※この作品はR-18です。

IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜   作:イズモ

142 / 174
またも琴乃編じゃなくて申し訳ありません。
しかもエロは無しです。次回こそは琴乃編を投稿しますので、もう少しお待ち下さい。

そして今回神楽シリーズから名前と容姿の敵キャラが出ます。

アンケートは今週の土曜日の0時までさせて貰います。


アマテラス・淫堕ち3・契りの儀式編の弐

 里の出入り口。

 其処には里の者達が集まって列を為して並んでいた。そんな彼らの視線の向く先には、育て上げられた屈強な馬に跨る兵達と一際立派な馬に乗る将であるカグツチとツクヨミの姿。

 青龍が子である青蘭を産み終え、その祝祭の宴も終えた。故に予てより決まっていた『黄泉平坂』への遠征の時が遂に来たのだ。

 

「それじゃあ、アマテラス、佐久夜、それに琴乃ちゃん。行って来るよ」

 

「ええ、どうかお気をつけて。貴方、姉さん」

 

「お父さん! 伯母様! 皆と気を付けてね」

 

「が、頑張って来て下さい……」

 

 今回の遠征先は悪霊の巣窟であり本拠地である『黄泉平坂』。

 その『黄泉平坂』で番人でありながらも、ネノクニに仇為すヒミコに与している牛頭と馬頭を討伐する事が今回の遠征の目的。加えて『黄泉平坂』に存在しているかの一族の遺産が隠されている空間内に存在していると思われる、リンドの先祖の精霊の影である『サヨ』に会う事も目的である。

 だが、どういう訳かその『サヨ』の分体だと思われる存在が里に現れ、消滅の危機に瀕していた青龍を救ってくれたのだ。

 しかし、肝心の里に現れた『サヨ』は、未だ意識を取り戻すことなく、出雲学園で深い眠りについて目覚めるのを待つしかない状況。

 何かが『黄泉平坂』で起きようと、或いは既に起きている可能性が高い以上、青龍の体調も回復した以上、遠征を遅らせる理由は無くなった。

 

「カグツチ様、ツクヨミ様。どうかお気をつけて」

 

 旅支度の服装を身に纏ったリンドが、申し訳なさそうな顔をしながらカグツチに声を掛けた。

 その隣には青蘭を抱いた青龍が立ち、三人の背後にはリンドと同じように旅支度をした巫女数名が立っている。

 無論、リンド達はカグツチ達と共に『黄泉平坂』に遠征に行くわけではない。

 彼らが向かうのは『アシハラノクニの学び舎』と呼ばれている出雲学園。リンドの体調も戻った事で、出雲学園で眠る『サヨ』の分体と思われる存在の状態を確認し、出来るならば復活を行なうつもりなのだ。

 他にもアマテラス達が桃花の出産だと思っている蔓の出産の予定日が明後日頃なので、その為に出雲学園に向かう為でもあった。

 

「……一族に関わる事ですから、本当だったら僕が行かないといけないんですが……」

 

 無数の力の集合体と呼べる存在となったヒミコに対して、対抗手段を見つけてくれそうな存在が『呪』を司る『サヨ』。青龍の危機を救ってくれたように心強い存在ではあるが、同時に問題も多い人物でもあった。

 リンド達の窮地を救ってくれた分体の存在から考えて、『黄泉平坂』に居るはずの『サヨ』の本体に何かが起きているのは明らかであり、最悪の場合……ヒ(・)ミ(・)コ(・)側(・)に(・)見(・)つ(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)可能性もある。

 そうだとすれば一族を継ぐ者として、直接リンドは動きたいが……それは出来ない。

 

「気にするな、リンド」

 

「そうよ。寧ろアンタに何かあった方が不味いんだから」

 

 子がいるからと言っても、リンドの存在に関する事を知られるのは不味い。

 記憶が戻った事で優れた術師と一族の知識を持つリンドとまだ赤ん坊でしかない子達とでは、やはりどうしてもリンドの方に重要性が向いてしまう。

 それが分かっているからこそカグツチは問題ない事を示す為に、馬に乗りながらリンドの頭に軽く手を置く。

 

