※この作品はR-18です。

IZUMO2〜鬼畜ショタ性記〜   作:イズモ

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幕間

(昨晩のは一体?)

 

 昼が近づく中、アマテラスは自身の執務室ではなく屋敷内の鍛錬場に訪れ、正座をしながら目の前においてある小箱を見つめながら精神を集中させていた。

 鍛錬場にはアマテラスしかない。本来ならば仕える巫女達が、各々の武器の扱いを熟練させる為に稽古を行なう場なのだが、今日はアマテラス自身が指示した事によって彼女以外誰もいない。

 娘である佐久夜にも言い付け、アマテラスは一人で昨晩光を発した小箱に入っている『八尺瓊』を見つめる。

 『八尺瓊』が光りを発する時は、何かが起きた時。もしやリンドに何かあったのではと、夜中にも関わらず、アマテラスは屋敷の離れの部屋で過ごしているリンドの様子を見に行ったが、とうのリンドは部(・)屋(・)の(・)中(・)で(・)敷(・)か(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)布(・)団(・)の(・)中(・)で(・)眠(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 では、何故『八尺瓊』が反応したのかとアマテラスはずっと考え込んでいた。

 

(私はイザナミ様より神の座を受け継ぎましたが、まだまだ未熟な神でしかありません)

 

 その事はアマテラス自身が誰よりも理解している。

 イザナミのようにネノクニの存続を『夢を紡ぐ力』を用いて行なう事は可能だが、神となった自身が及ぼす影響に関してはアマテラス自身分かり切れていなかった面が強い。

 例えば、嘗て正妻の自身を置いて姉であるツクヨミが夫であるカグツチとの間に、先にニニギと言う子を為してしまった時。怒りと嫉妬に駆られて、天の岩戸に三日三晩籠もった間にネノクニで起きていた天変地異など。

 

(佐久夜が宿った後、冷静になってみればなんて事をしてしまったのかと恥ずかしくて仕方ありません)

 

 冷静さを取り戻した後は、恥ずかしく、今もアマテラスの顔は僅かに赤らんでいる。

 因みに実を言えば、その事件が発生する前は、リンドの一族の当主である母親は新たなネノクニの神となったアマテラスとカグツチに挨拶に行こうかと考えていたが、事件が発生した事で神となった自覚がアマテラスとカグツチの中で強まるまで会うのを止めたという事があったりする。

 

(……思えば、姉さんがあの人との関係を明確にしないのもあの件があったからかも知れない)

 

 ツクヨミがニニギを妊娠してしまった経緯は、アマテラス自身も理解している。自身の想いを汲んでくれたカグツチとツクヨミが結ばれた事によって、ニニギが宿ったのだ。

 本来ならばアマテラスは強く言えない一面も、カグツチとツクヨミの間にはある。

 ニニギ本人も多分に問題点があるが、里の為にずっと貢献しようしてくれていたのは事実。何せニニギは佐久夜と違い、物心ついた頃から戦場に出ているのだから。

 

「……やはり、『真の契りの儀式』の存在も分かったのですから……そろそろ姉さんをあの人の側室に迎え入れるべきなのかも知れない」

 

 ネノクニには複数の妻を男性が娶る『一夫多妻』が受け入れられている世界でもある。

 アシハラノクニでは不貞だと言われているが、ネノクニでは人の命が本来は軽く失われ、また人口も圧倒的に少ない。

 アマテラスの里も実を言えば全体の人数で千人いるかいないかぐらいなのだ。無論傘下にある他の隠し里も加われば、もっと増えるが、それでも国と呼べるほどの人口はいなかった。

 そのぐらいネノクニでは人の数が少ないのだ。

 故に本来は自由恋愛など許されない世界こそがネノクニ。カグツチも正妻のアマテラス以外に側室を迎えてもおかしくはないのだが、アシハラノクニの価値観が残っているが故にアマテラス以外の妻をカグツチは迎えず、ツクヨミとの関係はこれまで曖昧なまま。

 下手に話題を出して、またアマテラスが暴走して天変地異を起こさないかと恐怖もあるのだ。

 

「……ふぅ~、私から話題に出すしかありませんね」

 

