IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜 作:イズモ
前回の後始末とツクヨミ回想編に入ります。
感想、お気に入り、アンケートありがとうございました!
アマテラスの執務室として使っている部屋の中は、重苦しい空気で包まれていた。
その原因となってしまった1人で在るリンドは、頭を抱えて苦悩している。
「あう~~~」
(……そりゃ、頭を抱えたくなるよな……あの歳で自分の子供が出来たとか)
苦悩するリンドの様子に、カグツチは心の中で頷いた。
青龍がリンドと『真の契りの儀式』を交わしたという驚天動地の事実を発した後、まさかと思ってカグツチが家の中に入った。
すると、家の中は明らかに行為による匂いが充満し、破り捨てられたリンドが着ていた服が散乱し……そして本人であるリンドは家の隅の方で裸のまま膝を抱えて泣いていた。
信じたくはなかったが、明らかに
そしてこの事態を招いた青龍と言えば……。
「ふふっ」
微笑ましそうに苦悩するリンドを見ていた。その手は大切そうに下腹部を撫でている。
その仕草と微笑みは、カグツチ達が知る青龍とは違い、愛しい相手と想いながらこれから母となる女性の微笑みだった。
(と、取り敢えず、事情を聞かないとな)
カグツチはアマテラスとツクヨミに視線を向ける。
2人とも頷き、険しい顔をしながらアマテラスが口を開く。
「青龍……この度の事、詳しく説明して頂きます」
「分かっています、アマテラス。先ず、先ほども述べましたが、私達四聖獣の四人は、彼の一族と古の時代に盟約を交わしていたのです……ですが、その盟約は破られてしまいました」
「どんな盟約を交わしていたんだ、青龍?」
「……『四聖に深く関わる者がネノクニの崩壊を企んだ場合、ネノクニの守護神の資格剥奪。かの一族と交わり、次代の四聖を産む』。それが盟約の内容です」
『っ!?』
告げられた事実に、アマテラスとカグツチは目を見開いて驚いた。
何故なら、青龍が告げた盟約を破る条件に一致する情報を二人は知っているからだ。
事前に知っていたツクヨミも驚いた顔をしながら、今だに苦悩しているリンドに質問する。
「一応聞くけど、リンド。貴方、そんな盟約の事を知っていたのかしら?」
「し、知りません!」
全力でリンドは首を横に振るった。
実際、最初は知らなかったので嘘ではない。尤も知ってからは、虎視眈々と機会を狙っていたのだが。
そんなリンドを援護するように青龍が口を開く。
「彼が知らないのは無理もありません。年齢の問題もあるでしょうが、何よりも盟約を交わしたのは、もう2000年も前の話です。子孫であり、今だ子供である彼が知るには、早すぎます。実際、私と白虎は覚えていましたが、玄武と朱雀は……話が出るまで忘れていましたので」
「あ、あの二人は……」
四聖獣の中で不真面目と言うか、軽い二人の事を思い出してカグツチは頭を抱える。
「……盟約に関しては分かった。そ、それで……青龍がリンドを襲ったのか?」
「……」
恥ずかしそうに青龍は頬を赤くして横を向いた。
流石に行為の事を女性である青龍には聞けないと思ったアマテラスが、リンドに質問する。
「では、リンド……私達と離れた後に何があったのか話して下さい」
「は、はい……そ、その……アマテラス様とカグツチ様と離れた後、僕は家に戻って掃除をしようとしました。天気も良かったので、布団を干そうとしていたら、家の入口から……せ、青龍様のお声が聞こえて、向かってみて青龍様の顔を見たら、急に……身体が痛くて仕方なくなったんです」
