※この作品はR-18です。

IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜   作:イズモ

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今回で以前のアンケートで出た妖怪が判明します。
片方は今回の社の攻略ではお休みで別の社の時に出すつもりです。

お気に入り、誤字報告、アンケートへの投票ありがとうございます!

現在のアンケートは25日の0時までとします。


神の娘・佐久夜番堕ち編 7

 『アシハラノクニの学び舎』事出雲学園に派遣されている雌犬巫女達は、自分達の主であるリンドから番と子供達を護るように命じられている。

 他にも自分達の修業の意味もあるが、主な役目は護衛の方であり、子供が産まれる時はお産の手伝いもする。

 故に里の者でもない侵入者には容赦なく襲い掛かるのが当然の事だったが、今回の相手は別だった。何故ならばその相手は正面の出入り口から入って来て、まるで家族の家に尋ねて来たような気安さで見回りを行なっていた雌犬巫女の一人に声を掛けて訪れて来たのだから。

 

 ジーーッ

 

(ち、ちはちゃん!? どうしよう? み、見られてるよ!)

 

(お、落ち着いてゆかりん! み、見られているだけなんだから、別にいきなり襲われたりする訳じゃっ!)

 

(で、でも、あの方の頭と腰の辺りから生えてるのって)

 

 青色の髪に黄色のリボンと赤い球の髪飾りを付けた小柄な青色の巫女-『紫(ゆかり)』に、桃色の長い髪を赤と白のリボンでサイドテールにしている巫女-『ちはや』。

 そして今回の派遣任務の纏め役を担っている『御琴(みこと)』は、紫や白虎と同じぐらいの背丈だが、白虎と同様に人ならざる獣の耳と尻尾を生やした灰色の髪で民族服を着た少女を恐る恐る見つめながら小声で呟く。

 

(……狼の耳と尻尾なんじゃないかな?)

 

(うぅっ、言わないでよ、みこりん)

 

(ど、どうしよう?)

 

「何もしない」

 

『っ!?』

 

 涙目で小声で呟いた紫に答えるように、ジッと三人を見つめていた現在青龍の社を占拠している筈の『弓』が言葉を発した。

 

「持ってる『精霊武具』を見ていただけ」

 

 紫、ちはや、御琴の手にはそれぞれ弓、槍、剣の『精霊武具』が握られていた。

 派遣任務の際に渡されたもので、リンドの雌犬巫女である事を誓った彼女達は、兵達と違って『精霊武具』を丁重に扱っていた。雑に扱えばリンドの怒りを招くのは当然なので、桂香の悲劇の事があってからは尚の事『精霊武具』の取り扱いには注意している。

 おかげで雌犬巫女達の中では誰一人として『精霊武具』に見限られずに済んでいる。

 

「……ちゃんと手入れされてる。良かった」

 

 安心したように『弓』は呟いた。

 事前にサヨからカグツチの兵達がいかに『精霊武具』をぞんざいに扱っていたのか聞かされていたので、他の『精霊武具』の事も心配していたのだ。

 今現在はリンド側と敵対している形になっているが、あくまでそれは方針の違いでの対立。悪霊の長であるヒミコが共通の敵であることは変わりない。

 寧ろ心情としてはサヨ側に激しく同意しているが、琴乃に関わる件から泣く泣く我慢しているぐらいである。

 そう言う事情もあり、敵意が全く感じられないからこそ御琴達も侵入者である『弓』に対して『精霊武具』を向ける訳にも行かず、相手の望み通りに小夜に話を通しに涼香が向かったのだ。

 

「ゆみぃぃぃぃぃっ!!」

 

 廊下の奥から鋭い声が響き、其方に御琴達と『弓』が顔を向ける。

 すると、宙を飛んで来た小夜が急ブレーキをかけるように御琴達と『弓』の間で止まった。

 

「やっぱりさっきのは見間違いじゃなかったんですね! 『弓』! さっき窓の外から樹理ちゃん達の様子を覗いていたでしょう!?」

 

