※この作品はR-18です。

IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜   作:イズモ

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今回は残念ながらエロシーンはありません。
次回こそがっつりエロをやります。

感想、お気に入り、アンケートありがとうございました!


美由紀編 2

 カグツチ達が迷い人の依り代の正体を知った頃、アマテラス率いる軍もまた『世界の揺らぎ』によって大量に発生した悪霊達と交戦していた。

 本来の予定では明日『迷い人』は現れる予定だった筈だが、その原因をアマテラス達には考えている暇など無い。相手は最低でも中級の悪霊。低級の悪霊でさえ、普通の人間にとっては脅威だというのに、中級以上の悪霊が大量に現れるなど悪夢でしかない。

 不完全ながらも事前にある程度陣を敷き終えていたので、何とか対処することは精強なカグツチの軍ならば出来る。しかし、それでもある程度の被害は覚悟しておかなければならなかった。

 幾らヒミコ軍と戦い続けている歴戦の軍とは言え、彼らからすれば戦いが起きるのは明日だと思っていたところに、突然の大量発生。万全でない故に被害はどうやっても出てしまう……筈だった。

 戦場に場違いとしか思えない流麗且つ静謐な音色が鳴り響く。

 その音色は曲を奏で、出現した悪霊達の耳に届く。

 

『ぐぅおぉぉぉぉ!?』

 

 鳴り響く音色を聞いた悪霊達は悶え苦しみ、その力を失っていく。

 中には音色から逃れようと空を飛べる悪霊は逃げようとするが、音は決して悪霊達を逃さないと言うように彼らの耳に、魂に響く。

 

「……これがあの横笛の真の力なのですか」

 

 愛槍である長槍を手に持ち、悪霊達が弱体化して最終的には消滅、或いは兵士達に倒されていく光景を見ていたアマテラスは戦慄を覚えるしかなかった。

 これこそが琴乃を担い手として選んだ横笛の真の力。所有者の霊力を用いて、如何なる状況でも音を相手に伝え、悪霊ならば浄化してしまう力を持った音を司る精霊が作りし呪具、いや神具。

 戦場では剣戟の音や蹄の音、他にも様々な音が鳴り響く。それ故にアマテラス達は当初は琴乃の持つ横笛は、護身具としてはともかく、戦いの場では余り役に立たない物だと思っていた。

 それは間違っていない。何故なら所有者に選ばれた時点の琴乃には、其処までしか扱えなかったのだから。

 だが、今の琴乃は違う。

 

(リンド君、佐久夜さん。私も頑張るから! だから、カグツチさんやツクヨミさんと一緒に無事に帰って来て!)

 

 大切な人達を護りたいという意志。その為に戦うという意志が芽生えた琴乃に応えるように、横笛は真の力を発揮した。

 琴乃が横笛に霊力を込めれば込めるほど、他の音に邪魔される事なく、鳴り響く音楽は何処までも音を届かせ、悪霊達を浄化していく。

 

「この隙に陣を敷き直しなさい! 琴乃さんの頑張りを無駄にしてはなりません!!」

 

『おおおおおおおっ!!』

 

 アマテラスの槍を掲げながらの宣言に兵士達は、急いで動き出す。

 琴乃の霊力は有限。何時までも音の護りは続かない。霊力を回復させる呪法も存在しているが、それよりも……。

 

(琴乃さんの霊力が尽きるのが早い! そうなる前に陣を敷き直さなければ!)

 

 幾ら琴乃が綾香から受け継いでいた霊力に目覚めていたとはいえ、まだ本格的な霊力を扱う修業を始めたのは半月前。

 更に言えば強力無比な神具故に、霊力の消費は激しい。長い間音の護りは続かない。加えて言えば……。

 

(あの穴が塞がれない限り、悪霊の発生は収まらないのですから!!)

 

 出雲学園のある方向の上空に開いている空間の穴は、アマテラス達が居る場所からも見えていた。

 神であるがゆえに、アマテラスは本能的に悟っていた。出雲学園の上空に開いている穴が閉じない限り、『世界の揺らぎ』は治まらず、悪霊が発生し続けると言う事に。

 

(貴方、姉さん、佐久夜、そしてリンド! どうか一刻も早く『迷い人』を倒して、あの穴を閉じて下さい!)