「痛くって、具体的には何処がだ?」
「うぅ……下の方がです」
恥ずかしそうにリンドは説明した。
そんなリンドの説明を補足する為に、漸く青龍が口を開く。
「恐らく、私を逃がさない為に盟約が彼に子を為せるように身体を変化させたのでしょう。尤も……私も彼の顔を見た瞬間に……子を為す事しか考えられなくなってしまい、詳しい事は覚えていないのです……彼を押し倒した後は特に……」
『…………』
アマテラス、カグツチ、ツクヨミも何も言えなかった。
盟約のせいで青龍が子を孕む為に暴走し、リンドを襲ったという事実は信じがたい気持ちだが……子が青龍に宿っているのが何よりの証拠。
この件でリンドを責める事は出来ない。何よりも、もう手遅れなのだから。
「……話は分かりました。この件に関しては一先ず置いておきます。青龍、私達も四聖獣に改めて問いたい事があります」
「それは何でしょうか、アマテラス?」
「楓さんの残留思念から、由々しき情報が齎されたのです。ヒミコの正体が、嘗て貴女達四聖獣が仕えていた者。『徐福』だと」
「っ!? ……や、やはり……そうでしたか……盟約が破られた事で、覚悟はしていました……聞きますが、『徐福』様……いえ、ヒミコの容姿は、銀色の長い髪に緋色の目の少女だと、楓は言っていませんでしたか?」
「ああ……楓さんは確かにその特徴を上げていた」
青龍の顔に深い苦悩が浮かんだ。
嘗て苦楽を共にした仲間だった相手が、今ではネノクニを滅ぼす敵となってしまった。更に言えば、ヒミコはもう取り返しのつかない事をしてしまっている。
青龍はリンドに向き直り、正座をしたまま三つ指を床について頭を深々と下げた。
「リンド様。貴方様の一族を嘗ての仲間が滅ぼした事を、詫びて済む話ではありませんが、此処に深くお詫びします」
「せ、青龍様!? 顔を上げてください!? だって、青龍様は知らなかったんですから!?」
「いえ、知らなかったではすみません……こうしてヒミコの正体を知るまで、私は『徐福』様を信じていたのですから……あの方がネノクニに災いを引き起こす事など在り得ないとすら思っていました」
『………』
「盟約を破ったこの身は、生まれ来る子に守護神としての資格を譲り渡さなければなりません。ですが……どうか、今暫らくは残り三人と会わないで欲しいのです」
「残り三人って、まさか!?」
「はい、カグツチ。彼と残りの四聖獣。玄武、白虎、朱雀が出会ってしまえば、私と同じ事が起きます。盟約は私達全員に課せられているのですから」
『っ!?』
その言葉の意味を理解したアマテラス、カグツチは言葉を失った。
つまり、リンドと残る三人の四聖獣が出会えば、同じ事が起きると言う事は、青龍同様に『真の契りの儀式』を結ばなければならないと言う事なのだから。
そうなってしまえば、ヒミコに対抗できる戦力が減ってしまう。幾ら弱っているからとは言え、相手は今だに強大な存在。
まさかの事態にカグツチとアマテラスは慌てて対処方法を考える。
「リンド。宝珠に願って、一時でも盟約を無効にする事は出来ますか?」
唯一盟約を無効化できる可能性があるとすれば、世界の理を整える力を秘めた宝珠。故にアマテラスは確認したのだが……。
「……無理です……四聖獣様達と一族の盟約は、理で決めてしまっているらしくて、この理を無効にしたら……四聖獣様達にどんな影響が出るのか分かりません……最悪……消滅さえもあり得るそうです」
「そんな……」
「アマテラス。この盟約は決して、いかなる方法を以てしても破れません。何故なら、この盟約を施す事で私達はネノクニの守護神となる事が出来たのですから」