(フフッ、ええ、そうですよ、アマテラス様。ツクヨミ様をカグツチ様の側室に迎えるんです)

 

 アマテラスしかいない筈の鍛錬場。

 しかし、鍛錬場にはアマテラス以外にもう一人。姿を術で消したリンドが潜んでいた。

 既に大きくリンドの『夢を紡ぐ力』の影響下に置かれてしまっているアマテラスは、それを認識できない。リンドがその気になれば、今背後から胸をわし掴みにしてもアマテラスは気が付けない。

 だが、今のリンドにはその気はない。『ツクヨミがカグツチの側室として受け入れられる』ようにしなければならないからだ。

 

(アマテラス様の事を想って反対派になりそうな葉子は僕の雌犬に堕としたし、他の里の上役達もツクヨミ様が力を取り戻せば何も言えない)

 

 最大の難関はアマテラス。下手にカグツチやツクヨミの側室話を持ち出せば、アマテラスの嫉妬が強まりかねない。

 そうならないようにする為には、アマテラス自身の口から側室話を出すように仕向けなければならないのだ。

 そしてそうなるように仕込みを続け、遂にアマテラスの口からハッキリと側室話が出た。

 

(ふぅ~、これで僕の方もツクヨミ様の頼みは果たした。ツクヨミ様がやり遂げてくれたのに、僕の方で失敗していたら大変な事になっていたよ)

 

 間に合って良かったと心の底からリンドが思っていると、ドタドタと誰かが慌ててやって来る音が聞こえて来る。

 

(来た!)

 

「アマテラス様!? 大変です!?」

 

「どうしました、桂香?」

 

 鍛錬場の入口の戸を勢い良く開いて声を掛けて来た自身に仕える巫女の一人である桂香が腰に剣を差しながらに、アマテラスは質問した。

 無礼だとは思わない。精神集中する事は事前に伝えていたのに、こうして部屋に、しかも武装した状態で入って来た時点で何か起きて、しかもそれは自分も対処に出なければならないほどの事柄が起きたと察したからだ。

 その考えが正しいと言うように桂香はアマテラスに報告する。

 

「はい! 屋敷の中庭に、異常が発生しました。既に葉子様を始めとした数名の巫女が警戒に辺り、私はアマテラス様に報告するように葉子様から仰せつかって参りました!」

 

「っ!? 屋敷の中庭に!?」

 

 予想以上の異常事態に、アマテラスは急いで小箱を懐に仕舞い直し、すぐ横に置いていた愛槍の柄を握って立ち上がった。

 

「分かりました……佐久夜とリンドは何処にいますか?」

 

「さ、佐久夜様は中庭に……彼の方は葉子様の執務室に居るはずです」

 

 桂香の報告にアマテラスは頷いて鍛錬場から出る。

 敵襲なのかは分からないが、屋敷の中庭に異常が発生するなどただ事ではない。少なくともリンドの安全を確保できたと思ったアマテラスは、娘も一緒にいるという中庭に向かう為に愛槍を持ちながら通路を急ぎ足を歩く。

 その後に桂香も続こうと、足を踏み出そうとした瞬間、鍛錬場の中から無数の蔦が伸びて来て桂香の四肢に背後から巻き付き、更には口にも巻き付いて声も封じる。

 

「っ!? むぐぅっ!? んぐうぅんんっ!?」

 

 突然の事態に桂香は驚き呻き声をあげながら、先に行くアマテラスに手を伸ばす。

 だが、アマテラスは背後で自らに仕える巫女に襲いかかろうとしている出来事に気付く事無く、通路を先へと進んで行った。

 無数の蔦に拘束された桂香は、抵抗も空しく蔦に引っ張られ、鍛錬場に引きずり込まれる。桂香が中に引きずり込まれると同時に戸は勝手に閉まる。

 そしてほんの少しした後に……

 

『んぎ、ィぃぃい、ぁぁぁあっ♥ あひぎぃぃぃぃぃっ♥』

 

 鍛錬場の中で新たな雌犬巫女の誕生の産声とパンパンパンッと何かがぶつかり合う音と、どびゅるどびゅるっと何かが注ぎ込まれる音が何度も響いたが、その声と音が鍛錬場の外に出る事は無かった。