 

 軍の編成を指示しながら、アマテラスは出雲学園にいるカグツチ達の勝利を信じる。

 アマテラスは知らない。今、カグツチ達が相対している『迷い人』の依り代にされた者が、カグツチにとって最悪にして最強の敵である事を。

 

 

 出雲学園の地下に存在している地下空間。

 其処には一族の隠し財産の中に在った式神の符から、リンドによって呼び出された者達に守られる身重の蔓と、その腕の中に抱かれている李花がいた。

 

「……主様」

 

 強力な結界に守られ、まだ精霊としての力が存分に振るえた時に蔓が桃花、そしてリンドと共に地下全体に張り巡らせた根や蔦に覆われている岩壁は、先ほどの地面の鳴動を受けても崩れる様子はなかった。

 しかし、力が弱まっていても精霊としての感知能力は衰えていない蔓は地上でまだ戦いが続いている事に知っていた。

 

「あっ、あっ、あぅっ」

 

「大丈夫ですよ、李花。貴女のお母様とお父様は、必ず悪霊を倒してくれますからね」

 

 上に向かって手を伸ばす李花を、蔓は大切そうに抱き締める。

 桃花とは何(いず)れリンドを巡るライバルでもあるが、それと李花を大切に想うのは別。

 

(この子は私の子の姉。ならば、この子は私の子でもある。桃花が出産する時にツクヨミ様と共にお産婆を務めたのですから、何が在ろうとお腹の子と共に護り抜いて見せます)

 

 固い決心を固めながら、李花を大切に抱き抱えて、蔓は最愛の相手であるリンドと、彼と共に地上で戦っている者達の勝利を願うのだった。

 

 

 殴り飛ばされたリンドに、佐久夜は悲鳴を上げるが、敵は待ってはくれない。

 今度こそ佐久夜を仕留めると言うように身体を動かし、拳を構える。だが、佐久夜に拳を振り抜く直前に『迷い人』の依り代に向かって太い木の枝が襲い掛かった。

 

「よくも!!」

 

 木の枝を操っている桃花は、怒りに満ちた声を発して『迷い人』の依り代に襲い掛かった。

 その攻撃には『迷い人』の依り代に対する配慮はない。大切な相手であるリンドを傷つけられた怒りは勿論あるが、それ以上に桃花の精霊としての本能が悟っていた。

 手加減など出来る相手ではないと言う事を。

 それが正しいと証明するように依り代である少女は、最小限の動きで木の枝を縫うように躱して、拳を振るって枝を破壊していく。

 

「くっ!?」

 

(流石と言う他に在りません。この方ならば、これぐらいはやってのけてもおかしくないのですから!)

 

 桃花は『迷い人』の依り代にされた少女が何者なのかを知っている。

 嘗てこのネノクニをカグツチはアマテラスを含めた五人の少女達と共に救った。目の前にいる少女は、その内の1人。

 しなやかで細く見える手足でありながらも、見かけに寄らない剛力で桃花が操る木の枝は次々と粉砕されてしまう。

 しかし、時間を稼ぐことは出来た。桃花に気を取られている隙に、ツクヨミは佐久夜を連れて地面に倒れているリンドの下に駆け寄る。

 

「リンド! リンド!! 確りして! 目を開けて!」

 

「落ち着きなさい! 佐久夜! 下手に動かしたら駄目よ!」

 

(右腕が完全に折れてるわね! あの娘の一撃を受けて、これで済んだだけでもマシかも知れないけど)

 

 泣いて縋りよる佐久夜を宥めながら、ツクヨミは手早く気絶しているリンドを診察した。

 『荒玉』の呪法で防御力が上がっていたにも関わらず、リンドの右腕は曲がってはいけない方向に曲がってしまっていた。

 だが、それでもマシだとツクヨミは考えていたる。もし『荒玉』の呪法を発動していなければ、リンドは死んでいただろう。何せ……。

 

(くっ! まさか、寄りにも寄って『迷い人』の依り代にされた相手が、あの娘(・・・)だったなんて!? 感じられる力だけでも、四聖獣級じゃない! あの娘(・・・)ならそれぐらいの可能性は秘めていてもおかしくないけど、最悪だわ!)