「どういう事なんだ、青龍? 青龍達はこれまでずっとネノクニを守護して来たじゃないか。盟約を破ったのだって、青龍達じゃなくてヒミコだ」
「……違うのです、カグツチ。今でこそ、私達はネノクニの人々から信仰されて認められていますが……古の時代、私達は大いなる過ちを引き起こしてしまったのです……その過ちのせいで……貴方の母。イザヨイの悲劇が起きたのです」
「……何だって?」
信じられないと言うようにカグツチは青龍を見つめた。
嘗てカグツチは四聖獣達と『契りの儀式』を交わした時に、過去に起きたイザヨイの悲劇を知った。その悲劇に青龍達が関わっている。
まさかと言う気持ちで見つめていると、青龍は顔を上げ、嘗て起こしてしまった過ちを語りだす。
「遥か昔、私達四人と『麒麟』、そして『徐福』様は大陸からこの地へと渡って来ました。大陸と違い、純朴なこの地の人々と暮らしている内に、私達はこの地に根を下ろす事を決意しました……そしてより良い人々の生活の為に大陸の知識を伝来してしまったのです……それが後にイザヨイの悲劇を引き起こしてしまう引き金になってしまうと気づかずに」
「……まさか、その知識を悪用した連中が」
「……はい。イザヨイを追い落とした者達です。彼らの反逆は、私達が伝来してしまった知識が原因で引き起こされたのです」
カグツチ、アマテラス、ツクヨミは呆然と青龍を見つめた。
イザヨイに起きた悲劇の一端に四聖獣達が関わっていた。その事実は『契りの儀式』を結んだことによって過去を垣間見たカグツチも知らなかった事実。
「アシハラノクニとネノクニの二つの世界に別れた後、私達はせめてもの罪滅ぼしとしてネノクニに渡り、少しでもイザヨイの苦労を減らそうと頑張りました。そして、当時はその正体を知らなかった悪霊の長であるヨモツオオカミに、私達四人と『麒麟』、そして『徐福』様は共に挑み……敗北しました。その後、私達を逃がす為に一人残った『徐福』様は行方不明に、『麒麟』は自力で精霊となり、ヒミコ様が用いていた神器『八咫鏡』を護る為に姿を隠しました」
(……矛盾してるわね)
青龍の説明を聞いていたツクヨミは、疑問を抱いた。
チラリとリンドの方に目を向けてみると、此方も僅かに首を傾げている。アマテラスとカグツチは、青龍の説明に聞き入って気付いていないようだ。
(スサノオとヒミコは、何時知り合ったのかしらね?)
楓の話では、ヒミコはスサノオに想いを寄せていた。
これは今もヒミコがスサノオの転生体である二人の人間を狙っている事から考えて、先ず間違いない事実。だが、何時スサノオとヒミコが深い交流を交わしていたのかという謎が残る。
気になったツクヨミは、青龍の話に割り込むために口を挟む。
「ちょっと良いかしら、青龍?」
「何ですか、ツクヨミ?」
「貴女達って、ネノクニに来てからずっと一緒に行動していたの?」
「いえ……『徐福』様が広大なネノクニを六人一緒に行動するのは、非効率だと申しまして、緊急時に『徐福』様が集まる合図を出すまでは、それぞれ別々に行動していました。私は東を主に。玄武は北を。白虎は西を。朱雀は南を。最後の『麒麟』は、悪霊に神器を奪われない為に八咫鏡の守護として、『徐福』様の傍についていました」
「そう。分かったわ」
(なるほどね……大体読めて来たわ。つまり、ヒミコの奴はヨモツオオカミ様と遥か昔に手を結んでいた。その時にスサノオと交流して想いを寄せたけど、方針の違いとかで、ヨモツオオカミ様と袂を別って争ったのが真実と言うことかしら?)