「余り気負い過ぎるな、リンド。俺達は共にネノクニを護る仲間だ。ヒミコの件はお前だけの問題じゃない。今回は俺達が動く。だから、俺達がいない間、里の皆と琴乃ちゃんに佐久夜、そしてアマテラスの事を頼む」

 

 リンドが使用できるようになった先祖から受け継がれた固有呪法『樹界降誕』。

 結界系と言う珍しい呪法であり、その効果も絶大なもの。長期間の使用も可能であり、その恩恵は里の守護に置いて計り知れない。

 無論、『樹界降誕』の存在はヒミコ側も知っているので、使用して目撃されてしまえばかの一族の生き残りが知られてしまう危険性があるので緊急時にしか里を覆えるほどの顕現は難しいが、それでも何かあった時には里を護れると言う安心がカグツチにはあった。

 カグツチの頼みにリンドが頷くと、青蘭を抱いた青龍が話しかけて来る。

 

「カグツチ、ツクヨミ……気を付けて下さい。もしヒミコが遺産を見つけて動き出しているとすれば……間違いなく彼(・)女(・)を動かす筈です」

 

「ああ、分かってる」

 

「ええ、勿論覚悟はしているわ」

 

 青龍が言う相手が誰なのかは、カグツチもツクヨミも分かっている。

 嘗て人間だった頃の四聖獣達の真のリーダーを務め、人から自力で精霊へと至ったネノクニの最強の精霊『麒麟』。

 これまでの長い戦いの間でも、カグツチ達は戦場で麒麟と相まみえた事は無いが、『八尺瓊』によって存在はヒミコの側近として仕えている事は明らかになっている。

 四聖獣に己の正体を知られ、勢力も衰えたヒミコが麒麟をこれ以上出し惜しみする理由はない。何よりもヒミコの力を確実に回復出来る方法の為なのだから、麒麟が動かない筈がない。

 

「麒麟が動くのならば、私達も動くべきなのですが……」

 

「あう、あうぅ」

 

 生まれたばかりの青蘭を置いて、青龍はカグツチ達と共に行く訳には行かなかった。

 何故ならば既に精霊の力に目覚めてしまっている青蘭の力を安全に抑え込めるのは、母親である青龍だけ。

 それに加えて子を産み終えた青龍が次に為すのは、次代の四聖獣たる子を守護する事。不倶戴天の敵となった麒麟が動く可能性があったとしても、青龍は動けない。

 他の四聖獣にしても、白虎は子を宿してしまったので動けず、玄武と朱雀は自らの社の守護で呼ぶことが出来ない。

 本来社の件に関しては白虎の件を隠す為の方便だったが、リンドの嫌な予感は未だ警鐘を発している。予感ごときと侮ってはいけない。

 力ある者。ましてや『理を紡ぐ力と理を整える力』を秘めた『八尺瓊』の継承者が感じる予感なのだ。

 何があっても良いようにするために、今回のカグツチ達の遠征には他の四聖獣は動けない。

 今回の牛頭と馬頭に加えて、麒麟を含めたヒミコ側の悪霊軍とも戦いになるかも知れない状況。だが、ソレに臆するつもりはカグツチ達には無かった。

 

「大丈夫だ、青龍。例え相手に麒麟と言う精霊がいたとしても、俺達は負けないさ」

 

「ええ、そうよ。寧ろこの機会にネノクニ最強の精霊の称号を貰ってやるわ」

 

 かの一族の遺産がヒミコ側の手に渡れば、せっかく弱体化したヒミコの力と勢力が復活してしまう。

 それを阻む為、そして得られた力を存分に振るえる機会が漸く来た事にカグツチとツクヨミが率いる兵達の士気は高い。

 カグツチ達の士気の高さを感じた青龍は頷き、リンドの傍で無事を願うように頭を下げた。

 

