留める精神世界を残し、楓もアシハラノクニへと転生したのだった。

 

『これがスサノオ様と『私』の最後です。そして縁のある地で感じた徐福様の呪力、そしてアマテラス様と四聖獣様方の気を感じ、ヒカル様をこの場にお呼びしたのです』

 

 『楓』も影故に精神世界から出る事は出来ず、本来は外界の様子も伺えないが、唯一『反魂の術』とそれを行なわれた場である出雲学園ならばほんの僅かだが干渉出来る。

 その中で『契りの儀式』を結んだ相手であるカグツチの気配も感じ取れたのは、『楓』にとって僥倖だった。

 これ以上に無いほどにヒミコの脅威を知らせるに相応しい相手なのだから。

 伝える事は終わったと言うように『楓』は腕を振るい、見せていた光景を消した。

 

『………』

 

 周囲の光景が元の光景に戻ったが、カグツチとツクヨミは言葉を失っていた。

 スサノオと楓の壮絶な最後にも言葉を失うしかなかったが、それ以上に見過ごせない情報が光景の中には存在していた。

 

「……スサノオが二人の人間に転生しただって?」

 

「……そう。そうだったのね。分かったわ。私がスサノオの転生体である『剛』を見た時に感じた違和感。そうよ! 足(・)り(・)な(・)い(・)の(・)よ(・)! スサノオにしては『剛』の魂の大きさが足りないのよ! スサノオはヨモツオオカミ様の息子だけあって、その魂は強大だったのに、剛はその半分ぐらいしかなかったわ!」

 

 本来1つの魂から2人の人間が転生するなど在り得ない。だが、スサノオの魂はその例外を引き起こしていた。普通の転生と違い、スサノオはヒミコの魔の手が魂にまで及ぶ直前に、楓がその命と引き換えにアシハラノクニへと魂を逃した事が影響を及ぼし、2人の人間に転生するという異常事態を起きていたのだ。

 

「それにあのヒミコのスサノオへの執着心。まさかとは思っていたけど、ヒミコは……」

 

『はい、徐福様はスサノオ様に想いを寄せておられました……しかし、スサノオ様が徐福様への協力を拒み、お見せした光景の通り、争い合う事になってしまったのです』

 

「それで自分で殺したも同然なのに、アシハラノクニに転生したスサノオの転生体を狙っている訳ね」

 

(スサノオもとんでもない女に惚れられたものね)

 

 ツクヨミもカグツチと『真の契りの儀式』を結んでいるので、強い執着心を持っているが、ヒミコのスサノオに対する執着はそれ以上だった。

 何せ転生したと言う事は、事実上スサノオは死んだも同じ。しかも魂が二つに分かれるというおまけまでついている。

 

「……ヒミコのスサノオへの想いに関しては分かったわ。まさか、スサノオが二人の人間に転生したなんて思っても見なかったけどね」

 

『では、ツクヨミ様達が見つけられたスサノオ様の転生体のお方は?』

 

「ええ……魂の片割れの転生体一人だけよ」

 

(だけど、今の楓の話が本当なら、どうしてヒミコはもう片方のスサノオの転生体を召喚出来なかったの?)

 

 ツクヨミが見つけたスサノオの転生体の片割れである『剛』は、ヤマタノオロチの転生体である『汀』によってヒミコの干渉から護られた。

 だが、もう片方のスサノオの転生体に関しては、今のところ誰なのかも分からない。

 

(琴乃の縁を用いて召喚しようとしているのが『剛』だけのなのか……それとも、もう一人のスサノオの転生体とも琴乃の間に縁が結ばれているのかが重要ね)

 

 それはあり得ない話ではなかった。

 幾ら転生した事によってそれぞれ別の人間に転生したとはいえ、元は一つの魂だった存在。互いに無意識に惹かれ合い、近くにいることはおかしくないのだ。

 ツクヨミがこれまでの情報からその相手はいなかったかと考え込んでいると、何かに気付いたようにカグツチがハッとした顔をし、楓を見つめる。

 

「っ……楓さん。本来の貴女は既に転生しているんだよな?」

 

『はい、その通りです』

 

「……ツクヨミ。楓さんとスサノオが一緒に亡くなったとしても、同い年で転生するものなのか?」

 

「?……絶対とは言えないわね。スサノオが死んだ時期は、まだネノクニとアシハラノクニの境界が乱れていた時期でもあるから、数年はズレが出てもおかしくないと思うわよ。現にあの戦いから一年半後に佐久夜は生まれたのに、綾香の娘である琴乃よりも年下なんだからね」

 

「そうだよな……じゃあ、これはあくまで俺の勘だが……もう片方のスサノオの転生体の傍には『楓』さんの転生体がいるかも知れない」

 

「何ですってっ!?」

 

『『私』の転生体がスサノオ様の片割れのお傍に!?』

 

 驚愕するツクヨミと楓に向かってカグツチは頷きながら、自身の推測を語り出す。

 

「あくまでも、もしかしたらかも知れないが……『冬木凪』さん。あの女性が楓さんの転生後の人なのかも知れない」

 