ツクヨミの考えは大よその真実を当てていた。
とは言え、その情報が当たっているかどうかを確かめられるのはヒミコ本人か、或いは『麒麟』に聞くしかないので、今はあくまで推測。
質問が終わった青龍は、憂いを帯びた顔のまま話を続ける。
「ヨモツオオカミに敗れた私達は、イザヨイの下に向かいました。ネノクニを旅している時に、彼女と仕える神官達が、世界の安定の為に守護神を生み出そうとしている噂を聞いたからです。その守護神に私達はなろうと思い、彼女達の下に辿り着きましたが……私達は歓迎されませんでした……神官達は大陸から私達が来なければ、今もこの地は平穏だったと告げて来たのです」
「それは………」
カグツチは否定する事が出来なかった。
どうやっても、間違いなくイザヨイの悲劇の一端には四聖獣達が関わってしまっている。その事実を覆す事は出来ない。
「信頼を失っていた私達は、守護神となる事を諦めるしかないと思いました。ですが、諦めかけた時に、かの一族の者達が助けてくれたのです。彼らは私達と違い、イザヨイからも、その神官達からも信用と信頼を得ていました。中立の立場に居た彼らが盟約をしてくれる事で、私達四人はネノクニの守護神。四聖獣となったのです」
「……話は分かりました。貴女達四聖獣の過去と……そして盟約の重さも……その盟約がヒミコの行ないによって破られてしまった事も」
アマテラスも盟約の必要性は認めるしかなかった。
当時の状況では、確かに青龍達が守護神となるには、重い盟約が必要なのは明らか。まさか、その盟約が2000年後に破られるとは、当時の誰一人として思っていなかった。
(盟約によって青龍は理性を失い、リンドは二次性徴を迎える前に子を為せる身体になってしまった……それはリンドがかの一族の最後の生き残りだからこそ起きてしまった事……今回の一件は……事故と言う事ですか)
状況的に考えれば、どうやっても事故としか言えない。
子を為すような盟約の事を子供のリンドが知る筈もなく、更に言えば2000年前に交わされた盟約。
青龍にしてもヒミコの正体が『徐福』だと知らなかったのだから、会いに行ってしまうのも仕方がない。
(ですが、これで青龍は戦えなくなってしまいました)
その事実はアマテラスに危機感を与えていた。
最大戦力の一角である青龍が、表立っては戦えなくなってしまった。以前よりも勢力も力も弱くなっているとは言え、相手は嘗て四聖獣を従えていたヒミコ。
危機感を覚えない訳がない。尤も、それだけではなく……。
(盟約とは言え、リンドを襲った事は複雑ですね)
自らの身に宿っているリンドへの母性が、アマテラスの心を乱す。
冷静でいなければならないのに、今口を開いたら青龍を責めるような言葉が出てしまいそうだった。
それはアマテラスだけではなく、カグツチも同じだった。
(母さんと爺ちゃんの悲劇の一端に、青龍達が……)
嘗て過去を垣間見た記憶の中にもなかった真実。
無論、青龍達が悪い訳ではない。彼女達が伝えた知識を悪用した者達が悪いのだと言う事は、カグツチも理解出来る。
だが、ヒミコ……『徐福』が暴れている事実がカグツチの心を荒立たせていた。
(ヒミコは何の目的でネノクニを、母さんが守ろうとした世界を荒らそうとしているんだ!)