 

 当初の予定を外れて、最悪の方向に事態は進みかけていた。

 空には混沌とした色合いの穴が開き、出雲学園を中心に中級以上の悪霊が次々と出現している。急いでその元凶である『迷い人』を何とかしなければならないのに、穴を塞げるリンドは気絶している上に右腕が折られてしまっている。

 しかも最悪な事に、『迷い人』に依り代にされた人間は、この世界に僅かな時間で定着してしまい、十全にその力を振るえるようになってしまった。『迷い人』の依り代にされた人間は、最上級の悪霊に匹敵する力を持っている事は事前に知っていた。だが、相手はそれさえも超えるほどに強く、ネノクニ最強の精霊である四聖獣さえも超える力を秘めている。

 その事にツクヨミは疑問は感じない。何故なら、桃花が必死に時間稼ぎをしている相手は、『自分達の世界で仲間と協力して四聖獣四人を全員倒した』のだから。

 そしてこの場にいる中で、最も近接戦に優れたカグツチは……。

 

「……何で……お前が……」

 

 動揺し、呆然とグローブに包まれた拳を振るう少女を見つめていた。

 

(不味い! あの娘(・・・)にカグツチが本気の剣を振るえる筈がないわ! 最悪の敵じゃないの!)

 

 どんな強敵であろうとカグツチは戦う事が出来る。だが、今カグツチの目の前に現れてしまった敵は、その例外にあたる存在。数少ないカグツチが本気を出す事が出来ない最悪の敵だった。

 

(アマテラス達の方は琴乃(・・)がいるから、急な強襲でも最悪の事態にはならないでしょうけど、こっちがそうなってるわよ!?)

 

「確りしなさい、カグツチっ!」

 

「くっ!」

 

 ツクヨミの呼びかけに何とか、カグツチは剣を構え直すが、常日頃の時とは違い明らかに隙だらけだった。

 

「お、お父さん……ど、どうして?」

 

 佐久夜はリンドの折れた右腕以外の傷を『和玉』の呪法で治療を施しながら、何時もと様子が違う父親に困惑する。

 そんな佐久夜にツクヨミが苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、カグツチが不調の原因を教える。

 

「……妹なのよ」

 

「えっ? お、伯母様。今なんて?」

 

「……あの『迷い人』の依り代にされている娘は、カグツチのアシハラノクニでの妹。『美由紀』なのよ!!」

 

「ええぇぇぇぇぇぇーーー!?」

 

 驚愕の事実を教えられた佐久夜は、戸惑いながらも桃花を護る為に『迷い人』に依り代されている少女-『塔馬美由紀』-に向かって剣を構え直すカグツチに慌てて目を向けた。

 

「もう止めろ、美由紀! 弧閃!」

 

「っ!?」

 

 自らに向かって放たれた衝撃波に気が付いた美由紀は、軽やかな動きで躱した。

 その隙に桃花は飛び去り、佐久夜と共にリンドの治療を行なう。

 

「何でだ? 何でお前が、そんな事に!? 答えてくれよ!?」

 

 目から涙を流し続ける美由紀に向かってカグツチは呼びかける。

 乱暴者な面はあっても心優しい妹。決して子供相手に振るったりはしなかった筈の拳。しかし、その拳は佐久夜を護ったリンドに振るわれ、右腕をへし折った。

 何故こうなってしまったのかと取り留めない疑問がカグツチの頭に浮かぶ。

 そんなカグツチに向かって美由紀は漸く顔を向ける。そして涙を流す瞳にカグツチが映った瞬間、口元が笑みで歪んだ

 

『……フフッ、アハハハハハハハハハッ!』

 

「み、美由紀?」

 

『アハハハハハッ! 感謝してあげるね、『塔馬ヒカル』! おかげで私はこんなにも早く此方の世界に定着出来た上に、この依り代を完全に掌握する事が出来たよ!』

 

 それは美由紀の声と口調でありながらも、全く別の何者かが話していた。

 一瞬戸惑ったカグツチだが、すぐにその正体を察して怒りで強く柄を握り締めながら叫ぶ。

 

「っ!? そうか、お前は、お前が美由紀に巣食っている『迷い人』か!?」

 

『『迷い人』? ……ふ~ん、こっちでは『私』のような存在はそう呼ばれているんだ。まさか、『私』のような存在が他にもいたなんて、驚いちゃったよ、お兄ちゃん』

 

「止めろ! それ以上、美由紀を穢すな!?」

 

『穢す? 失礼な事を言わないで、お兄ちゃん。『私』がいなかったら、この『塔馬美由紀』は不毛の荒野で一人寂しく死んでいたんだよ』

 

「な、何だって……美由紀が……一人で荒野に」

 

(そう言う事ね!)