「よし! 行くぞ、皆!! 遠征先は『黄泉平坂』! 危険な場所だが、俺達は無事に目的を果たして里に戻って来るぞ!!」

 

『おおおおおおおっ!!』

 

 カグツチの呼びかけに兵達は片腕を掲げて叫んだ。

 装備も万全。兵の士気にも問題は無いと確信したカグツチは乗っている馬を走らせ、兵達はその後に続いて行く。

 アマテラス達はその背が見えなくなるまで里の出入り口で、無事に皆が帰って来る事を願い続けた。

 

 この時、誰も夢にも思っていなかった。遠征に向かったカグツチ達が里に戻って来るのは、この時より一年近く先となってしまう事を。そして先(・)代(・)の(・)ネ(・)ノ(・)ク(・)ニ(・)の(・)神(・)が(・)蘇(・)り(・)、里(・)長(・)で(・)あ(・)る(・)ア(・)マ(・)テ(・)ラ(・)ス(・)が(・)契(・)り(・)の(・)儀(・)式(・)を(・)結(・)ぶ(・)事(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)など想像も出来る筈が無かったのだった。

 

 

 『黄泉平坂』からある程度離れた場所に在る深い森の中。

 その森には二つの人影があった。片方は立派な衣装を身に纏った壮年の男性。

 悪霊の長であるヒミコに仕える軍師であり、神話級の力を秘めた強大な悪霊。その力ゆえに『八千矛の神』とまでネノクニの人々や悪霊から称されている『オオナムジ』だった。

 その場に静かに立って目を閉じているのは秘色の長い髪を一房に纏めている絶世の美女。人ならざる証に耳の上辺りから下に向いた白い角が生えている。服装は右側だけ長い袖で、左側には袖が無い民族衣装。胸元には首から掛かった首飾りがあった。

 彼女こそ、嘗て人であった頃の四聖獣達のリーダーを務め、自力で精霊へと至り、ネノクニの最強の精霊『麒麟』だった。

 二人はこの一年、ヒミコに命じられてネノクニ中を探索し、必ず何処かにある筈の自分達が滅ぼしたネノクニの陰であった一族の遺産を探し求めていた。

 だが、幾ら探してもかの一族の遺産は見つからなかった。これではヒミコの力を早期に取り戻せないと無力感さえ感じながらも、オオナムジと麒麟は必死に探索を続け、遂先日ヒミコから連絡が届いたのだ。

 

『黄泉平坂で牛頭と馬頭がかの一族の遺産を見つけた』

 

 その連絡が届いた時は、オオナムジも麒麟も驚愕するしかなかった。

 二人も、まさか悪霊の本拠地とされる『黄泉平坂』にかの一族の遺産が隠されているなど想像もしていなかった。『黄泉平坂』は明確な意思を持った上級の悪霊達が犇めく場所であり、嘗ては邪神ヨモツオオカミの本拠内だった場所。

 そんな場所に遺産を隠すなどありえないとオオナムジと麒麟は無意識に思い込み、探索場所から自然と外されていた。だが、その場所にこそあったと知らされた時は言葉を失うしかなかった。

 

(盲点であった。知略に優れていると言われながらも、この体たらくとは……ヒミコ様に申し訳が立たん)

 

 信頼されて探索を命じられたのに、一年の間何の成果も出せず、逆に行動に問題ありと思ってヒミコに報告をおこなった牛頭と馬頭が成果を上げてしまった。

 座禅を組みながら自らの無力さにオオナムジが嘆いていると、隣に立っていた麒麟が静かに目を開いて呟く。

 

「来たようです」

 

 その言葉と共にオオナムジと麒麟の周囲に異形の姿が次々と現れた。

 普通ならば慌てそうなものだが、オオナムジと麒麟には焦りはない。何故ならばその異形達は二人と同じヒミコに仕える配下だった。

 その中でも一際大きな体格をした二本角の紅い肌の立派な鬼と蒼い肌の一本角の鬼がオオナムジと麒麟に声を掛ける。

 

