※この作品はR-18です。

IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜   作:イズモ

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遅れていながらエロでなくてすみません。
今回は遂に渚とバトル開始です。

お気に入り、アンケート、ありがとうございました!


渚編 4

「あっ! リンド! それに琴乃さん!」

 

 二階にある全ての部屋の探索を終えた佐久夜、美由紀、青龍が階下に降りて来てみると、丁度リンドと巫女服姿の琴乃が屋敷の中で唯一両扉となっている部屋を調べようとしているところだった。

 

「佐久夜お姉ちゃん、美由紀さん、青龍様」

 

「皆さん、もう二階の探索は終わったんですね」

 

「うん。一応全部屋調べたよ……その度に……」

 

「この屋敷に入る直前に見たような光景を、私達は見ました。其方はどうでしたか?」

 

「いえ、青龍様。僕らの方は何も見えませんでした。琴乃お姉さん。そうだよね?」

 

「え、ええ……リンド君の言う通り、私達の方ではありませんでした。それで今丁度この部屋を調べようとしていたところなんです。後、他にも扉が開かない部屋が一部屋あったんですけど、リンド君が言うには綺麗な霊力で封印されているから青龍さんに確認して貰ってからの方が良いと言われたんです」

 

「綺麗な霊力? ……もしかしてそれって?」

 

「恐らくは白虎が使っている部屋でしょう。後で私がその部屋は確認します」

 

 佐久夜の疑問に答えるように青龍が説明をした。

 その説明に佐久夜、美由紀は納得したように頷き、琴乃は胸中で安堵する。

 

(良かった。皆、私とリンド君の事に気付いていない……ごめんなさい、佐久夜さん、美由紀さん、青龍さん。本当は探索は全部リンド君がしてくれたの。でも、おかげで私も役に立てそうだから)

 

 『契りの儀式』を結んだおかげか、今の琴乃は自分の力が溢れているように感じていた。

 

(これなら足手纏いにならない! ……リンド君。ありがとう)

 

 気力も充実し、清々しささえ琴乃は覚えていた。

 実際には溜まりかけていた欲求不満を解消できたのもあるのだが。

 

(むぅっ!! また、リンドと琴乃さんの距離が近くなった気がする)

 

 対して女の勘で佐久夜は、リンドと琴乃の距離が近づいた事を察知して僅かに不機嫌になる。詳しく話を聞きたいところだが……。

 

(早く渚さんって人を助けないと)

 

 二階で思念と言う形で渚に起きた出来事を見せられた状況では、佐久夜も嫉妬に駆られた行動をとることはなかった。

 

「それで佐久夜お姉ちゃん達は、どんな光景を見たの?」

 

「うん。渚先輩が実は養子だったことを思い出していく姿……お兄ちゃんとアマテラスさんが何度も探索を止めようって言っていたんだけど……」

 

「渚さんって人は止まらなくて」

 

「自身の家だと思っていた場所が、実は他の誰かの場所だった事を渚は突き付けられてしまい、最後には自分の部屋だった場所も違うと見せつけられ、闇雲に何処かに走り去る光景が二階で私達が見た最後の光景でした」

 

「そんな……酷い」

 

 渚に起きた悲劇を知り、琴乃は顔を暗くして俯いた。

 横で聞いていたリンドも顔を顰める。だが、それは琴乃同様に渚に襲い掛かった出来事に対してだけではなく……。

 

(これは不味いかも知れない。もし僕の考えが当たっていた場合、美由紀さんの時のように精神世界に入って『迷い人』の分体を退治するだけじゃ済まないかも知れない)

 

 最悪の可能性をリンドは予想していた。

 

(ずっと気になっていたんだ。本体は確かにツクヨミ様が因果を強める術を使って、美由紀さんに憑りついていた分体ごと倒した筈なのに、他の三人に憑りついていた分体が消滅せずに済んだなんて……もし最悪の可能性が当たっていた場合……)

 

(……どうやらリンド様も気付かれたようですね)

 

 深刻な様子で考え込むリンドの横顔を見ていた青龍もまた、リンド同様に最悪の可能性を予想していた。

 青龍は『迷い人』と言う悪霊に関しては詳しく知らない。それどころか、白虎同様に話に出るまで別次元から侵略して来る悪霊が存在しているなど、長く存在している青龍でも想像したこともなかった。