 

 話を聞いていたツクヨミは、瞬時に『迷い人』の依り代にされてしまった『塔馬美由紀』の事情を察した。

 

「カグツチ! その美由紀は、『スサノオと出会えなかった美由紀』よ! 昔、スサノオは不毛の荒野で死にかけていた美由紀を連れ帰って来たのよ!」

 

「なっ!?」

 

 ツクヨミの報告にカグツチは驚きながら美由紀に目を向けた。

 

『正解。でも、こっちも少し驚いちゃった。だって、ツクヨミさんまでいるなんてね』

 

「……私の事を知ってる?」

 

『うん。知ってるよ。だって、『私』の本体。ツクヨミさんの配下のサトリさんと一緒(・・)に行動していたんだから』

 

「サトリですって?」

 

 悪霊時代に自分の配下だった悪霊の名前が出た事に、ツクヨミは困惑する。

 

(どういう事なの? どうしてサトリが『迷い人』の本体と行動を共に? 一体何が目的で?)

 

 ツクヨミは嫌な予感を感じていた。

 目の前にいる美由紀に巣食っている『迷い人』は、何か途轍もなく恐ろしい事を企んでいる。そんな予感が脳裏に過ぎるが、ツクヨミとはこれ以上話をする気はないと言うようにカグツチに改めて顔を向ける。

 

『でも、此処にお兄ちゃんが居てくれて良かった。おかげで『塔馬美由紀』の器に宿っていた負の感情が暴走して、こんなにも早くこっちの世界に定着出来たんだから』

 

『っ!?』

 

 本来『迷い人』の依り代が訪れた先の世界に定着する為には、遅くて一日。早くても半日近くの時が必要。

 だが、依り代となった美由紀は訪れてごく短時間で定着してしまった。その原因は出雲学園と……カグツチの存在が原因だった。

 アシハラノクニに居た頃、カグツチと美由紀は仲の良い兄妹だった。だが、ある出来事が切っ掛けで2人の心は離れてしまった。カグツチと此方の美由紀は最終的には仲直り出来たが……依り代となってしまった『美由紀』は仲直りどころか、喧嘩の最中に此方の世界に来てしまった。

 美由紀の心の闇は、カグツチの大切な娘である佐久夜を見た事で暴走し、此方の世界への強すぎる執着心を抱かせてしまった。

 その事実に行きついたカグツチは狼狽え、呆然と別次元の美由紀を見つめる。

 

「お、俺のせいで……美由紀が」

 

『ありがとう、お兄ちゃん』

 

 狼狽えるカグツチに止めを刺す様に、『迷い人』は笑顔を浮かべて微笑んだ。

 それは殴られるよりもカグツチにとって深いダメージを与える攻撃だった。ただでさえ妹である美由紀に対して複雑な感情を持っていたところに、別次元の美由紀を不幸にする出来事を自分がいたせいで起こしてしまった。

 カグツチの手から力が抜け、剣が手から滑り落ちかけた瞬間……。

 

「何悪霊の言葉に惑わされてるのよ!」

 

「ぐほぉっ!!」

 

 隣に並んだツクヨミの渾身の拳がカグツチの頬に突き刺さった。

 

『……仲間割れ?』

 

「お、伯母様!? いきなり何を!?」

 

「ふん!! あんな安い言葉で惑わされる男には良い薬よ!」

 

 言いながらツクヨミは『迷い人』を睨みつける。

 

「随分と美由紀の気持ちを好き勝手に言ってくれるわね」

 

『悪霊ツクヨミ……ううん。どういう訳か、精霊になっているみたいだけど、『私』は本当の事しか言ってないよ。『塔馬美由紀』は不毛の荒野で一人寂しく死にかけ、『私』の依り代になった。そしてこっちにこんなに早く定着出来たのは、『塔馬ヒカル』のおかげだよ』

 