「ガハハハハッ! 来てやったぞ! オオナムジに麟!」

 

「フハハハハッ! 二人とも元気そうで何よりだ!」

 

「……『牡丹(ぼたん)』に『露草(つゆくさ)』……貴方達も来たのですか」

 

 紅い鬼-『牡丹(ぼたん)』と蒼い鬼-『露草(つゆくさ)』を見た麒麟が呟いた。

 

「応とも! 久々の戦だと聞いてな!」

 

「この機会を逃せる筈があるまい!」

 

 牡丹と露草と呼ばれた二体の鬼達は、全身から鬼気を発しながら返事を返した。

 二体の鬼は上級の悪霊の中でも上位の存在であり、戦力としては申し分ない存在。ヒミコに仕えているのは存分に暴れられるからと言った簡単なもの。

 高い志も野心もないが、逆を言えば欲求さえ満たせれば裏切る事が無いと言っていい者達。何れ訪れるネノクニの神であるアマテラスとカグツチとの戦いも目的なので、ヒミコを裏切る事は無いと言っていい。

 加えていえば、かの一族との戦いで存分に満足できる戦いも出来ていたので、自分達の欲求を満たしてくれたヒミコを裏切るつもりはない。単純だが、それ故に裏切りの心配がないのが牡丹と露草だった。

 

「それとだ、おい」

 

 牡丹が促すと背後にいた悪霊がオオナムジと麒麟の前に、ドサッと数名の人(・)間(・)の(・)遺(・)体(・)を転がした。

 

「……この者達は?」

 

「此処に来る前に見つけた連中だ。そ(・)れ(・)な(・)り(・)にやる人間達だったぜ」

 

「どうやらこいつらは『黄泉平坂』に向かっていたようだ」

 

『っ!?』

 

 二人の鬼の報告にオオナムジと麒麟は目を見開きながら、地面に倒れている人間達の遺体を見つめる。

 人間ならば誰もが好き好んで『黄泉平坂』に行こうとするはずがない。なのに、『黄泉平坂』に行こうとする人間がいるとすれば、それは何か目的があっての事。

 

(まさか……牛頭と馬頭の愚かな行為が、アマテラス達に知られてしまったのか!?)

 

 牡丹と露草が実力があったと口にしたのならば、それは紛れもない事実。

 そしてそれだけの実力を持っている人間達を斥候として放てる勢力があるとすれば、ネノクニで人間側で最も強い勢力を誇っているカグツチ率いる兵しか、オオナムジと麒麟には考えられなかった。

 

「……オオナムジ」

 

「分かっている」

 

 愚かな享楽に溺れた牛頭と馬頭が結果だと分かっていても、オオナムジと麒麟が動かない訳には行かない。

 牛頭と馬頭の存在はヒミコの願いの為に必要な存在であり、このまま想像通りにカグツチが率いる軍勢が『黄泉平坂』に現れれば、せっかく見つけたかの一族の遺産がカグツチ達の手に渡りかねない。

 

(それだけは何としても防がなければならん!?)

 

 直接戦ったが故に、オオナムジはかの一族の恐ろしさを知っている。

 その一族の遺産がカグツチ達の手に渡ってしまえば、ただでさえ劣勢の状況が更に悪化してしまう。故に思うところはあってもオオナムジと麒麟は動き出す。

 ヒミコが送ってくれた手勢を率いて、『黄泉平坂』へと彼らは向かった。

 

 

 『黄泉平坂』の最深部。

 其処は嘗て邪神ヨモツオオカミが住んでいた社。並の者、いや最上級の悪霊でさえこの場に来る事は叶わないその場所に、蘇った『サヨ』はいた。

 

「フフッ、目論見通りに事は動いている」

 