「そう」

 

 問い質すようにやって来た小夜は挨拶もせずに、『弓』に話しかけた。

 話しかけられた『弓』は、小夜に向かって頷きながら答える。最初は、ただ一人生き残った末裔であるリンドの番である桃花達とその子供達を見る前に、正面から挨拶に向かうつもりだった。

 だが……。

 

「……懐かしい音色が聞こえた。あの笛の音色がもう一度聴けるなんて夢にも思ってなかった」

 

 琴乃が『宝貝』越しから奏でていた笛の音色。

 その音色と曲を『弓』も知っていた。知っていたからこそ懐かしく、そして嬉しくなって子供部屋として使っている教室の外から聴いていたのだ。

 

「『扇』の義姉様が知ったら、凄く喜ぶ」

 

「そうですね。『扇』と『横笛』のあの子は、大親友でしたから。『横笛』のあの子の音色で舞っていた『扇』を、一族皆で眺める祭りになっていました」

 

「懐かしい。家族皆での宴……楽しかった」

 

 しみじみと遠い過去を懐かしむように小夜と『弓』は呟いた。

 其処には仲違いしている様子はなく、親しい相手と話しているようにしか御琴、ちはや、紫には見えなかった。

 

「でも……いない」

 

『っ!?』

 

 急に俯いた『弓』を目撃した御琴、ちはや、紫はすぐさま後ろに下がって身構えた。

 その間、『弓』の身体が震え始め、頭部に生えている獣耳と腰から伸びているふさふさの尻尾がピンと伸びあがりながら毛が逆立った。

 

「いないいないいない……皆居なくなった。末裔一人残して、皆『壁』になった……赦さ……」

 

「てりゃぁぁぁっ!!」

 

 気合いの言葉と共に小夜の呪力が籠った小さな手での手刀が、『弓』の頭に直撃した。

 手刀をくらった『弓』は頭を両手で押さえて、痛そうにしながら小夜を見つめる。

 

「あぅぅっ……義母様、痛い」

 

「当たり前です! 幾ら『偏在』とは言え、今、樹理ちゃんが眠っていますし、李花ちゃんや青蘭ちゃんが貴女の殺気で怯えたらどうするんですか!?」

 

「うっ……ごめんなさい」

 

 自身に非がある事が分かっているのか、『弓』は素直に小夜に謝罪した。

 満足そうに小夜は頷くと、肝心の事を『弓』に尋ねる。

 

「それで『弓』……此処に来たのは何故ですか?」

 

「んっ……返(・)す(・)為(・)と話に来た」

 

「そうですか……じゃあ、ついて来なさい」

 

「んっ」

 

『ええっ!?』

 

 あっさりと小夜が同行を認め、それについて行こうとする『弓』の様子に御琴達は慌てる。

 

「あ、あの小夜様!? 宜しいのですか!?」

 

 立場上御琴が尋ねる。

 当たり前だ。相手は社の一つを奪った相手であり、今リンド達が向かっている社を占拠している者。そんな相手に御琴達の真の主であるリンドの大切な番達や子供達を会わせ、もしも何か小夜を含めて起きてしまったら、怒りを買うどころの騒ぎではない。

 琴乃の護衛を命じられながらも、それを果たせなかった桂香に起きた出来事を思えば御琴達の心配は尚更である。

 

「大丈夫ですよ。この子が此処に来たのは戦う為でも、青蘭ちゃん達を連れ去る為でもありませんから。本当に話す為に来ただけでしょう」

 

「んっ。そもそも末裔の子供達を社に連れて行く訳には行かない。私達の方の義母様が、怨(・)敵(・)に(・)宣(・)戦(・)布(・)告(・)し(・)た(・)か(・)ら(・)、戦場になるかも知れない社に居させられない」

 

『っ!?』

 

 御琴達は驚愕の余り言葉を失った。

 サヨ達の怨敵は、自分達の敵でもある悪霊の長ヒミコ。そのヒミコに既に宣(・)戦(・)布(・)告(・)したという事は、既に事態は御琴達が考えているよりも早く動き出しているという事なのだ。