 

 

 桂香からの報告を聞いたアマテラスが、急ぎ中庭にやって来てみると、其処には空間の歪みが発生していた。

 その歪みを一番前で警戒している巫女頭にアマテラスは駆け寄る。

 

「葉子!」

 

「アマテラス様!? 此方がそうです!」

 

 葉子はアマテラスに振り向く事無く、警戒対象を告げる。連絡を任せた桂香が居ない事に気付きながらも。

 教えられたアマテラスは、即座に葉子の隣に並びながら槍を構えて空間の歪みを見つめる。

 

「一体これは?」

 

「分かりません。巫女の一人が発見し、私に報告してからアマテラス様が来られるまでの間、時間は経過していますが、一向に変化は訪れていません」

 

「誰かが出て来る様子もないと言う事ですか」

 

(では、この空間の歪みの正体は一体?)

 

 目の前の空間の歪みは、桃花のような空間作用の力の一種だと言う事は分かる。しかも、アマテラスが里に張り巡らせている結界に感知される事なく、この場に現れた。

 並大抵の力を持つ者が行なった事ではない。

 

「お母さん……」

 

「大丈夫よ、佐久夜」

 

 配下の巫女達と共にいた最愛の娘を安心させるようにアマテラスは微笑んだ。

 とにかく目の前にある空間の歪みへの対処を、配下の巫女達に伝えようとした瞬間、歪みの中心から波紋が広がった。

 

「っ!?」

 

 何者かが出て来る前兆だと察したアマテラスは槍を構え、佐久夜を始めとした巫女達もそれぞれの武器を歪みに向かって構える。

 そして波紋の中から出て来たのは、一人の女性だった。ところどころ戦闘でも行なったのか、破れたり斬られた後がある白い白衣と黒の袴を着たその女性は、ゆっくりと波紋から出た。だが、出た瞬間、その姿は急速に薄れて肉体は光へと変わっていく。

 だが、消滅の危機に瀕していても女性の顔にはやり遂げたような達成感が浮かび、アマテラスに向かって微笑む。

 

『イザナミの後を継いだ者、末裔をお願い』

 

 言い終えると共に女性の肉体は光の粒子に変わり、天へと昇っていた。

 一体何がとアマテラス達が顔を見合わせていると、再び空間の歪みの中心に波紋が広がり、身に纏う鎧に傷を付けながらも確かな足取りで一人の男性が出て来た。

 

「戻って来れたのか?」

 

「貴方!?」

 

「お父さん!?」

 

「アマテラス!? 佐久夜!? 良かった!? ちゃんと『サギリ』さんの言う通り里に繋がっていたんだな!?」

 

 歪みの中から出て来たのは、青龍とツクヨミと共にリンドの一族の遺産の探索に出ていたカグツチだった。

 再会を喜ぶ三人に続くように、今度は青龍が歪みの中から出て来た。

 

「青龍!? 貴女も無事だったのですね!?」

 

「ええ、アマテラス。ご心配をおかけしました」

 

 出て来た青龍は柔らかく微笑むと、空を見上げる。

 

「ご苦労様でした、『サギリ』……必ずリンド様とこれから産まれる私達の子は護ってみせます」

 

「むぅっ!?」

 

 まるで自分に見せつけるように下腹部を撫でている青龍に、佐久夜は険しい顔を浮かべた。

 

(私だってリンドに沢山中に出して貰えているんだから、きっともうデキてるんだから!?)

 

 己の妊娠を疑っていない佐久夜はそう思いながら、青龍を見つめてある事実に気が付く。

 

(あれ? お父さんと違って、青龍様は綺麗な服のまま? 誰かと戦っていたんじゃないの?)