「ええ、其処までは事実でしょう。でもね……だったら、なんで美由紀は泣いてるの?」

 

『っ!?』

 

 指摘されて初めて気が付いたと言うように、『迷い人』は瞳から流れている涙に触れた。

 

「それともう一つ。カグツチ、いえ、ヒカルの事を『嫌い』って言える?」

 

『そ、そんなの簡単! お兄ちゃんなんて……っ!?』

 

 『迷い人』は驚愕と困惑に包まれた。

 既にその魂の起源まで掌握しているというのに、『嫌い』と言う言葉を言う事が出来ない。何故と焦燥に包まれていると、不敵な笑みをツクヨミは浮かべる。

 

「言えないでしょう。それがその美由紀の本心よ……ヒカル! 此処までしてあげたんだから、いい加減……」

 

「ああっ……ツクヨミ。ありがとう。おかげで目が覚めた」

 

 殴られた頬を赤くしながらも、カグツチは立ち上がり、確りと剣を『迷い人』に向かって構えた。

 

「『迷い人』。その美由紀を解放して貰うぞ!」

 

『……無理だよ、お兄ちゃん。『私』は確りと塔馬美由紀の魂を捕まえているの。精霊の力を使って精神世界に入ろうとしているんだろうけど、お兄ちゃんに近づく女を塔馬美由紀は拒絶するんだよ』

 

「やってみなければ分からないさ!」

 

(とは言っても、あの頃の美由紀だったら確かにそうだ)

 

 カグツチの脳裏に、最も仲違いしていた頃の美由紀が浮かんだ。

 親友だった少女を始め、幼い頃から友達だった女の子や女性を激しく拒絶していた頃の美由紀。

 

(しかも、ツクヨミを佐久夜の母親だと思っていそうだよな……むっ!)

 

『グオォォォッ!』

 

 悩むカグツチが視線を巡らせると共に、再び悪霊達が出現し始めた。

 『迷い人』は出現する悪霊達に笑みを浮かべる。

 

『フフッ、また出て来たんだ。雑魚どもだけど時間稼ぎには丁度良いよね』

 

「逃げるつもりか!?」

 

『うん。だって幾ら『塔馬美由紀』の器が優れていても、流石にお兄ちゃんとツクヨミさんを一人で相手にするのは辛いから。それにさっきみたいに予想外の不具合が起きないとも限らないしね』

 

(こいつ! 本当に厄介な悪霊ね!?)

 

 苦虫を嚙み潰したいような気持ちにツクヨミはなった。

 『迷い人』は策士系の悪霊に分類される。確かに今の美由紀の器を得た『迷い人』は、四聖獣にさえ匹敵する力を秘めている。だが、気を持ち直したカグツチとツクヨミの両方を相手にするには役不足だと瞬時に判断した。

 勝手に発生する悪霊など役にも立たない。ならば……。

 

(不具合が起きるかも知れないし、他の『私』が来るまでは、逃げさせて貰うからね)

 

 『迷い人』には切り札がある。

 美由紀の起源に触れた事で、他にも最高の『器』達の存在を知ってから、ずっと行動し続けていた。その苦労も報われているというのに、肝心要の自分が消滅しては意味がない。

 

(お兄ちゃん達は、『私』の存在を知っていた。なら、対抗策を編み出しているかも知れない。だから、此処は……)

 

「……に、逃がすもんか」

 

『えっ?』

 

 聞こえて来た幼い声に『迷い人』は、佐久夜と桃花に支えられながら立ち上がるリンドに顔を向けた。

 

(なに、あの子?)

 

「カグツチ様、ツクヨミ様……僕が『迷い人』への精神の道を作ります」

 

「っ!? ……リンド。出来るのか?」

 

「……色々と思い出したんです。お母様とお父様、それに家族の皆の真実とかも……だから、今ならこれも使えます!! 呪法!!」

 

 身に宿る精霊としての力を最大に高めながら、リンドは動く左手を地面に押し付ける。

 

「『樹界降誕』っ!!」

 

 呪法の発動を告げる言葉と共に、地面に光が走り、リンド達の背後に音もなく光を発する巨大な大樹が出現した。

 精霊としての力で生み出されたその大樹は大きさを更に増して、出雲学園さえも自らの枝と生い茂る光る葉の下に隠してしまう。

 