 だが、『迷い人』が持っている特性の一つである『憑依』の能力を持つ悪霊とは長き時の中で数えられないほどに相対して葬って来た。その経験から、青龍も現在の渚の状態に関して大よその推測を立てていた。

 

(出来れば、外れてくれていれば良いのですが)

 

 美由紀の時同様の状態の『憑依』ならば、精神世界に入る事さえ出来れば今の青龍でも倒せる。

 問題は美由紀以上に魂に干渉されてしまっていた場合。

 

(そうなると、かなり此方も危険を覚悟しなければなりません)

 

 青龍は考え込みながら、自然な動きで下腹部に手を置く。

 悪霊にその魂を囚われた渚を救えるのは、精神世界に入れる青龍と、精霊としての力が高まっているリンドだけ。人間である佐久夜、美由紀、そして琴乃が入るのは、青龍の予想が当たっていた場合、かなり危険を伴う。

 無論、それは青龍とリンドでも変わらない。

 

「……一先ず先に進みましょう。白虎の結界が張られている結界の部屋は後回しとして、今はこの部屋です」

 

「じゃあ、開けます」

 

 リンドの宣言に佐久夜達は頷き返す。

 両扉のドアノブに手を掛け、リンドが扉を開けた瞬間、再び全員の脳裏に渚の思念の光景が広がった。

 

『はぁ、はぁ……違う、違う、そんな事ないっ! ……ここはあたしの家、あたしはこの家の子供、お父さんもお母さんも……あたしのお父さんとお母さんなんだもの!』

 

『……チガウ』

 

『っ!?」

 

 息を切らせて両扉の前で息を整えていた渚の耳に、悍ましい声が扉の向こう側から聞こえて来た。

 

『オマエハチガウ……ソウ、オマエハチガウノダ』

 

『この声!? 其処にいるのね!』

 

 何かを悟った渚は腰に差しているレイピアを引き抜き、扉に向かって構える。

 

『出て来なさいよ! どうせ全部アンタが作った嘘なんでしょう!?』

 

『ハハハッ! マヤカシダトオモッテイルノカ? コッケイダ……器トシテハ、スグレテイテモ……ドウヤラ、ソノナカミハ……オロカナヨウダ!』

 

『この!』

 

 怒りに駆られた渚は、扉を開けようとする。

 だが、開ける直前に渚と扉の間に音もなく、両手を広げて宙に浮かんでいる少年の霊が必死に首を横に振るいながら現れた。

 

『っ! 出たわね! 悪霊! 其処を退きなさいよ!』

 

 鋭いレイピアの切っ先を、渚は少年の霊に向かって構える。

 武器を向けられているにも関わらず、少年の霊は何かを伝えようと必死に首を横に振り続けて渚を扉の向こう側に行かせないと言う意志を伝える。

 少年の行動は明らかに渚を護るために行動。だが、無理やり思い出させられた過去と現実を突きつけられたことで追い込まれていた渚にとって火に油を注ぐような行動だった。

 

『やっぱりアンタ! 悪霊の仲間なのね! 此処はあたしの家! 此処は! 此処はあたしが守るんだから! アイツからもアンタからも守って見せる! 退け!』

 

 必死に押し止めようとしていた少年の霊を渚は押しのけ、両扉の先に在る部屋に踏み込んだ。

 

『っ!?』

 

 飛び込んだ部屋の中に広がっていたのは、先も見通す事が出来ない漆黒の闇。その闇の中に潜んでいる悪霊が叫ぶ。

 

『イマダ!』

 

『きゃあっ!!!』

 

 部屋の中に突風が吹き荒れ、まるで竜巻のように変化し渚の身動きを封じ込める。

 その突風に紛れて闇が渚の中に入り込んで行く。

 

『い、いや! は、入って来ないで! あたしは! あたしは倉島……じゃない……あたしは誰?』

 

 闇が渚の奥深いところに入り込むごとに、渚の目は虚ろになっていく。

 

『……あたしの家。あたしの部屋。あたしの椅子。あたしのおもちゃ。あたしのお父さん、お母さん……あたしのものじゃなかったんだ。全部、あの子の物だったんだ……あたしが……倉島渚だと信じていたものは……それじゃあ、全部……嘘……』