 人ならざる証である龍眼には、『千里眼の術』が施された鏡に映る『黄泉平坂』に向かっている者達の姿が浮かんでいた。

 卓越した術師であるオオナムジや精霊の中でも最上位の存在である麒麟やツクヨミにさえも気取られずに、その姿を見ている時点で、サヨが如何に規格外なのかを物語っていた。

 

「霊脈の方も青龍と白虎の社の方は何時でも奪える。玄武と朱雀の社の方も、何時でも攻め入る準備は出来ている。後は時が来るのを待つだけ」

 

 社の確保には、既に蘇(・)っ(・)た(・)サ(・)ヨ(・)の(・)義(・)理(・)の(・)娘(・)達(・)が向かっている。

 ネノクニの神や四聖獣達、そして何よりも末裔とその伴侶達に気付かれる訳にはいかないので行動は密かにだが、既に何時でも攻め入る準備は出来ていると連絡は受けている。

 

「懸念であった忌々しい切り捨てたアレも、まだ目覚める様子はないわね」

 

 己の行為に不要であり、邪魔をする自らが切り捨てた存在であるもう一人の『サヨ』。

 その『サヨ』が未だ目覚める様子が無い事は、桃花の目と耳で確認していた。自らが欲してやまない己の血を引く存在の誕生に、切り捨てた存在ごときが立ち会えたことは忌々しいが……。

 

「構わないわ。親殺しの罪過を産まれたばかりの子。『青蘭』に背負わせずに済んだ……それで良しとしましょう」

 

 何よりも優先すべきは自らの血を引く子らの幸福。

 サヨにとってそれが全てであり、その子らを滅ぼした者達への憎しみは留まる事を知らない。ゆっくりとサヨは、社の奥深く、祭壇の前に目(・)を(・)閉(・)じ(・)て(・)横(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)浮(・)か(・)ぶ(・)者(・)に目を向けた。

 

「十数年前……貴女は自らの血を引く者の手によって眠りについた……でも、サギリお婆様……貴女と親交に会った方々は、遥か昔に私(・)に託した……全てから解放された貴(・)女(・)の(・)復(・)活(・)を」

 

 ゆっくりとサヨは語りながら、祭壇の前で浮かぶ者に近づく。

 

「二千年前、サギリお婆様達は人(・)で(・)あ(・)っ(・)た(・)貴(・)女(・)の(・)御(・)遺(・)体(・)を保管していた。貴女の夫である者は、ネノクニから連れ出せば蘇らせられると思っていたようですが、それでは仮初の肉体であるヨモツシコメの肉体による復活でしかない。遥か昔であろうと完全な死者蘇生には、生前の肉体が必ず必要……だからこそ、貴女の御遺体は丁重に回収された」

 

 もしもアマテラスとカグツチ、そしてツクヨミがこの場に居れば言葉を失っていた。

 それほどまであり得ない存在が、この場には存在していたのだ。

 

「でも、その御遺体による復活は叶わなかった。何故ならば貴女は仮初の肉体のまま、ネ(・)ノ(・)ク(・)ニ(・)の(・)神(・)へ(・)と(・)至(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)」

 

 綺麗な黒髪を掬ってサヨは整えるように撫でる。

 憎しみに支配されていても、敬意を向けずにはいられない存在。その相手は深く目を閉じていた。

 一見すれば死んでいるようにも見えるが、頬には赤みが差し、綺麗な唇からは吐息が零れていた。良く見れば胸も微かに上下に動いている。 

 

 《生きている》。

 

 今サヨが触れている相手は、『黄泉平坂』と言う死者の通り道と呼ばれる場所で確かな生命の鼓動を宿して鳴らしていた。

 

「貴女が旅立たれるあの時、私は神と言う重責から解放された貴女の魂を、私の空間の中に保護されていた貴女の人としての肉体の中に誘った」

 

 それこそが『サヨ』と言う存在に、遥か昔に密かに与えられていた役目。

 この事はリンドも知らない。リンドは確かに一族の未来を託されていたが、その前は次(・)期(・)当(・)主(・)候(・)補(・)筆(・)頭(・)だった。正式に次期当主となってなかったが故に、幾つかの当主しか知ってはならない秘密をリンドは知らなかった。