「こ、これがリンドの精霊としての力!? す、凄い!」

 

『くっ! でも、そんな事をして何の意味……っ!?』

 

 突然『迷い人』は地面に膝をついた。

 発生した悪霊達も様子がおかしくなり、翼を持つ悪霊は必死に羽を羽ばたかせ、地上にいる悪霊達は苦し気に息を吐いている。

 逆にカグツチ、ツクヨミ、桃花、佐久夜の身体は光を纏い、力が引き上げられて行く。

 

「これは、強化されているのか?」

 

「みたいね。なるほど。これがあの坊やの精霊としての呪法なのね」

 

 『樹界降誕』。

 それは敵対者には弱体を、味方には強化を施す強力無比な呪法。発生させられた大樹の下に居る限り、影響を及ぼす。蔓の呪法のように攻撃性はないが、その分味方に与える恩恵は絶大。

 嘗てヒミコ軍に強襲されながらも、相手を半壊に持ち込めたのはこの結界があったからだ。

 支援を受け取ったカグツチは笑みを浮かべ、先ずは悪霊達に向かって剣を構える。

 

「ツクヨミ! やるぞ!」

 

「ええっ!」

 

 何をしたいのかは聞く必要はない。

 『真の契りの儀式』を結んだカグツチとツクヨミの間には、魂で繋がる絆があるのだから。

 高まる力の気配に悪霊達は危機感を覚え、ある者は逃げようと、ある者は発動される前にと言うように襲い掛かる。だが、弱体化を受けている悪霊達の動きではもう間に合わない。

 

「『起震』っ!」

 

「『破局』っ!」

 

『破壊震っ!』

 

 カグツチが地面に剣を突き刺した瞬間に起きた衝撃波と、ツクヨミが空間を振動させて放った衝撃波が交じり合い、地面を隆起をさせながら破壊の衝撃波が悪霊達に襲い掛かった。

 この技こそ2人の息子であるニニギが得意とする『起震』と『破局』の合わせ技『破壊震』。

 『真の契りの儀式』を結んだ事によって、絶妙なタイミングで放たれた『破壊震』は、ニニギ個人で放つ『破壊震』の威力を上回り、悪霊達を消滅させた。

 

『お、お兄ちゃん! 『私』を殺すつもり!?』

 

「お前にお兄ちゃんなんて呼ばれる筋合いはないぞ、『迷い人』!」

 

「ヒカル! あの美由紀は呪法を満足に使えないはずよ! 使えるんだったら、『速玉』の呪法を使って、この結界の外から逃げだしている筈だから!」

 

『っ!?』

 

 図星を突かれたのか『迷い人』の顔が、ハッキリと歪んだ。

 確かに『迷い人』に憑りつかれた美由紀の肉体は、潜在能力の全てを解放され、四聖獣に匹敵する力を宿している。だが、勾玉の呪法に関しては別。勾玉を使って発動する呪法は成長にどうしても、その勾玉を使い続けなければならない。しかし、勾玉は一度使えば消滅する。

 新たな勾玉を手に入れる為には、悪霊を倒さなければならない。

 『迷い人』は美由紀と言う器を手に入れて、即座に自らが作り上げた別次元への道を通って此方の世界に渡らせてしまったので勾玉を扱う呪法を鍛えている暇はなかった。

 四聖獣級の力を渡るだけで得られるという確信があったからだ。

 

『じゅ、呪法なんて使えなくたって!』

 

「それが隙なのよ! 佐久夜!」

 

「飛鳥の舞!」

 

 注意が散漫になっている隙を突き、佐久夜は扇を『迷い人』に向かって投げつけた。

 

『こんなの!』

 

 向かって来る扇を『迷い人』は殴り飛ばそうとする。

 だが、扇に仕込まれている刃が輝きを放つの見た瞬間、その動きは急に止まり、体勢が悪いまま躱す。

 

『こ、こんな物を護る為に邪魔をするのか! 『塔馬美由紀』っ!?』

 

 忌々し気に『迷い人』は、自らの両手に嵌めているグローブを睨みつける。

 『迷い人』の意思に反して、美由紀の心が己の嵌めるグローブが傷つくの拒絶したのだ。何故ならそのグローブは、美由紀にとって大切な兄であるヒカルの持ち物だったグローブだから。