 騒然とする御琴達。だが、小夜は分かっていたと言うように頷いた。

 

「流石は本体。動きが早い……その辺りも話してくれますよね、『弓』」

 

「んっ。そのつもり」

 

「……三人とも今日の私の修業は中止です。子供部屋で護衛をしている涼香ちゃんと合流して、里の方にも緊急連絡。末裔は既に連絡は取れなくなっているでしょうが、一応連絡を取って見なさい。それが終わったら子供部屋に居る蔓、樹理ちゃん、白虎の護衛に当たりなさい」

 

『了解しました!!』

 

 小夜の指示に御琴、ちはや、紫は即座に動き出す。

 これまで違い、アマテラスも事情を知っている以上隠して行動する必要はない。唯一事情をまだ知らない佐久夜も里にはいないのだから、尚更に隠して行動すべきではない。

 何せヒミコ側がどう動くのか分からないのだ。軍で動いた場合、里にも影響が出る可能性がある以上、情報を隠しておくべきではない。

 

「じゃあ、ついて来なさい、『弓』」

 

「んっ」

 

 フヨフヨと宙に浮かびながら移動する小夜について行く『弓』。

 二人が向かった先には、学園内の食堂があり、既に其処には青蘭を抱えた青龍と李花を抱いた桃花が待っていた。

 青蘭と李花を見た『弓』は目を見開き、腰に生えている尻尾を嬉しそうに振りながら口を開く。

 

「子供達がいる。驚いた」

 

「樹理ちゃんは産まれて間もないですし、白虎は妊娠初期ですから流石にいません。但し『弓』、覚悟しなさい」

 

「うぅぅっ!!」

 

 青龍が抱えている青蘭が、母のチャイナ服を強く握りながら『弓』を涙目で睨んでいた。

 新たな四聖としての直感なのか、自身と繋がりがあった社との繋がりを奪ったのが『弓』だと分かっているようだった。

 だが、怯えも混じっているのか決して母親である青龍の服から手を離す様子は無かった。

 

「あうぅぅっ!!」

 

「大丈夫ですよ、青蘭。母が居ますから怖がることはありません」

 

「私と李花もいますからね」

 

「あいっ!!」

 

 必死に怯えながらも勇ましくあろうとする娘を安心させるように青龍が頭を優しく撫で、桃花とその腕に抱かれている李花も安心させるように話しかけた。

 本当ならば青龍と桃花だけが食堂に居て、青蘭と李花は蔓と白虎に預けるはずだった。だが、青蘭は青龍から離れるつもりは無いと言うように掴んでいた服を涙目で離さず、李花は桃花と妹が行くなら自分もと言うように同じく掴んだ母の服を離さなかったのだ。

 一応小夜からは連れ去る事は無いと言われ、そう言う意志が見えた時は術で合図すると言われたので青龍と桃花は、心配しながらも自分達の娘を抱いて待っていた。

 自分達の血を引く二人の赤ん坊の姿を見た『弓』は、嬉しさと誇らしさから悲しみではない涙を溢して深々と頭を下げた。

 

「謝罪して赦される訳じゃないのは分かってる。言い訳もしない……でも、ごめんなさい……」

 

 既に事を起こしてしまった以上、何を言っても言い訳にしかならない。

 故に行動で示すと言うように顔を上げた『弓』は、青龍達に顔を向けながら口を開く。

 

「この身は『偏在』でしかない。だから、誠意は足らないかも知れない。でも、社との繋がりをその子に返しに来た」

 

『っ!?』

 

「権限の方はもう暫らく借りる。でも、繋がりだけは返せる……触れさせて欲しい」

 

 青龍と桃花は顔を見合わせ、次に『弓』の傍で宙に浮かんでいる小夜に視線を向ける。

 小夜は無言で頷き、二人に判断を委ねさせた。無責任なのではなく、二つに別れたとはいえ小夜も『弓』とは義理とは言え親子なのだ。

 例え進むべきは違っても、小夜は『弓』を庇ってしまう。故に判断は青龍と桃花に委ねた。

 