 

 汚れや破れた様子がない青龍のチャイナドレスに、佐久夜は疑問を覚えた。

 カグツチ、青龍と旅に出た二人が戻って来たことに、アマテラスは安堵し、しかし、すぐにもう1人がいないことに気が付く。

 

「貴方? 姉さんは? 姉さんは何処に?」

 

「ああ、ツクヨミなら……」

 

「私なら此処よ、アマテラス」

 

 空間の歪みの向こう側から声が響くと共に、カグツチ同様に戦闘の後がある服を着たツクヨミが出て来た。

 

「姉さん!?」

 

 最愛の姉の無事な姿にアマテラスは喜び、そしてすぐに気が付いた。

 あの見る影もないほどに力を失っていた筈のツクヨミから迸る圧倒的なまでの力の本流を。それはずっと失われていたツクヨミ本来の力。

 ニニギを宿してからずっと失われ続けたその力は、今完全に。いや、寧ろ以前のツクヨミを超える力をアマテラスは感じた。

 妹であるアマテラスにツクヨミは優しく微笑むと、背後にある空間の歪みに手を向ける。

 

「今は閉じなさい」

 

 ツクヨミの言葉に従うように空間の歪みは、音もなく消え去った。

 驚くアマテラスと違って青龍とカグツチはそうなる事が分かっていたと言うように頷く。

 

「ツクヨミ。また開けられるか?」

 

「ええ、当然でしょう。ちゃんとあの空間は『サギリ』から私が受け継いだわ」

 

 カグツチの疑問に答えるようにツクヨミは指を鳴らした。すると、再び消え去った筈の空間の歪みが発生し、手を振るえば消え、自由自在に発生させる事が出来ることを示した。

 

「貴方、姉さん、それに青龍? あの歪みは一体?」

 

「事情は話す。ただ、あの空間の先にあるんだ。俺達が探していた物が」

 

「っ!? 分かりました」

 

 カグツチの説明にアマテラスは頷く。

 そのまま葉子に目配せを行なうと、心得たと言うように頷き、巫女達にそれぞれ指示を出す。

 

「では、取り敢えず会談の場へ……でも、その前に貴方は」

 

「ああ、流石に着替えないとな」

 

 アマテラスの言いたい事が分かったカグツチは自分が着ているボロボロになった鎧と衣服を見回して頷き、屋敷の中へと入って行くのだった。

 

 

「それで、貴方、姉さん、青龍。一体何があったのですか?」

 

 カグツチが着替えを終えた後、会談として使う部屋にアマテラス、カグツチ、ツクヨミ、青龍が集まっていた。

 佐久夜も参加したそうな顔をしていたが、先ずは四人で話し合うという事になり、この場には居ない。

 

「ああ、先ず説明するとさっきアマテラス達が見た空間の歪みの先に……リンドの一族の遺産がある」

 

「っ!? では、手に入れる事が出来たのですね!?」

 

「ええ、そうよ。後で貴女にも入って貰うけど、あの空間の中にはこの里ぐらいの大きさの空間が広がっているわ」

 

「空間が!?」

 

「そっ。多分貴女も少しは会えたでしょう? 私達の前に空間の外に出た精霊の影に」

 

(彼女が!?)

 

 ツクヨミに言われてアマテラスは気が付く。

 そう、カグツチ達の前にアマテラス達の前に現れた女性こそが、一族の遺産の守護神を務めていた精霊の影だった。

 

「アマテラス。彼女の名は『サギリ』。嘗てイザナミの友人だった精霊の影です」

 

「イザナミ様のご友人!?」

 

「ああ……少しだけど俺が知らない母さんの事を話してくれたよ、サギリさんは……出来れば残って欲しかったが」

 

「リンドの子を孕んでいる青龍はともかく、私とカグツチには遺産を渡すか試さないといけないと言われてね。そのまま戦闘をさせられたのよ」

 

(なるほど……それであのような戦闘の後が)

 

 何故カグツチとツクヨミだけに戦いの後があり、青龍にないのかアマテラスは悟った。

 

「結果は分かっていると思うが、俺達は勝った。その後、里に出入り口を繋げて貰って、ツクヨミに空間の出入り口の権限を渡してくれて、先に外に出たんだ」

 

「……彼女は私達の前で光に変わって天に昇って行きました」

 

「っ……そうか」

 

 カグツチ達が会った『サギリ』は、本物の『サギリ』が遥か昔に自らの力と記憶を与えて作り上げた分身。

 特異な空間内でしか存在できない精霊の影は、ネノクニに表立って出る事は出来ない。そのまま空間の中に残る事も可能と言えば可能だが……。

 