過去の事はともかく、今を荒らす事はカグツチは見過ごせない。
二人の様子を見ていたツクヨミが、冷静に声をかける。
「カグツチ。落ち着きなさい」
「ツクヨミ?」
「アマテラス。ちょっとカグツチと一緒に外に出て空気を吸って来なさい」
「姉さん?」
「四聖獣の過去を知って、気持ちが荒れて冷静に判断できないでしょう。後の話や情報交換は私がやっておくわ」
「……そうだな。ちょっと頭を冷やしてくる、ツクヨミ」
「……ありがとう、姉さん」
一先ずの休憩を入れるために、カグツチとアマテラスは揃って外に出て行った。
二人の気配が部屋から遠ざかると共に、戸惑っていたリンドの表情が瞬時に真剣に変わり、
「流石です、リンド様」
早速得た力を使いこなしているリンドに、青龍は感嘆の吐息を洩らしてしまう。
「ツクヨミ様。これで会話は外に聞こえなくなりましたよ」
「ふふ、ありがとう、リンド」
瞬時にツクヨミの表情も変わり、嘗てヨモツオオカミに仕えていた頃の邪笑を浮かべた。
その変化に青龍は、リンドが教えてくれたことは事実だったと悟る。
「なるほど。どうやら本当に悪霊としての側面を取り戻してしまったようですね、ツクヨミ」
「ええ、でも、悪霊では無くて私は精霊のままよ。貴女も、もう分かっているでしょう、青龍」
「そう……ですね……アマテラスとカグツチに偽りを告げる事を、それほど苦には思えなくなってしまっています。今は何よりも、この子とリンド様を優先するようになってしまいました」
(まさか、『真の契りの儀式』にこのような悪影響があるとは思ってもいませんでした)
下腹部を撫でながら考えるのは、隠されていた『真の契りの儀式』の真実。
精霊でありながら、人間としての感情を取り戻してしまう、或いは得てしまうという危険性。
最早、遠く時の果てに捨て去った筈の感情が戻ってしまった事に青龍自身戸惑ってしまっている。だが、それを悪いとも思えずに、尚更青龍は戸惑っているのだが、今は自らの感情に関して考えている時ではない。
「それで、私が何よりも聞きたいのは、『真の契りの儀式』の悪影響を貴女達四聖獣は知ってるかどうかよ。どうなの?」
「存じませんでした。こうして『真の契りの儀式』を結び、リンド様に教えられて理解出来たというところです……ただ……」
「ただ、何かしら?」
「……『麒麟』は知っているかも知れません」
「何ですって?」
ツクヨミの目に強い警戒心が浮かんだ。
リンドと契約した桃花、蔓、そして青龍はともかく、他に『真の契りの儀式』の悪影響を知っている者は見過ごせない。
続きを促すようにツクヨミは視線を送り、リンドも興味深そうに青龍を見つめる。
「『麒麟』は私達の中で誰よりも、かの一族と親交を持っていました。それと言うのも、この地で仲良くなった精霊が、かの一族の者と夫婦になったからです。その後も、ネノクニとアシハラノクニに別れる少し前までは交流を行なっていた筈です」
「……確かに、それなら変化に気付いてもおかしくないわね。で、その『麒麟』は何処にいるの?」
場合によっては、リンドを連れて行って『真の契りの儀式』を行なわせて口封じをツクヨミは企んでいた。
「分かりません。ヒミコ同様に2000年以上会っていませんから。ですが、ヒミコが『徐福』様だとすれば、『麒麟』はヒミコに味方していると見て間違いありません。彼女は誰よりもヒミコに忠誠を誓い、姉のようにヒミコを想っていた面もありましたので」
「へぇー、そうなんだ。ヒミコの傍に精霊がね」
(しまった!? 余計な事を言ってしまいました!?)
明らかにリンドの目に獲物を狙う雄としての色が見えたことに、青龍は焦りと嫉妬を覚えた。
だが、ツクヨミはリンドの企みを瞬時に察したのか、此方も邪笑を浮かべる。
「ふふっ、面白いわね、それ。リンド、『麒麟』を私が見つけたらすぐに知らせてあげるわ。ニニギの件のお礼もしたいところだったから、ヒミコを痛い目に遭わせられるなら、幾らでも手を貸すわよ」
「ありがとうございます、ツクヨミ様」
(こ、この2人は……)
青龍は悟った。リンドとツクヨミは、悪だくみにおいて最高に相性が良いのだと言う事を。
しかも、『麒麟』を狙う事に青龍も反対できない。『麒麟』は自力で精霊になりながらも、その力はネノクニ最強の精霊。
その『麒麟』がリンドの手に堕ちれば、ヒミコ軍内部に間者を送り込めるばかりか、ずっと青龍達が探していたヒミコの居所も容易く見つけられる。
しかし、そんな理屈以上に……。
(リンド様に更に女性が増えてしまう!)