「青龍さん」

 

「ええ……分かりました。ですが、ほんの僅かでも不審な行動をしたら容赦なく攻撃させて貰います」

 

「んっ」

 

 当然だと言うように『弓』は頷き、青龍と青蘭の傍に向かう。

 近づいてくる『弓』に、青蘭は怯えながらも気丈に目だけは逸らさずに見つめる。勇ましいその姿に『弓』は微笑み、青蘭の額に手を伸ばして指で触れた。

 

「……きゃうっ!!」

 

 急に青蘭は声を上げ、嬉しそうに顔を綻ばせた。

 それは産まれる前から繋がっていた社との繋がりが戻った何よりの証拠だった。それと共に青蘭の瞳が安らかに閉じていき、青龍の腕の中で眠りについた。

 

「すぅ~すぅ~」

 

「良かった。これで青蘭は大丈夫です」

 

 不安定だった青蘭の力が落ち着きを取り戻したのを感じた青龍は、心の底から安堵の息を吐いた。

 目的の一つを終えた『弓』は、青蘭の額に当てていた指を戻す。すると、別の小さな手が『弓』の手を握り、其方に顔を向けて見ると桃花の腕の中から手を伸ばした李花が微笑みながら口を開く。

 

「あ……あ、り…ふぁ…とぅ」

 

『っ!?』

 

 拙いながらも確かにお礼の言葉を口にした李花に、青龍、桃花、そして小夜も驚いた。

 

「あぁっ」

 

 お礼を告げられた『弓』は、身体を震わせた。

 自分が此処に来たのは、話をする為と必要だったとはいえ青蘭から奪ってしまった社の繋がりを戻す為。なのに……。

 

(こんな幸福が貰えた……終わった身に過ぎる幸福をっ)

 

 『弓』は桃花に顔を向けて、視線で触れて良いかどうかを確かめる。

 その視線の意味に気がついた桃花は、娘である李花と『弓』を見つめ、ゆっくりと李花を差し出すように腕を前に出した。もしかすれば、止まってくれる事を願いながら。

 

「抱いてあげて下さい」

 

「っ……感謝するね」

 

 他の家族が知れば羨むと分かっていながらも、欲求には耐えられずに『弓』は李花を受け取った。

 

「あぅっ!」

 

「うん、良い子……ごめんね、妹を泣かせて」

 

 自らの腕の中で微笑む李花を慈愛に満ちた眼差しで見つめながら、『弓』は憎しみに染まっていない心からの優し気な微笑みを浮かべたのだった。

 そして数分間だけ、李花をあやした後、『弓』は桃花の腕の中に戻した。

 

「本当にありがとう……こんな幸福が今の身に訪れるとは思ってなかった……色々と話す。そして暫らくは貴女達は四聖の社に来ないで」

 

「っ……止まれませんか」

 

 此方側にもしかしたらついてくれるのではないかと少なからず期待していたが、遠回しに『弓』は拒否した。

 

「私はあっちの義母様側……末裔達、『壁』になった元凶……怨敵赦さない」

 

「待って下さい。徐福に対する怒りと憎しみは最もですが、今だけは駄目なのです。せめて一年ほど先、彼女が『反魂の術』の禁忌によってある人物を今のネノクニに召喚するまでは」

 

「ん。知ってる。だから、私達が追(・)い(・)込(・)む(・)」

 

 青龍の言葉に『弓』は答えて、対面するように椅子に座った。

 

「色々と話す。その為に私は来た……でも、その前に一番重要な事を新たな四聖獣の母である貴女に聞きたい」

 

「私に聞きたい事とは何でしょうか?」

 

(もしや、私が徐福に対してまだ敵意を持っていないと疑われているのでしょうか?)