「サギリさんは言っていたよ。遺産を渡した以上、自分の最後の役目は、『先に結界となった一族達と共にあること』だって」

 

「………」

 

 辛そうに口にしたカグツチの言葉に、アマテラスも俯いた。

 今現在、このネノクニとアシハラノクニの間には、アシハラノクニ側の神が通れないように強力な結界が張られている。

 その結界を構成しているものこそが、リンドを除いたかの一族の者達の力と魂。強大な力を得る為に当然ヒミコはかの一族の者達も吸収しようとした。

 だが、そうはさせないと追い込まれながらもリンドを除いたかの一族の者達は自分達の存在を代償に、最大の危機が訪れた時のみに当代の一族の当主が用いる事が出来る禁術を行使して、ネノクニに外敵が侵入できないように結界を張った。だが、この結界は絶対や万能の結界ではない。あくまで最上位の存在である神にしか効果がない。

 何故ならば全ての存在を阻む結界を張ってしまえば、輪廻転生の理にまで悪影響が及び、数年でアシハラノクニとネノクニが崩壊してしまう。

 故に現在の外敵の最大の敵である神の侵入のみを結界は阻む。そしてこの結界が持つのは数十年後まで。

 あくまでリンドが新たな一族を起こす為の時間稼ぎなのだ。

 そして数十年後には、確実にアシハラノクニ側の神は本格的にネノクニに攻めて来る。カグツチ達が行なったヨモツオオカミとの決戦の裏で起きていたかの一族と神々との戦いで負った傷が癒えた神々が。

 彼方ももう時間がないのだ。遠からずアシハラノクニから神秘は失われ、神が眠りにつく時が来る。その兆候として表れているが、本来は不老不死である筈のイザナギが老いを得た事だった。

 

「『布流剣(ふるのつるぎ)』の封印は完全に施しました」

 

「アレは不味いからね。アレで切ったものは何であろうとそのままになるんだから」

 

 『布流剣(ふるのつるぎ)』はありとあらゆるものを切り裂く。

 それは空間さえもだ。その気になれば、ネノクニとアシハラノクニの境界まで切り裂ける。そして『布流剣(ふるのつるぎ)』で切ったものはそのまま。

 つまり、まかり間違ってネノクニとアシハラノクニの間にある結界が切られてしまえば、其処から神々は侵入してしまう。だからこそ、アマテラスは強力な武器である『布流剣(ふるのつるぎ)』を封印したのだ。鍵を幾つも必要とする封印を。

 

「まっ、『布流剣(ふるのつるぎ)』の代わりはリンドの一族の遺産で充分よ。その証拠に」

 

 ツクヨミが虚空に手を伸ばすと共に、一本の鞘に収まった刀が現れた。

 

「姉さん。その武器は!?」

 

 アマテラスは一目で分かった。ツクヨミが今握っている刀が普通の武具ではなく、精霊の力を発している武器である事に。

 

「大地の精霊が鍛えた一刀だそうよ。まだ、得たばかりで扱いきれないけど、間違いなく『精霊の力を秘めた武具』よ」

 

「それが!?」

 

「他にも、俺はこんな剣をサギリさんから渡されたよ」

 

 ツクヨミに続き、今度はカグツチが鞘に入っている剣をアマテラスに差し出した。

 渡されたアマテラスが柄を握って剣を抜いてみると、その剣から懐かしい力を感じる。

 

「これは、まさか!? イザナミ様の霊力!?」

 

「ああ……その、すまない。アマテラス。アマテラスとツクヨミが霊力を込めてくれた剣は、サギリさんとの戦いで折れたんだ。不味いと思ったら、この剣が飛んで来て助けてくれたんだ」

 

「その剣は昔、イザナギが鍛えイザナミが霊力を込めてかの一族に送った剣です。数多くの剣を打ったイザナギでしたが、その剣は何十日も掛けて鍛えた剣だと聞いた事があります」

 

(じっちゃん。そんなこともしてたのか)

 

 祖父だと思い育てられ、実は実の父親同然の存在だった相手の意外な一面にカグツチは驚いた

 

「この他にもとんでもない宝の数々が渡されたわ。『宝貝』なんかもあって、三十個ぐらいはあったかしらね」

 