 

『ヤッタゾ!! ツイニ四人目モ我ノ先兵ニ!! サア! イクノダ! ククッ、ハハハハハハハハッ!!』

 

 悍ましい哄笑が響くと共に、全身から膨大な霊力を発し出した渚の足が前に動き出し、闇の中にその姿は消えて行く。

 

『なぎさあぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

『渚さん!?』

 

 消え去る直前に扉が開き、必死に手を伸ばすヒカルとアマテラスが脳裏に映ったところで光景は終わった。

 

「………渚先輩」

 

 渚に起きた悲劇を見た美由紀は、両目から涙を流して俯いていた。

 佐久夜と琴乃も、悪辣な敵の罠に顔を俯かせている。リンドと青龍は、三人の様子を気遣いながら部屋の中に入って中庭の結界を破る鍵を探す。

 

「っ!? 青龍様! これを!?」

 

 床に落ちていたおもちゃを見つけたリンドは、青龍に呼びかけた。

 呼ばれた青龍はすぐに顔を向け、リンドが示しているおもちゃに目を向ける。一見すればただの子供のおもちゃにしか見えないが。

 

「間違いありません。これが結界を破る為の鍵です」

 

 四聖獣である青龍と卓越した術師であるリンドには、おもちゃから発せられている呪力が見えていた。

 慎重に青龍はおもちゃを拾い上げる。そのまま霊力を込めて、おもちゃに宿っている呪力を相殺する。

 

 バリィィィィン!!

 

 硬質なガラスが割れるような音が、何処からともなく響き、青龍達の耳に届いた。

 

「これで結界は破壊出来ました。後は中庭にいる渚を救うだけです」

 

 中庭に進むために阻んでいた結界の消失。

 それは、これから激闘が始まる事を意味している。

 青龍が佐久夜達に目を向けると、佐久夜は袖から鉄扇を抜いて両手に持つ。琴乃も巫女服の内側から精霊の神具である横笛を手に持って、何時でも吹けるようにする。

 最後の美由紀も、涙を拭うと愛用のグローブを確りと手に嵌めた。

 

「では、参りましょう」

 

 その場にいる全員が頷き、中庭に続く扉に向かう為に廊下を歩いて行く。

 

「……最後に確認しますが、貴方は精霊としての呪法を使えますか?」

 

「使えます。ただもしかしたら相手に知られている可能性があります」

 

 リンドの精霊としての呪法である『樹界降誕』は、一度美由紀に宿っていた『迷い人』の分体に使用してしまっている。

 他の分体と情報の疎通が出来ていたかは分からないが、知られている可能性を考慮しない訳にはいかない。聞き終えた青龍は頷く。

 

「では、知られていると思って行動すべきですね」

 

「はい。じゃあ……マルチプルっ!」

 

 リンドは自らに『速玉』の最大の呪法であり、一度だけ全員に他の呪法の効果を及ぼすことが出来る『マルチプル』を使用した。

 そして新たに『夢玉』の勾玉を腕輪に嵌める。その意味を理解している青龍は、最後に頷き返した。

 覚悟を込めて重々しく頷くと、リンドは中庭に続く扉に手を掛けて、勢いよく開ける。

 瞬時に美由紀が飛び出し、リンド、青龍、佐久夜、琴乃が後に続いて中庭に足を踏み入れた。

 

「渚先輩!?」

 

 中庭に踏み込んだ美由紀は、先ずいる筈の渚に向かって呼びかけた。

 その呼びかけに応じるようにバッシャっと水の跳ねる音が鳴った。

 

『……美由紀ちゃん?』

 

「渚先輩! 良かった……って!? えええええええっ!?」

 

 聞こえて来た、懐かしさを覚えてしまう程に久しぶりに聞く渚の声に、美由紀は目を向け、思わず叫んだ。

 琴乃も驚いたように、渚を見つめる。何故ならば彼女達の目の前にいる渚は、中庭にあった噴水の下にある水場からびしょびしょに濡れた制服を纏い、綺麗な金髪も水で濡れ切っていた。

 制服が身体に張り付いて、渚のスタイルの良さが服の上からでも分かるが、どう見ても今の渚の姿は溺死寸前で水から抜け出したとしか思えない姿だった。

 