 

 今更徐福、そして麒麟に対して青龍は好意的な感情を全く持っていない。確かに共に大陸を渡って苦楽を共にした仲間だったが、ネノクニに対して行なっている様々な事や二千年前の謀りに加え、番であるリンドを悲しませた事などもあって、寧ろ自分の手で報いを与えたいと思っているぐらいである。

 それは『真の契りの儀式』を結び終えた白虎も同じだった。

 

(しかし、その情報が彼女達に伝わっていないとなれば……疑われても仕方ありませんね。それに彼女達は恐らく玄武と朱雀を捕らえているでしょうから)

 

 明確に二千年前の盟約を果たす気がない事を示している玄武に、出来れば見逃して欲しそうにしている朱雀。

 しかも二人はまだ何処かで徐福に対して敵意を持ち切れていない。『八尺瓊』の怒りを買った事もあるだけに、桃花の目と耳を共有して情報を得ていたもう一人のサヨが疑いを持つのは当然だと青龍は思った。

 実際、此方側についている理性的な小夜も、四聖獣は全員リンドと『真の契りの儀式』を結ぶべきと考えているのだから。しかし、『弓』の質問は青龍、桃花が考えていたものと全く違っていた。

 

「新しい青龍の社となる建物を建築してる。要望あると思ったから聞きに来た」

 

『………えっ?』

 

「ああっ! 確かにそれは重要ですね! 青蘭ちゃんが住まう社なんですから立派に建てるんですよ、『弓』」

 

「んっ。当然そうする」

 

 呆然と固まっている青龍と桃花と違い、小夜と『弓』はさっそくどういった社にすべきか話し始めるのだった。

 

 

 青龍の社へと向かう方角にある森の中に入ったリンド、佐久夜、いぶき、なずなは異様な気配を感じながら社を目指して周囲を警戒しながら進んでいた。

 風で揺れる森の騒めきこそ聞こえるが、鳥や獣の鳴き声などは聞こえてこない。自然が満ちているネノクニではあり得ない事だった。

 

「っ! 止まって!!」

 

 何かに気がついた佐久夜の声に一同は足を止めた。

 全員の足が止まったのを確認した佐久夜は、ゆっくりと身を屈めて注意深く進もうとしていた先の草木を掻き分ける。すると、掻き分けた草木の中から縄が出て来た。

 進んでいればその罠に足を捕られて、すぐ傍にある高い木に逆さまに吊るされるように仕掛けられていた。

 

「……罠だよ」

 

 罠を発見できたのに何処か暗そうに佐久夜は声を発した。

 その理由がリンド、いぶき、なずなには分かっている。

 

「一応聞きますけど、その罠って」

 

「……私が仕掛けている罠にソックリ……ううん、全く同じ仕掛けなの」

 

「これで森に入ってから五つ目……森に入る直前に引っ掛かった罠を含めると六つ目……しかも全部佐久夜様が仕掛けてる罠と同じなんて」

 

「明らかにおかしいやろ、これは」

 

 全員の顔に険しさが浮かんでいた。

 これまで見つけた物理的な罠は、森に入る前に佐久夜が引っ掛かってしまった物を含めて六つ。

 最初の物と今見つけた木に吊るされる罠や、同時に複数人捕える為の網の罠。歩いて来た道のりの途中には、リンドが言っていた踏めば仕掛けられた術が発動して、何処か(里近くの森)に飛ばされる術と併用した罠が幾重にも張り巡らされていた。

 其方の方はリンド達には問題無かった。問題は物理的に仕掛けられている罠の方。

 その罠全てが、罠作りが好きな佐久夜が仕掛けた物と全(・)く(・)同(・)じ(・)仕(・)掛(・)け(・)だったのだ。

 

「私やいぶきも獣や侵入者を捕える為に罠作りのやり方は一通り学んでいるけど」

 

「佐久夜様の罠は独特の仕掛けやからね。その癖があるちゅうことは」

 

「入り口での罠を含めて、これまで罠は……佐久夜しか仕掛けられない」

 