女としての感情が青龍の中で荒れ狂っていた。
『麒麟』は青龍に勝るとも劣らない絶世の美女であり、しかもリンドの『木』属性と相性が良い『土』属性。
狙わない理由がないと青龍は焦る。
(こ、こんな気持ちを桃花と蔓は私に抱いていたのでしょうね)
今だ会っていないリンドの子を産んだ二人の事を考えて、青龍は思わずため息を吐いてしまう。とは言え……。
(ですが、アマテラスとカグツチのリンド様のお子を一番最初に得たのは、私だという認識は譲りません)
出遅れてしまっているのだから、それぐらいのハンデは欲しいと青龍は思った。
ただこのまま、他の女の話をされるのも嫌なので、話を戻す。
「では、互いに現状に関して話しましょう」
「ええ、そうね。先ずは……」
青龍、ツクヨミ、そしてリンドは、互いの情報に関して話し合う。
「別次元の……美由紀ですか」
やはり青龍が一番驚いた情報は、『迷い人』の依り代にされて、此方の世界に来てしまった美由紀の事だった。
長い間、ネノクニを見守ってきた青龍だが、別次元からの来訪者など聞いたこともなかった。ましてやそれが、嘗てネノクニをヨモツオオカミの魔の手から守ったカグツチの妹である美由紀と同一人物など、ツクヨミとリンドの説明でなければ信じられなかっただろう。
「ヒカルとアマテラスの為に聞くけど、此方で同じ状況が起きていたら、貴女達四聖獣は何か出来たかしら?」
「……残念ですが、何も出来ません。別次元の存在は知っていても、干渉までは流石に無理です。ましてや移動など……外敵に対処できるリンド様の一族ならばと考えはするでしょうが……ヨモツオオカミが猛威を振るっていたあの時期には会わせようとは思わない筈です。実際、かなり無理をして当時のカグツチ達の装備を準備してくれていましたから」
「アレって、そう言う事だったのね。何でか、行く先々でヒカル達の装備が良くなっているとは思っていたけど」
当時、四聖獣達の社はそれぞれ悪霊達が占拠していた。
それなのに、何故かカグツチ達は行く先々で道具を回収して強化していた。それは影ながらかの一族が、装備を用意して置いておいたからだ。
とは言え、其処まで限界。それ以上の表立った支援をすれば、ヨモツオオカミに気付かれてしまう。
彼方の世界でのかの一族の救援は無理なのだと改めて知らされ、ツクヨミは溜め息を吐く。
「それで……貴女達の社に異変が起きたらしいけど、具体的はどんな事が起きてるの?」
「先ず最初に感じたのは、社との繋がりが薄れた事です」
「……その時点で大問題ね」
四聖獣達が住まう社は、ネノクニにおいて重要な霊地。
他の豊富な霊力が溢れている『アシハラノクニの学び舎』である出雲学園の次に重要な場所。その場所の守護も四聖獣達は担っている。
其処との繋がりが薄れたと言う事は、何者かが侵入し、社を占拠したという事に他ならない。
無論、そうならないように青龍達は己の影や悪霊の姿を模した影を置いて、本体が戻るまでの時間を稼げるようにしていたのだが、その繋がりも断たれてしまった。
「私の影との繋がりで一瞬だけ見えたのは、遠距離から放たれた矢の一撃でした。玄武は、いきなり撃ち抜かれたり、爆発されたそうです。白虎は、金色が閃光のように走り抜け、気が付けば影との繋がりが断たれたそうです」
「……はぁっ……やっぱり、『迷い人』が依り代にしたのはあの三人ね」
四聖獣の影が破壊された攻撃方法から、ツクヨミは当たって欲しくなかった可能性が現実になってしまった事を確信した。
「明らかな緊急事態なので、私達はこの件をアマテラスとカグツチに報告する事にしたのです。その前にリンド様を見極めようと思っていたのですが……こうして虜にされてしまいました」