「『宝貝』が三十個も!?」

 

 『宝貝』は遠い場所どころか世界の隔たりさえも超えて会話を可能にする秘宝。

 アマテラスの里にもあるが、それは一つか二つ。三十個も数はない。これだけでもかの一族の遺産がどれほど凄い代物なのか分かってしまう。

 

「取り敢えず、後で見せるから今は良いでしょう。それよりも今は……」

 

 ツクヨミが意味深な視線をカグツチに送る。

 カグツチも分かっているのか頷き、青龍に声を掛ける。

 

「青龍。悪いが席を外してくれるか?」

 

「……良いんですか、カグツチ? 私も一緒に説明した方が良いのでは?」

 

「いや……これは俺達……家(・)族(・)の話だから」

 

「……分かりました。では、リンド様に帰還の挨拶をして来ます」

 

 言い終えると青龍は立ち上がり、部屋から出て行った。

 アマテラスはカグツチの様子から何か重要な話が出て来ると思い身構える。

 

(いえ、話の内容は恐らく姉さんの力が戻っている事について)

 

 失われていたツクヨミの力の回復。アマテラスもそれを望んでカグツチ達を旅立たせた。そしてこうやってツクヨミが力を取り戻したと言う事はつまり……。

 

「アマテラス……俺はツクヨミと『真の契りの儀式』を結んだ」

 

「っ……やはり、姉さんと貴方は結んでいたのですね……精霊と人が子を為す方法である『真の契りの儀式』を」

 

 アマテラスも覚悟は出来ていた。ニニギと言うカグツチとツクヨミの血を受け継いだ子が産まれている以上、『真の契りの儀式』を結んでいると言う事に他ならない。

 

「ああ……俺達の状態を見てくれたサギリさんからは不完全な形で儀式を終えてるって言われたよ。だったら、結び直せばって思ったんだが……此処で問題が起きたんだ」

 

「問題ですか?」

 

 一体何が起きたのかとアマテラスは首を傾げる。

 

「それはね、アマテラス……カグツチと私の存在の格が逆転してしまった事よ」

 

「っ!?」

 

 ツクヨミが告げた事実にアマテラスは思い至った。

 そう。最初に不完全ながらもカグツチとツクヨミが『真の契りの儀式』を結んだ時は、カグツチは人間であり、ツクヨミは精霊になりかけの存在だった。

 だが、今は立場が逆転し、ツクヨミが精霊、カグツチが神。存在の格が逆転してしまったのだ。

 そうなってしまえばツクヨミの宝珠がカグツチの魂と一つになるだけでは終わらない。

 『真の契りの儀式』は人間と精霊が子を為す方法と同時に、格上の存在と下位の存在が結ばれる儀式でもあるからだ。

 サギリからその事実を聞かされた時、カグツチとツクヨミは慌てた。先ずは正妻であるアマテラスに話をしてから考えるべきかと思い、その為に動こうとしたのだが……

 

「本当だったらアマテラスに話してからって俺もツクヨミも思った……だけど、もうツクヨミは時間は無いって告げられた。急いで『真の契りの儀式』を結び直さなければツクヨミは力を取り戻せないどころか……消滅するって診断されたんだ」

 

「消滅!? 姉さん、本当なんですか!?」

 

「……ええ、今更隠しても仕方が無いから言うけど、私は自分が消滅に向かっているのを感じていたわ」

 

「何故それを言ってくれなかったんですか!?」

 

「それに関してはごめんなさい……だけど、ニニギを育てられる時間はあると思っていたし……何よりも今はともかく、昔は私の力は無かった方が良かったでしょう?」

 

「それは!? ……」

 

 ツクヨミの言葉をアマテラスは否定しようとしたが、否定し切れない面があるのは事実だった。

 今でこそツクヨミは精霊へと至り、軍師としての立場を得ているが、嘗てツクヨミは邪神ヨモツオオカミに仕えてこのネノクニを滅ぼそうとした悪霊でもあった。

 他にもそもそも双子と言うだけで赤子だったツクヨミを捨てたのは、この里の者達なのだ。

 もう数十年経過しているので世代も交代し、ツクヨミは里に受け入れられたが、十数年前。まだニニギも佐久夜も産まれていない当初は、ツクヨミを警戒する者が多かった。

 そんな者達からすれば、ツクヨミの力が失われていたことは助かっていた。

 人の負の側面を知っているが故に、ツクヨミ自身もその事は察していたので自身の消滅に関しては秘密にしていたのだ。

 