 それは在り得る筈がない。最初の罠はリンドが説明した通り、空間の異常で偶然仕掛けていた罠が移動したと言うのは在り得た。だが、森の中で見つけた罠の方は別。

 

「わ、私知らないよ! そもそも四聖獣様の社の異変が起きてからは、里から出てないもの!?」

 

「ええ、それは勿論分かっています」

 

「だとすると、誰かが佐久夜様の仕掛けた罠を見つけて、その仕掛けをソックリそのままつこうとるってことやろか?」

 

「う~ん」

 

 それぞれ思い悩むような顔をしながら考え込む。

 佐久夜が仕掛けた罠としか思えないものが複数あり、しかも佐久夜本人も自分が仕掛けた物としか思えないほどの出来栄え。まるで佐(・)久(・)夜(・)が(・)も(・)う(・)一(・)人(・)い(・)る(・)ようにさえ思える。

 そしてこの場で唯一リンドだけが、そ(・)の(・)存(・)在(・)に(・)思(・)い(・)至(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

(最初に佐久夜が罠にかかった時に地面に映っていた影の揺らめき……まさか……でも、そうだとすれば……不味い!? もしかしたら『弓』のご先祖様は、調査に来ていた雌犬巫女達をた(・)だ(・)で(・)里(・)に(・)帰(・)還(・)さ(・)せ(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)んじゃ!?)

 

 全ての事態がリンドの想像していたよりも進んでいる可能性がある事に行きつき、内心で危機感を募らせる。

 その間に一先ず罠に掛からないようにする為に佐久夜は仕掛けを操作していたところで、フッと気がつく。

 

「あれ?」

 

「どないしました、佐久夜様?」

 

「……この仕掛けの道具……これって里の罠の仕掛けの道具だよ!?」

 

「そりゃ佐久夜様の仕掛けなら……」

 

「違うの!? 罠の方に使われている道具の方も里の物なの!」

 

『なっ!?』

 

 告げられた事実にいぶきとなずなは揃って声を上げて、慌てて佐久夜が示す道具を確認する。

 

「ほんまや!? これ里の罠仕掛けの道具や!」

 

「……本当にどういう事なの? 罠の仕掛けの特徴は佐久夜様のもので……使われている罠の道具の方は里の物……何が起きてるの?」

 

「………『成り代わり(ドッペルゲンガー)』」

 

 佐久夜達の疑問の答えを出すように、険しい顔をしたリンドが何かの名前を呟いた。

 その声を聞いた佐久夜達は、慌ててリンドへと顔を向ける。

 

「『成り代わり(ドッペルゲンガー)』? リンド、それって何なの?」

 

「悪霊……いや、『成り代わり(ドッペルゲンガー)』はそれより上位の存在。このネノクニでは知られていないけど、アシハラノクニで発生した特異な存在なんだ。『成り代わり(ドッペルゲンガー)』は、人の影に憑りついて、憑りついた対象の記憶や知識、技、呪法、果てには勾玉で使える呪法まで憑りついた本人が扱える技量まで得てしまう……もう一人の自分と化す存在なんだ」

 

『っ!?』

 

 告げられた事実に佐久夜達は驚愕の余り言葉を失った。

 姿形だけではなく、自分達が持っている記憶や知識、果てには実力まで模倣する悪霊など聞いた事が無い。これがリンドでなければ、笑い飛ばすような話。

 だが、他ならぬ自分達の知らない事を様々な事を知っているリンドが口にしたとなれば、笑い飛ばせるような話ではない。

 

「それがいるかも知れないの、リンド?」

 

「まだ確証はないけど、もしかしたらの可能性があると思う。そして『成り代わり(ドッペルゲンガー)』は最初に影に憑りつくから」

 

「っ!? 帰還の術で里に戻された皆の影に憑りついて里に来ていた!?」

 

「せやったら、佐久夜様の罠の事も納得出来る……里に戻って佐久夜様の影に憑りついたら」

 

『………』

 