 ハッとしたようにツクヨミは目の前にいる楓と『鏡の精霊武具』が映した『冬木凪』の姿が重なった。

 

「俺は『八岐猛』君と『冬木凪』さんが一緒にいる光景を見た時、自分でも分からない懐かしさのようなものを感じたんだ。それに……琴乃ちゃんと深い縁がある男は、『剛』君以外では『八岐猛』君しかいなさそうだからな」

 

「……あり得るわね」

 

 確実とは言えないが、他ならぬ『楓』と『契りの儀式』を結んでいたカグツチの言葉なのだ。

 『冬木凪』がアシハラノクニに転生した『楓』である可能性はある。

 

(だけど、それをどうやって確かめれば……)

 

 現状アシハラノクニへの干渉は最小限にしなければならない。

 何よりもアシハラノクニにはネノクニと比べものにならないほどに人がいるのだ。その中で名前だけで人探しなど簡単に出来る筈がない。

 

(方法があるとすれば、相手から此方に来て貰うぐらいだけど)

 

 そんな方法があるのかとツクヨミは頭を悩ませるが、フッと目の前にいる楓に目を向けた。

 

『いかがいたしましたか、ツクヨミ様?』

 

「……ねえ、楓。アンタは『楓』としての記憶を全部保持してるのよね?」

 

『はい。時間もない咄嗟の事でしたから、記憶の振り分けなどは出来ませんでしたから』

 

「そう……なら、方法はあるわね」

 

「本当か、ツクヨミ!?」

 

 コクリとツクヨミはカグツチに向かって頷く。

 

「だけど、この方法を使用した場合、今の『影』としての貴女は消滅する」

 

「なっ!?」

 

「私が行なおうとしているのは、貴女の転生体に影としての貴女を還す術。元々一部だった貴女なら問題なく還れるわ……それによって貴女の転生体が記憶を取り戻せるかもしれない。あくまで可能性だけどね」

 

 無論、この方法には幾つか問題がある。

 既に転生している楓にも、確りとした自我が確立している。当然ながら前世の記憶など戻っても不都合。更に言えば目の前にいる楓は残留思念に近い存在。

 確りとした自我が確立している転生体に拒否されて、そのまま消滅もあり得る。

 『楓』の転生体が『冬木凪』だと仮定しても、リスクはかなり多い。

 

(とは言っても、上手く行く可能性は高いのよね)

 

 ツクヨミがそう思うのは、『因果確定』の事を知っているから。

 『因果確定』によって、『八岐猛』と『冬木凪』が結ばれる運命は確定してしまっている。

 そしてこの時点でも『因果』が巡り出している。

 

(それにヒカルの話が事実だとすれば、もう一人のスサノオの転生体かも知れない『猛』って子にヒミコが干渉出来なかったのも頷けるわ)

 

 『剛』にはヤマタノオロチの転生体である『汀』が。

 もう一人のスサノオの転生体かも知れない『猛』は、『楓』の転生体である『凪』がそれぞれ守護し、ヒミコの干渉を退いていたのならば、他者の縁を用いるという凶行に手を出すしかない。

 

「……どうするかは貴女が決めなさい、楓」

 

『……』

 

 ツクヨミの言葉に楓は目を閉じて考える。

 既に伝えるべき情報はカグツチ達に伝え終えた。スサノオの為に残された己の役目は終えたのだと影の見ながらも楓は実感する。

 だが……。

 

(スサノオ様……)

 

 どうしても脳裏に過ぎるのは愛しい相手の姿。

 出来る事ならば来世でも結ばれて欲しいと願ってしまう。そしてもし己の身を犠牲にして、愛しい相手の転生体を護れるならばと楓は決意した。

 

『分かりました。ツクヨミ様のご提案に乗り、来世の私に還ります』

 

「それじゃあ楓。もしアシハラノクニに転生したアンタが記憶を取り戻し、それを受け入れられたら、アンタにとっても懐かしい相手、『倉島渚』に会いに来なさい」

 

『渚様ですか?』

 

 懐かしい相手の名前が出た事に楓は驚いた。

 

「ああ、色々と事情があって渚とだけは連絡を取る事になったんだ。楓さんの事情はこっちから説明しておくから安心してくれ」

 

『分かりました』

 

 微笑みながら楓は頷いた。

 其処には消え去る事への恐怖は無かった。新しい門出に行くのだと空気に満ち溢れる中、ツクヨミは術を行使する。

 

『ヒカル様、ツクヨミ様、どうか宜しくお願いします……また何時か』

 

 微笑みながら楓は光の粒子へと変わり、直後に精神世界は崩壊してカグツチとツクヨミは朝(・)日(・)に(・)照(・)ら(・)さ(・)れ(・)る(・)現実世界へと戻ったのだった。

アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。

  • 琴乃が堕ちた段階で孕ませる
  • 四聖の社全て攻略後に孕ませる
  • サヨ関連終了後に孕ませる
  • イザナミも加え、四人そろって孕ませる
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