「それにあの頃は本気で精霊になった身で、ニニギを孕んだから力を失った思っていたしね。リンドに出会っていなければ、精霊と人が結ばれる方法なんてないと思っていたし」

 

「……確かに姉さんの言う通り……私も姉さんの力が失われていたのは、それが原因だと思っていました」

 

「隠していたのは悪かったと思うわ……で、話は戻すけど」

 

「アマテラス。本当にごめん。話す前に俺はツクヨミと『真の契りの儀式』を結んだ。その結果……俺自身気が付いていなかったが、俺の宝珠がツクヨミの魂と一つになったんだ」

 

「っ!? ……貴方の宝珠が……姉さんの魂と一つに……」

 

 アマテラスの内から強い嫉妬の念が沸き上がる。

 事情は理解できた。カグツチが決断をしなければ、ツクヨミは里に戻る前に消滅していたかも知れない。

 だが、正妻である自身ではなく、姉であるツクヨミが最愛の夫の唯一無二の物を手に入れられてしまった。強い怒りと嫉妬の念がアマテラスの中で渦巻き暴走しかけた瞬間……。

 

『アマテラス様は、僕の修業(性処理)をしてくれるんですよね』

 

(っ!? ……そうです。今の私に姉さんと夫の関係を言う事は……)

 

 暴走しかけていたアマテラスだったが、冷や水を浴びせられたかのようにリンドとの修業(性処理)の日々が浮かんで来た。

 最愛の娘や友人である青龍、そして仕えてくれる巫女達の為とはいえ、アマテラスは夫以外、しかも娘よりも年下の相手を自ら誘(・)惑(・)したばかりか、約束(契約)までさせてしまった。

 その事実によってアマテラスの中に渦巻いていた嫉妬の感情は薄れて行き、やがて俯いていた顔を上げる。

 途轍もない怒りが来るに違いないとカグツチは以前の経験から覚悟するが……。

 

「貴方……近い内に姉さんと側室の祝言を上げて貰います」

 

「……えっ? ア、アマテラス? お、怒らないのか? その……」

 

「勿論、怒っています。だけど、貴方と同じように姉さんも大切な私の家族です。今後は私と姉さんで貴方を支えて行きます。良いですね?」

 

「あっ、ああっ、ありがとう、アマテラス!」

 

「アマテラス!」

 

 許された事に感謝するカグツチに続き、ツクヨミは嬉しさの余りアマテラスに抱き着いた。

 

「ありがとう、本当に私をカグツチの側室にしてくれるのね!」

 

「ええ、姉さん……寧ろ私の方こそごめんなさい。これまで曖昧な立場に置いていて」

 

「アマテラス」

 

「姉さん」

 

 双子の姉妹は互いを大切に想うように抱き合い、カグツチはそんな二人の姿を微笑ましそうに見つめる。アマテラスと抱き合っているツクヨミの口元が邪悪な笑みで歪んでいる事に気が付かずに。

 

 

 その日の深夜。

 里に帰還を果たしたカグツチ、ツクヨミ、そして青龍の事を称える宴が開かれ、誰もが宴で喜び合う中、主賓の一人であるツクヨミは宴の場を離れて屋敷近くの雑木林に向かった。

 大半の者達が宴を楽しんでいるので、周囲には誰もいない。だが、ツクヨミは誰もいないにも関わず口を開く。

 

「そっちも上手くいったようね」

 

「ええ、勿論ですよ、ツクヨミ様」

 

 ツクヨミの声に応じるように、先ほどまで宴の場で佐久夜と青龍に挟まれて霜泥になっていた筈のリンドが姿を見せた。

 

「約束通り、ツクヨミ様の側室入りに反対しそうな連中は葉子に動いて貰って反対できないようにしておきました」

 

「良くやったわ、リンド」

 

「いえいえ、ツクヨミ様もカグツチ様との『真の契りの儀式』の成功。ご苦労様でした」

 