「……リンド。どう思う?」
四聖獣の社を襲った犯人は先ず間違いなく、『迷い人』の依り代にされた者達に違いない。
だが、その目的が何なのか分からない。既に本体を倒しているので、別次元から新たな尖兵を送る事は不可能。ならば、『迷い人』の分身体は何を目的としているのかが分からない。
ツクヨミの質問の意図が分かったリンドは、目を閉じて宝珠と一時的に繋がり、己の推測を語る。
「可能性としては、先ず強力な霊地を得て、分身体が本体に生まれ変わろうとしているのかも知れません。奴らの本体は間違いなくツクヨミ様が葬りました。消滅する筈の己を維持するために、膨大な霊力を用いて、そのまま新たな『迷い人』、或いは別の悪霊になろうとしている可能性が高いです」
「……確かにその可能性はあるわね」
嘗て悪霊でありながら精霊へと変化した経緯を持っているだけに、ツクヨミもあり得ると頷く。
「それで青龍。他の四聖獣達はどうしてるの?」
「自分達の社と言う事で、それぞれ一度社を見に行っています。朱雀一人だけが、他の霊地の守護をしている状況です。私も報告が終わったら戻るつもりでいたのですが」
言いながら青龍はリンドに熱い視線を送る。その意味が分かっているリンドは頷く。
「分かってるから、安心して青龍。戻るなら、勿論僕も行くつもりだから」
外敵案件ならば、自らも動かねばならないとリンドは決意していた。
一先ずこれで重要な話は終わりだと、リンド、青龍、ツクヨミは一息を吐く。
「そう言えばツクヨミ……ニニギの事は良いのですか?」
子を大切に想う母としての気持ちを持ってしまった青龍は、その事が気になった。
非常に困った性格をしているニニギだが、それでもツクヨミにとっては大切な我が子の筈。リンドと言う明確な復活方法を握っていながら、何もしないのはおかしいと思い青龍は質問したのだが。
「あの子、復活したら、佐久夜と仲の良いリンドを殺しかねないわよ」
「失言でした。そうですね……ニニギならば確かにやりかねません」
青龍も思い出したニニギのやらかしの数々に納得した。
「それにあの子も、もう母親離れの歳よ。これがヒミコの卑怯な策略でとかならともかく、勝手に突っ走って封印された訳なんだからね。少し反省の意味も込めて、封印はそのままにしておく事にしたのよ。まっ、リンドとの契約もあるけどね」
「契約? 一応その内容を聞いても構いませんか? リンド様にご迷惑をかけたくありませんから」
「良いわよ、私とリンドが結んだ契約は……」
青龍に説明しながら、ツクヨミは思い出していた。
自らがカグツチと『真の契りの儀式』を結ぶ事が出来た経緯を。
一年以上前、ツクヨミは里を離れてとある戦場の跡地で儀式を行なっていた。
アマテラスの姉にして、ヨモツオオカミの将として仕え、今では精霊となったツクヨミは、本来ならば四聖獣に匹敵する力を秘めている筈だった。
だが、その身から発せられる霊力は見る影もなく衰え切り、術を一文字唱えるだけで更に霊力を消費していた。
「はぁっ!」
何とか唱え切ったツクヨミの術は発動し、戦場の跡地に残されている封印の塚を襲った。だが……。
「くっ!」
封印の塚は僅かな揺るぎも見せず、逆にツクヨミに術の反動が襲い掛かった。
「はぁっ……はぁっ……や、やっぱり駄目なのね……うっ!」
突然ツクヨミは胸を右手で押さえた。同時にツクヨミの身体が薄れ始める。
「まだ……まだ……駄目なのよ……まだ、持って!」
意思を強くツクヨミが持つと共に、薄れかけていたその身体が元に戻った。だが、自身という存在が更に薄くなったことをツクヨミは感じていた。
「……もう時間は本当に無いのね」
今の現象が起きるのは、初めてではなかった。