 里抜けの常習犯である佐久夜の知識と技術を得た『成り代わり(ドッペルゲンガー)』が、他の『成り代わり(ドッペルゲンガー)』を招き、自分達の力と技術を得て此処に戻って来ていた可能性。

 もしそうだとすれば、この先に待っているのはリンドが鍛えて実力を増した雌犬巫女達の『成り代わり(ドッペルゲンガー)』。

 

「じゃ、弱点とかはないの!?」

 

「弱点があるとすれば、武器や防具に装飾品の有無ぐらい。流石に里から沢山の武器や防具が無くなっていたら、管理している葉子さんとかが気付く筈だから」

 

「そんな話は聞いてないわね」

 

「せやね。勝手に持ち出したりしたら、流石に気付く筈。となると、武器や防具がない皆と戦うって事になる事は覚悟しておこうかぁ」

 

 それでも厄介ではあるが、いぶきとなずなの武器は『精霊武具』。

 佐久夜は残念ながら『精霊武具』を所持していないが、今回の任務に辺り母であるアマテラスが霊力を込めて製作に当たった特別な扇を所持している。今まで扱って使っていた鉄扇などとは比べものにならない力を秘めている。

 

「因みにリンド。アンタの『成り代わり(ドッペルゲンガー)』はいると思う?」

 

「いない筈です。『成り代わり(ドッペルゲンガー)』にも当然模倣できる限界がありますから。神であるアマテラス様は当然無理ですし、佐久夜の『成り代わり(ドッペルゲンガー)』は『夢を紡ぐ力』は扱えない筈です。僕の場合は、精霊の力が高まっていますので」

 

「良かったわ。アマテラス様の『成り代わり(ドッペルゲンガー)』なんておったら、うち等じゃどうやっても勝てへんよ」

 

 最悪の想像が外れていたことが分かって、佐久夜達は一先ず安堵の息を吐く。

 

「とにかく先に進みましょう。今更里に戻る訳にはいかないんだから」

 

 なずなの言葉に一同は頷き、森の奥へと進んで行く。

 途中に仕掛けられている転移系の罠に注意し、やはり佐久夜の癖がある罠を解除しながら進んでいると、霊力を発している石の像を見つけた。

 

「もしかしてコレが!?」

 

「うん、次の層に向かう為の出口。『道祖』だよ」

 

 精巧に彫られた石の像の前にリンド、佐久夜、いぶき、なずなは立った。

 四人は次の層に進む為の出口である『道祖』の周囲の地面を見て、顔を険しくする。

 

「……足跡ね」

 

「うん……しかも一つや二つやない。沢山あるわ」

 

 『道祖』と呼ばれた像の周囲の地面には、折り重なった足跡が沢山刻まれていた。

 リンド達以外に今回の任務に赴いている者は里からは居ない。そして調査に向かった者達も全員里に戻って来ている。他里の者は考えられない。そうなればリンドが言う『成り代わり(ドッペルゲンガー)』が関わっていると見て間違いない。

 この先に敵がいると言う確信を誰もが持つ中、リンドが口を開いて説明する。

 

「この像に触れれば次の層に進めます。ただし一緒に移動する時は、像に触れた人に触れていないといけない。もしも別々に移動したら、次の層の何処か個別に移動してしまいますから」

 

「なるほど……なら、敵も待ち伏せとかは出来なさそうね」

 

「逆にうち等が敵の目の前に現れるとかもありそうやね」

 

「移動が終わったら、すぐに周囲を警戒しよう」

 

 佐久夜の言葉にいぶきとなずなは頷く。

 その様子を見ていたリンドは、周囲を警戒するように見回しながら話を続けた。

 

「それとさっきの罠の話で一つ言い忘れていました。この空間変異の罠で一番恐ろしいのは勾玉や術を使った物じゃなくて、『落とし穴』が一番恐ろしいんです」

 

『落とし穴?』

 

 罠と言えば定番の物が一番恐ろしいと言うのは、どう言う意味なのかと佐久夜達は首を傾げた。

 