 破り捨ててやろうと『迷い人』が思った瞬間、『速玉』の呪法とリンドが張った『樹界降誕』の恩恵で速度が増していたカグツチが飛び出し、『迷い人』を羽交い絞めにする。

 

「美由紀の真似は終わりか、『迷い人』!」

 

『は、離せ!』

 

「ツクヨミ!」

 

「ええ!」

 

 カグツチの指示に、ツクヨミは精神を研ぎ澄ませて美由紀の精神世界に入ろうとする。だが……。

 

「くっ!」

 

 拒絶されたようにツクヨミはたじろいた。

 

『アハハハハハッ! ヤハリ無意味ダ!』

 

 美由紀の精神は、やはりカグツチの近くにいる女性を拒絶していた。

 口から悍ましい美由紀以外の別の何者かが混じった哄笑が上げられる中、桃花に抱えられたリンドがツクヨミに左手を伸ばす。

 

「ツクヨミ様!」

 

「っ!」

 

 手を伸ばされた意味を理解したツクヨミは瞬時にその手を握る。

 そして精霊としての力が高まったリンドは、カグツチの拘束から逃れようとしている美由紀の目を見つめ、その精神世界に飛び込む。

 

『コ、コゾウ! 貴様ハ、マサカ!?』

 

 入り込んだ美由紀の精神世界は闇に包まれていた。

 ツクヨミと共に精神世界に入り込んだリンドは、精神世界故に動くようになった右手を確かめるように動かす。

 

「ふぅっ。危なかった」

 

「全くよ。ヒカルにとって最悪の敵だったわ」

 

 リンドによって美由紀の精神世界に入り込んだツクヨミは、闇の奥深くで一糸まとわない美由紀を闇で拘束している『迷い人』に向かって剣を構える。

 

『精霊!? 馬鹿ナ!? 人間ト精霊ノ子ナド!?』

 

「残念ね。その情報は古いわ。因みに私も一児の母親よ」

 

『ナッ!? ぐあぁぁぁっ!?』

 

 剣を振るい美由紀を拘束している闇を、ツクヨミは切り払った。

 斬られた時の激痛に『迷い人』は混乱して、美由紀を離してしまう。その美由紀をリンドは抱えて引き離す。

 

『ナゼ!? コノ『我』ガ、クルシム!?』

 

「本体じゃないって言うんでしょう。残念ね。アンタみたいな存在への対抗術は、こっちではもう在るのよ」

 

『アアッ……ココマデ来テ! ココマデ来テ!?』

 

「もう死になさい! はあっ!」

 

『ガアァァァァァァァッ!?』

 

 ツクヨミの一閃に『迷い人』は切り倒された。

 策を弄する悪霊ゆえに、対抗する術さえ編み出す事が出来れば脆い悪霊。

 残心を行ない、悪霊の気配が消えたのを確信したツクヨミは剣を仕舞う。

 

「はぁっ、それにしても厄介な置き土産をしてくれたわ」

 

 リンドの腕の中で眠る美由紀を見て、ツクヨミは溜め息を溢した。

 此方の世界に定着してしまった美由紀は、もう『迷い人』を倒しても元の次元には戻れない。

 戻る為には、面倒且つ長い儀式を行ない、『迷い人』の特性を美由紀に与えなければならないのだ。

 

「でも、僕としては助かる面もあるんですけどね」

 

「んっ……」

 

 リンドは腕の中にいる美由紀の程よい大きさの胸を両手で弄りながら、笑みを浮かべた。

 予想外の事が多かったが、美由紀と言う武術の使い手と出会えたのはリンドにとって僥倖だった。

 美由紀の胸をこねくり回して、快感を与えているリンドに、ツクヨミはジト目を向ける。

 

「はぁ~、この坊やは……まっ、確りと手綱を握れるようにしなさいよ」

 

(美由紀がこっちに残ってしまうのは、もうどうする事も出来ない。なら、せめてヒカルとの距離を取らせないとね)

 

 暫らくはいがみ合うかも知れないが、そのフォローを自身がすれば良いと打算的な事をツクヨミは考える。

 その間にリンドは、美由紀に対して自らに強い罪悪感を抱くように認識を強める。

 

(今は精霊としての力が強まっているから入れたけど、そうそう何度も他人の精神世界には入り込めないから。この機会にと)