いや、正確に言えばずっと前、それこそ今目の前に存在している封印の塚の中に眠っている大切な息子。ニニギを宿した時から、ツクヨミの異変は始まっていた。
奇跡の領域でツクヨミは、精霊でありながらもカグツチとの子を妊娠した。その妊娠のせいで、カグツチの妻であり、妹であるアマテラスが大激怒して、天変地異を引き起こすほどに荒れ狂ってしまったが、当事者の片割れであるツクヨミは開き直っていた。
実際、宿ってしまった命を失う事などツクヨミは考えたくもなかった。最終的には、アマテラスも認め、ツクヨミはニニギを出産した。
だが、その出産を終えてからツクヨミの力は失われ続けていた。子を宿し、母となる女性は子の成長の為に一時が衰えてしまう。
カグツチを宿していたイザヨイも、この流れには逆らえずに不覚を取って命を失った。
本来ならば子を産み終えた母親は、力が戻る筈。しかし、ツクヨミは戻らないどころか、徐々に力を失い、今では存在が消え去る寸前にまで追い込まれてしまっていた。
その事をツクヨミは誰にも話さずに、隠し通し続けていた。妹であるアマテラスにも、ニニギの父親であるカグツチにも、姪である佐久夜にも、そして……息子であるニニギも隠し通して来た。
(きっと、これはニニギを宿した代償なのだから)
更に言えば、ニニギを産んでから十数年の時間があった。
立派……とは言い切れないが、それでもニニギは逞しく育ってくれた。ヒミコ軍との戦いに力が衰えた自分では戦場で役に立たないと考え、ツクヨミは後方で指揮を執っていた。
その戦いの中で、ニニギが迂闊にも自分からヒミコ軍の罠に嵌まりに行って、封印されたと知った時は頭を抱えた。しかも、その封印はアマテラスでも解けず、放置せざる終えない状況。無論、ツクヨミは納得できず、残された時間が少ない事からの焦りもあって、こうして封印を解こうとしていた。
だが、弱り切ったツクヨミでは、どうやっても封印は解けない。しかし……希望はあった。
「……こうなったら、やっぱり何としてもあの坊やとあの宝珠を手に入れるしかないわね」
今、里に居る『世界の理を紡いだ一族』の末裔。
ツクヨミとしても、正直眉唾の話ではないのかと疑いを抱いているが……少なくとも宝珠に凄まじい力が宿っている事は事実。
その鍵が、桃花から『リンド』の名を与えられた少年である事も、ツクヨミは知ってる。
「問題は……どう、アマテラスとカグツチを出し抜くかよね」
世界の理を利用出来る宝珠の力は、間違いなく堕落を引き起こす。
その危険性を理解しているアマテラスとカグツチは、宝珠を使うつもりはない。ツクヨミも、その意見には賛成したいところだが……。
「ごめんなさい、アマテラス……私は息子を助けるわ」
残り時間の少なさが焦りを呼び、ツクヨミは決断した。例え、アマテラスとカグツチと敵対したとしても息子を助けると。
ゆっくりと立ち上がり、宙に浮かんで里のある方向に向かって飛び立った。
……自身を見つめる二つの影がいた事に気が付かずに。
原作でヒミコがヨモツオオカミに協力していたとすると、四聖獣達がネノクニの人々に崇められるのは違和感を感じたので、本作ではネノクニから渡って来てから一時ヒミコと離れて行動していた事にしました。
『麒麟』がリンドとツクヨミに狙われる事になりました。
果たして彼女がヒミコへの忠誠心を保てるのかどうかは、その時をお待ちください。
アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。
-
琴乃が堕ちた段階で孕ませる
-
四聖の社全て攻略後に孕ませる
-
サヨ関連終了後に孕ませる
-
イザナミも加え、四人そろって孕ませる