「な、渚先輩!? ど、どうして噴水の水場になんて入って!?」

 

『……必要だから』

 

「ひ、必要?」

 

『そう……必要なの……あたしが『我』になる為に』

 

『っ!?』

 

 渚の発言に全員の警戒心が強まる。その間に噴水の水場から、渚は抜け出した。

 

『そうよ……『倉島渚』なんて全部嘘だった。だから『我』になっても構わないの』

 

「そんなの違うよ! 私知ってる! 渚さんが家族想いだって事を!」

 

『それも全部嘘よ! だって! お父さんが言っていたもの! 『娘だと思えない』って!』

 

「っ!?」

 

「美由紀さん! 今のあの人に何を言っても届かない! 『迷い人』に魂を侵食されているんだ!」

 

 怯んだ美由紀を援護するようにリンドが渚の状態を叫んだ。

 続いて佐久夜も美由紀に説明する。

 

「水の中に入っていたのは『禊』! 本当だったら『不浄を取り除く行為である祓の水浴』だけど、憑りついている『迷い人』が渚さんって人の精神を追い込んで、自分こそが不浄だと思い込ませているの! でも、今ならまだ間に合う!」

 

「渚本人の心は抵抗の意思を示しています。そうでなければ、既に社の霊脈を用いて悪霊と化している筈です」

 

『余計な事をっ!?』

 

 怒りと憎悪に満ちた声を上げながら、渚は腰に差していたレイピアを鞘から引き抜く。

 

『ふん。確かに其処の三人の言う通り、『我』はまだあたしを掌握し切れていないわ。でも、あたしの意思が表に出る事はないわよ。だって、もうボロボロなんだからね! トロア!!』

 

 余裕に満ちた声と仕草で渚、いや、悪霊『迷い人』の分体がレイピアを構えた瞬間、三身に分身した。

 

「な、渚先輩が三人に増えた!?」

 

「も、もしかして『影の術』をあの人は使えたの!?」

 

 増えた三人の渚に、佐久夜は鉄扇を構えながら警戒の眼差しを向ける。

 

『ふふっ、其処のアマテラスに良く似た娘。あたしがそんな小難しい術を使える筈がないでしょう……『我』も驚きなんだけどね。出来ると思ったから出来たらしいのよ』

 

「嘘ッ!?」

 

 余りの事実に佐久夜は悲鳴のような声を上げた。

 自らの分身を造り上げて操作する『影の術』は、高等術に分類される。そうだと言うのに、渚は本来一つしか生み出せない影を二つ同時に生み出し、操作する術を思いつきで編み出した。

 開いた口が塞がらないと言うように、佐久夜と話を聞いていたリンドも驚きの余り呆然と、それぞれ腕を組んで頷いている三人の渚を見つめる。

 

(渚は良い意味でも悪い意味でも本当に天才でしたね)

 

 昔の事を思い出したのか、青龍も思わず額に指を当ててしまう。

 何せ渚は本当に何の予備知識もなしで、分身(・・)して操作して見せたのだから。優れた術師であるアマテラスや四聖獣である青龍の目から見ても天才としか渚を評する事しか出来なかった。

 仲間であったのならば頼もしい存在だが、今の渚は敵。油断なく青龍は力を高める。

 

『さあっ! 行くわよ!!』

 

「させません!! 吹き荒れよ、『大嵐』っ!」

 

『っ!?』

 

 青龍が腕を振るうと同時に三人の渚と青龍達の間に、荒れ狂う風が圧倒的な暴風を巻き起こし竜巻を形成した。

 その意味を察したリンドは、瞬時に精霊の力を高める。

 

「呪法っ!!……っ!?」

 

 自らの呪法を発動させようとした瞬間、リンドの全身に悪寒が走った。

 感じた悪寒に従い、リンドは別の呪法を瞬時に発動させる。

 

「間に合え! イリュージョンっ!!」

 

『フレッシュゥゥッ!!』

 

 夢玉の最大呪法である『イリュージョン』を、全員にリンドが施した瞬間、三つの金色の閃光が竜巻を突き破り、そのまま前列にいた美由紀、青龍、リンドを突き抜けた。

 幸いにもイリュージョンの効果で夢と化していたリンドたち三人に、渚の刃が突き刺さる事はなかった。だが、余りの速さにこの場で最も接近戦が得意な美由紀も反応し切れなかった。

 

「は、速い!?」

 

「くっ! 此処までとは!?」

 

(白虎が影越しとは言え、何も認識できずにいたのは知っていましたが、この渚の速さは正に閃光!? リンド様が夢玉の呪法に切り替えていなければやられていた!)