 

 手早く認識変化を受け入れやすい様にして、リンドはツクヨミと共に現実世界に戻る。

 

「やったか!」

 

 精神世界と現実世界では時間の流れが違い、カグツチは美由紀の身体から邪悪な妖力が抜けて気を失うのを喜んだ。

 

「ええっ! カグツチ! 早くアレを坊やに!?」

 

 『迷い人』は倒せたが、まだ終わった訳ではない。上空に開いている別次元への道を何とかしない限り悪霊の出現は治まらない。

 

「ああ! リンド! コレを使って穴を閉じるんだ!」

 

 懐の中からカグツチは小箱を取り出し、桃花に抱き抱えられているリンドに向かって投げた。

 右手が使えないので、桃花が受け取り、箱を手早く開けて虹色の輝く宝珠をリンドに差し出した。

 

「こ、これはあの時の!?」

 

「謝罪は後でいたします! リンド! 早くこの宝珠を手に取って! 後は宝珠が導いてくれる筈です!」

 

「は、はい!」

 

 指示に従いリンドは手に宝珠を持った。

 宝珠はリンドの手に握られると強い光を発して輝く。これで一安心だとカグツチ達が思った瞬間、リンドは頭上に広がる穴を見つめて焦燥に満ちた顔をする。

 

「だ、駄目だ……」

 

「リ、リンド!? どう言う事ですか!? その宝珠ならば!」

 

「通ってる。更に三人(・・)の『迷い人』の依り代が!?」

 

『なっ!?』

 

 その場にいる全員が頭上の穴を見つめた。

 『迷い人』の依り代が通っている間は、幾ら世界の理を整える力を秘めている宝珠でも、別次元への道を崩す事は出来ない。

 

(あの『迷い人』!? もう既に他の依り代になれるほどの器を見つけていたのか!?)

 

 美由紀ほどの器がそう簡単に、しかも負の感情を宿す器などそう簡単に見つけられる筈がない。

 だが、『迷い人』は見つけていた。美由紀に匹敵する器達を。

 悩むように険しくリンドは顔を歪めて、カグツチに向かって叫ぶ。

 

「カグツチ様! 声が一つだけ方法があるって言ってます! 何処に飛ばされるか分かりませんけど、『迷い人』の依り代をこっちに引っ張るんです!」

 

「出来るのか!?」

 

「声はそう言っています! けど、何処に飛ばされてしまうのかは分かりません!」

 

 『迷い人』本体は確かに倒したが、空間を渡って来ている事から考えて分身体が生き残っていると見て間違いない。

 悩むようにカグツチは腕の中で意識を失っている美由紀を見る。これ以上頭上の穴が開いていれば、悪霊はさらに出現してしまう。そうなれば、アマテラス達の方も危ない。

 

「……頼む、リンド!」

 

「は、はい!」

 

 了承を得たリンドが頷いた瞬間、宝珠は光り輝き、地面が鳴動する。

 

「み、見てお父さん!?」

 

「空が戻って行く」

 

 ひび割れていた空が巻き戻るかのように、元の青い空へと戻って行く。

 そして空間が完全に戻る瞬間、三つの光が飛び出し、一つは東に、一つは北に、最後の一つは西へと消え去ったのだった。




最後に飛んだ三つの光は当然彼女達です。

琴乃の持つ横笛は強力ですが、上級の悪霊では動きが鈍るで最上級の悪霊には今のところ殆ど効果はありません。今後成長すれば無論力は上がって行きますが。

捏造設定。
『樹界降誕』
リンドに流れる植物の精霊としての力を最大に発揮した時に使える固有の呪法。
巨大な光り輝く大樹を出現させ、その下にいる味方には回復、補助系呪法の全てが重ね掛けされ、敵には弱体呪法が重ねられる上に体力も奪われる。敵対者にとって悪夢のような結界。但し、弱点として使用者には恩恵が受け入れられない。
この結界呪法を受け継いだ者が、リンドの一族の次期当主として選ばれる。

次回は佐久夜とのエロです。

アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。

  • 琴乃が堕ちた段階で孕ませる
  • 四聖の社全て攻略後に孕ませる
  • サヨ関連終了後に孕ませる
  • イザナミも加え、四人そろって孕ませる
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