 互いに向き合いながら、リンドとツクヨミは微笑みあった。

 その笑みは互いに相手と対等に見ている事を示す笑み。上下関係は二人の間にはない。

 対等な共犯者こその関係をリンドとツクヨミは揃って求めていた。

 

「でも、桃花と青龍の様子で分かっていたけど、『真の契りの儀式』は『契りの儀式』とは全く違うわね。こんなにも晴れ晴れとした気持ちになるとは思っていなかったわ」

 

「フフッ、それはツクヨミ様だからこそですよ。貴女は精霊となった事で悪霊だった頃の負の側面を失っていた。でも、『真の契りの儀式』でそれが戻ってしまった」

 

「そうね。今の自分こそ本来の私だって気がするわ」

 

 悪霊だった頃は負の側面が強く。精霊だった頃は正の面が強かったが、今のツクヨミは正と負の両方が一体となっているのだ。

 

「……アマテラスとカグツチが宴の席を離れたわね」

 

「その様子ですね」

 

 ツクヨミは内に宿ったカグツチの宝珠から。

 リンドは屋敷に及んでいる自身の支配から、二人の動きを察した。久々に夫婦の逢瀬を楽しむつもりなのだと察するが……。

 

(残念ね、アマテラス。私の方がずっとヒカルを気持ち良くできるわ)

 

 互いに宝珠を交換し合った結果、カグツチはツクヨミに、ツクヨミはカグツチにと互いに最高の快楽を得られる関係となっていた。

 だが、まだカグツチの心はアマテラスに比重を置いている。その事実を知っているツクヨミの内に強い嫉妬の念が沸き上がる。

 

「リンド。改めて聞くわ。貴方の最終的な目的は何なのかしら?」

 

「……この里に来た時は、『一族再興』を短期で成し遂げ、更に以前よりも強い一族とする為に、ネノクニの神と『契りの儀式』を交わし、子供を一人だけ産んで貰うつもりでしたが……この里で過ごしている内に考えが変わりました」

 

 それは深く負った心の傷の影響で、『一族再興』を何よりも優先するリンドに芽生えてしまった別の感情。

 

「一人じゃ足りない。アマテラス様には佐久夜と一緒に何人も僕の子供を産んで欲しい。そして番の雌にしたいと思うようになりました」

 

「ふふっ、随分と大それて罰当たりな目的ね」

 

「仕方ありませんよ。精霊以外で今のところ強い子を確実に産めると確信できるのは、アマテラス様と佐久夜だけなんですから」

 

 葉子を始めとした雌犬巫女に堕とした者達もいるが、彼女達の実力では鍛えて基準値に達して子を孕ませれば、一人産んだだけで限界を迎える。

 リンドが雌犬巫女達に子を宿させないのは実力不足もあるが、今程度の実力では出産時にほぼ間違いなく母親となる相手が死を迎えかねないからでもあった。

 

「フゥン~、まあいいわ。私にも明確な目的があるしね」

 

 ツクヨミは口元を笑みで歪めた。

 その笑みは妹を大切に想う笑みではなく、己の目的を果たす為ならばいかなる手段も使う邪悪な笑み。

 先ずはカグツチの宝珠である『光(ヒカル)』を得た。だが、それだけではツクヨミは足りない。

 今、カグツチがアマテラスに向けている感情さえも、自分に向けて貰いたいという独占欲が湧いて仕方がなかった。

 

「リンド……貴方との契約はこれまで仮だったけど、今からは正式な契約よ」

 

「分かりました。僕は一族の再興の為にアマテラス様と佐久夜を」

 

「私はヒカルを」

 

『番の雌(伴侶)とする為に』

 

 こうして二人は正式な契約を交わした。

 ツクヨミは『塔馬ヒカル』を得るために。リンドはアマテラスと佐久夜を番の雌に堕とす為に。

 二人は今この瞬間から、お互いに共犯者となったのだった。

アマテラス、佐久夜、琴乃の妊娠について。

  • 琴乃が堕ちた段階で孕ませる
  • 四聖の社全て攻略後に孕ませる
  • サヨ関連終了後に孕ませる
  • イザナミも加え、四人そろって孕ませる
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