 

 自身の風の防壁が一切役に立たなかった事実に、青龍は険しい顔を浮かべる。

 このままでは不味いと青龍が思った瞬間、戦いの場には場違いとしか思えない静謐な音楽が鳴り響く。

 

『ぐっ!? 何この音は!?』

 

 音楽が鳴ると共に三人の渚は頭を押さえてよろめいた。

 耳を傾けないようにしても、鳴り響く音楽は渚から離れずに届き続け、苦痛は感じないが僅かに動きが鈍くなる。

 その隙を逃さないと言うように、横笛を鳴らして音楽を奏でている琴乃を護るように立っていた佐久夜が、手に持つ鉄扇を渚に向かって投げつける。

 

「飛鳥の舞っ!」

 

『こんなのっ!』

 

 飛んで来る鉄扇を一人の渚が手に持つレイピアで打ち払おうとする。

 投げられる程度の重量しかないと思っての判断。だが、佐久夜が軽々と投げたのに反して、鉄扇の重さは渚の予想よりも遥かに重い物だった。

 

『重っ!?』

 

 鉄扇とレイピアがぶつかり合い、甲高い金属音を鳴り響かせながら、渚は予想外の鉄扇の重さに体勢を崩してしまう。

 

「美由紀さん!」

 

『っ!?』

 

 佐久夜の呼びかけに鉄扇を何とかレイピアで振り払った渚は、慌ててその場から離れようとする。

 だが、渚が動く前に背中に美由紀の手が押し当てられた。

 

「渚先輩! 手加減はしないから、ハッ!」

 

 ドンっと重低音が響き渡り、美由紀が手を当てていた渚が吹き飛んだ。

 『発剄』と呼ばれる気の塊を相手に打ち込む技。打ち込まれた渚は宙に舞い、音もなくその姿を消失させた。

 倒したのは影だったと瞬時に悟った美由紀は、すぐさま後ろを振り返り、別の渚が突き出して来たレイピアを躱す。

 

『ちっ! やるわね、美由紀ちゃん。流石は『我』が最初に見込んだ器ね』

 

「渚先輩の声で、馴れ馴れしく呼ばないで!」

 

 自身と同じように渚を利用している『迷い人』に怒りを覚えた美由紀は拳を振り抜き、接戦を開始した。

 その間にもう一人の渚は、今だ鳴り響く音楽に顔を顰めながらも、リンドと青龍にレイピアを構える。

 

『っ……頭に響くわね、この音……でも、今はこっちよね。あの厄介な呪法は使わせないわよ』

 

「……やっぱり僕の事を」

 

『ええ、消滅させられる前に本体を経由して伝わって来たのよ。精霊と人との子供が存在しているなんてね……全く……お前はズタズタに突き刺して殺してやるわ!』

 

 本体を殺された憎しみから、渚に憑りついている『迷い人』の分体はリンドに向かって突き刺すような殺意を放つ。

 しかし、殺意を向けられているリンドは怯むことなく渚の中に宿っている『迷い人』の分体を睨みつける。

 

(こっちだってお前を必ず滅ぼす! 一族の責務! 絶対に遂げなくちゃいけないんだ!)

 

 四聖獣が守る社が『外敵』に侵されたのは、一族の責務を果たし切れなかった己の責任。

 最早隠す必要がなくなった精霊としての力を発現させ、木の枝や蔦を操る。

 

『植物の精霊って訳ね。良いわよ。なら、こっちも本気を出すわ!』

 

((これは!?))