「この空間変異での移動は、真っ直ぐに横に進んでいるんじゃなくて、下に向かって進んでいるようなものになっているんです。下に空間が連なっている中で、下に落ちる『落とし穴』に嵌まれば、次の層に落ちるか、或いは獣や悪霊の影が犇めく空間に落ちてしまうかも知れません」

 

「うわ~、そら確かに怖いわ」

 

「次の層に落ちるのは運が良い方ね」

 

「もしも獣や悪霊の影が犇めく空間なんかに落ちたりしたら……」

 

 改めて自分達がいる場所が未知の危険に満ちている場所なのだと分かり、三人は一層気を引き締めた。

 

「それで何層ぐらいで、私達の目的の青龍様の社の洞窟に辿り着けそうなの?」

 

「ネノクニで最大の霊脈も使って、『弓』のご先祖様の力だと……異変が起きてからと罠を張り巡らせる時間も考慮すると……多分十層前後ぐらいかな」

 

「こんな空間が十層も連なっているなんて」

 

「厄介どころやない。でもこれやったら悪霊側も簡単に攻められへん」

 

 自分達にとっても厄介な空間ではあるが、それは同時にヒミコ側も同じだった。

 手勢を率いて攻め込んでも、迷宮と化した社付近で分断され、疲弊してしまう。今のリンド達のように少数精鋭で攻め込むが正しい場所と化していた。

 其処でフッと佐久夜は、今の空間の在り方に気がつく。

 

「ねえ、リンド。もしかしてこれって」

 

「うん……佐久夜は気がついたみたいだけど、此れは試(・)練(・)も兼ねているんだ。社を占拠したご先祖様達は、防衛の為に新たな四聖獣の試練を構築したんだよ」

 

(流石はサヨご先祖様。的確に『八尺瓊』が認める範囲で行動しているよ)

 

 確かにネノクニは混乱に見舞われているが、四聖獣の社の強化などはそもそも行なうべき事柄に含まれている。

 一時の混乱を受け入れて、将来のネノクニの安定に繋がるのならばそれを行なっているサヨ達を『八尺瓊』は、問答無用で消しさると言う行動に出ない。

 

(いや、寧ろ玄武と朱雀に関しては良くやったと思っていそうなんだよね)

 

 とは言え、リンド自身も今回の機会で玄武と朱雀と『真の契りの儀式』を結ぶつもりでいるのでその辺りに関しては問題は無かった。

 

(ヒミコの件さえなかったら、サヨご先祖様達に協力していたぐらいだよ……気分が悪くなるから考えるのは止めよう)

 

 覚悟はしていても怨敵の為に行動していることは、リンドの中で強いストレスになっていた。

 かと言ってそれを大切な番達にぶつける訳にも行かず、子を産めるだけの器を得た雌犬巫女達も不始末を起こしていないのだから向ける筈がない。

 必然的に自身の子を孕まず、番ではないアマテラスで不満を発散させているのだ。

 

「万が一はぐれた時は、この『道祖』を目印に」

 

「そうね。次の層に向かう時とは、これに触れないといけないんだったら」

 

「一番の目印やね。『落とし穴』だけは注意するってことでぇ」

 

「行こう、リンド」

 

「皆、僕に触れて下さい。次の層に移動したら、風の結界を張ります」

 

 一同は頷き、佐久夜、なずな、いぶきはリンドの肩に触れた。

 それと共にリンドは次の層に向かう為の手段である『道祖』に触れて、発生した光と共に次の層に転移したのだった。




と言う訳で登場妖怪は『成り代わり(ドッペルゲンガー)』となりました。
神であるアマテラスとリンドのような特異な存在、及び精霊は無理で、佐久夜の場合は『夢を紡ぐ力』が使えない仕様です。悪霊も上位の存在は模倣不可となります。

アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。

  • 琴乃が堕ちた段階で孕ませる
  • 四聖の社全て攻略後に孕ませる
  • サヨ関連終了後に孕ませる
  • イザナミも加え、四人そろって孕ませる
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