 実を言えば『黄泉平坂』の遺産をツクヨミに渡すように進言したのは、『八尺瓊』だった。

 『八尺瓊』は知っていた。サヨが管理する遺産が納められている空間に、リンドも知らないある者がいた事を。その者とカグツチを再会させる事が、リンドにも告げていない『八尺瓊』の願いだった。

 或いは、其れは『八尺瓊』の大元であった存在の意思が関わっていたのかも知れない。

 

「術は成功し、貴女は生(・)き(・)返(・)っ(・)た(・)。でも……心も魂も疲弊し切っていた貴女はすぐには目覚めることができなかった」

 

 時の流れによる心と魂の疲弊。

 その疲弊は『呪』を司るサヨでもどうする事も出来ず、彼(・)女(・)自身が癒えるのを待つしかなかった。

 

「貴女のもう一人の息子は……死(・)に(・)ま(・)し(・)た(・)」

 

 ピクッ……

 

 静かに目を閉じて眠るその者の指が微かに動いた。

 その反応をサヨは見逃さなかった。

 

(さて……ど(・)ち(・)ら(・)が(・)目(・)を(・)覚(・)ま(・)す(・)の(・)か(・))

 

「漸く新たな道を歩み始めた貴女のもう一人の息子は、僅か数年でこのネノクニを去り、今もまたアシハラノクニで転生したその魂が利用されようとしています」

 

 ギュッ!!

 

 怒りを覚えたように眠る存在の手が強く握られた。

 愛する者が殺されたばかりか、死後もその魂を利用しようとしている存在がいる。

 

 ドンッ!!

 

 強い衝撃が社に吹き荒れた。

 その衝撃が発生したすぐ傍に居た筈なのに、サヨは平然とした様子で立ち、目の前にいる存在を見つめる。

 

「お目覚めになられた事を嬉しく思います。一族のもう一つの悲願はたった今、成就いたしました」

 

 そのサヨの言葉に偽りはない。

 自身と言う存在が誕生してから、遺産の守護以外に与えられていたもう一つの役目を終える事が出来たのだから。

 目覚めたその存在は自分の状態を確認するように自らの手を見つめ、握ったり開いたりを繰り返している。

 

「……アレからどれほど時が経ちましたか?」

 

「貴女が役目を終えてから十数年が経ちました……しかし、貴女が予想していた状況とは違い、未だ悪霊は勢力を保ち……貴女の息子の一人は、新たな悪霊の長の手によって命を奪われ、……そして私の血を引く一族の者がたった一人を残して滅ぼされました」

 

「っ!? ……詳しく話を聞きましょう」

 

「ええ、どうかお聞きください、先(・)代(・)の(・)ネ(・)ノ(・)ク(・)ニ(・)の(・)神(・)」

 

 そう言いながらサヨが見つめる先には、アマテラスによく似た絶世の美貌を持つ女性。

 先代のネノクニの神であるイザナミが、この世に蘇ったのだった。




敵キャラとして神楽シリーズから鬼の牡丹と露草が登場しました。

そしてイザナミ復活です。
詳細は何れ明らかにしますが、実はカグツチ達の過去の決戦時にサヨは式神を送り込んで戦いの様子を観察していました。とは言っても一族の盟約で戦いへの介入は行なわず、サギリ達の願いを叶えるために虎視眈々と情勢を見ていただけです。

因みに憎悪に囚われる前は、カグツチとイザナミを再会させた後にアシハラノクニに送ってイザナギと再会させるつもりでしたが……今は言うまでもなく別の目論見で動いています。

アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。

  • 琴乃が堕ちた段階で孕ませる
  • 四聖の社全て攻略後に孕ませる
  • サヨ関連終了後に孕ませる
  • イザナミも加え、四人そろって孕ませる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。