 

 渚の宣言と共に噴水に据えつけられている宝玉が輝く。

 同時に霊脈から膨大な霊力が渚に流れ込んで行く。笛を鳴らしている琴乃を護っていた佐久夜が目を見開いた。

 

「そ、そんなに沢山の霊力を吸収したりしたら身体が持つ筈が!?」

 

『ふふっ、いいえ。この器なら耐えられるわ』

 

 宣言が正しいと言うように渚の身体は、流れ込んできた膨大な霊力を全て収めてしまった。

 鼓音するように美由紀と戦っていた渚の動きも目に見えるほどに良くなり、鋭い突きが美由紀の着る衣服を掠り出す。

 

『ほらほら美由紀ちゃん! 確り避けないと串刺しよ!』

 

「は、速い!」

 

 美由紀も何とか応戦しようとするが、拳を構える前に次の渚の突きが襲い掛かり、防戦一方に追い込まれていく。

 

「美由紀さん!? こ、琴乃さんの笛が効いていないの!?」

 

『いいえ、今も煩わしい音楽は頭の中に聞こえているけど、ちょっとうるさい程度にしか感じないわね』

 

 余裕からなのか、佐久夜の疑問に渚はあっさりと答えた。

 琴乃の横笛は強力無比な神具だが、相手との実力差が大きいほどに効果は薄れてしまう。リンドと『契りの儀式』を結んだおかげで先ほどまでは効果が及んでいたが、社の霊力を吸収した渚には僅かに不愉快としか思えない程度にまで効力が下がってしまった。

 更に渚はレイピアを構えて、迸る霊力を使用する。

 

『更に! トロア!』

 

『っ!?』

 

 更に二人の渚が出現して、それぞれレイピアを構え、美由紀を相手にしている以外の渚達は立ち替わりを繰り返して本体を隠す。

 

『これで数は四対五ね。美由紀ちゃんの時のように、精神世界に入って『我』を滅ぼさせないわよ』

 

(こっちの手の内まで読まれてる!?)

 

 憑りついている『迷い人』の分体を葬る為には、影ではなく本体の精神に飛び込まなければならない。

 渚に憑りついている『迷い人』は、そうさせないために影を増やした。本来の渚では影を生み出せるのは、ほんの僅かな時間しか出来ないのだが、その弱点は社の霊力を使う事で補われている。

 無論、身体に負担は掛かるが……。

 

(寧ろこっちは望むところよ。このまま負担が掛かり続ければ、新たな『我』に早くなれるんだから)

 

 『迷い人』の目的は、リンド達の予想通り新たな悪霊として生まれ変わる事。

 渚に憑りついた『迷い人』の分体は、その為にずっと社の霊力を吸収し続けていた。『禊』と言う本来ならば神聖な儀を悪用して、本来の渚の精神を更に追い込み、悪霊となった時の主人格となる為に。

 ただ悪霊になるだけでは、本来の渚が悪霊として存在する事になるだけ。

 本来は消滅する運命にあった『迷い人』の分体が生き残るにはそれしかなかった。

 

(まっ。他の二人(・・)はどうだか知らないけどね。『我』がこうして自己存在の確立に躍起になっているのは、自己を否定されたこの器の本来の持ち主の感情もあるから……他の二人の負の感情は、本体のせいで『我』なんかと比べものに危険なものになってるしね……最もっ!)

 

『アンタ達は此処で『我』に滅ぼされるんだから、他の二人には会えないけどね! フレッシュッ!』

 

 宣言と共に渚達は一斉にリンド達に向かって、閃光としか評せない速さで襲い掛かったのだった。




独自敵設定。

『悪霊(仮)ナギサ』レベル100(社の霊力吸収後120)
詳細:悪霊『迷い人』の分体が生き残るために、憑りついていた渚の魂と交わった存在。美由紀の時以上に根深く魂に食い込んでいるが、『迷い人』本来の人格と渚の人格が交じり合っていて、渚としての部分が割合が強い。現在のナギサの目的は自己存在の確立。これに関しては、渚の負の感情の原因が自己存在への不安だった為。麒麟がナギサと出会っていた場合、ヒミコ軍に協力していた可能性が高い。

後他の二人の内、弓道少女はある個人への憎悪と殺意(元凶『迷い人』とサトリ)。
もう一人の保険医のお姉さんは、理不尽な世界への憎悪と悲しみ(切っ掛け『迷い人』とサトリ)
と言う訳で、実は渚が一番楽な相手です。

次回の勝利の鍵は『琴乃』。

アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。

  • 琴乃が堕ちた段階で孕ませる
  • 四聖の社全て攻略後に孕ませる
  • サヨ関連終了後に孕ませる
  • イザナミも加え、四人そろって孕ませる
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